#1204 〈エデン〉の秘技! ノーアとクラリス覚職!
俺とノーア、クラリスはそれからすぐにギルド内でスラリポマラソン中のハンナのところに向かった。そこではハンナがクイナダやアリスたちにスラリポマラソンを披露しているところだった。
「ハンナ、入るぞー」
「あ、ゼフィルス君。後ろのお二人は?」
「おう、紹介するぜ。新しく〈エデン〉に加わった新入生、ヴィレルノーアと従者のクラリスだ」
「あなたがハンナ様ですのね! 私はヴィレルノーア・ファグナー。あ、学園ではフルネームはいらないのでしたね、今はただのヴィレルノーアですわ。どうか親しみを込めてノーアと呼んでくださいまし」
「私はお嬢様の従者のクラリスです。よろしくお願いいたします」
「え? 御貴族様ですか!?」
「ひゃっ!? ね、ねえハンナちゃん、今ファグナーって、ファグナーって言ったら学園長と同じ名前、公爵家だよ!?」
「公爵家のお姫様!?」
2人を紹介したら良いリアクションが帰って来た。
後ろでちょっと悲鳴が漏れたクイナダがハンナとこそこそ話して2人でさらに驚愕している。リアクション、良き。
やはり、クイナダは逃がせないなと再認識する。
「キキョウとアリス、クイナダにも紹介しようか」
「あ、あなたはアリスさんではありませんか」
「あ! ノーアとクラリスだ、久しぶり?」
「お久しぶりですわ」
おっとどうやらアリスとノーア、クラリスは知り合いみたいだ。
アリスと仲の良いキキョウも紹介し、続いてハンナと同じくカチコチに固まっているクイナダにも紹介。
「クイナダさんは大きな武器を使うのですね。私、興味がありますわ」
「え、ええ!? そんな、興味を持たれるようなものじゃ」
クイナダは巨大な薙刀使いだ。
「刀」系カテゴリーだな。どうやらスラリポマラソンを少し体験していたらしい。
それにノーアが興味を持ってしまったようだ。
「お嬢様は長物系の武器がお好きなんです」
従者のクラリスがクールにそう説明してくれる。
クイナダが結構目を回し気味なのでこの辺でストップをかける。
「まあまあノーアストップだ。ここでは職業の発現やレベル上げのために重要なことをしているんだ」
「あら、私としたことが。ですがここでそれほど重要なことを?」
「おう、キキョウ、アリス。見せてやってくれ」
「わ、わかりました!」
「いいよー」
ちょっと目を離した隙に慣れてしまったようで、キキョウが構えていると、アリスがぽいぽいと〈錬金セット〉に例のアレを入れ、〈『錬金』の腕輪〉を装備して宣言する。
「『錬金』!」
一瞬ピカっと輝いた錬金釜からニュルンと青いぷるぷるが現れた。
「きゃ! スライムですわ!」
「お嬢様、お下がりください! 早く、下がってく・だ・さ・い!」
「まあまあ、2人とも大丈夫だ。すぐに片付けるから」
突然のモンスター発生にノーアが思わず目を煌めかせて前へ出ようとしたため、クラリスが急いでその前に割り込んで自分の背中でお嬢様を抑える。
うーん、さすがはノーア。普通のお嬢様なら引く所を前に出るか。
それを物理的に抑制しようとするクラリスも大変だ。
「ええーい!」
そこへキキョウが威勢の良い声を、ではなく可愛く叫んでメイちゃん二世を振り下ろす。
命中したスライムは弾けて消えた。
「スライムが、一瞬で!?」
「あ、LVが5に上がりました」
「なんですって!」
キキョウの呟きにまたもやノーアが反応。
どういうことなのか説明を求められたので解説する。
「ふっふっふ、説明しよう。これが〈エデン〉の秘技。錬金の大失敗を利用して効率的にモンスターを倒し、高位職の条件を整え、さらに職業に就けばLV6までレベル上げも可能という画期的な方法」
俺はそこで一度留め、全員が見ているのを確認してから決めポーズを取って言った。
「その名も――スラリポマラソンだ」
今年もスラリポマラソンが猛威を振るうぜ!
「スラリポマラソン! なんて甘美な名前なのでしょう」
「ゼフィルス君ゼフィルス君、私ヴィレルノーア様と仲良くなれる気がするよ」
ノーアが目を煌めかせ、ハンナがなぜかフンスした。
これもスラリポマラソン効果である。
「ヴィレルノーア様、スラリポマラソンを是非やってみてください。大丈夫です安全は私が確保します」
「ちょっとお待ちください。生身でモンスターを倒すなど」
「まあ! よろしいんですの?」
「お嬢様もそんなあからさまな興味を示さないで」
クラリスが物理的に押しとどめるが、どうやらノーアの興味の方が強い模様。
徐々に引きずられているクラリス。
「ハンナ様、どうか私のことは親しみを込めてノーアとお呼びくださいな」
「えっと、はい! ではノーア様も私のことはハンナと呼んでいただければ」
「ノーアと呼んでいただけるのならそうお呼びいたしますわ!」
「強……えっと、ノーアさんで」
「今はそれでよろしいですわ。では私もハンナさんとお呼びしますわね。スラリポマラソンのご教授、よろしくお願いいたしますわ」
「ですから勝手に決めてはいけませんお嬢様」
ハンナ撃沈。ノーア強いなぁ。
結局クラリスまで押し切られ、ノーアはスラリポマラソンをすることになった。
もちろんクラリスにはこのスラリポマラソンの安全性をしっかり教え込んだよ。
「えい! えい! ふう、これは爽快ですわ!」
「ノーアさんは豪快な方ですね」
「ええー、なんでハンナちゃんはこの状況で平然と加わってるの?」
片やスライムをメイスで叩いてキラキラしているお嬢様。片やそれを見て満足げのスラリポ超越者。片やそんな様子を見ておののいている留学生。
うーむ。いいね。とても良き。
「よしノーア、次は剣と槍を使ってくれ。右手で片手剣を、左手に短槍を持ってスライムを倒すんだ」
「了解いたしましたわ!」
そのまま武器をチェンジしてスラリポ続行。
【革命姫】は6種類の武器でモンスターを50回ずつ倒さなければいけないため、メイス、剣、槍、刀、盾、斧でモンスターをどんどん倒してもらう。この時右手と左手で違う武器を持っていると下部職の条件を満たせるため便利だ。
また同時進行でクラリスも参加。
クラリスは【剣姫】なので剣系を使ってスラリポをしてもらう。短剣、細剣、片手剣、双剣、両手剣でスラリポだ。得意なのは盾無しの片手剣の様子。
レグラムと同じだな。まあ、レグラムの【花形彦】は【剣姫】の男版って言われていた職業だからな。同じ「男爵」カテゴリー、スタイルが似るのは当然だ。
ちなみにもう1つの彦職、【彦スター】の女版は【歌姫】である。
「本当にこんなことで【剣姫】が?」
「多分、手に入れられますよクラリスさん。だってゼフィルス君ですもん」
「ゼフィルス様ともっとも長くいらっしゃるハンナさんが言うと説得力が違いますね」
クラリスの様子はなんだか去年のラナたちを思い出すな。去年もこんな感じだったなぁ。
懐かしい。
そうしてスラリポマラソンを終えて様々な調整をしたのち、2人を連れて〈測定室〉へと向かった。
これで【革命姫】と【剣姫】の条件が満たされていることだろう。
「最終確認だが、ノーアは【姫軍師】じゃなくていいんだな?」
「はい! お爺さまの言うことは気にしないでくださいゼフィルス様! 私は【革命姫】になると決めているのですわ!」
「よし。ならば〈竜の像〉に触れてみな。そこに【革命姫】が載っていることだろう」
「行きますわ!」
俺の言葉に即〈竜の像〉の上に手を載せるノーア。ほんと思い切りが良い。
そして現れたジョブ一覧には、しっかりと【革命姫】が載っていたのだった。
「出ました、わ!」
もちろん瞬時にタップするノーア。ほんと思い切りが良い。
他のジョブたちはフェードアウトし、クローズアップした【革命姫】だけが残った。
「覚職おめでとうノーア」
「お嬢様、悲願達成、おめでとうございます」
「ありがとうございます、ゼフィルス様! クラリス! ついにやりましたわ!」
両手を挙げてぴょんぴょん跳ねながら嬉しがるノーア。よほど嬉しかったのだろう。
しかし、ばるんばるん揺れる大きな果実が目のやり場にとても困る。これ、去年のエステルを超えてないか? 今のエステルとタメ張るレベルに思えるんだが?
「ささ、次はクラリスですわ」
「こほん。では、失礼いたします」
緊張の欠片も無いようなノーアと違い、クラリスはやや緊張気味だ。
まあ、これはノーアが特殊なだけだな。
静かに、しかし気合いを込めて触れた〈竜の像〉からジョブ一覧が現れる。
「あ、ああ――本当に【剣姫】があります!」
「クラリス、間違えるなよ」
「はい!」
俺の言葉に我を取り戻すクラリスが、良い返事をすると【剣姫】にタッチする。
これでクラリスは今日から【剣姫】である。
「クラリスも覚職おめでとう」
「おめでとうですわクラリス! 念願叶って良かったですわね!」
「はい。はい! ありがとうございます! ゼフィルス様、お嬢様。今後も私は〈エデン〉で共に戦い成長し、ギルドを支えていくと誓います」
「ふふ、ええ。しっかり頑張らないとねクラリス。――ゼフィルス様、改めてよろしくお願いいたしますわ」
「おう! 〈エデン〉も2人が入ってくれて心強い。一緒に頑張ろうな」




