#1207 新しい上級姫職候補! アルテちゃん加入!
「【聖乗の姫騎士】!? ま、まさにそれこそ私が求めていた職業です!」
俺の誘いにアルテは興奮して身を乗り出した。危うく俺と顔面同士がぶつかる勢いで。
しかし、すぐに目の端を吊り上げたアイギスによって肩を掴まれ引き戻される。
「アルテ、興奮するのも分かりますが。騎士たるもの落ち着きが大切ですよ?」
「やだアイギスお姉さまの目がガチすぎます!?」
「分かりましたね?」
「はい……」
うむ、姉妹の上下関係はしっかりしている様子だ。
「でも、私じゃなくても【聖乗の姫騎士】なんて出されたら身を乗り出すはずです!」
「それは……わかりました。お小言はこれくらいにします」
おっと妹ちゃん反撃。今度はアイギスが面食らって下がった。
どうやら【ナイト】系の名家であるアイギスの家にとって、【ナイト】系の最高峰の1つ、上級職、高の上、【聖乗の姫騎士】は本当に垂涎の的であるようだ。
アルテの食いつきが予想以上に凄い。
アイギスは【竜騎姫】を希望したが、普通なら【ナイト】系の最高峰と言えば【聖乗の姫騎士】だったのだ。
そんなものを出されては食いつかずにはいられないというアルテの主張にアイギスは納得してしまったようだ。
「アルテは【聖乗の姫騎士】に興味があるのか?」
「もちろんあります! 無いはずがありません! 騎士家の憧れの1つですよ!」
今まで騎士家の姫といえば、現実的に就ける最高峰の職業は【騎士】系の【天守護の騎士姫】か、【ナイト】系の【聖乗の姫騎士】だった。
アルテもその例に漏れず、ずっと【聖乗の姫騎士】に憧れていたのだという。
なるほどなぁ。と納得したところで一応聞いてみる。
「アイギスは【竜騎姫】に就いているが、アルテは【竜騎姫】と【聖乗の姫騎士】を比べたらどっちに就きたい? もちろんどっちの条件も満たせると仮定してだ」
ここ、割と重要。
最近になって現実的に就ける最高峰の職業に【竜騎姫】が加わった。
先ほども言ったように、〈エデン〉で持っていないのは【聖乗の姫騎士】だけだ。
基本的に〈エデン〉ではどんな状況でも対応出来るよう、職業というのは被らないようにしている。
採用するとしたら【聖乗の姫騎士】だ。【竜騎姫】はもうアイギスがいるからな。アルテがやっぱり【竜騎姫】に就きたいと言ったらどうしようか検討しなければならない。
そしてこの世界では【竜騎姫】というのは伝説の職業とされ、騎士家の息女なら一度は夢見る職業なのだそうだ。アイギスがそうだったように、どっちかに確実に就けるのであれば【竜騎姫】を選んでしまう姫も少なくはないだろう。
しかしだ。【聖乗の姫騎士】は騎乗出来るものであれば、それこそモンスターだろうが〈戦車〉だろうがなんでも操ることが出来る。この世界では知られていないかもしれないが、実は〈竜〉系にも騎乗できるのだ。
【聖乗の姫騎士】の特徴はそのオールマイティさにある。どんな騎乗モンスターにでも乗れるというのは非常に大きな利点だ。相手や状況に合わせて騎乗モンスターを変えることが出来るのである。戦略の幅という面で見れば【聖乗の姫騎士】は非常に強力な職業なのだ。
そのポジションも育成によって様々に変化し、〈聖獣に乗る【聖騎士】型〉なんて呼ばれていた最強育成論ではヒーラーとしての活躍すら可能になるほどだ。
今の〈エデン〉はヒーラー不足。そっち方面に育成したいなという思いもある。
しかし、だからこそアルテが本当は【竜騎姫】になりたかったけど仕方なく【聖乗の姫騎士】に就いたなんてことはしたくなかった。
今後一生を共にする職業だ。共に楽しめる職業に就いてほしいというのが俺の気持ちである。
まあ説得はするけどな! もし【聖乗の姫騎士】に就けばこんな育成論、アルヨ?
ヒーラーポジションでこんな感じで戦闘方法を想定しているんだ。みたいな説明も加えて【聖乗の姫騎士】の方へと誘導する。
「そ、そんな戦術、聞いたこともありません!」
「なんで【ナイト】系の名家が知らない戦術をあなたが知っているの?」
「なーに、【聖乗の姫騎士】のデータは少ないが一応はあるんだ。そこから育成論を考えたのさ」
「…………」
「でも面白そうです! 騎乗してヒーラーですか~」
「移動砲台ならぬ騎乗回復砲台だ。数々の戦場を駆け巡り、癒しながら味方を攫って適材を適所に配置する騎乗ユニット。そんな存在がいれば集団戦でも心強いと思わないか?」
「お、思います!」
ふふふ。アルテの食いつきがいいんだぜ。
なぜか後ろからシエラの視線をヒシヒシ感じるが、きっと気のせいだ!
「もう一度聞こうアルテ。【竜騎姫】と【聖乗の姫騎士】、どっちに就きたい?」
「もちろん【聖乗の姫騎士】です! 【ナイト】系の最高峰にしてどんな騎獣にも乗ることが出来る夢のような能力! そしてゼフィルス先輩の言う新しい戦術もやってみたいです! 私、【竜騎姫】よりも【聖乗の姫騎士】の方に就きたいです!」
「その答えを待っていた! 採用!」
「ほわぁ!」
「だからゼフィルス? ちょっと落ち着きなさいって」
今度は俺が身を乗り出してシエラに肩を掴まれた。
振り返るとジト目を通り越して目の端が吊り上がったシエラが!?
こ、これはいけない!
俺は一瞬でクールになった。
「こほん。つまりはそういうわけだ」
「どういうわけよ」
クールに誤魔化そうとしたが、追求は免れなかったようだ。
俺は体を元に戻し、ふぅと汗を拭う仕草をして場の雰囲気のリセットを図る。
「ゼフィルス先輩って面白い方だねアイギス姉さま」
「……ええっと」
何やらアルテに話を振られたアイギスが戸惑っていたが、迷っている時点で肯定しているのと同じである。
ふっふっふ、面白い人か。とてもいい褒め言葉だ、ふはは!
俺のアルテに対する好感度がさらに上がった。
「ゼフィルス?」
「大丈夫だシエラ。もう落ち着いた。今度はちゃんとやる」
「…………ゼフィルスを信じるわ」
信じてくれるのは嬉しい。
だけど、それにしては間が空いたような?
おっと、話を進めなければ。
「ではアルテ」
「はい!」
うむ。良い返事だ。元気な騎士っ子、俺は好きだぞ。
「〈エデン〉は【聖乗の姫騎士】を仲間に入れる用意がある。アルテにその気があるのなら、【聖乗の姫騎士】に就くことを前提に〈エデン〉の仲間になってくれないか? 〈エデン〉には攻略をサポートする制度がたくさんある。さっき言った最強育成論も用意してるぜ。どうかな?」
「アルテ、〈エデン〉はすごいところです。自分を鍛え、職業を鍛えるのにこれほど適した場所はありません。お勧めですよ」
「そんなのもう答えは決まっていますよ! 是非〈エデン〉に入れてください! 私でよければいくらでも力になりますよ!」
「その言葉を待っていた!!」
「ゼフィルス?」
「――アルテ、ようこそ〈エデン〉へ。俺たちは君を歓迎する!」
アルテの言葉に立ち上がりテンションが振り切れそうになったが、シエラの声に一瞬で平静に戻って座り直し歓迎の言葉を送る。
危ない危ない、最後の騎士爵〈上級姫職〉だ。しかも〈聖獣に乗る【聖騎士】型〉もOK。
絶対に〈エデン〉に加入させなくてはならない。冷静にならなくては。
「はい! よろしくお願いいたします。先輩方!」
しかし心配はなさそうだ。
アルテは純真無垢な眩しい表情で微笑んだ。
あまりに眩しすぎて溶けそうになったのは内緒。
こうしてアルテは〈エデン〉への採用が決まったのだった。
「あ、でもその前にアイギスお姉さまにお願いがあります」
「はい? なんでしょう?」
「実は遅れてきたせいで入学の手続きのアレやソレがまだ全然出来ていないんです。手伝ってください」
入学式に遅れたことでアルテは様々な手続きが残っていたことが判明した。ギルドに加入できるのは正式な学生だけだ。入学手続きがまだのアルテはまだ正式な学生ではない。
これはいけない。すぐにアイギスに目配せする。
「まったくこの子は。わかりました。ゼフィルスさん、もう少し待っていてください。数日で終わると思いますので」
「ふぇ~ん。アイギス姉さまありがとう~」
金曜日に到着したばかりだったので〈学園春風大戦〉中の土曜日と日曜日は手続きが出来ず、どうやら入学手続きがまったく進んでいないらしい。アルテがおそらく身内だけに聞かせるような情けない声を出してアイギスに抱きついていた。
ここに来たのもアイギスを頼ってのことだったらしいな。
もちろん俺はそれにオーケーを出して送り出す。
道が土砂崩れで通行不可という不幸に見舞われて到着が遅れたんだ。
これくらい助けてあげないと可哀想である。それにもうアルテは身内も同然、仲間は助けないとな。
さてクイナダはどこにいったかな?
え? もう帰った?
気が付けばすっかり日は沈んでいた。




