#1198 元〈エデン店〉従業員リーダーちゃんを勧誘!
「メルトさん。自分は、夢でも見ているのでありますか?」
「現実だヴァン。受け入れろ」
「…………」
うむ。無事ヴァンの覚職は完了した。
ちゃんと【賢国守】に就かせてあげたぞ!
お祝いの言葉を贈る。
「おめでとうヴァン。これでヴァンも【賢国守】だ。【一国一城の主】の下級職だ!」
「は、はっ! ありがとうございます!」
ヴァンがまるで条件反射のように振り向いて敬礼する。
うむうむ。ヴァンも喜んでくれているようでなによりだ。
「体に染みついた動作が悲しいな。本人は多分半分も理解できてないぞ?」
メルトが小さな声で何か呟いていたが、俺にはよく聞き取れなかった。
――――【賢国守】。
伯爵は盾と魔法系に通じる、貴族の中では珍しい系統だが、【賢国守】は伯爵の中でも【盾士】系寄りの性能を誇る。
装備は大盾と片手杖、【賢国守】は城関係のスキルや魔法も少しは覚えるものの、メインは前線にて活躍するタンク、加えて反撃に攻撃魔法まで覚える。
性能的にはシエラの【盾姫】寄りなのだ。
ダンジョンでの活躍が期待できる。
とても楽しみだ。
「それでヴァン、改めて聞くが、〈エデン〉はSランクギルドとして、今後上級中位ダンジョンやそれ以上の難易度のダンジョンに潜ることもあるだろう。それも踏まえ加入するということで問題無いか?」
「は、はっ! 問題ありません閣下! 自分は閣下の下で誠心誠意学び〈エデン〉の名に恥じないよう努める所存です!」
あれ? 俺の呼び方が閣下になったぞ?
確かに俺はギルドマスターだし、上官と言えば上官なのか?
まあ好きに呼ぶと良い。
閣下なんて呼ばれるのは初めてだ!
「もっと力を抜けヴァン。〈エデン〉はそんなお堅い組織じゃない。もっと明るく楽しい場所だ。前の呼び方にしておけ」
「は? では、ゼフィルス先輩で」
閣下なんて呼ばれるのは新鮮だと思っていたら、メルトの訂正ですぐ先輩呼びに戻った。
素直!
まあいい。
歓迎の言葉を贈る。
「〈エデン〉はヴァンを歓迎する。ようこそ〈エデン〉へ」
「あ、改めて、よろしくお願いします!」
こうして新しい、貴重な男子が仲間になった。
これで新入生で仲間になったのは4人。
順調、とても順調だ。
しかも貴重な職業持ちが増えた。
ふはは!
しかし、タンクやアタッカーは多いがやはりヒーラー不足だ。
タバサ先輩がいなくなってから〈エデン〉はヒーラーが不足している。
どこかでヒーラーを加えたいところだ。
「では、俺はヴァンのギルド加入手続きをしてくる」
「おう、頼んだぜメルト」
そんなことを考えながらメルトにヴァンを任せ、俺だけ測定室からギルドハウスに戻ってくると、何やら制服に赤い帯のついた〈赤世代〉たちが〈エデン店〉に集まっている様子が目に入った。結構な数だが、1年生で〈エデン店〉に来るにはまだ色々足りないはず。〈エデン店〉は学生にとって高級店なのだ。
なにかあったのか? 少し様子を見に行く。
「あ、ゼフィルス先輩。やっと会えた~」
「おお、カグヤじゃん。〈エデン店〉に用事か?」
そこで見知った人物に出会った。
少し前まで〈エデン店〉で働いていた売り子の1人、狐人の少女カグヤだ。
学園入学を機に〈エデン店〉の仕事を縮小化し、今は学業優先、となっているはずだがなんだか……なるほど。どうやら今日はお客として来ているようだ。
「色々紹介してって言われてね~。ほら、〈学園春風大戦〉で〈エデン〉の活躍を見た子たちがね、「トップギルドの〈エデン〉がどういう所なのか見学したいな」「〈エデン店〉に行ってみたいけれど冷やかしだと嫌がられるかな?」「でもお店で売られている上級装備やポーションとかすごく気になる」「ゼフィルス先輩と会えるかも」みたいな感じで、従業員の私が頼られちゃったんだよ~」
「なるほどな~」
「あ、でも真面目に上級のアイテムや装備がいつも揃っているお店に来て目を肥やしたり、この武器を買いたいとモチベーションを上げたりする子もいるよ、ほら見て」
「やたら赤の帯が見えるのはそのためか」
カグヤに聞くとそんな答えが返ってきて納得する。
改めて見るとみんな真剣に品物を見ている。
〈エデン店〉は高級路線で売り出しているのでほぼ全ての1年生は見学の意味が強いだろう。
値段を見て項垂れたり、難しい顔をしたり、はたまたキラキラした視線で見上げていたりと様々。こういう光景も良いもんだな。
しかし、それも束の間。1人の女子がカグヤに近づいてから空気が変わった。
「ね、ねえカグヤさん、そちらの方って?」
「ゼフィルス先輩だよ。この〈エデン〉のギルドマスターです!」
「その通り、俺がゼフィルスだ!」
「「「「キャーーーーーー!!」」」」
「「「本物よーー!!」」」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
俺に気が付いた女子がカグヤに聞くと、その答えに黄色い声とかが上がった。
くっ、カグヤが目で振ってくるもんだから思わず乗っちまったぜ!
さすがは元〈エデン店〉の従業員リーダー! ノリが〈エデン〉に染まっているんだぜ。
でも黄色い悲鳴が上がって俺は少し楽しくなった。
「はいはい。みなさん。他のお客様のご迷惑になるのでお静かに願います。お静かに願いますよ」
そこに〈エデン店〉店長代理、メイド服を着たセラミロさんが手を叩きながらやって来て場を収めてくださった。
「お二人はどうぞこちらへ。お話があります」
「「え?」」
そして俺たちは連れて行かれてしまった。
「ゼフィルス様。お店を騒がしくしていただいては困ります。カグヤさんもですよ」
「「すみませんでした」」
「はい。引っ越しも近く、今のうちに買い求めるお客様が多くてしばらくはお店も混雑すると思われます。しばらくゼフィルス様は近づかれない方が良いでしょう」
「あ~、なるほど。そうします」
「では私も〈エデン店〉に戻らせていただきます」
そう言ってクールにセラミロさんは戻っていった。
う~んクールビューティ。ハンナは「セラミロさんは案外お茶目さんなんだよ」とか言っていたがとてもそうは見えないぜ。
「あ、そうだゼフィルス先輩にずっとお礼を言いたいと思ってたの」
「お、なんだ? 改まって」
実はカグヤとは入学式以降会っていなかったりする。俺たちも進級式でバタバタしていたし、〈学園春風大戦〉の準備で忙しかったため会えなかったのだ。
「えっとね、本当は全員揃ってから感謝を伝えたかったんだけど、私だけ先に言っちゃうね。ゼフィルス先輩のアドバイスのおかげで無事【巫女狐】に就けました!」
「ああ! もちろん2階席から見ていたぞ。覚職おめでとうカグヤ!」
「ありがとうー! 本当に、本当に嬉しかったんだよ! 念願の【巫女狐】だよ~」
そう言って両手を胸の前で握り、目をバッテンにして溢れんばかりの喜びを表すカグヤ。
そのままぴょんぴょん跳びはねる。尻尾がフサフサ動き回っていてとても気になります。
よほど嬉しかったんだと分かるな。
何しろカグヤは〈エデン店〉の従業員になった時から【巫女狐】になりたいってずっと言ってたからな。
俺も素直にお祝いの言葉を贈る。
ちなみにカグヤが言っていた全員とは、他の同時期に覚職した3人のことだ。
どうやら4人で一緒にお礼を言いたかったらしい。
――【巫女狐】。
名前の通り【巫女】に通じる職業のヒーラーだ。
しかも【巫女】よりも回復力が強く、下級職、高の上。その実力は非常に高い!
なぜ【巫女】より【巫女狐】の方が強いのか? おそらく狐の耳と尻尾の癒し成分が効いていると考えられているが、定かではない。
ちなみにカグヤはハクのように大人びた見た目じゃなく、やや童顔だ。身長は狐人の平均サイズだけどな。
白い髪に赤系の瞳、髪は背中に流され、頭の上にはリボンでちょこっとだけ髪を結んでアクセントになっている。
うーん良き。職業も見た目もかなり良きで、性格も〈エデン店〉で働けるほど良き。〈エデン〉メンバーたちとほぼ面識があって良きと、良き尽くめだ。
ちょうどヒーラーが欲しいと思っていたところに現れたカグヤ。これはもう運命でしょ。
ということで誘ってみた。
「カグヤさえよければ〈エデン〉に入るか?」
「え?」
それまでの喜びの表情から一転、カチーンと固まったカグヤが面白い。
尻尾まで固まってる。
両手は相変らず胸の前で握られているポーズのまま目だけをパチパチ瞬かせていた。
ラグっちゃったかな?
うむ、落ち着くまで待とう。
するとそこにスッと近寄って来た人が居た。セラミロさんだった。
「ゼフィルス様。どうかカグヤさんをよろしくお願いします」
「うおお!? ――おう、もちろんだ。任せてくれ」
びっくりした。マジびっくりした。いったいどこから聞いててどこから現れたし!
さっき戻ったんじゃなかったっけ!?
ハンナが言っていたお茶目ってこれか!?
そういえば、カグヤはセラミロさんが連れてきた子だと今更ながらに思い出す。
どうやらセラミロさんはカグヤのことが心配だったようだ。
「では、後はお二人で。私は失礼いたしますね」
そんなお見合いの席みたいなことを言って今度こそ〈エデン店〉へ戻って行くセラミロさんをドキドキしながら見送る。確かに、お茶目さんだ。ハンナの言っていたことは間違いじゃなかったよ。
と、そこでようやくカグヤが意識の海の底から帰って来た。
「ぷはっ! はっはっ?? ここはどこ!? 私はだーれ!?」
「こほん、まあ落ち着けカグヤ。ここはギルドハウスの個室だ」
なんだか海から帰還したかのように息を乱してキョロキョロするカグヤ。
記憶が飛んでいるようだ。可哀想に、よほど衝撃的なことがあったのかもしれない。
〈エデン〉への加入はそんな衝撃的なことではないはずだ。
「そ、そう? ね、ねえゼフィルス先輩、さっき私を〈エデン〉に誘わなかった?」
「誘ったぞ?」
「そうだよね。やっぱり夢だけど――夢じゃなかった!?」
「おお!」
「くぅ~、〈エデン〉に加入することを夢見て頑張って、入学式までなんの声も掛けられずに肩を落としていたけれど、やっとお声が掛かったよ!!」
カグヤのテンションがどんどん上がっていくなぁ。
「もちろん、カグヤが職業に就いた暁には声を掛けようと思ってたぜ。カグヤには是非〈エデン〉のヒーラーとして活躍してもらいたいんだ」
「も、もちろん光栄の極み! 私でよければ是非是非お願いします!」
「まあまあ、そんな大げさにしなくてもいいぞ」
「ノー! 〈エデン店〉に居たからこそ分かることがあるんだよ! これはちっとも大げさな反応ではないんだよ! 〈エデン〉はとんでもない所なんだよ! それをゼフィルス先輩はあまり認識してないんだよ!」
「ほほう?」
俺というギルドマスターの前でとんでもないギルドで俺の認識が不足しているとは、なかなか言うなぁカグヤ。うん、カグヤがどうしてあれだけびっくりしていたのかちょっとだけ分かった気がした。
「オーケーオーケー。じゃあとりあえずだ。カグヤを〈エデン〉に歓迎する。これからよろしくな?」
「え? う、うん! やった! こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうして加入5人目、狐耳ヒーラーがギルドに加わったのだった。




