#1222 レアイベント限定ボス〈ホネデス〉の猛攻撃!
全身が骨、その手に槍を持ち、悪魔の角を生やし、ゴツい金属アーマーで急所(?)の骨を守る骨悪魔型のレアイベント専用モンスター。
その名も――。
「ホネデス!!」
「あ、自己紹介どうも」
「って言ってる場合かゼフィルス君!? ボスモンスターだ!」
「ホネデス!!」
キリちゃん先生が臨戦態勢に移ってツッコミを入れてきた。
いやぁ仕方ないんだって、ここのボスが「骨です」って自己紹介してくれたら「どうもどうも」と返すのが礼儀だったんだ。
レアイベント限定ボス〈ホネデス〉。
この〈夜ダン〉の15層地下に出現し、その実力は非常に高く〈夜ダン〉の徘徊型を凌ぐほどだ。レアボスよりも強い、正真正銘〈夜ダン〉最強のボスである。
「他の先生方は下がってー、こいつは私たちが相手するよー!」
「明らかに異常なボスなのじゃ。エリアボスともフィールドボスとも違う感じじゃ」
「とても強そうな見た目ね。骨だからアンデッド扱いでいいのかしら?」
他の先生方はハンディを警戒して一気に距離を取っていく。
巨大扉の中は広いボス部屋みたいな空間になっていて〈ホネデス〉がここから出てくることはない。
だから部屋へ侵入しなければ大丈夫だ。そう通達する。
「部屋には入るな。これはボス部屋だ。この部屋に入らなければハンディはカウントされない」
「ゼフィルス君はこいつと戦ったことがあるのか?」
ゲームで何度もな!
でもそれは言えないので適当にそれっぽいことを言ってごまかす。
「……上級ダンジョンには、こうやってエリアボスでもフィールドボスでもない強力なボスが出現することがある。俺たちはそれをレアイベントボスと呼んでいるんだ。そして〈エデン〉ではすでにレアイベントボスの撃破経験がある」
「なんと。――ふ、頼もしいな」
隣のキリちゃん先生がキッと〈ホネデス〉を見つめて笑う。
いつでも行けるぞと俺に伝えているようだ。
んじゃ、久しぶりのレアイベント、いっちょ行きますか。
「行くぞー!」
「「「「おおー!」」」」
「『カリスマ』!」
掛け声と共にボス部屋に侵入し、俺は初手から『カリスマ』を使う。
一気に大量のヘイトを稼いだことで〈ホネデス〉が俺へ向かって金属アーマーの付いた肩と槍を向け飛び込んで来た。
おっと、『ショルダーチャージ』か!
俺の後ろに誰も居ないことを気配で感じて回避。
「ホネデス!」
「お、おう!」
そして〈ホネデス〉が振り向きざまに自己紹介。
俺は「おう」しか言えんかった。しまった。今攻撃のチャンスだったのに逃しちまったじゃねぇか。この自己紹介がこいつの厄介な点なんだ(?)。
俺に向き合った〈ホネデス〉に対し、思わず何もない目の空洞を見てしまうと、突如そこが「ビコンッ!」と赤く光る。そして――。
「ホネデス!!」
「ぐふっ!?」
緊迫感と「自分は骨です」という自己紹介のギャップが腹筋を直撃した。
「くそう! そんなこと知ってらー!! 『カリスマ』ー!」
とりあえずヘイトは稼ぐ。
LV10になったカリスマの威力は絶大で、味方全体に攻撃力、魔法力、素早さバフを与えるのだ。しかも4回まで重複が可能。
MP消費がその分大きいが、今の俺のMPなら切れる前にこいつを倒しきれるだろう。
「『大浄化の儀式』!」
「ホネ!?」
「浄化は有効みたいよ!」
「オーケー! 『千剣』!」
タバサ先生の浄化は味方には状態異常回復、アンデッドには弱点効果を生み出す強力な魔法だ。
この〈ホネデス〉は骨悪魔。悪魔のアンデッドなのだ。
もちろんアンデッド特効は有効だ。
「ホネデス!!」
「おう。かっこいいかっこいい」
くそう、自己紹介につい反応してしまう! 〈ダン活〉プレイヤーの悲しい性だ。
〈ホネデス〉がカノン先生の『千剣』によって斬られつつも接近してきたので俺も盾と剣を構える。
「ホネデス!!」
「俺はゼフィルスだ!!」
お互いに自己紹介しながら切り結ぶ。
ガキンガキンと部屋に金属音が響いた。
〈ホネデス〉の槍捌きを『自動防御』で捌きながら、隙があれば飛び込んでダメージを与えた。
「『儀式:妖精の手』!」
タバサ先生が継続回復系の魔法をくれた。これで勝つる!
「おっと〈毒〉か! でもすぐにリフレッシュ!」
「ホネデス!」
「状態異常を使うのね――『六転式札』!」
この〈ホネデス〉の攻撃は通常攻撃にもかかわらず〈毒〉〈混乱〉〈呪い〉を掛けてくるのが厄介。
『状態異常耐性』を育ててないとすぐに掛かってしまうし、育てていてもこうして掛かるときがある。貫通を持っているな。
しかし、タバサ先生の『妖精の手』ですぐに状態異常も回復だ。
これはHPの継続回復だけではなく、状態異常もたまにではあるが回復してくれる魔法なのだ。
しかも状態異常を受けたとしても肩代わりしてくれる『六転式札』も使用し、状態異常対策に力を入れてくれる。さすがはタバサ先生、頼りになるぜ!
「ホネホネホネホネホネホネ!!」
「おららららららららららら!!」
懐に入って斬りまくりだ! しっかり『属性剣・光』も使用して相性の良い通常攻撃で斬る。攻撃スキルは隙が出来るうえに発動中は『自動防御』の効果が発揮されないので使わない。
俺はタバサ先生の回復に身を委ねてアタッカーとしても活躍していく。
「ホネーデス!」
「全体攻撃警戒!」
「『部分召喚・大式神ノ腕』!」
〈ホネデス〉が「ホネーデス」と偽りの自己紹介をしてきたら要警戒。全体攻撃が飛んでくる前兆だ。
黒い闇のエネルギー的なものが体に集まると、爆発するように一気に拡散していった。
タバサ先生は鬼の腕のみを召喚する攻防一体の魔法で防ぎきり、ヨウカ先生もそれに便乗。
キリちゃん先生とカノン先生は直撃を受けたようだが、HPは2人とも3割しか減っておらずピンピンしていた。
「『全体回復の儀式』!」
「『カリスマ』!」
すぐにタバサ先生の魔法が飛んでみんな回復。
俺も『カリスマ』を使ってヘイトを稼いだ。
するとまたもや目を「ビコンッ!」と光らせて――。
「ホネデス!」
自己紹介!!
「キリちゃん先生とカノン先生も気をつけろ! 目を合わせないように注意するんだ!」
「承知した! 『竜峰一閃』!」
「オッケー! 『千剣大軍』!」
〈ホネデス〉の後ろから攻撃していたキリちゃん先生とカノン先生に警告を放つ。
こいつはたまに後ろに振り向いて自己紹介だけして元に戻るときがあるんだ。
あ、振り向いた。
「ホネデス!」
「?」
「??」
そして元に戻って俺の方を向いた。
あれ? もしかしてキリちゃん先生とカノン先生、自己紹介に気付いてない?
なんかむっちゃ頭にハテナマークを浮かべてる!!
「なんだかよく分からないが、こちらは大丈夫だゼフィルス君!」
「お、おう!」
あれを食らって大丈夫なのか。恐るべしキリちゃん先生!
それから少しすると〈ホネデス〉のHPが半分を切る。
すると、〈ホネデス〉が異様な変化をし始めた。
ここからが本番だな。
「デスデスデスデスデスデーーーース!!」
「一旦離れろ! 今のうちにMPに不安のある人は補給を! ぐびぐび」
俺の指示で〈ホネデス〉から距離を取るキリちゃん先生とカノン先生を見届けて補給を指示し、俺はハンナ特製〈エリクサー〉でMPを回復する。
ヨウカ先生とタバサ先生も回復しておくようだ。
キリちゃん先生とカノン先生は〈ホネデス〉の変化を見届けようとしているな。
変身中に攻撃してもダメージにはならないのだ。
「な! これは!」
「ちょちょちょ、大きいんだよ!?」
「こんなに巨大化するのじゃ?」
「凄い迫力ね」
闇の力を集めて変身した〈ホネデス〉は完全体となってその姿を現した。
今までの姿は所詮前哨戦。本番はここからだとでも言うように体は盛り上がり、むしろ膨れ上がり。体内の闇が膨張して体を形成。紫色のボディが出来ている。
骨が体表に浮かび上がり、刺青のような形でボディにへばりついていた。
大きさは2メートルくらいだったものが実に7メートルに迫り、まったく別物に変貌していたのである。
「ホネデス!」
「いやもう骨じゃないから!」
「デス!?」
思わずそう返してしまうと「うっそ!?」みたいなリアクションをする〈ホネデス〉。
うむ、ゲーム時代。第二形態とも言えるこの姿に変身して自己紹介してきた〈ホネデス〉に「いやもう骨じゃねぇよ!?」と返すのが礼儀だったんだ。
リアルではなんかショックを受けているように見えるのは、きっと気のせいだろう。
「デスデス!!」
「な、なんか怒りだしたぞ!?」
「ゼフィルス君が怒らせたんじゃん!?」
「マジで!?」
そんなことってある!? でも「もうカンカンだ!」みたいな反応してるな!?
「ホネ~~~デス!」
一通り怒りを顕わにした〈ホネデス〉がヘイトを無視した黒い球を、ヨウカ先生を狙って発射する。
あ、あれは当たっちゃダメなやつ!
「あ、ヨウカ先生回避!!」
「これくらい妾が打ち破ってそのまま消してくれるのじゃ! 『六尾解放・紅蓮焔』!」
対してヨウカ先生は五段階目ツリーの六尾解放で迎え撃つ。強力な紅蓮の焔が渦を巻きながら迎撃、そのまま〈ホネデス〉を飲み込む心算だったのだろう。
だが、あの攻撃はそんな生やさしいものじゃない。
「ほ?」
お互いの攻撃がぶつかると紅蓮の焔はまるで吸い込まれるように黒い球に吸収されて消え、さらにそのまま黒い球がヨウカ先生に直撃した。そしてヨウカ先生は一撃で〈即死〉した。
「ヨウカさん!?」
「え? ヨウカちゃん!?」
「なんだと!?」
あちゃー。あれは〈即死〉効果のある『デスボール』。迎撃は大体吸収してしまい、命中すると〈即死〉させられてしまうというとんでもない攻撃だ。『六転式札』でも〈即死〉を肩代わりすることはできないのでマジ当たっちゃダメ。
防御スキルでも等級の低いものなら貫通してタンクが〈即死〉することもあるやべぇ攻撃で、これが〈ホネデス〉を〈夜ダン〉最強ボスと言わしめた真骨頂だ。
これだけ明らかに上級下位級じゃねぇ。
命中したヨウカ先生はレジストに失敗し、跡には転移陣だけが残っている。完全な戦闘不能状態だった。
「デスデスデスデス! デース!」
それを見た〈ホネデス〉が笑う。
「これぞパワーアップした俺の力だ」と言わんばかりの盛り上がりだ。
まあ、これくらい強くないとレアイベントのボスとしては不適格だよなぁ。
だが、これくらいなら全然リカバリーは可能だ。
「タバサ先生、復活を頼む! ――『カリスマ』!」
「はい! 『復活の儀式』!」
やられたら復活させれば良いのである。
本来ならば復活系魔法というのは特大のヘイトを稼いでしまうためタイミングを計ったりしながら行なうものだが、俺が『カリスマ』でじゃんじゃんヘイトを稼いでいるのでなんの問題もない。
タバサ先生はなんの憂いも無く復活魔法を使うことが出来るのだ。
ヨウカ先生の転移陣に向けて使われた『復活の儀式LV10』により、一瞬でヨウカ先生が復活する。スキルLVマックスだったこともありHPも全回復状態での復活だ。
「お、おお? 復活したのじゃ」
「もう、ヨウカさん気をつけてよ。ゼフィルスさんが回避と言ったら回避するのよ」
「わ、分かったタバサ。悪かったのじゃ」
「デス!? デスー!!」
「あ、ヨウカ先生が復活したのを見てまた怒りだしたぞ」
「警戒しながら攻撃だ! 行くぞカノン!」
「オーイエー!」
「壁に使って! 『式神ノ参』!」
攻撃再開。タバサ先生も鬼を出して攻撃に参加だ。
あの鬼はまた『デスボール』が放たれたときの身代わりにする様子だ。
許せ鬼よ。
「あ、また来た! 鬼さんこっち」
「『転送陣』!」
「―――! !?!?!?」
再び放たれた『デスボール』だが、カノン先生の声にタバサ先生が素早く『転送陣』で鬼を割り込ませ、鬼が身代わりになって消えていった。お前の勇姿は忘れないぞ!
それから何度も『デスボール』が放たれた。時には複数飛ぶことも有り、なかなかに危険度の高いボス戦へと変化する。
「『リライト』!」
「あ、やば!?」
「カノン!?」
防げない『デスボール』を五連続で放たれ、うっかりカノン先生がやられたときも大丈夫。
転移陣が光って退場! でもすぐに復活。
「あぶなー! タバサちゃんありがとね!」
「フォローは任せてね」
カノン先生が手を振りタバサ先生が親指を立ててイエイしながらウィンクを決める。
タバサ先生の『リライト』は復活予約。これが掛かっていると、もし戦闘不能になったとしても即復活するという非常に強力な魔法だ。
ただヘイトは馬鹿食いするので、俺のようにヘイトをガンガン稼ぐようなタンクが一緒じゃないと乱発はできないんだけどな。また、ギルドバトルでは戦闘不能になった事実は消えないので、復活したとしても「戦闘不能→即復活!→でもさようなら」と敗者のお部屋には連れて行かれるので過信は禁物だ。
タバサ先生はこれをクールタイムが終わる度に全員に付与していた。
おかげでもし即死したとしても大丈夫と心に余裕が出来、みんないつも通りの動きに戻って行く。そしてついに。
「行くぜー『太陽の輝き』! 『陽光剣現』! 太陽の剣――『サンブレード』!」
「ホネデスーーーー!?」
太陽の一撃が炸裂!
アンデッドたる〈ホネデス〉には特効効果が突き刺さり、とうとうHPがゼロになる。
取り込んだ闇が浄化されていき、残った骨がエフェクトの海に沈んで消えていった。
そしてその後には2つの〈金箱〉が落ちていたのである。




