#1218 〈海塗りのベール傘〉の真価! 鳥ロボ再び。
〈海塗りのベール傘〉の効力は抜群で、その効果はすぐに、そして顕著に現れた。
「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」
「湖に入っても服が濡れない!」
「走ることもできるぞ!」
「水なのに空気みたいな抵抗しかない? どうなってるの!?」
「本当に鳥が来ないんだな」
「この人数だとこれだけ騒げば発見されてもおかしくはないはずなのにね」
「素晴らしい! これが31層でも通じるのであれば、攻略は飛躍的に進むぞ!」
「いやまずはこの1層で周囲を探索してみよう! まずはこの効果がどれほど強力なものなのか肌で感じたい!」
よほど攻略が難航していたのだろう。先生たちのテンションがとても上がっていた。
「こんなに簡単になっていいのか?」
「ええ~。〈島ダン〉って絶対こんな楽なダンジョンじゃないのに~」
キリちゃん先生とカノン先生のリアクションも良き。
俺の手の中には〈海塗りのベール傘〉。そして周りでは湖でバシャバシャしぶきを上げながら歩いたり、あるいは走り回っている先生方の姿があった。
「ほほう、こいつはすごいのじゃ! 妾の炎が水の中でも燃えてるのじゃ!」
「モンスターに襲われる回数が極端に減ったわ。この傘すごいわねゼフィルス君」
「〈エデン〉の力を垣間見てしまった。自分は今、歴史に残る1ページをこの目で見ているのかもしれない」
ヨウカ先生は自分が濡れないのなら炎も濡れないだろうという謎理論を展開して湖の中で炎を灯していたが、なんか成功している様子だ。
フィリス先生も水を蹴って飛ばしてはしゃいでいる。
イルカ先生はなぜか感動していて微動だにしない。もしかして泣いてる?
「くす、なんだかこの傘に入っていると守られているって実感するわね。ゼフィルスさん、もう少し近寄ってもいいかしら?」
「もちろんですタバサ先生!」
タバサ先生は先ほどから近いです。相合い傘状態です。ありがとうございます!
〈海塗りのベール傘〉、今凄く役に立っています!
「む! 北からモンスター接近! 3班が当たれ!」
「は、はい!」
「慌てるな! 相手は5体、十分に倒せる数だ! 冷静に対処するのだ!」
向こうではシグマ大隊長の指示で若き先生方がモンスターの相手をしていた。
たくさんの先生方や〈ハンター委員会〉、〈救護委員会〉のメンバーにも〈海塗りのベール傘〉を渡してあってみんな差している。
〈海塗りのベール傘〉の効果は〈島ダン〉限定ではあるが、差している間は水に濡れず、水の抵抗も感じず、そしてインビジブル系の小効果が発動していて鳥型モンスターから発見されにくくなるというもの。
特に最後の効果が強力で、鳥というのは目が良く、こんな湖のような見晴らしの良いこの環境ではかなり離れているのにもかかわらずアクティブ化してしまう。つまり索敵範囲が無茶苦茶広いのだ。故に発見されてしまうリスクがかなり高い。しかも鳥なので素早く、水の抵抗もあって逃げることが出来ないといういやらしさがある。
故に、敵に見つからない処置が一番重要となるダンジョンだ。
キリちゃん先生たちもそれを感じていたらしく、支援系の人にも来てもらっていたらしいが、完全に防ぎきることは難しく、攻略は難航していたとのことだった。
そこにこの画期的な〈海塗りのベール傘〉の登場である。
〈エデン〉の攻略の時は全然役立たなかったが、本当はこんなにすごいんだぞ?
「いや本当にすごいなこれは。ゼフィルスたちはこんなアイテムを使って攻略していたのか」
そう話しかけてきたのはここにいるメンバーと同じくLV30という数少ない実力の持ち主、ラムダだった。
うむ。〈海塗りのベール傘〉の効果は凄いだろうラムダ? でもね、攻略の時はほとんど使わなかったんだ……。
「まあ、うん。そうだな」
なので曖昧に答えるしかない。しかしラムダのキラキラした瞳が傘へと向く。
「これは〈救護委員会〉にも売ってもらえるのかな?」
おっと商売の話だな? それならオーケーだぜ。
「もちろんだ。そのためにこれだけの数を用意したんだからな。レシピはあるから今後量産していく予定さ」
「さすがだなゼフィルスは」
「さすがゼフィルスさんね」
ラムダとタバサ先生に褒められて、俺はとても気分が良くなった。
やっと〈海塗りのベール傘〉が活きたんだぜ。ちょっと握りこぶし作ってよっしゃした。
しばらくして落ち着くと、今度は今の先生方の実力を見ることになった。
30層のボスにいきなり挑むのもなんなので、まずはショートカット転移陣で5層へと向かう。肩慣らしだ。
「トリサンニナリターイ!!」
「鳥になりたかったけどなれなかったロボット発見!!」
久しぶりだな〈鳥ロボ〉!
というわけで容赦なく殲滅する。
「ト、トリニナリタカッ……タ……」
殲滅完了。
多少飛べるために少し厄介な敵かと思われたが、そもそも先生方は本校の教員に成れるくらいのエリート。さらに30層まですでに攻略し、今まで他にも飛行型モンスターをたくさん倒した経験があるのだ。割りと余裕っぽかった。
しかし、別の意味では余裕はなかったみたいで……。
「くっ、なかなかの強敵だった」
「ああ。笑いをこらえるのが大変だったぞ」
先生方がこのように口々に感想を言っていた。
リアルならではの腹筋特効を食らったらしい。
意外に緊張感と集中力が削がれるので有効な口撃だった様子だ。
しかし、さすがは〈迷宮学園・本校〉の教員に採用されただけはある。
ランク4とはいえ5層程度の守護型ボスでは相手にはならないようだ。何人か腹筋が崩壊した隙に『トリサンダー』食らって吹っ飛んでたけどな。
そしてドロップしたのは、なんと〈金箱〉! なんて幸先良いんだ!
盛り上がる先生方。
ふっ、数十人規模の大じゃんけん大会が始まるな。俺も参加してもいいのだろうか?
拳を温めておかなければ。
そんなことを考えながら右拳を左手で握って温めていたら、イルカ先生が唐突に宝箱を開いた。
「――――って、なにぃ!?」
いきなりのことに理解が数瞬追いつかなかった。
あれ!? 大じゃんけん大会は!? お祈りもまだだぞ!?
「ゼフィルスさん。私、言ってなかったことがあるの。宝箱はね、ああやって開けるのが普通なのよ」
「な、なん、だと?」
「よしよし」
タバサ先生がまるでショックを受けた気の毒な生徒を慰めるように頭を撫でながら説明してくれる。
なんということだ。
〈金箱〉という一大イベントをこうもあっさり!? 信じられない。
それとは別にタバサ先生のナデナデがパナい。
揺らいだ心がどんどん落ち着いていくよ~。
そんな中盛り上がる〈金箱〉付近。イルカ先生が中身を取り出してみんなが見えるように持ち上げていた。それは、〈鳥ロボ〉の背中に着いていた翼にそっくりだった。というか翼だった。
まさか――〈鳥さんの翼(偽物)〉ドロップしちゃったの!?
「これは! あのハイウド2年生が着けていた飛行パーツでは!?」
「「「「おおお!!」」」」
しかし先生方は大変盛り上がってらっしゃった。
――飛行パーツ。
どうしてだろう、言葉1つ違うだけでとても魅力的に見えてきた気がする。でもきっと気のせいだろう。
結局〈鳥さんの翼(偽物)〉を装備出来るサイボーグ先生は居なかったようで、これは持ち帰ることになった。
とても重要な戦利品のように扱われて、大事そうに〈空間収納鞄〉へ仕舞われていく〈鳥さんの翼(偽物)〉。
うむ。良いんじゃない?
ショートカット転移陣を起動して、1層へと戻る。
見たところ、かなり良いと感じた。
まだ先生全員の能力は見ていないものの、さすがは本校の卒業生にして本校の教員になった先生たち。プレイヤースキルも良いものを持っている。
これならもう30層へ向かっちゃっていいな!
ということで30層へショートカット転移し、熊の頭をしたグリフォンの偽物、守護型〈クマフォン〉を見事に撃破して先へと進むのだった。
エリアボスは先生の中で索敵系に特化した方がいたので、イルカ先生にさらに強化してもらって見つけてもらい、通り道で出会えば撃破する。
道中は順調そのもので、〈エデン〉で作った地図を使い最短距離を歩んでいく。
一度攻略した実績があるということで先生たちが素直素直。なんだか俺の指示にすっごい素直に従ってくれるんだよ。LVの高いカノン先生たちが率先して俺の指示に従っているというのも大きいだろう。
そのまま40層の守護型ボス、ニーコの〈デザートグリフォン〉でお世話になっている〈気高きエリートグリフォン〉を先生方に撃破してもらった。
ここまでで先生方の職業はしっかり把握させてもらったからな。俺の指示とアドバイスのおかげで割りと余裕があったぞ。
また、SPの振り方も少し伝授してあげた。LVが上がったらこんなスキルをゲットしておけばこういう時便利だって添えてな。
そして使ってみて歓声が上がるくらい効果てきめんだったようで、全先生方が俺にアドバイスを求める事態になってしまったのはご愛嬌。もちろん全員にアドバイスしてあげたさ!
そして少し余った時間で〈フルート〉を使って41層のエリアボスを周回してレベル上げし、その日は帰還した!
「たった1日で40層まで攻略? これが〈エデン〉の力、いや勇者氏の力か……!」
31層から足止めを食らっていた先生たちがそんなことを呟いていた。
ふふふ、もっと褒めてくれても良いんだぜ?




