#134 ボス戦!あのニヤけ顔、今すぐ斬ってくれる!
〈孤島の花畑ダンジョン〉のボス〈サボッテンダー〉戦が始まった。
「フーフーフー!」
どこから呼吸しているのか分からないがなんとなく声のような物を出して威嚇してくる〈サボッテンダー〉。
しかし、その目と口はハニワなのでまったく怖くも恐ろしくもない。無駄な威嚇だ。
某ゲームなら「しかし、なにもおこらなかった」と記されるだろう。
解説者が居れば「おっとボスの〈サボッテンダー〉が初手から威嚇攻撃! しかし、効果が無いようだ!」と言われてしまうだろう。
「フーフーフー!」
「だからどうした! 『シャインライトニング』!」
「フゥァ!?」
俺の先制攻撃が〈サボッテンダー〉に突き刺さる!
なんか、膠着状態にされそうだったので脱するために放った攻撃だった。ということにしておこう。別に威嚇されて反射的に手を出してしまったわけではない。
ビリビリと雷の魔法を受けた〈サボッテンダー〉は、しかしピンピンしていた。やはり草タイプに電気は効きにくい。
「フフフ〜!!」
何言っているのか分からないが多分、全然効かないよ~的な事を言っているに違いない。
あのニヤけ顔のハニワ。今すぐ斬ってくれる!
「ちょっとゼフィルス! 一人で突出しすぎよ! というかまずヘイトを稼ぐまで待ちなさいよ!」
「ぐぅ!?」
ラナから鋭い指示が飛ぶ。まさかこの俺がラナに諭されただと!?
おのれ〈サボッテンダー〉め。そのプ~クスクスという顔をやめてもらおうか!
「ゼフィルス、熱くなりすぎよ。冷静になりなさい。『挑発』!」
「まったく、ギルドマスターなんだからしっかりしてよね。『守護の加護』! 『獅子の加護』!」
いつになく諭される俺。今日は厄日か!
しかし、ラナが非常にまともだ。やっぱりボスの時のラナは一味違う。
なんか、凄みが出ている気がするのだ。これが王女の力?
「まだまだ行くわ! 『聖魔の加護』! 『耐魔の加護』!」
ラナがどんどんパーティにバフを掛けていく。『耐魔』を使ったのは〈魔防力〉を底上げするためだな。〈魔防力〉は【RES】依存、つまり状態異常の耐性も僅かに上げてくれる。〈サボッテンダー〉は魔法攻撃は使ってこないが状態異常攻撃の〈毒〉を使ってくるので、気休め程度だが耐性を上げた形だ。
まさかラナがそこまで考えていただなんて、成長を感じるぜ。
「あ、間違って『耐魔』使っちゃったわ。〈サボッテンダー〉って魔法使うのかしら?」
先ほど思った事を撤回しよう。単にミスっただけだった。
さすがラナ。ラナはやっぱりそうでないと。
「フーフーフー。フーーーーーー!」
「攻撃が来るわよ! みんな注意して!」
シエラの注意が飛ぶ。とうとう〈サボッテンダー〉の攻撃が始まった。
シエラがヘイトを稼いでるのでまず攻撃はシエラに飛ぶ。
「フーーーー! フーーーー!」
何故か体からではなく口から飛び出した無数の針がシエラに降り注いだ。
シエラは自分の体を7割以上も覆い隠すカイトシールドを前に出し、それを防がんとする。
カカカカカカカカカッ! なかなか良い音を奏でながらシエラの盾が全ての針を弾いた。
一発一発にさほど威力は無いためどれだけ当たってもシエラは崩れない。
「単発攻撃だ! 今だ、一斉攻撃!」
単発攻撃はラッキーだ。反撃のチャンスなのでシエラ以外の全員に指示を出す。
「『ファイヤーボール』! 『フレアランス』! 『アイスランス』!」
「『光の刃』! 『光の柱』!」
「『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』!」
「『ソニックソード』! 『勇者の剣』!」
「フゥァ!?」
全員の攻撃が降り注ぎ、〈サボッテンダー〉のHPが大きく削れたな。
「フーフーフー!」
今度の〈サボッテンダー〉は怒り顔だ。
シエラの攻撃をストップさせて一回溜めに入った。
これは見た事がある。範囲攻撃だ!
「範囲攻撃注意!」
「フーッ!!」
瞬間、今度こそ全身からトゲが発射される。
「キャ!」
「わわわ!」
「『カバーシールド』!」
「『ディフェンス』!」
トゲが辺り一帯に飛び散り至るところで悲鳴や戸惑いの声が上がった。
シエラが咄嗟に『カバーシールド』でラナを、俺が後方のハンナを庇って射線上に立ち『ディフェンス』を使ってなんとか二人への攻撃は防げたな。
しかし、直撃を受けたのが一人。
「ど、毒が入りましたー」
やや情けない声を出しているのはエステルだ。
エステルのゲージに〈毒〉のアイコンが付き、少しずつHPにダメージを与えている。範囲攻撃自体はさほど威力が大きくは無く、【VIT】値の高いエステルにはあまり効いていない様子だ。しかし、このままじゃ毒でスリップダメージを受け続け大きくHPを消費してしまうため、早急に回復が望まれる。
ちなみに毒を受けてもHPが削れるだけで本人に苦しみや痛みは一切無い。そのため下手をすると気づかないうちにHPが全損することもあるようなので注意が必要らしい。
回復役も慣れなければ気がつかない事があるため、気がついた人は声を掛けてくれるよう、最初に決めていた。
しかし、エステルのこんな声は初めて聞いたな。レアボイスだ。
「エステル今治すわね! 『浄化の祈り』! あと『回復の祈り』!」
報告を聞いたラナがすぐさま毒を浄化し、HPを全回復させる。
最初の範囲攻撃の対応としてはかなり良いんじゃなかろうか?
「ハンナは大丈夫だったか?」
「うん。ダメージも受けてないみたい、なんともないよ」
「よし、反撃してやれ」
「任せて! 『ファイヤーボール』! 『フレアランス』!」
「俺も前に出る。『ソニックソード』!」
「ヘイト取り直すわ。『挑発』!」
「ラナ様、ありがとうございます。私も行きます『ロングスラスト』!」
「フゥァ!」
良い感じの連携だ。
皆も〈サボッテンダー〉の挙動に少しは慣れてきた様子だ。
その後も3度の範囲攻撃を放ってきたが、俺たちが崩れる事は無く、〈毒〉を食らっても俺の『リカバリー』やラナの『浄化の祈り』を使う事ですぐに回復させた。
対策してきただけあってかなり安定した戦闘だ。
そのまま〈サボッテンダー〉のHPが3割を切ると、挙動が変わった。
〈サボッテンダー〉が突然苦しみ出すと、頭頂部にあったでっかい蕾が開いていく。
これは〈サボッテンダー〉の眷属召喚の挙動だ。
止めてやりたいが、ゲームの時でも止める方法は判明していないのでそのまま放置するしか無い。
そして蕾が開く直前、パァン! と弾ける音がして蕾が弾け飛んだ。
「きゃ!?」
「何!?」
「眷属召喚だ。〈チミ・サボッテンダー〉が来るぞ!」
弾けた花びらから計9体の〈チミ・サボッテンダー〉が現れる。
何故か二足の足が生えたハニワサボテン。どこか〈ダン活〉とは別の場所で見たような気がするが、きっと気のせいに違いない。
ちなみに親の〈サボッテンダー〉は頭頂部がいきなり弾けた衝撃でしばらく放心状態だ。
今のうちに〈チミ〉たちを屠る。
「フフフ」
「フフフ」
「フフフ」
こいつらは親とは違い移動型なので襲いかかってくる。
時間経過で親の〈サボッテンダー〉が復活してくると近距離攻撃に加えて親が遠距離攻撃してくるので非常に厄介になる。親が復活して来る前に倒しきるのがセオリーだ。
「全員。範囲攻撃で一気に倒せ! 時間との勝負だ! 『シャインライトニング』!」
「ヘイトを集めるわよ。『ガードスタンス』! 『シールドバッシュ』!」
「分かったわ! 『光の柱』! 『光の刃』! 『回復の願い』!」
「『フレアランス』! 『ファイヤーボール』! 『アイスランス』!」
シエラが部屋全域のヘイトを稼ぐと寄ってきた〈チミ〉たちをラナが小範囲攻撃で一気にダメージを与え、ハンナの魔法が次々突き刺さる。
しかし、9体全てを請け負ったシエラのHPがこれまでに無い勢いで減っていく。
当たり前だが9体なんて捌けるはずが無い。ラナの中回復魔法『願い』でHPを回復して戦線を保った。
「は! 『レギオンスラスト』! 『騎槍突撃』!」
そしてタイミングを計っていたエステルの強力なスキルが発動する、集まってきた〈チミ〉たちを小範囲攻撃を持つ連続突きに加え、突撃スキルを発動して一気に引き倒していく。これで一気に5体の〈チミ〉が倒せた。
さすがの威力だ。これで何かに騎乗していればもっと広範囲に、そしてもっと威力も上昇するというのだから恐ろしい。【ナイト】系の基本にして奥義と言われるだけはある。
「『フレアランス』! 最後の一体も倒したよ!」
「よっしクリア。次は親を叩くぞ!」
「はい!」
「フ〜…」
見れば〈サボッテンダー〉はお仕事サボり中だった。頭頂部が無くなってやる気が削がれたのかも知れない。〈サボッテンダー〉の名前の由来にもなった真骨頂だ。
大チャンスだな!
「いけぇー! トドメを刺せー! 『勇者の剣』!」
「フウォッフ!!??」
俺のかけ声と共に全員の一斉攻撃が〈サボッテンダー〉に集中した。
そして動揺したまま〈サボッテンダー〉はHPが0になり、膨大なエフェクトを発生させながら消えていく。
最後はちょっと呆気なかったが、初の初級上位ダンジョン、ボス戦。
勝利。