#1200 留学生との再会。ハンナが早速驚かせてます。
歓迎会は大いに盛り上がった。こんな出会いなんかもあったぞ。
「あ、あの方は! ハンナ様!?」
「ん? どうしたんだキキョウ?」
「あのゼフィルス先輩。ハンナ様が! ハンナ様が〈エデン〉にいるのですが!? ハンナ様は私たちが学園に来て道に迷っていた時に助けてくれたんです!」
「私はお兄ちゃんに助けてもらったよ~」
「え、マジで? よし、ちょっと待っててくれ。――おーいハンナ~」
「うん? な~にゼフィルス君~」
料理を出したり談笑していたハンナがとととーとやってくる。
エプロンと三角巾を着けていて、その姿はとても生産隊長様には見えないぜ。
うーむ、和みます。
「あ、あの」
「あ! キキョウちゃんにアリスちゃん!」
「ハンナお姉ちゃん、この前ぶり~」
こっちに来たハンナが早速2人に気が付くと、まずアリスがダイブした。
ハンナの身長が小さいからちょうど胸にダイブ、と思いきや普通にお腹にダイブ。
アリスが小さい!!
「ハンナ様、ご無沙汰しています。ハンナ様も〈エデン〉のメンバーだったのですか!?」
「そうなんだよ~。キキョウちゃんもアリスちゃんも〈エデン〉に加入したって聞いたときはびっくりしたんだから~。これから一緒のギルドだから、よろしくね?」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
どうやらキキョウはずっとハンナと会いたかったらしく、突然の再会に震えていた。
尻尾がふりふり揺れていてとても可愛い。
ハンナの目も尻尾を追ってるぞ!
ちなみにキキョウはハンナの正体を知らず、余裕が出来たときにでも寮母さんに聞けば分かるだろうと思っていたようで、〈エデン〉のメンバーと知ってとても驚いていた。驚くのはまだ早いぞキキョウ。
「え、ええ!? ハンナ様って〈生徒会〉の生産隊長なんですか!?」
「すっごーい」
「それだけじゃないぞ? ハンナは上級生産職にして〈エデン〉初期のメンバーの1人。学園で巻き起こった数々の生産問題を解決してきたその手腕によって1年生にもかかわらず〈生徒会〉の生産隊長に推薦されたんだ」
「「ほわー」」
はい! 「ほわー×2」いただきました!
ハンナは照れ照れしていたが、バレるのは時間の問題だ。
ならば、ここで話しておいた方が良いだろう。2人のリアクションも見れるからな!
「た、只者ではないとは思っていましたが、予想以上に只者ではない方でした!」
「えっと、普通に接してね? 呼ぶときの様もいらないからね?」
ハンナの言葉もむなしく、キキョウのハンナ様呼びはこの先ずっと直らないのだった。
そんな感じに歓迎会は過ぎていく。
◇
充実した日曜日を過ごした翌日。
進級しても学園への登校はハンナと一緒だ。
「なんだかとても盛り上がってる、ね?」
「もり下がりまくっている人も居るみたいだけどな」
登校途中、学生たちがいつも以上に騒がしかった。
盛り上がっている人もいれば、もの凄くテンションが下がっている人もいる。
とはいえ下がっているのはごくごく少数でほとんどの人たちはテンションアゲアゲだ。
というのも。
「Sランク戦が忘れられないの。勇者君、かっこよかったわぁ」
「分かる! 全ての戦いで最前線に立つ勇者君で凄く捗った!」
「それあんたの妄想ノートじゃないの! Sランク戦の話でしょうが」
「それは昨日と一昨日で死ぬほど語り合った」
「でも今日も語るよね~?」
「もち」
どうやら〈学園春風大戦〉の盛り上がりがまだ継続している様子だ。
「一昨日はAランク戦、Bランク戦があったというのにみんな3日前のSランク戦の話ばっかりだね!」
「それくらいすんごかったんだから! というかAランク戦があったの忘れてたわ」
「Aランク戦とBランク戦の出場者は泣いていい」
「でもAランク戦は壮絶な席の取り合いだったのよ? 何しろSランクに昇格して空いた〈エデン〉の席を取り合ったんだから」
「勇者君の取り合いとか何それ羨ましいで捗った」
「だから妄想ノートは仕舞いなさい!」
おお、そういえば一昨日はAランク戦とBランク戦が行なわれていたんだった。
まあ、〈エデン〉がSランクに昇格するのでその空いた席を取り合うギルドバトルだな。
結果は……引っ越し準備で見るのをすっかり忘れてた。後でニュースでも調べるとでもしよう。
ちなみに後で知ったが、Aランク戦で勝ち上がったのは〈世界の熊〉だった。
Bランク非公式ランキング第一位だったギルドで、第二位の〈弓聖手〉に大きな差を付けて勝利したとのことだ。ちょっと見たかったな。
どうやらここで盛り上がっている人たちは〈学園春風大戦〉の熱が下がらずテンションが上がりっぱなしの様子だ。なお、下がっている人たちは多分負けた当事者だろう。
ドンマイである。
「ちょ、そこまで! そこまで! 見て、勇者君よ!」
「わっ! 本人いる!」
「こ、この勇者ファンの私が気付かないなんて、不覚」
「本物の勇者さんだ!」
おっと、どうやら俺が居ると気が付かれてしまったようだ。
ふふふ、有名人はこれだから困るな。ふはは!
「おお、生産隊長様だ!」
「今日も神々しい」
なお隣のハンナは「美しい」とか「可愛い」じゃなく、なぜか「神々しい」と言われていた。
崇められているのかな?
「それでねゼフィルス君、今日から留学生の編入もあるんだって」
なお、崇められていることに本人は欠片も気付いていない様子だ。
ていうか、え? 今なんて言った?
「すまんハンナ、もう1回言ってくれ?」
「だからね、留学生さんたちが来るの! いっぱい! 私なんてまた〈生産専攻〉の代表として挨拶しなきゃいけないんだから」
そう言って不安とぷんぷんが混じったような顔で俺を見上げてくるハンナ。
もちろん覚えているさ!
――留学生。
ゲーム〈ダン活〉時代では起こらなかったイベントだが、リアルではなんと〈分校〉から留学生が来たのだ。
俺たちの進級とは時期を1週間ズラし、今日からの登校のはずだ。
クラスは俺たちとは別で、新たに作られるとのこと。誠に残念!
これは、本校の学生と分校の学生の無用な衝突を避ける処置というのが表向きの理由だ。
本校には「自分は本校に入学できるほど優秀だ」というプライドの高い学生もいるからな。
正直、留学生たちは猛烈な競争の果てに本校への留学の席を手に入れた秀才たちなので、プライドだけ高いどこかの4人組よりも優秀だと思われる。誰とは言わないが。
ちなみに裏向きの理由は単純に受け入れる余裕の問題で、俺たちの進級や、今まで以上の新入生の受け入れでキャパがいっぱいいっぱいの学園が、留学生も同時並行で受け入れるというのが難しかっただけだ。また、こんなに大量の留学生を受け入れたのも初めてであり、現在手探りで色々なことを探っている最中なために1週間遅れでの受け入れとなっている。
そんなわけで、少し前から留学生と思しき学生たちが学園に到着していたが、いよいよ今日から学業が始まるのだ。
そう、思い返し。Sランクギルドという頂点に立ってふわふわしていた気持ちを少し引き締めていると、前を歩いていた狼人の女子が突如振り向いてこっちを見た。正確にはハンナの方を。
「んん? あれ? この声って」
「あ! あの時助けてくれた留学生さん!?」
ハンナと目が合ったことでハンナの方も気が付いた。
「やっぱりあの時の女の子!」
どうやら彼女はハンナの知り合いらしい。
赤に近いピンク色という目立つ髪をポニーテールにして背中に流し、同色でふわふわな尻尾がゆらゆら揺れる。瞳はより赤に近いが、優しそうなやわらかさがあった。
身長はかなり大きくエステルと同等。帯の色は青線が1本だった。つまりは俺たちと同い年。
さきほどのセリフとハンナの言葉から、おそらく3日前にハンナを助けてくれた留学生さんだろうと予想する。なんて偶然の再会。
と思いきや、留学生さんは焦ったようにちょっと早歩きで素早くハンナの方へやって来た。
「ねぇねぇ、あの時もらったポーション何!? すっごい効いたんだけど、あれって高いものじゃないの!? あんなの10個も貰えないよ!? ずっと返したかったんだよ」
そういえばハンナはお礼に持っていたポーションをあげたらしい。
上級生産職がいないらしい分校から来たらそりゃ効き目に驚くだろうさ。
どうやら彼女はお礼にとんでもなく高価な物を貰ったと思い込んで焦っているらしい。
確か、ハンナが人気過ぎてサインを頼まれまくって困っていたところを助けてくれたって言ってたから、たかがその程度でこんな高価な物は貰えないと思っている様子だ。
ふふふ。良い反応だ。
こんなに良い反応をされるともっと良い反応が見たくなってしまう。
よしハンナ、言ってやれ。
「大丈夫ですよ。あれは自作のポーションですから。まだまだたくさんありますし、お礼に差し上げた物ですからどうか気にせずに使ってください」
「じ、自作?」
「はい! 自信作です」
「…………」
ハンナがお礼を込めて渡す物が普通のはずがない。多分一番良いやつだ。
それが10本である。
それを気軽にポンと渡してきたのだ。
ほら見ろハンナ、留学生ちゃん固まっちゃったぞ。
「あの、大丈夫ですか?」
うむ。ちょっとよく分っていないハンナとどうすればいいのか分かんなくてフリーズした留学生ちゃん。この光景、凄く良かった! 朝から素晴らしい光景ありがとうございます!
後書き!
ハンナ様の自信作=世界最高品質。




