#1231 危険な〈ジャイアン合唱〉VSノエルの歌対戦!
「ペーーンペン!!」
「「「ペーンペン!!」」」
「! みんなタンクの後ろに避難しろ! ミサトは結界!」
「了解! 『テラバリア』!」
「トモヨも頼む!」
「任せて――『フォートレスイージス』!」
「「「「「ベーーーーン!!」」」」」
第二形態はまず眷属の〈ミニジャイアン〉を出しての全体攻撃から始まる。
通称〈ジャイアン合唱〉と呼ばれていた、歌の全体攻撃だ。
なお、正式名称は『第Ⅱペンギン合唱』となっているが、プレイヤーたちからはその名はボツとされている。
形態変化中は攻撃効かないのに終わった瞬間全体攻撃とか鬼畜!
しかも防御しないと大ダメージ食らって普通に戦闘不能になる。生き残っても〈気絶〉状態だ。
恐ろしい、恐ろしいよ。〈ジャイアン〉が密室で合唱なんてしたらみんな倒れてしまうんだ!?
――〈ジャイアン合唱〉、それは最大級に警戒すべき攻撃。
俺たちは防御魔法を全開に展開して乗り切る構えだ。
トモヨの下には前衛の俺とラウが、後衛のミサトの下にはノエルが身を寄せる。
ゲームでは歌は防御スキルで乗り切れたのだ。
しかし、リアルでは音までは防げないようで歌はむっちゃ響いてきた。
う、うるさっ!?
ちょ、これ予想以上にうるさいぞ!? 思わず武器から手を離して耳を塞ぎたくなってしまう!?
そんな時に立ち上がったのがマイクを持ったノエルだった。
「もう~、下っ手な歌声だね! 私の歌を聴けー『歌魂』!」
「ペーン!?」
なんと! ここでまさかの歌対戦!
何かがノエルの不興を買ったのか、〈四ツリ〉の攻撃スキル『歌魂』で反撃。
魂の込められた綺麗な歌声がただの大声合唱とぶつかり、うるさかった音をかき消したのだ。今は良い歌声が周りに響いている。
「ペーンペーンペーーン♪」
「やられちゃいなよユー♪ 『フレアソング』!」
ノエルの歌声にピキッと額に怒りマークを浮かべた〈ジャイアン〉が負けずに声を張り上げ、ノエルが一段階ギアを上げて〈五ツリ〉の攻撃スキル『フレアソング』を歌い出す。
広範囲に強力な歌声を放つ『フレアソング』と〈ジャイアン合唱〉がぶつかり合い、周囲がビリビリとした空気にひりついた。
マンガならここで大地が地割れを起こしたり、クレーターが出来たりする場面。まあ、ダンジョンオブジェクトである地面は破壊出来ないんだが。
そしてついに相殺。
おおー!
「ナイスノエル! ――まずは眷属から叩くぞラウ!」
「おう!」
そして攻撃が止んだ瞬間ラウが1体の〈ミニジャイアン〉へ狙いを定める。
「『獣速牙狼』!」
ブリッツ系の『獣速牙狼』で拳に狼の顔が投影され、凄まじい速度で距離を詰める。
「大噛み!」
当たる瞬間ぶわっと狼の口が巨大化し、〈ミニジャイアン〉を丸呑みにするかのように口を開けて噛みつき――同時にラウの拳が突き刺さった。
「ペーン!」
「ペンペーン!」
吹っ飛ぶ1体、すると他の9体の〈ミニジャイアン〉のヘイトが全部ラウに向く。
こいつらはヘイト共有型の眷属モンスター。ボスとは共有されていないが、眷属たちは全部ヘイトが繋がっており、1体がタゲを向けたら全〈ミニジャイアン〉がそっちにターゲットを移すという強烈な特性を持っている。つまり眷属は分断出来ないのだ。
つまりは常に10体の眷属を相手にしなければならないということ。
上級ダンジョンの中位以降では大体がこのタイプだ。
「『ダブルシールドアラート』!」
「ペン!?」
しかし、ラウに9体の〈ミニジャイアン〉が飛び掛かろうとしたところで2つの盾をガンガンガンとぶつける音が響きそっちを向いた。トモヨの挑発スキルだ。
ラウが一旦下がるとトモヨにガンガン〈ミニジャイアン〉たちが襲いかかるが。
「昏倒してろよー! 『スターオブソード』!」
俺が側面から盾と剣が合体して巨大な大剣のようになった『スターオブソード』で打っ飛ばす。
「『ダブルイージスインパクト』!」
「ペン!?」
トモヨも『シールドバッシュ』系の上位スキルでノックバックさせるなど、対集団戦の戦術に切り替えてきた。
しかし、相手は眷属だけじゃない。ボスだっている。
「ペーン!」
「ぐっ、これはデバフか!」
「『メンタルメディカル』!」
「ぺーーン!!」
「え!? またデバフ!?」
ボスはデバフに集中しているのか先ほどから大声でどんどんデバフを与えてきている。
ノエルがデバフ回復の歌を歌うが、その端からまたデバフを掛けられていた。
当然『メンタルメディカル』のクールタイムは明けていない。
「ノエル、『メンタルメディカル』はもういい! ミサト、『吸・デバフ』と『反・デバフ』だ!」
「あ、そっか! 『吸・デバフ』!」
「ペン?」
多分ミサトも忘れてんな~と思って忠告すると、案の定な返事が返ってきた。
ミサトの『吸・デバフ』と『反・デバフ』はデバフ回復のさらに強化版。
『吸・デバフ』はデバフを消し去った上でHPまで回復する魔法だ。
元々【セージ】は下級職で唯一と言っていいデバフを回復出来る魔法を持っていた。
その上級職である【色欲】には当然下級職を上回る魔法が存在する。
「ペーン!!」
「『反・デバフ』!」
「ペッ、ペン!?」
そして『反・デバフ』の反は反射の反だ。反射を司る【色欲】だしな。
俺たちにデバフを掛けようとした〈ジャイアン〉が跳ね返ってきたデバフを食らい苦しむ。
「くっ、ゼフィルスさん! この眷属、倒しても消えないぞ!」
「どんどん復活してくるんだけど!?」
ラウとトモヨの悲鳴が聞こえてくる。
それもそのはずで、〈ミニジャイアン〉はやられても補充されるからだ。
1体を倒すと、〈ジャイアン〉が数秒動かなくなって股下から〈ミニジャイアン〉が現れる、復活の特性を持っている。
「卵生どこいったの?」とゲーム時代密かに疑問の声が上がっていた復活方法だ。
しかし同時に、眷属は10体をキープし、それ以上増えない特性も持っている。
なので――――動かなくしてしまえば良いのだ。
「トモヨ、『シンバル』だ! ミサトは『プリズン』を!」
「そうか! 『シールドシンバル』!」
「オッケー! 『プリズン』!」
「ベッ!?」
「ペン!? ペンーー!?」
俺の指示にトモヨがハッと気が付き2つの盾をシンバルのようにして〈ミニジャイアン〉をクラッシュすると、〈ミニジャイアン〉は〈気絶〉状態になって倒れる。
同じくミサトも相手を檻の中に閉じ込める『プリズン』の魔法を使い、2体を巻き込んで閉じ込め〈拘束〉状態にした。これで3体が戦闘不能だ。
そう、この復活する眷属は状態異常に弱い。
状態異常で動けないようにして転がしておくのが攻略のセオリーだ。
「そういうことか! 『獣王無敵ラリアット』!」
「「ベンッ!?」」
それを見てラウも〈五ツリ〉というヤバいラリアットで2体を巻き込み〈気絶〉状態にする。本当に〈気絶〉にする技なのか疑わしいビジュアルだ。ビクンビクンしてる。
「動きを止めるとなると〈呪い〉より〈鈍足〉かな――『センチメンタル』!」
「ペーン……」
ノエルからちょっぴり懐かしい風の音楽が流れると、〈ミニジャイアン〉たちに〈鈍足〉が掛かった。
まともに動けるのはギリでレジストできた1体。こいつはまた後でシンバルかラリアットの餌食になってもらうとして、ようやくボスへ集中できるようになった俺とラウでたたみ掛ける。
ミサトから受けたデバフが良い感じに掛かっているおかげかHPが削りやすいな。
「『太陽の輝き』! 『陽光剣現』! 太陽の剣――『サンブレード』!」
「『インフェルノフィスト』!」
「ペン!?」
強烈な攻撃が突き刺さりようやく2段目のHPバーが消えるとようやく第三形態。
「ペペペペペ、ペーン!!」
「くっ、また衝撃波か!」
「下手な歌声なんか相殺してやるんだから――『フレアソング』!」
再び歌がボス部屋を覆い、眷属たちがいつの間にか光に消えた。
だがこれは形態変化のアクションなのでお互いダメージにはならないぞノエル。
そして吠えたかと思ったら、そのまま〈ジャイアン〉はズドンと前のめりに倒れてきた。
「うわ」
しかし、第二形態の鬼畜な歌を経験し警戒をしていて距離を取っていた俺たちは潰されることなくやり過ごせた。
問題は、この第三形態だな。
ペンギンが寝そべりました。なら次は何をしますか?
――3、2、1―――GO!
「来るぞ!」
「ペン!!!!」
それはまるでジェット。
ペンギンの嘴を前面に突き出し突撃するだけの単純なものだが、10メートルの巨体から繰り出されたとなれば、それはトラックを優に超え、電車並の突撃力を誇る。
「『ハイ・イージス』!」
トモヨが〈四ツリ〉で最強の盾を出す。
ズドンという衝撃、しかしそれだけで終わらず、そのままグワングワンと〈ジャイアン〉が押し切ろうとしてくるのだ。盾がどんどん押し込まれていく。このままだと突破されるとトモヨは直感的に分かったのだろう。目を見開いて驚いた。
「嘘!?」
「ラウ! 側面からぶん殴れ!」
「うおおおおおお! 『獣王烈震咆哮牙』!」
「ベッ!!」
数秒の膠着状態の中、飛び出したラウが横顔面を強力なスキルでぶん殴った。
これにより相手のスキルが〈失敗〉し、トモヨは斜め横に受け流すことに成功。
スーッとそのまま壁まで突撃していった〈ジャイアン〉は、ぶつかる瞬間に反転。
壁に足から着地して見せ、そのままグッと力を溜めたかと思うと、再びジャンプする勢いで突撃してきた。
「何!!」
「今度こそ受け止める! 『フォートレスイージス』!」
トモヨが〈五ツリ〉の防御スキルを展開。
ぶつかって衝撃。そして膠着状態。
そこへ側面から近づいた俺が斬る。
「『勇者の剣』!」
「ペッ!?」
ズダンと一撃。
トモヨは〈五ツリ〉では突破されず受け止めきった。そこを狙いガンガン攻撃を加えていく。
この第三形態は特殊で、基本腹ばいになって滑り、巨体での突撃をメイン戦法としてくる。
しかも並の〈四ツリ〉防御では突破されかねない威力に、壁を踏み台にしてUターンしてくる速攻性のある攻撃を放ってくる厄介な形態だ。
しっかり誰かが止めなければ、クールタイムの関係で対処が回らなくなりやられてしまう強烈な攻撃方法である。
しかも止めると、立ち上がる。
「ペーン!!」
「ええええ!?」
立ち上がった〈ジャイアン〉はなぜか巨大な氷の塊を両手で頭上に持ち上げていた。
「そんなもんどっから拾ってきた!」とゲームでお馴染みのツッコミを入れつつラウの近くへ。
トモヨは温存したい。
「ラウ!」
「! 任せろ!」
「ペーン!」
案の定、持ち上げた巨大な氷を叩き落とし、タンクを粉砕してこようとするが、甘い。
ラウが氷の塊に飛び掛かる。
「この『獣王に引き裂けぬ物は無し』!!」
瞬間、氷が真っ二つに引き裂かれた。
「ラウかっけえぇぇぇぇぇぇ!!」
まるで隕石を割るが如くーー! 巨大氷を真っ二つにしちまったラウがマジかっけぇ!!
やっべテンション上がる!!
このまま行くぜ!
「『聖剣』!」
「ペッ!?」
「『エンペラーバスター』!!」
「転べー! 『フィニッシュ・セイバー』!!」
「ベーーーン!?!?」
フィニッシュ!!
立ち上がっただけの第三形態はただの的!!
その両足に向かって俺とラウが渾身のスキルを叩き込んだことにより、ついに〈ジャイアン〉はダウンする。
初のダウンだ!
「総攻撃だー!!」
強烈な攻撃を叩き込みまくる。
大ダメージ。
「ペーン!!」
「ノエル!」
「『鎮静の一曲・ラブ&ピース』!」
「ッ! ぺーン!」
復活後怒り状態に突入するも、これはノエルのユニークスキル、怒り状態を消してしまう『鎮静の一曲・ラブ&ピース』で解決。そして。
「トモヨ! ユニークスキルだ!」
「そうか!! こういう時に使うんだね! ユニークスキル行くよ! 『究極継続戦線術』!」
「ペーン!!」
再び腹ばいで突撃してきた〈ジャイアン〉だが、これをトモヨはユニークスキルを使って受け止めた。
これは――『究極継続戦線術』。
自己継続大回復&自己バフ。他のスキルが使えない代わりに大回復し続ける、ほぼ無敵状態で時間稼ぎが出来る優秀な防御系ユニークスキルだ。
しかもトモヨの『不動』スキルと相まってノックバックに強い耐性を持ち、こういう突破しようとする敵に対して非常に有効な対策となる。
〈ジャイアン〉に突撃されても盾で防御するトモヨのHPは減ってはいるものの、もの凄い勢いで回復もしていた。これならば突破される前にミサトの回復も間に合うし、効果が切れるまでの間、〈ジャイアン〉に攻撃し放題だ。
「ガンガン攻撃しろー!!」
「うおおおおおお!!」
「私も参加するよーー!」
「もちろん私だってー!」
攻撃には俺とラウ、さらにノエルとミサトも参加する。
トモヨは戦線を維持し続け、その間に俺たちが攻撃していき、全攻撃スキルと魔法がクールタイムに突入するレベルで攻撃を叩き込むと、ついに〈ジャイアンペンギン〉のHPがゼロになる。
「ペン――――」
結局トモヨを突破出来なかったことに無念を抱くような表情をしながら、ボスは膨大なエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。




