#1212 新メンバーにトップシークレットを教えよう。
初のボス戦は、まあやっぱり初めてということもあって色々と難航した。
「ガアアアッ!」
「『悪いもの、おいでおいで』! きゃ!?」
「はああああ、せい! ですわ!」
「ガアアアアア!」
「お嬢様、あまり前に行かないでくだ、さい!」
「援護するよー! 『ロングスラスト』!」
「アリスも! ルルお姉ちゃん直伝、魅惑の~『キュートアイ』!」
「ガアアアアア!」
キキョウの【神社の守護者】の〈初ツリ〉挑発スキルで〈クマアリクイ〉を引きつけ、盾で受ける。
だが一撃の衝撃に驚いて蹈鞴を踏んで隙だらけなキキョウに〈クマアリクイ〉が追撃アリクイパンチを放った。
そこへノーアが援護し大剣でパンチを迎撃する。
さすがノーアはこの中でも戦い慣れてるなぁ。
そんなノーアに付いていきながら両手に持った片手長剣の二振りで援護するクラリスもなかなかのセンスだ。
アルテは【姫騎士】の〈初ツリ〉の『ロングスラスト』を発動し痛打を与えたな。
このスキルだけは普通に強いからな、取ってもらった形。
そして【雷子姫】のアリスだが、この子は【ロリータヒーロー】と同じデバフを少し覚えるため、素早さデバフをキュピーンと決めていた。
「ガアアアアア!」
「きゃあ!」
「キキョウ、踏ん張れー! それほど威力も無いしダメージもそんな受けてないぞ!」
ヘイトを稼いだキキョウへと〈クマアリクイ〉が執拗にアタックを仕掛ける。
あれ、初めて対峙すると思った以上に怖いんだよなぁ。俺も経験がある。だが、ダメージはさほどでもないので踏ん張れば大丈夫だとキキョウへ声を掛け続けた。
キキョウは序盤こそ初めての衝撃にやられていたが、ボス部屋の外にいる俺の声掛けのおかげか、徐々に吹き飛ばされる回数も少なくなってきた。
「キキョウ、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。それよりもアリスも当たらないよう気をつけて。すっごい衝撃だよ」
何度かアリクイパンチを受けて、ついにダウンまでしてしまったキキョウだったが、アリスに励まされてまた前線に戻って行った。だが。
「行きますわよアルテさん、クラリス!」
「良いですよノーアさん!」
「いつでも」
「「「はああああああ!」」」
「ガア……ア……」
「「あ」」
戻ろうとしたときにはノーアとアルテとクラリスが〈クマアリクイ〉を倒している所だった。3人の三方向からの攻撃に耐えきれず、ついにHPをゼロにした〈クマアリクイ〉が倒れてエフェクトに沈んでいったのだ。
勢い勇んだキキョウはポカーンとしていたよ。
うむ。これも経験である。
とりあえずお祝いの言葉を贈りながら俺もボス部屋に入った。
「お疲れ様だみんな」
「ゼフィルス先輩!」
「お兄ちゃん!」
「初めてのボス戦にしてはとても良い感じだったぞ」
「本当ですか!」
「おう。ノーアなんて仲間への攻撃を大剣で防いだりしていたからな。あれは結構難しいんだぞ?」
ノーアがキラキラした良い笑顔で聞いてくるので頷く。
いやぁノーアがいいですわ~。
そして初めての宝箱は――〈銀箱〉だった。
ここはビギナーズラックが出やすいのか、最初の宝箱というのは〈銀箱〉が出やすいのだ。
うむ俺も最初は〈銀箱〉だった。〈『ゲスト』の腕輪〉をゲットしたあの日が懐かしく感じるな。……あれ? 最初って〈ハイポーション〉だった気もする。どっちだったっけ? いいや〈『ゲスト』の腕輪〉ということにしておこう。(最初はハイポーションでした)
「これは――〈『ゲスト』の腕輪〉ですわ!」
「って〈『ゲスト』の腕輪〉かーい!!」
思わず突っ込んでしまった。なんとノーアたちも最初から大当たりを当てていたのだ。
初級下位ダンジョンの大当たりは〈金箱〉ではなく〈銀箱〉だと言わしめた超レアアイテムだ。それを一発で引き当てただと?
「オーッホッホッホッ! 素晴らしいですわ! これもみなさんが頑張ったおかげですわね!」
お嬢様の高笑いでました! やっぱりノーアってそう笑うのか!
「よ、お嬢様、お見事です」
それに花びらを撒くふりをするクラリス。なかなかの従者っぷりだぜ。
「ううーん! なんだか勝ったって実感するねー!」
「私は、目を回しているうちに終わってしまった感が……。でもアリスは守れたので良しとします」
アルテがキキョウに槍を掲げながら聞くがキキョウは複雑な表情だ。
「アリス、かっこいいポーズしてたら勝てた」
「そうかそうか~、おめでとうアリス」
アリスが見てみてと言わんばかりに初めてゲットした攻略者の証を手に見せてくるのがむっちゃ可愛い。キキョウも若干苦笑気味だが攻略者の証の初ゲットは嬉しかったようで手に持って見せに来た。よって褒める。
「よく頑張ったな。全部見てたぞ」
ボス戦の反省会はあとだあと。今はこの後輩たちを目一杯褒めるのだった。
そうして少し落ち着いてくると先ほどの反省会。
動きが良かったのはやっぱりノーアだ。
さすがは【革命姫】。SPをまったく振っていないにもかかわらず〈クマアリクイ〉の攻撃に何度も大剣を合わせて迎撃していた。
ノーア自体が前衛としてかなりのポテンシャルを秘めているな。
「ふふ、これでも公爵の姫としてそれなりの経験を積んでいるのですわ! 初めてのボスとはいえ、あれくらいは造作もありませんわよ。オーッホッホッホ!」
いやいや、公爵は本来後衛向きなんだが? と思ったが口には出さないでおいた。
先ほどからノーアのテンションが高いんだぜ。
クラリスはノーアにつられるようにして〈クマアリクイ〉の前に出ていったが、手数の多さも相まってかなりのダメージを与えていた。
二振りの剣の乱舞が綺麗だったな。スキルはパッシブスキルしかまだないのでアクティブスキルは使用せずの状態である。
アルテは槍があまり得意ではないと聞いていたが、苦手でもない様子だ。普通に攻撃はできていたよ。さすがに怖かったのかちょっと盾を前に出しすぎて不格好ではあったが、それも慣れていけば修正されるだろう。
キキョウはタンクの経験がまだまだ足りていない。
しかし勇気を振り絞ってヘイトを稼いだのは評価したい。要練習だな。タンク特有の不慣れさが出ていたのでこれは慣れと練習、両方こなして習得するしかない。普通はモンスターを相手にタンクをした経験のある未覚職の子どもなんてまずいないので、学生となり職業に覚職して初めてモンスターと対峙したタンクというのは大体がこんな感じになる。普通のことだからこれから覚えていけばいい。
アリスは――花丸をあげよう(激甘)。
冗談だ。アリスはルルに教わったからなのか、どうも危なっかしいところがちらほらあった。タンクのキキョウに近づいたりとか。
一撃食らえば吹っ飛びそうなアリスにハラハラドキドキだったぜ。
その辺注意を促しておく。
反省会が終わると各々立ち上がり転移陣の方に視線が行く。
「ではボスも倒したことですし、今日は戻りますわよ」
「おっと待ってもらおうか。まだノーアたちにはやってもらうべきことがある」
そこで止めるのが勇者クオリティだ。
ふっふっふ、ここで5人には〈エデン〉の秘密技術を教えるとしよう。
俺は極めてキリッとした表情でみんなに向きなおった。
「「わぁ!」」
「お兄ちゃん表情かっこいいよ!」
アリスの言葉に表情が緩みそうになるのをギリギリで持ちこたえ――られず、ちょっと不敵な笑みになってしまいながらもボス部屋の入口へと誘導する。
「お兄ちゃん、ボスを倒したら転移陣に乗らないといけないんだよ?」
「お、おう。だが乗らなくても良い裏技があるんだ」
「どういうことですの?」
ノーアが食いついた。クラリスがノーアが前に出そうになるのを頑張って抑えてる。
「ふっふっふ、転移陣に乗らないといけないというのは、要はボスを復活させなくちゃいけないからだ。だが、転移陣に乗ることなくボスを復活できる方法があれば、それは転移陣に乗らなくても良いということになる。――刮目せよ! これが転移陣に乗らなくてもボスを復活させることが出来るリポップ方法、その名も〈公式裏技戦術ボス周回〉だ! 『勇者の剣』!」
百聞は一見に如かず、ズドンと強烈な一撃がボス部屋の門を揺らしたかと思うと、中のボス〈クマアリクイ〉がなんとリポップした。
「ボスが、リポップしましたわ!」
「お、お嬢様、落ち着いて、そんなボス部屋にすぐ入ろうとしないでください!」
「私、気になりますわ!」
「気になってもです!」
お嬢様と従者は攻防し。
「ふわぁ。ボスさん、復活しちゃったよ?」
「えっと、これってつまり?」
「つまりあれだよね! もう1回ボスに挑めるっていう!」
「アルテの言う通りだ!」
「えええええええ!?」
うむうむ、キキョウのリアクションが最高です。
これぞ〈エデン〉の秘術だ。誰も居ないところじゃないと使ってはいけないのだと厳命し、これからどんどんボスリポマラソンでレベル上げをしてもらおう!




