#131 初の初級上位ダンジョンは花畑で一杯です!
なんか色々あったがようやく初級上位ダンジョンだ。
「やっと着いたわね、初級の上位ダンジョン!」
ラナが元気よく声を上げる。その行動原理はよく分かる。
俺も新ステージに入る度に心を躍らせたものだ。
俺も叫ぼうかな?
「ほわ〜。綺麗なところ…」
「一面花畑のダンジョンなんてあるのね。綺麗だわ」
ハンナが一面を見て感動した声をあげシエラがそれに同意する。
今回訪れたのは〈孤島の花畑ダンジョン〉。
周りを海に囲まれた孤島が舞台だが、その多くが花畑で彩られている少し変わったダンジョンだ。
「歩いて踏み荒らすのが勿体無いですね」
「ねえ、これ全部採取していっちゃだめかしら?」
「丸坊主にする気か?」
エステルも足の踏み場が無くてキョロキョロ視線を彷徨わして、それを見たラナが斬新な発想で俺に聞いてきた。
しかし全部採取したらただの〈孤島ダンジョン〉になっちゃうよ? やめてあげて。
多分数日で元通りに復活するだろうけど。
「ねえ! 早く進みましょ! まだ見ぬモンスターが私たちを待っているわ!」
何かのキャッチコピーだろうか? 残念ながら俺は全てのモンスターを知っているけどな。
と、冗談は置いといて、少しだけ初級上位について説明したいのでラナには待ってもらう。
「まあ、待て。ここのモンスターは結構厄介なんだ。少し初級中位と初級上位の違いを説明したいんだが、皆は良いか?」
「ええ。もちろんです。ゼフィルス殿の薫陶は為になります」
「聞かせてもらえる?」
「ゼフィルス君講座だね。なんだか聞き慣れてきた感じするなぁ」
皆も良しと頷き、ラナも聞く態勢になったので話し出す。
「まず初級中位との大きな違いだが、ダメージ床の罠が配置されるようになる。所謂スリップダメージの地形だな。踏むとHPがガリガリ削れていくのでこれはできれば避けて通りたい」
ダンジョン系RPGで必ずと登場すると言って良いダメージ床。
当然〈ダン活〉でも登場する。しかし〈ダン活〉のダメージ床は少しユニークだ。
単に嫌な地形、と言うだけではなく〈ダン活〉ではダメージ床付近で〈採集〉が可能だった。これによりダメージ床の特性を引き継いだ素材を〈採集〉することが出来たり、〈罠外課〉の学生ならダメージ床ごと持って帰ることも可能だった。〈罠外課〉の学生の貴重な収入源だな。
そんなことを説明するといつの間にかシエラがいつもの花柄のメモ帳を取り出してサラサラとメモしていた。さすがだなぁ。
「次に、なんと言ってもモンスターが多様な攻撃方法を行うようになる。〈全体攻撃〉〈範囲攻撃〉をする敵に加え、〈属性攻撃〉〈状態異常攻撃〉を使ってくる敵が出現するようになる。そのため思わぬダメージを負う機会が増えるだろうからラナは特に注意してくれ」
「うん。後で具体的な事も教えてよね」
「おう」
以前〈ゴースト〉や〈エンペラーゴブリン〉が『ファイヤーボール』を使ってきたが、アレも属性攻撃の一つだ。初級中位では火属性しか使われないが、初級上位からは氷属性と雷属性も使ってくる。
状態異常攻撃は主に毒くらいだが、結構HPを削られるため早めに状態異常回復を使うのが良い。俺の『リカバリー』やラナの『浄化の祈り』などがその対応に当たる。
シエラのように『状態異常耐性』を上げておくことも大切だ。
また補助魔法、デバフ攻撃をする敵も少ないが出てくるため少しずつ対策が必要になってくる。
あと仲間を呼ぶ系のモンスターもここから出始める。こいつらは他のゲームなんかでは良い経験値稼ぎになるんだが、〈ダン活〉では公式裏技戦術があるためただ面倒なだけのモンスターだ。
仲間を呼ばれる前に片付けるに限るな。
モンスターはそんなところだ。
「ここまでで質問は?」
「初級上位ダンジョンってどのくらい階層があるの?」
ハンナから鋭い疑問が飛ぶ。
おっと、俺とした事が、注意点ばっかりに気を執られすぎて肝心な事を説明し忘れていたようだ。
「初級上位は全部で20階層統一だな。ついでに言うと、職業LVの上限は50まで引き上がる」
ちなみに入場はLV25からだ。
今まで入場LVは〈初心者ダンジョン〉がLV5。初級下位がLV10、初級中位がLV15と、LV5ずつ上限が上がってきたのにここに来てLV10も一気に引き上げられた。それほど初級上位は厄介なダンジョンに指定されているという事だ。
初級を超えられるかが、このダンジョンで決まる。
説明の続きに戻る。
あと、これが一番重要なのだが、初級上位からは隠し扉が初めて出現するようになる。
そう、隠し扉だ。重要なので二回言う。
俺の〈天空シリーズ〉を見ても分かるとおり、隠し扉にはかなりレア度の高い強力なアイテムや装備が眠っている。
隠し扉の位置は固定で、ランダム性は無い。しかし、隠し扉は文字通り隠されているため発見するスキルやアイテムが、本来なら必要だ。
だが、我ら〈ダン活〉プレイヤーに死角なし。位置が固定なら、スキルなんて要らない。
ありとあらゆる隠し扉の情報が集められ、有志によって作られたのが〈隠し扉全集。全てのダンジョンは丸裸〉。すべてのダンジョンの隠し扉の情報が載った攻略サイトだ。
これにより、一部のスキルが使い物にならなくなった弊害はあれど、全隠し扉の場所が判明した。すばらしい英知の結晶だな!(一部のスキルからは目を逸らす)う、右目が疼く。
こほん。そして当然ながら〈ダン活〉のデータベースと言われていた俺はすべての場所と位置と中身を完全に把握している。今日の攻略の途中にでも当然寄る予定だ。
やっとラナが当ててから放置されていた〈扉の鍵(鉄)〉が役立つときが来たな。
…今回は扉を破壊しないから。うん。正規の攻略法で挑もう。
「隠し扉、宝箱…」
「おう。もし見つけたらお宝たんまりだ」
「楽しみね!」
俺は場所を知っているので後で寄ろうな。楽しみにしていてくれ。
さて本日やってきたのは初級上位ダンジョンの一つ、〈孤島の花畑ダンジョン〉。
ここをまず選んだのは、主に〈採取〉系のダンジョンだからだ。
〈優しいスコップ〉が唸りをあげる。
とまあ、それとは別にしてハンナの錬金アイテム素材の回収が主な目的だったからだ。
ここで採れる素材各種は様々な錬金で使えるため、まずは最初に訪れることにしたわけだ。
そのため、今回は採取をメインに活動したい。
しかし、少し進むと採取ポイントとは違う物が見えてきた。
「あ、他の人たちがいますね」
「上級生ね。そういえばダンジョン内で他の人に会うのは初めてかしら」
「ゼフィルス君、あの人たちにも挨拶したほうがいいのかな?」
「しない方がいいかもな。彼らも探索中だ、邪魔になるかも知れないだろ」
「あ、そっか」
遠くでモンスター狩りに勤しむ上級生を見てハンナが聞いてくるが、やんわりと関わらない方向へと誘導する。
理由はいくつか有るが、関わっても利になることの方が少ないからだな。下手に関わると余計な時間を消費してボス周回の時間が無くなってしまう事がほとんどだ。
たまにサブクエストなんかが発生して、報酬に全員のMPを全回復なんて事もあるが初級ではほとんど無い。そのためスルー推奨だな。
ちなみに、こうしてダンジョン内で他の人と遭遇することは割とよくある。
今までは1年生の中で俺たちが独走していたがために遭遇しなかっただけで、ダンジョン内はオンラインゲームみたいにサーバーが分かれているなんて事はないからな。
故に、全滅時などに〈救難報告〉を出すと学園の〈救護委員会〉の方が助けに来られたりも出来る。
「彼らを避けつつ採取を行いながら先へ進もうか。モンスターはこれまでと違って結構強いぞ。搦め手も使ってくるからラナはメンバー全体に気を使ってやってくれ」
「分かっているわ! 任せて頂戴!」
少し前に説明もしてあったのでラナは胸を張って頷いた。頼むぜ。
花畑の中、少しだけ進むのに躊躇しながら〈エデン〉のメンバーが動く。