#1236 〈ハート〉フィールドの作戦を考えよう!
――〈城取り〉〈30人戦〉〈ハート〉フィールド、〈1時間30分〉。
第二アリーナという環境でやるには少し人数が過多気味だが、これは〈世界の熊〉の要望だ。
〈世界の熊〉は〈カオスアビス〉と同じく、俺たちの一期前にギルドを作ってここまでのし上がってきたギルド。
その構成メンバーは3年生がメインで、卒業の影響をほとんど受けていないギルドのうちの1つだった。
故に30人フルメンバー。Bランクから上がったばかりの〈世界の熊〉でも育成に問題ないらしい。
〈エデン〉もまったく問題ないのでオーケーした。
続いてフィールドだが、名前の通り俯瞰するとハート型に見えるフィールドだ。
〈エデン〉は白本拠地で北西側、〈世界の熊〉は北東側に赤本拠地が建っていた。
しかしその間にはハートの割れ目が存在しお互いの侵攻を阻んでいる。
巨城は全部で7城、うち5城が中央寄りにあるため、速さと戦略性が求められる。
特にこの〈ハート〉フィールドというのは戦略性の高さという面で非常に難易度が高かった。
元々第二アリーナはAランク戦、〈25人戦〉を想定しているのだが、その観点で見ると、この中央にある5城を初動で取り合うとき、全員5人パーティを組むのか、人数を偏らせて配置するのかで戦略が分かれて面白いのだ。
巨城の残り2城は東西の端にあるため、こちらは各自簡単に確保が可能。
つまり、中央の5城のうち過半数である3城を勝ち取れば有利になるということだ。
その3城を確実に確保するために人員を配置するのか、相手に取られることも想定し、4城に人員を配置するのか、欲張って5城全部に人員を送るのか。パターンやセオリーがたくさんありすぎて、見た目や名前以上に難易度の高いフィールドだった。
巨城の配置は東西の2箇所を〈東巨城〉〈西巨城〉と呼称。
ハートの割れ目の近くにあるのが〈北巨城〉。
ハートの先端の近くにあるのが〈南巨城〉
こうしてみると巨城は東西南北に分かれていると分かる。
残りの3城は中央付近に固まっており、俯瞰してみると逆三角形に見える形で配置されているのが分かる。
逆三角形の南にあるのが〈中央南巨城〉。
逆三角形の西にあるのが〈中央西巨城〉。
逆三角形の東にあるのが〈中央東巨城〉だ。
現在ギルドハウス。作戦会議中。
〈ハート〉フィールドの図を貼りだし、メンバーで意見を出し合っていた。
「ここを攻めるには、まず中央と南北の5城を最優先とする。今回は30人も居るため頑張って全部狙うことも可能と言えば可能だ」
「最も近いのが〈北巨城〉ですわね。そして本拠地から最も遠いのが〈南巨城〉。特に〈南巨城〉の周囲には障害物が無いのが異様ですわ」
「リーナの言うとおり。距離が一番遠いということは、攻め込む人数のAGI勝負になるという意味だ。〈北巨城〉は近い分、足の遅いメンバーでも陥落前に追いつき、〈ジャストタイムアタック〉に参加することは可能だろう。だが〈南巨城〉ではそれが出来ない可能性が高い」
「〈世界の熊〉には熊騎兵がいますわ。どれほどの機動力を持っているか分かりませんが、確実に〈南巨城〉でぶつかることになりますわね」
「〈南巨城〉の周囲に障害物が無いのは、つまりそういうことなのねゼフィルス?」
「え、どういうことなのシエラちゃん?」
広げた地図の南側を注視していたシエラが納得したように言うと、ルキアが疑問の声を上げる。
この〈ハート〉フィールドの障害物は中央付近と〈西巨城〉〈東巨城〉付近に集中している。南側は完全に障害物の無いフリーダムな環境が展開していた。
「そう、シエラが察した通り、南側に障害物が無いということは、そこは攻めることもし放題ということになる。保護期間でも塞ぎきれず、回り込むことも容易で、そして対人戦が起こりやすい。〈南巨城〉を狙うとなると、数を揃えるか、戦力の高い者を向かわせる必要がある。さらにAGIも無くてはいけない」
「ええー、なんか難しそう」
「だな。本拠地から一番遠い〈南巨城〉に戦力を投入するということは、その間本拠地は手薄になるということでもあるし、敢えて〈南巨城〉は初動では狙わないという手もある」
「となると、絶対に確保したいのは〈北巨城〉、〈中央南巨城〉、〈中央西巨城〉でしょうか?」
「だな。シェリアが正解だ」
俺は地図の中央付近にある3箇所の巨城に大きな丸を書く。
「〈北巨城〉まで最短で12マス。足の遅いメンバーでは取り合いになった時に間に合うでしょうか?」
「間に合わなければ仕方ない。残りのメンバーで落とすしかないな」
「そうなると、ネックなのは〈世界の熊〉が30人一斉に〈北巨城〉を狙ってきた場合ですね。おそらく足の遅い者は追いつけませんわ」
「ならば、こっちも運搬が必要だな。〈イブキ〉〈ブオール〉、どれを持っていく?」
「セレスタンにも協力してもらわなければ確実とは言えないわね」
「収納スキルと〈城掘突貫ドリル〉は必須だろうな。ノエルも一緒に行動させたいところだが――」
色々と意見が出る度に俺が対抗策を言って纏めていく。
時には俺も疑問を投げかけ、リーナたちにも考えてもらうのも忘れない。
まずは優先順位。作戦を練る上で一番重要なものがこれだ。
それが分かれば、じゃあそれをどう取りに行くか? という話になって会議は進んでいく。〈エデン〉の持ち味をどう活かすかを話し合い、作戦を固めていった。
「ねぇ、ゼフィルスならどこを最初に取るかしら?」
「俺か?」
それ聞いちゃうシエラ? 聞いちゃう?
ふっふっふ。知りたいなら教えてあげよう。
「俺なら――最初に取るのはここだな」
「……え? ここなの?」
俺はみんなからの注目を浴びながらとある地図の1点を指で指す。
するとシエラを始めギルド内がざわめいた。作戦会議に参加はすれど今回は見学で話について来れているか怪しかった1年生組も、これにはざわざわしている。
「え? できるのこれ?」
「こうすれば、いけちゃうんじゃないかな?」
「え、待ってくださいまし、それならこうすると」
「え? あ!」
俺のアドバイスにより新たな戦略を思いついたような雰囲気になる。
そこからはさっきよりも白熱した作戦会議が幕を開けた。
さっきまで固まりそうだった作戦が俺の一言でガラッと変わってしまったのだ。
俺も「こんな作戦があるぜ?」とその後たくさん提案してしまったが、うん、いい作戦が練れたし問題は皆無だな!
作戦会議が白熱したことにより、ゲーム〈ダン活〉でその昔作られた、対策を練っていないととんでもないことになる作戦がそのまま完成することになってしまった。
「じゃあ、みんなこの作戦で行こう。まだ分からない部分があるという人は? いないか? 本当に? よし、なら準備万端だな。リカはカルアに教えてやってくれ」
「ああ、分かった」
「ん!?」
手を上げていなくてもカルアにはもう一度説明するようリカに頼んでおく。
今回の作戦、カルアとレグラムのスピードが要だ。
間違ってはいけないのだ。だからそんな驚いた目で見てくれるなカルア。
俺はそっとカルアから目を逸らした。
ガロウザス先輩からは手加減抜きでと言われている。
また〈ローカルルール〉の〈敗者復活〉を「あり」にしているので、10分経ったら戦闘不能者が復活する特殊ルールだ。これはDランク戦以来だな。
つまり、ガロウザス先輩も〈南巨城〉の取り合いでぶつかると考えているのだろう。
うむ。手加減なしか~。本当に本気で行っていいのかな?
ちょっと心配だったが、最終的には俺は了承した。
いいだろう。〈ダン活〉の英知、披露しちゃうぜ!!
当日、アリーナへワクワクしながら出発し、試合開始前にガロウザス先輩たちと会い握手を交して本拠地に転送。
なんか、また観客席の人数が凄いんだが、これってどこから情報が漏れてるんだろう? まあいい。ギルドバトルには観客も必須だ!
「今日は久しぶりの〈城取り〉だ! みんな、はっちゃけすぎないよう気をつけろよ!?」
「それあなたが言う?」
「ゼフィルスさんブーメランデスよ」
「一番気をつけなくちゃいけないのはゼフィルスじゃないの!」
おおう。シエラ、パメラ、ラナからツッコミを貰った。
いや、これはあれだ。俺が率先して言うことでみんなに自覚を持ってもらおうと――いえなんでもないです。
「こほんこほん! じゃあ〈城取り〉を楽しむぞー!」
「「「「「おおおおー!」」」」」
そう、〈ダン活〉は楽しめ!
はっちゃけるのも作戦を忘れなければ多少ならオーケーだ!
こうして士気を高めていると、試合開始のカウントダウンが始まる。
作戦通り、30人が配置に付き、今か今かと試合開始を待った。
そしていよいよカウントダウンがゼロになる。
―――試合開始だ。




