#1235 ギルドバトルの申し込みに沸くゼフィルス!?
〈世界の熊〉との話し合いを一先ず終えた俺は真っ直ぐギルドハウスへと戻っていた。
「というわけなんだシエラ。ここは是非、是非是非ギルドバトルを!」
「そんなに押してこなくても大丈夫よ。落ち着きなさいゼフィルス。……とりあえずはミジュ関連の話じゃなかったようでよかったわ」
「うん。ゼフィ先輩。ありがと」
「なぁにかわいい後輩のためだ。これくらいどうってことないさ」
ミジュが喋った! いや売り子をしている時はちゃんと喋るんだけどな。オフの時は本当にあまり喋らないので珍しいのだ。ちょっとレアかも? このレアな光景を見れただけでもこの子のために動いた価値はあったな。
ゼフィルスと名前を全部言うのが億劫でゼフィ先輩と呼ぶことが定着しているミジュに気にするなと返し、俺は再びシエラに向く。
「〈決闘戦〉の件だけど受けるのは問題無いと思うわ」
「よっしゃーーー!」
「ちょっと待ちなさい」
「ふにゃ!?」
「ゼフィルスなら絶対こうなると思ったわ」
「うん。いつもどおり」
シエラの答えを聞いたところで部屋を出て行こうとしたら手を握られて抑えられた。
俺の右手をシエラが、左手をミジュが両手で掴んでいる。
バカな! 俺の動きが読まれていただと!?
「ゼフィルスがギルドバトルが出来ると知って飛び跳ねるほど嬉しがるのは、このギルドでは誰もが予想出来ることよ」
「そんなバカなっ! え? ヴァンやサーシャたちも、なのか?」
まだ出会って1ヶ月ばかりのヴァンたちにまで俺の動きが予想出来るのかと戦慄を隠せない。
「ええ。私たちがしっかり教え込んでおいたわ」
「シエラたちの仕業じゃん!?」
そうだよな! ヴァンたちが加入してから一度もギルドバトルしてないもん。おかしいと思ったよ! そして、なぜ俺の行動が周知されているのかと――。
「それより、クイナダの面談の件なのだけど」
「……あ!」
「やっぱり頭から抜け落ちていたわね」
「ゼフィ先輩らしい」
シエラに言われて思い出す。今日はミジュたちとクイナダの面談をする予定だったと! あっぶねぇ!
うっかりギルドバトルの波に呑まれるところだったぜ!(手遅れ)
「そのクイナダなのだけど、ハンナと出かけたわよ」
「え? マジで?」
「あなたが〈世界の熊〉からギルドバトル〈決闘戦〉の申し込みを受けてテンション高めに連絡してきた後にね。クイナダも、なぜかハンナと遊ぶ気で来てたみたいだからそのまま行ってしまったわ」
「あれれれ!?」
何がいったいどうしてそんなことに??
俺の心はハテナになった。
「私もよく分からないけど、面談はまた後日やりましょ。なんだかハンナも楽しそうだったわよ。どのみちギルドバトルをするのならそっちに集中したいでしょ?」
「そういうことなら、しかたないのか??」
どこかで伝達ミスがあった模様だ。
またクイナダとすれ違っただと!?
むむむ、なかなかクイナダが捕まらない件。これはいったいどういうことなのか。
今度はしっかり捕らえなければ。何か仕掛けようか?
そんなことを真剣に悩んでいるとシエラが2度拍手をして俺の意識を引く。
「〈決闘戦〉の話に戻るけれど。これ、結構な量だと思うけど、本当にこんな量のレシピを賭けられたの?」
うむ、クイナダ捕獲作戦はまた今度でいいだろう。遊んでいるところを邪魔するのも気が引けるしな。シエラの言うとおりギルドバトルに集中するとしよう。
シエラが一覧表を手に取って聞いてくるのに頷いて答える。
「そうだな。中身の確認したけど、全部実物だったぜ? まあ、上級産オンリーではなく初級も中級も混ざっていたけどな」
「いえ、それでも多いのだけど」
「うん」
「?」
ハテナを浮かべているとシエラがジトッとした目で俺を見てきた。
ありがとうございます!
「生産職はレシピが無いと生産はできないわ。そしてレシピは〈ダンジョン攻略専攻〉から買うしかない。でもレシピは1枚でも一財産だから、たとえ初級のレシピといえど、その価値は高いわよ」
「だな。それを束で賭けてくれるらしい。無事手に入れることができればありがたいだろう。俺たちが〈上級転職チケット〉を配りまくったギルドはみな優秀だが、全てのレシピが揃っているわけじゃない。初級や中級のレシピにだって需要は十分ある」
「でもそれを束でくれる気なのがちょっと引っかかると言いたいのよ。自身の成長を確かめるために〈決闘戦〉を挑むのであれば1枚でもいいと思うけど。もっと言えば練習ギルドバトルでもいい気がするのよ。〈エデン〉に負ける可能性がとても高いということは向こうも分かっているのでしょう?」
「ああ。そういうことか」
シエラは〈決闘戦〉というただの口実にこれほどのレシピを賭けることが不自然に映るようだった。確かに、超格上で勝てる可能性がかなり低いギルドに挑むのであれば、その賭けに出したものは確実に持って行かれてしまうため、もうちょっと価値を抑えたいと思うのが人情だ。
しかし、ガロウザス先輩についてはそうでもない。
「ガロウザス先輩と話した限り、とても漢らしく義理堅いと感じた。むしろこれは格上のSランクギルドの時間を貰うんだからこれくらいの謝礼を用意します。という意味なんだよ」
そう、このレシピのリストは全て謝礼みたいなものだ。
俺は別にタダで〈決闘戦〉を受けても良いのだが、タダ働きなんてしている暇があったらダンジョンに潜りたいという者もいるだろう。付き合うからには何かしらの報酬がいると、そういうことだ。
それが〈30人戦〉でやりたいとのことで、つまりは30人分の報酬を用意してくれたのがこれなのだ。〈エデン〉はSランク、上位の者の手を借りたいとなればこれくらいの報酬は安いものだとガロウザス先輩は笑いながら言っていた。
そうシエラに話す。
「なるほどね。確かにそういう話も聞いたことがあるわ。おかしいわね、そんなことに気がつかないだなんて。だいぶゼフィル――〈エデン〉に染まってしまったのかしら」
今ゼフィルスに染まったと言いかけましたかシエラさん?
なぜか〈エデン〉では俺に染まった人のことを「ゼフィルス済み」と呼ぶらしいと聞く。なぜかは知らない。俺に染まるってどういう意味だろうね?
頬に手を当てて困ったように溜め息を吐くシエラに、ミジュがぽんぽんと背中を優しく叩いて慰めていた。
これは喜べば良いのか、解せないと首を捻れば良いのか迷うな。
とりあえず喜んでおこう。よっしゃ、シエラが俺色に染まったぜ! なんか違う気がした。
「こほん。とりあえず〈エデン〉は受けてもいいということで問題ないな?」
「ええ。これほどのレシピの束だもの。Sランクギルドでも動くに足る理由になるわ。具体的な日時を調整しましょう」
こうしてシエラが動いてくれると連鎖的にリーナ、セレスタン、サトルが動き出し。
日程調整からアリーナの確保まで凄くスムーズにことは運び、3日後の水曜日。
俺たちは久しぶりに〈城取り〉で〈決闘戦〉をすることに決まったのだった。
準備を整えれば、あっという間にその日はやってくる。
水曜日放課後、俺たちは第二アリーナへ集合していた。
今日行なうフィールドは東西からの陣取り合戦が過熱する、〈城取り〉の中でも一際難易度が高いと言われていたフィールド。
その名も――〈ハート〉フィールドだ。




