#1201 留学生案内! 俺たちの正体が知りたいか?
「落ち着いたか?」
「え、うん。えっと?」
「俺はゼフィルス。ハンナを助けてくれたんだって? ありがとう、とても助かった」
「ううん、大したことはしてないよ。……あれ、ゼフィルスにハンナちゃん? どこかで聞いたような? あ、私はクイナダ。今日からここに留学する2年生だよ」
「俺たちも2年生だ。同い年だな。仲良くしてくれると嬉しい。よろしくな」
「あ、うん! 1人でここに来て心細かったんだよ! 仲良くなってくれるのほんと嬉しい!」
クイナダと名乗った狼人の女子は、人懐っこい様子だ。
仲良くしようと手を出すと。それを握ってブンブン上下に振る。尻尾も左右に振る。
なかなか感情表現が激しい子だ。
そして留学生。留学生である。
数々の苦難を勝ち抜き、選び抜かれたエリート。
そんな留学生とお近づきになりたいのは俺も同じだ。ふふふ。
「さっきはうちのハンナがすまなかったな。本校では上級生産職は結構多いんだ」
「そ、そうなんだね。うん、びっくりしたよ。さすが本校……正直、予想を遥かに超えてて……ここに到着してから驚きっぱなしなんだよ」
ふっふっふ。良い、良いぞ。その反応凄く良い。
もっと驚いてくれて良いんだぜ?
「ハンナも、留学生はまだこっちに耐性ないんだから本気出すと驚いちゃうぞ?」
「どういう意味なのかなゼフィルス君!?」
うむ、こっちのリアクションもまた良い。
気付かないうちにとんでもない領域を歩いているハンナ。無自覚に留学生たちをおののかす。とても良いと思います。
結局俺が間に入ることで会話がスムーズに滑りだし、一緒に話しながら登校することになった。
「わぁ! じゃあクイナダさんは〈1組〉所属だったのですか!」
「うん! 職業にも恵まれてね、〈第Ⅱ分校〉の〈戦闘課1年1組〉に所属していたんだ。これでも結構強いんだからね」
「そりゃあ凄いな」
なんと運の良いことに知り合ったクイナダは分校でトップクラスの実力者だった。
これはもっと仲良くならねば。
「それでハンナちゃんは?」
「私も1組だよ、〈錬金術課1組〉。でも、〈錬金術課〉はクラスが1組までしかないんだけどね」
謙遜するハンナ。
実はハンナが本校の公式四大ギルドの1つ、〈生徒会〉所属で、しかもそのトップの生産隊長だと知ったとき、クイナダがどんな反応をしてくれるのか、とても楽しみです。
「クイナダはどこか所属するギルドは決まっているのか?」
「え? いやぁ、実はまだ……。私も来たばっかりで全然わからなくて」
チャーーーンス!!!!
「じゃあ良かったらうちのギルドを見ていくか? 歓迎するぞ」
「え、いいの!」
「もちろんだ。実はハンナも同じギルドでな」
「え? ハンナちゃんが? 生産職のギルドなの?」
「ううん戦闘ギルドだよ。私はサポート係かな」
はい。生産隊長がサポートするギルドです!
「そうなんだ。じゃあ、行ってみてもいい?」
「もちろん大歓迎だ。今日の放課後でもいいか? IDを交換しよう」
「うん! あ、でもまだ〈学生手帳〉の使い方が分からなくて」
「おっと、そうか。〈学生手帳〉はこの学園都市でだけ使えるアーティファクトだったな。じゃあ、待ち合わせするか。校舎まで迎えに行くよ」
「いいの? じゃあお願いします! 私〈攻略1号館〉の校舎なので」
「オーケー」
そういうことになった。
ちなみに留学生たちは各校舎に分かれて勉学を学ぶ。
俺たち在校生とは教室が別なんだ。
ただ〈戦闘課〉の校舎は結構いっぱいいっぱいの人数なので、〈戦闘課〉の留学生は〈ダンジョン攻略専攻・採集課・調査課・罠外課〉などが在籍する〈攻略1号館〉で授業を受けることになっていた。クイナダもそっちらしい。
ということで途中でハンナと別れ、その後はクイナダとも別れた。
うーむ、放課後が楽しみだ。
◇
「みなさん、おはようございます。今週も頑張って勉強しましょうね」
教室ではフィリス先生が張り切って壇上の前で話す。
副担任のラダベナ先生は不在だ。
新卒の教員がかなり増えた影響でラダベナ先生は今四方八方へ見に行っているとのこと。
つまりフィリス先生は、一人前とみなされたに等しい!
気合いが入るのも分かるというものだ。
「本日から留学生が本校へ入学してきます。みんな仲良くしてくださいね」
うむうむ。とっても仲良くするぞ!
「それから1年生の運命の日を超えたら留学生との交流も徐々に増やしていく予定です。〈城取り〉や〈拠点落とし〉などもその交流に入っていますよ」
おお! それは素晴らしい! 素晴らしいことだ!
留学生は勉強しに来ている。なら、ギルドバトルも勉強ということだ。ふはは!
それからも留学生の話を中心にホームルームが続き、授業開始。
そして放課後。
「んじゃ、ちょっと行ってくるな。受け入れ準備よろしくシエラ」
「はいはい。くれぐれもやり過ぎないようにね」
「もちろんだ!」
シエラにギルドの方を任せて俺はクイナダを迎えに行く。
引っ越し前なのでAランクギルドハウスの方へご案内予定。
ハンナが世話になったのでギルドを案内したいと言ったらみんな快く受け入れてくれたんだ。
ということで〈攻略1号館〉へと向かう。
「ん、え?」
「あれってゼフィルスさんでは?」
「ぜ、ゼフィルス先輩!?」
「なんで〈攻略1号館〉へ!?」
「まさか、勧誘か!?」
「勧誘!! こうしちゃおれん、俺は行くぞ!」
「ちょっと失礼そこの方?」
「ひっ!? 勇者ファン!? 違うんですちょっと挨拶したかっただけなんだ!」
「そうですか。ではもう少し話を聞かせてくださいね」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
俺が肩で風を切って進むとほとんどの学生が足を止めてこっちを見る。
ふふふ、俺も有名になったものだ。
見たところ〈赤世代〉も俺のことを知っている人が多いらしい。
まいっちゃうぜ。ふはははは!
と思いながら歩いていたら校舎の入口に目的の人物を発見する。
「よおクイナダ。待たせたか?」
「う、ううん。そんなに待ってないけど……。ねえゼフィルス?」
「ん?」
「なんだかすっごく注目されているみたいだけど、ゼフィルスって有名な人なの?」
おっとクイナダが何かに気付きかけている。しかし、俺が勇者ゼフィルスとは気が付いていないようだ。なら、もう少し秘密のままにしておこう。
「そうだな~、ギルドに着いたら教えるよ。ここじゃちょっと話しにくいしな」
「あ、そうだね。うん、行こ!」
「おう」
俺の巧みな話術でもっともらしいことを言い後回し。
俺が〈エデン〉所属の勇者ゼフィルスということは、まだ伝えない。
そのまま風を切って進み、少し歩いてAランクギルドハウスが建つ区画、通称〈A地帯〉へと入っていく。
「ね、ねえゼフィルス? ここって〈A地帯〉ってところじゃないの? Aランクギルドの拠点があるっていう」
「お、来たばっかりでよく知ってるな」
「だって今日の授業で習ったもん」
「なんてタイムリー!」
いや、学園が自分たちの都市の地理を紹介しない方がおかしいか。
「ねぇ、もしかしてゼフィルスって」
「お、見えてきたぞ。あれが目的地のギルドハウスだ」
「やっぱりAランクギルド!? ゼフィルスはAランクギルドのメンバーだった!?」
ふっふっふ、残念、今はSランクギルドだ。
「いや違うぞ」
「え? そうなの?」
「ああ――」
さて、そろそろネタばらしだ。
「この間Sランク戦に勝ってな。今はSランクギルドだ!」
「もっと上じゃん!!!?」
おお! 良い、良いリアクションだぞ!
「え? ちょっと待って、この間Sランク戦で勝ったって言った? ということはゼフィルスって、もしかして〈エデン〉のメンバー!?」
「ご明察。何を隠そう俺はSランクギルド〈エデン〉のギルドマスター、ゼフィルスだ」
ギルドハウスを背にしてジャジャンとテロップが着きそうな勢いで改めて自己紹介。
「ぎりゅましゅ!?」
クイナダはびっくりしすぎて変な声を出してた。
多分、ギルマスって言おうとしたのだろう。
ここまで来てしまったらハンナの方もバレるな。俺はハンナの正体についてもネタばらしする。
「ちなみにハンナは学園が誇る学園公式四大ギルドの1つ、〈生徒会〉のトップ、生産隊長だ」
「ハン、セイ!?」
反省? いや、きっと「ハンナちゃんが生産隊長!?」って言おうとしたのだろう。
うむうむ、なんて良いリアクションなんだ。
びっくりしすぎてそれ以上しゃべれず口をパクパクさせるクイナダを見て、うむ、と頷いていると後頭部に衝撃。
「こら。なに留学生の子にちょっかい出してるの」
「シエラ!?」
今の衝撃はシエラによるものだったらしい。平手かな? 痛くはなかったので多分軽くペチッとやられたんだな。なんだかちょっと嬉しくなったのは秘密。
「エリサ、フィナ」
「「はい!」」
直後、シエラが指示を出したかと思うと『直感』が警報を鳴らす。あ。
そっちは違う!?
「「ドーン!!」」
「ぐっほう!?」
さっきとは比べものにならない衝撃がボディに来た。
「ゼフィルスさん、お茶目はダメですよ」
「アイギス……?」
さらにアイギスまでやって来て、俺はそのままエリサとフィナとアイギスによって連れて行かれてしまうのだった。




