#1213 いざ入ダン。ランク7ダンジョン〈氷ダン〉!
ふははははは!
周回は順調だ! とても順調に進んでいるぞ!
「まずは体験だけさせるつもりだったが、LV13まで上がってしまったな!」
「じー」
「先輩は、鬼でした。鬼畜さんです!」
新メンバー5人の最後の周回が終わり、意気揚々とボス部屋に侵入したらじーっと見つめてくるクラリスと、今までスパルタなタンク周回を継続させられたキキョウから抗議が上がった。
げふんげふん! キキョウは勘違いしている! 俺は鬼畜じゃないよ、タンクを育てるにはボス周回を経験した方が成長できるんだよ。本当だよ?
「こほんこほん! みんなお疲れ様。素晴らしい成果だったぞ」
「ありがとうございますゼフィルス様!」
「お兄ちゃんがすごいこと教えてくれたから、レベル、たくさん上がったよ」
「こんな短時間でLV13までいくなんてすっごいです! アイギス姉さまが〈転職〉後に超速レベルアップをした理由が分かりました!」
こっちは素直組だ。ノーアとアリスとアルテ。
とても癒される。
「む。わ、私だって先輩のことを尊敬しています」
「おお~! キキョウ、頭を撫でてやろう!」
「いえ、それは結構ですが」
「がはっ!」
キキョウが素直になって感動した。思わず頭を撫でたくなったが拒否されてグサッときた。くっ、まだ信頼値が足りないらしいな。狐耳が遠い!
ふっふっふ、いいだろう。
〈エデン〉の秘術はまだまだこんなものではない! キキョウが素直に頭を撫でさせてくれるほどに信頼値をアップさせてやるぜ! ふははははは!!
「う、なんでしょう? なんだか無性におまわりさんを呼びたくなった気がしました」
「き、気のせいさ!」
キキョウの手がなぜかポーチ型の〈空間収納鞄〉をイジっている。
もし防犯ブザーなるものがあったらうっかり手を伸ばしそうな雰囲気をしているのは気のせいか? いや、きっと気のせいだろう。
さて最後の宝箱は――これも〈銀箱〉だった。当たりしかこないな!?
「みんな〈幸猫様〉へのお祈りは済ませたか? しっかり感謝とお願いを祈っておくんだぞ?」
「これも私、初めて知りましたわ! 良い装備、良いアイテムをドロップするにはお祈りが必要だったんですのね」
「いえ、お嬢様これは少し違うと思いますよ。これが常識ではないはずです。…………多分」
ノーアのキラキラした表情にクラリスが断言できずに視線を彷徨わせていた。
なーに、〈幸猫様〉へのお祈りが常識になる日も近いさ。ふはははは!
ここにいる5人には先ほど〈『ゲスト』の腕輪〉を当てたときにしっかり〈幸猫様〉と〈仔猫様〉へのお祈り方法も教えておいた。
ノーアはすぐに確信へと至っていたが、クラリスはまだ抵抗している様子。ふっふっふ、いつまで持つかな?
「では、今回は私が開けさせていただきます」
「キキョウ、頑張れー」
「キキョウちゃん、ファイトだよー」
「は、はい! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉、どうか良いものください」
今回開けるのはキキョウだった。うむうむ、ハードなボス周回でだいぶキキョウも〈エデン〉流に馴染んできた様子だ。
アリスとアルテの応援を受け、キキョウがそっと蓋を開けると、中にあったのは1枚のチケット。
――中身は〈下級転職チケット〉だった。
「お、当たりだな!」
「うわ! これ今すっごく高騰しているものじゃないですか!?」
「ふっふっふ、これが〈幸猫様〉たちの力だ」
さすがは〈幸猫様〉と〈仔猫様〉!
周回最後の締めにふさわしく、現在初級下位でゲット出来るアイテムの中では一番お高いものがドロップしてくれたぞ!
やっぱ初級下位は〈銀箱〉が当たりなんだよな~。〈幸猫様〉たちはそれをよく分かっておられるのだ。
記念に撮影! パシャパシャ。
当たったチケットは〈エデン〉預かりとし、さり気なくクラリスにチラチラ見せながらこっち側に誘ったりして、その日の周回は終わったのだった。
それから2日で2陣パーティは残りの初級下位ダンジョンを全て攻略した。もちろん俺が付きっきりで指導、キャリーした成果だ。
それを知った1陣パーティのメンバーがとても驚いていたよ。
何しろ1陣パーティだって攻略は決して遅くはないが、現在〈石橋の廃鉱ダンジョン〉を攻略し、初級下位の3つ目、〈静水の地下ダンジョン〉を攻略中だったのだ。「いつの間に抜かしたの!?」とカグヤがおったまげていたな。
というわけで続いて1陣の攻略とレベル上げを手伝うとしよう。と思ったのだがここで土日に突入した。
そしてシエラやラナからこんなことを言われたのだ。
「新入生を育てるのも良いことだし、面倒を見たくなる気持ちも分かるわ。でもね」
「私たちのことだって構いなさいよね!」
そんな可愛いことを言われてはふらふらそっちに流れてしまうわけで。
「ヴァンたちのことは問題無い。地図だって渡してあるんだ。俺たちが上級ダンジョンに行っている間に向こうも攻略しているだろう」
そうメルトからも言われて、俺はこの土日から上級生メンバーと一緒にダンジョンに行くことに決めたのだった。
何しろ今日は4月19日土曜日、今日からダンジョン週間が始まる。
ダンジョン週間、なんて素晴らしい響きなんだ。
こりゃ上級ダンジョンへ行くっきゃないよな!
朝からミーティングして今日行くのは初めてのダンジョン、〈迷宮学園・本校〉が誇る〈ランク7〉、〈氷結の彫刻ダンジョン〉、通称〈氷ダン〉だ。
学園祭の時にやっていた、500年前の勇者の演劇で出てきたダンジョンだな。
〈ランク7〉からは別名〈35エリア〉と呼ばれており、最奥のボスでLV34まで、レアボスを倒せばLV35までレベルを上げられる、上級下位ダンジョンの中でも最高難易度のダンジョン群だ。
ここは公式記録上、やはり攻略者は居ないことになっているそうだ。500年前の勇者は公式記録には載っていないらしいからな。
とはいえここを攻略しなければ上級中位ダンジョンへの条件が満たせないのでいつかは行くつもりだった。
ちなみにここの救済アイテムはすでにソフィ先輩に作ってもらっている。
抜かりは無い。
ということで、いざ、入ダンだ!
また〈上下ダン〉がざわめいていたが、そんなの気にすることはなく、またまた〈エデン〉の戦闘メンバー33人+採集無双4人で〈氷ダン〉の門を潜ったのだった。
「ふわ! これまたすっごいところね!」
「一面氷景色、ですね」
「〈秘境ダン〉は一面雪景色だったけど、ここは氷一色ね」
門を潜るとまずラナが感嘆の声を上げ、エステルがいつでもラナを庇える位置で周囲を警戒する。シエラも前に出てまずは状況確認を行なっていた。さすがは〈エデン〉のメンバーだ。
以前行ったことのある一面雪景色だった〈秘境ダン〉とは違い、ここは氷一色というダンジョンだった。
雪と氷ではなにが違うのか? と思うかもしれないが、これがもう全然違うのだ。
「あれは、氷のお城、なのです!」
「あっちには氷のキノコでしょうか? いっぱいあります」
「ん、樹木も氷?」
「うむ。遠目に見えるモンスターも全て氷で出来ているみたいだな」
そう、〈氷ダン〉は名前の通り、ここにあるものは全て氷で出来た何かなのだ。
建物から植生(?)、モンスター、地面まで全てが氷である。
そして全てが氷のため、当り前だがここは無茶苦茶寒い。ゲームでは『耐寒』が無いとたまに〈氷結〉の状態異常になる、天然の罠環境があるダンジョンだった。
リアルだとあまりに寒すぎて思わずUターンしたくなるレベルだ。
しかし問題は無い。俺たちには〈ホカホカドリンク〉がある。
全員がこれを飲んでいるので1時間は凍る心配がない。
だが、これだと時間経過で切れてしまう。切れたときが心配だな。
そして、もう1つこのダンジョンには厄介なところがある。
「わー、綺麗な氷像――ってわひゃ!?」
「あ、姉さまが滑ってダウンしました!」
「大丈夫エリサっちってわわわー!?」
「滑る~!?」
「ちょ、掴まないで!?」
「「「きゃー」」」
おっとあっちではエリサと仲良し3人娘が仲良くスリップダウンしていた。
そうここではもう1つ対策しなければならないものがある。それが氷で滑ってスリップダウンしてしまうことだ。
これも天然の罠だな。『転倒防止』などの装備かアイテムを持っていないと氷でスリップしてしまうのだ。
いやぁ、さすがは〈ランク7〉。かなりの凶悪仕様のダンジョンである。
ということで俺はある物を取り出した。
「よーし、じゃあ対策するぞー! なるべく遠くには行かないように」
「ゼフィルス、それは?」
「これがこの〈氷ダン〉の救済アイテム――〈転ばない火の杖〉だ」
俺が取り出したのは装備品と見間違うような火属性の杖。
まあ、百聞は一見に如かずだな。
「見てろよ、この転ばぬ杖の先を地面に当てると」
「? さっきと名前が違わないかしら?」
「……こほん。これで地面を叩くと、こうなるんだ」
シエラからのツッコミを受流しながら俺は杖の先端で地面を叩いた。これで発動する。
周囲が光輝く陣に囲まれ、まるでエリア回復魔法のような環境に変化する。これは寒さと転倒を防止するエリア。この地面が橙色に光っているエリアにいると寒くも無いし転倒もしないという救済アイテムだ! 範囲は大体半径25メートル、効果時間は30分だ。
移動しながらこれで地面を叩いていく感じだな。ちなみに回数制限は無いぞ。
そうシエラたちに説明する。
「へぇ! 面白そうね!」
「ルルもやってみたいのです!」
「いいぞいいぞ。あ、でも使う度にMPが5減っていくから注意するんだぞ?」
「「「「はーい」」」」
早速周りをペチペチ叩き出す女子が可愛いです。
〈氷ダン〉しか使えないアイテムではあるが、これがある限り寒さとスリップには無縁だ。
俺はこれを7本用意してきた。やってみたい人が多いだろうというのは分かっていたからな。1パーティにつき1本を貸し出す予定だ。
ふふふ、転ばぬ先の杖ってね。




