#1221 〈夜ダン〉の簡単お手軽攻略法を伝授!?
〈夜ダン〉では俺が居なくても先生方だけでダンジョンの40層までは潜れることが分かった。
だからというわけではないが、俺たちはちょっと寄り道をすることにした。
別に俺の有用性をアピールしようとか、そういうわけではないぞ? 「あれ? これって俺要らないんじゃ?」と感じて焦ったわけではない。
「こほん。では、このクレバス的な裂け目の中に入ってみるぞ」
「ここはのぅ。落ちるのは容易いが、中は月明かりの届かない暗闇。いくら〈月光雨〉とはいえこの中までは照らせまい?」
「それでも中に入ろうということは、ここに何かあるということねゼフィルスさん?」
さすが、タバサ先生は俺のことをよく分かっている。
俺が連れて行った先に無駄なものなんてなかったからな。
他の先生方も「ほほう?」と興味深くクレバスの中を覗き込んでいる。
ここ〈夜ダン〉は荒野のダンジョンだが、多くの亀裂が入っている落とし穴ダンジョンでもある。
落ちたが最後、地獄へとご案内されるのだ。
冗談だ。中には洞窟が有ったり無かったりして、地上とは別に地下通路が延びているのだ。
普通ダンジョンと言えば上下で階層が変わるときは階層門を潜るものだが、ここ〈夜ダン〉は特殊で、地上も地下もひっくるめて1層となっている。
見方によれば階層が倍に増えているようにも見えるダンジョンだな。
前回、〈エデン〉で攻略したときは地上を進んだ。
地上は〈月光雨〉があるため進みやすく、また荒野が広がっているだけなので見通しも良い。その代わり状態異常系の罠が多く、モンスターもかなり襲ってくるため対策が不十分だと結構進みづらいのだ。
まあ、〈エデン〉の〈イブキ〉はその辺まったく気にせず進んでしまったけどな。
タバサ先生の場合は『一発浄化』と『幽霊キラー』でモンスターを屠りまくり、『六転式札』という状態異常を肩代わりしてくれる魔法があるために、このダンジョンは余裕だったみたいだ。相性が良すぎる!
そして地下だが、ここは暗闇さえなんとかできれば一般職でもかなり進みやすいんだ。
その辺を、俺はクレバスの底へ続く坂を下りながら説明して行く。
「――洞窟なら〈ドローンランタン〉をいくつも飛ばしておけば暗闇も問題ない。クレバスの底は結構面白い地形をしていてな。当たりのクレバスの中には、ほらあそこ見てくれ。あんな感じで洞窟が広がっているんだ」
「ほほう。ずいぶんと奇っ怪よな」
「こんなものが下にはあったのね。私たちが見たクレバスには、確か無かったはずだわ」
「横穴か。しかし大きい」
「穴と言うよりもトンネルっぽいよね~」
「お、カノン先生当たりだ。ここは洞窟というよりもトンネルと見た方が分かりやすいんだが。さっき俺が地下通路と表現したようにここの通路は階層門の近くまで通じているんだよ」
「ええ!? どういうこと!?」
つまり、地下に道があるんだ。所謂地下道と思っておいて相違ない。
視界は悪いものの、モンスターは地上より出にくいし、罠も少ない。
いろんなクレバスを経由するため少し遠回りになるのと分かれ道が多数あるのを除けば、割と簡単に階層門まで到達できる道になるんだ。
そう説明しながらも俺はトンネルの中へ入っていく。
「ほう。〈山ダン〉の洞窟では狭すぎて刀が思うように扱えなかったが、ここは十分な広さがあるな」
「洞窟の中だとランタンの灯りって複数灯せばかなり明るいんだね」
「地上より罠が少ないのか。それはありがたいのじゃ」
「ふふ。ヨウカさんはたくさん罠に嵌ったものね」
「地面から噴出する罠は炎で撫でるだけでは破壊できないんよ」
そう和気藹々と付いてくるパーティメンバーとは裏腹に、その後方の先生方は必死にメモを取りまくっているな。
何しろ遠回りだが、一般職でも通れる安全な道を発見したのだ。
そりゃあ記録を取る腕も捗るというものだろう。
この洞窟はクレバスの底にあるのと、暗闇でどこに通じているかも不明ということで敬遠され、今までまったく調査がされていなかったのだとか。
それが今回の俺の説明により一気に有用性が分かったのだからそれも頷けるだろう。
そこから、右、左、左、斜め右、斜め左、右、真っ直ぐ、右、などと洞窟の選択肢が現れる度にルートを口頭で説明していき、先生方がメモを取るという作業が続く。
「ここのクレバスで地上に出るように。入ったクレバスから数えて22個目だ」
「「「「メモメモメモメモ!」」」」
うむうむ。たくさんメモると良い。
まあ59層分説明するのは手間なのであとで地下用の地図も渡す予定だけどな。
結局モンスターと出くわしたのは10回にも満たず、罠も2箇所しか無かったためその全てを軽く捻って進み。1層を突破して見せたのだった。
それからも地下道ルートをメインに教え、途中にあるクレバス、つまり地上へ上がれる箇所を最寄りの駅と命名されるようになったのはちょっと面白かった。なるほど、駅名を付ければ覚えやすいな。さすがは本校の先生方だ。
この駅から登れば次の階層門へ行けるだとか、この駅を登れば〈幽霊〉系しか周囲に居ない狩り場だとか、ここの駅から地上に出ると罠が多くて危険だとか、色々と特徴を聞かれたので答えていく。もちろん全部は答えず、今後先生方の調査でダンジョンを丸裸にして行ってほしいとアドバイスくらいに止めた。
なんだか懐かしい。ゲーム時代に戻ったような感覚だ。
〈夜ダン〉の簡単な攻略の仕方を大体教えたのち、俺は15層に立ち寄った。
そこの地下通路のとある区画、道の途中で相当重厚な鉄の巨大扉が側面に鎮座しているのが見える。ここが俺がちょっと来たかった場所だ。
「ゼフィルス氏、あれはなんでしょうか!?」
「あれはですね。隠し部屋の一種ですよ」
「「「「おおー!」」」」
隠し部屋の扉を見つけたことで先生方が盛り上がる。
隠し部屋には必ずレアな宝箱が鎮座しているからだ。
だが、タダで取らせてくれるとは限らない。だってこれ、隠されてないし。
「なんだ? なんだか妙な感覚を扉から感じるが……」
キリちゃん先生は何かに気が付いたようだ。
その言葉に多くの先生方が扉を確認し始める。
「ゼフィルス先生! この扉、鍵穴がありません!」
「数人掛かりで押してもびくともしないよ~!」
「周囲を探知したのですが、仕掛けらしきものはありませんでした」
「ゼフィルス先生は開け方をご存じですか!?」
次々と俺に報告してくる先生たち。すっかりリーダーが板に付いてしまったぜ。
どうしてこうなったのか。俺にも分からないな~。
と、そこでヨウカ先生が割って入ってくる。
「まあ待ちな先生方。ゼフィルスなら開け方も知っておろう。しかし、それならば権利はゼフィルスや〈エデン〉にあるというもの。妾たちが聞き出し使用することは罷り成らんと心得よ!」
おお、ヨウカ先生がぴしゃりと言い切った。テンションが高くなりすぎて気が回らなくなっていた先生方もそれでようやく気が付き、沈静化していった。――かに思えた。
「ゼフィルスさん。この扉はどうやって開けるのかしら?」
「おいぃタバサぁ!?」
しかしタバサ先生の言葉でヨウカ先生がツルンと滑った。
さすがは〈エデン〉に長く在籍していたタバサ先生だ。
宝箱への食いつき度が違う。
タバサ先生の言葉で再燃したのか「気になる」「扉開けたい」という視線がヒシヒシと集まって来た。
よし、いいだろう。ご要望にお応えして、ここの扉を開けて見せよう!
まあ、最初から開けるつもりだったしな何も問題は無い。
あとヨウカ先生、良いリアクションでした。ごちそうさまです。
「いいぜ。俺が開けて見せようじゃないか!」
「キャッキャ。さすがゼフィルスさん!」
「何なんそのノリは。タバサ?」
「うふふ。これが〈エデン〉のノリよ。まだ離れて1ヶ月しか経っていないのに、なんだか懐かしく感じるわ」
「俺もタバサ先生が居なくなって寂しい。そしてちょっとしたノリが嬉しいぜ」
タバサ先生と一緒に居ると実感してジーンと来る。
しかし、いつまでも扉の前で感動しているわけにはいかない。
俺は前に出ると片手で扉を押す姿勢でこう言った。
「〈我、悪魔の召喚に成功せり〉」
すると「グググゥ」という非常に重そうな音を響かせながら扉が開いていったのだ。
「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」
ここの扉を開ける条件って。【悪魔】系キャラを仲間にしていることなんだよね。
え、呪文? 別に必要ないよ。あれは場を盛り上げようと思って言っただけだ。演出は大事!
先生方には後で本当の理由をこっそり教えておこう。
高速でメモを取っている先生方のペン速の音を聞きながら、俺は扉が開ききるのを待つ。
さていよいよだな。
実はここ、ただの隠し部屋ではないんだ。隠されてないしね。
その実態はなんと、〈夜ダン〉のレアイベント会場なのである。
さあ来るぞ。
扉が開ききると、俺たちが見守る中、レアイベントの重要なモンスターが登場。
〈ダン活〉プレイヤーからは「いちいちやりにくいw」「悪魔の囁きリアルを食らった気分だ」「視線を合わせるな、やられるぞ!!」と数々のコメントを頂戴したとんでもボス。
全身骨でできた悪魔ボス――〈ホネデス〉が歩いて来たのだった。




