#1228 〈育成論〉で交渉、ゼフィルス先生再び!?
5月2日金曜日。
うむ、金曜日である。
つまり選択授業の日だ。
1年生の頃は結局ずっと先生としてしか活動していなかった選択授業。
だが、他の先生方に〈育成論〉の考え方は伝授したし、後は他の先生方が広めてくれるだろう。
つまり俺はこれにてお役御免。
2年生からは一般生徒に混じって授業を受けられる。そう、思っていたんだが。
「高位職の育成が難しくての。どうかゼフィルス君にはそちら専門の〈育成論〉の授業をしてもらいたいのじゃ」
「…………」
しかし、どうやら学園はゼフィルス先生を手放してはくれないらしい。
現在いつもの学園長室。
いつものと言うのもおかしいが、割と来る機会の多い場所になってしまったのだから仕方がない。
いつも通りクール秘書さんから美味しい紅茶を入れていただき、それを飲みつつ学園長の話を聞いて今に到る。
「高位職ですか」
「うむ。知っての通り学園の高位職は急激に増えた。一昨年で高位職になれたのは227人。なのに今年は5280人じゃ。なんじゃこの数字?」
「いやなんじゃと聞かれても」
学園長の口調が乱れるほどの数字らしい。
それを知らないとは言えない俺である。
「こほん。まあそういうことじゃ。今まで高位職というのは選ばれた一握りの者だけが掴める栄光みたいな位置づけじゃった。故に高位職の育成なんて概念自体ほとんどありはせず、できる者もほぼいなかった。みなお手本となる有名人を参考にするくらいしかできなかったのじゃ」
つまり高位職を担当する上位クラスの担当の先生だって自分の職業はともかく、他の高位職のことは人並みにちょっと毛が生えた程度しか分かっていなかったということだ。
「だからこそゼフィルス君が去年〈育成論〉の授業をしたときは助かったわい。感銘を受けた先生方が我先にと押し寄せてきたことは記憶にこびり付いておる」
「そうですか? それは良かったです!」
こびり付く……?
学園長の言い回しにちょっぴり気になるところはあったものの、気のせいということにしておいた。
「しかしじゃ、ゼフィルス君が教えてくれたものでできるのは高位職、高の下までじゃ。高の中以上の職業ではデータが足りなすぎて育成が難しい」
「なるほど」
データが足りない。
これがかなり大きな問題だった。
〈育成論〉とはつまり育成スケジュール。
どういう自分を完成形とし、それに向けたスケジュールを組むことを〈育成論〉と呼んでいる。
しかし、そもそもデータがなければスケジュールを組むことすらままならない。
学園には、そのデータがまるで足りていないらしい。
高の下、つまりはノーカテゴリーで就ける職業は珍しいものでなければあらかたスキルや魔法のデータが揃っているらしい。だから他の先生方でもできる。
しかし高の上となると途端にデータが限られてくる。もちろん高の中ですら少ない。中には未発見の職業まであるという。
つまり問題なのが、貴族などのカテゴリー持ちということだ。
学園長は俺に貴族専用の〈育成論〉をしてほしいと頼んできているのである。
これは、正直悪くない。
今まで〈オススメ育成論〉や〈最強育成論〉を渡してきたのは〈エデン〉のメンバーのみだった。(いえ、割といろんなところにバラまいてます)
さすがに自分の仲間でも無い人に人生を左右しうるステータス振りをさせることは躊躇われた。俺にも自重はあるのだ。最近家出気味だが。
そして今年の入学生のうち、貴族カテゴリーを持つ者の高位職、高の中以上の発現率が大変増加したとのこと。知ってる。むしろ関わってる。
これを育成の仕方も知らないで育てさせるなんてとんでもない。
つまりはそう言うことだ。俺と学園長の思いは1つになった。
「ゼフィルス君。貴族専用〈育成論〉じゃ。参加者は全員貴族。もしかしたら良縁に恵まれるかもしれんのう」
「ほほう」
良縁。良い縁。つまりは素晴らしい職業持ちを仲間に出来るということ。
素晴らしい。
学園長は俺を解き放つ気らしい。ふっふっふ、そんなに期待されていては仕方がない。
「受けましょう」
「ほっほっほ。助かるのじゃ。今回は貴族を集めた貴族だけの〈育成論〉じゃからの。報酬は去年よりもとんでもないことになる――」
「ただし、条件があります」
「――ふむ。言ってみるといい」
「貴族だけではなく、獣人、エルフ、ドワーフも入れていただきたい」
「なんじゃそんなことか。もちろん構わんぞ。他にはあるかのう?」
おっとこれは割と簡単にイケたな。
しかし他にあるかと催促するとは学園長にも余裕がある。
「あと去年と同様部外者は遠慮してもらいましょう」
「……去年と同様くらいの数ならば大丈夫、ということかの?」
「それくらいでしたらいいですよ」
先生方15人くらいなら授業に参加してもいいです。でもあくまで学生優先ですよ?
あとはそうだなぁ。あ! あれの引き取りとか頼もうかな。
「もちろんです。彼らに正しい知識を身につけていただかねばなりませんから、武器や防具、〈上級転職チケット〉に〈宝玉〉や〈結晶〉も――」
「ちょ、待つのじゃゼフィルス君。さすがに武具はともかく〈上級転職チケット〉や〈宝玉〉は難しいぞい」
俺の言葉を途中で遮るように学園長が待ったを掛ける。
まあそうだろう。〈上級転職チケット〉や〈宝玉〉、〈結晶〉なんて誰でも欲しがっているし、供給量はようやく上昇してきたというところ。
授業の教材(?)として用意するなんてまだまだできっこない。
そんなことは俺も承知している。
しかしだ。〈育成論〉なのだから本来は上級職を見据えてスケジュールを練るのが正解だ。今のままでは下級職までの、中途半端な育成になってしまうだろう。
〈上級転職チケット〉が手に入る見込みもないのに、いつまでも上級職になれることを夢見てSPをキープし続けられるかと言えば、難しいと言わざるを得ない。
でも安心してほしい。ここに〈上級転職チケット〉を常に余らせているギルドがいますよ。
「実は〈エデン〉では上級ダンジョンの攻略で〈上級転職チケット〉が多くドロップしているんですよ。ですがギルドメンバーのチケットはもう確保し終わっていて、余りが出ているのです」
「それは……」
「ですが国の法律では売ることを禁じられているので放出も出来なくて困っているんですよ。学園長、交渉しましょう?」
ちょうど良い機会だ!
この機会に〈上級転職チケット〉の放出ルートを1つ確保しよう!
「うむむ。――よかろう」
こうして学園長には職業専用の〈育成論〉を教えるのであれば上級職になることは必須だと説き、学園長も貴族が上級職に至るのはむしろ都合が良いと考え、前向きに交渉することになったのだった。
もちろん横流しは厳禁。〈エデン〉から得た〈上級転職チケット〉は全て学生に、というか〈赤世代〉に使うことと添えておく。貴族に限定しなくてももちろん構わない。
そうして最終的に、〈上級転職チケット〉を学園がゲットしたアイテムや装備と交換する場を定期的に設けるということで落ち着いた。
学園よ、早く〈幸猫様〉をゲットしておくれよ?




