#1194 見張りはいる? 希望を聞いて即オーケー!
こほん。まず先に断っておこう。
俺は悪くない!
新しく〈エデン〉に良い子(幼女)を引き込むチャンスだったんだ!
これは頑張るしかないだろう!?
つまりそういうことだ。
「まったくゼフィルスさんったら。わたくしだけじゃ抑えられませんわ。シエラさんをお呼びしますね」
「ちょっと待っておこうかリーナ。話せばわかり合える」
リーナが構えた〈電子手帳〉を手で抑えて首を振る。
別にシエラを呼ばなくてもいいはずだ。
「……あなた方3人は〈エデン〉の加入を希望しているのですか?」
「うん。お兄ちゃんがいるギルドに入りたいの」
「私も、アリスが心配ですから。アリスが入るなら、私も加入を希望します」
「あたいは加入するギルドがすでに決まってるっつうか、もう入ってるっつうか。カウントしなくて大丈夫だ」
「なるほど。新しいメンバーが増えるならサブマスターであるシエラさんを通さなければなりませんよねゼフィルスさん?」
「な、なんて華麗な論破!?」
さ、さすがはリーナ。俺の待ったを簡単に打ち破ってくる。なんて高度な交渉術なんだ。
あ、〈学生手帳〉が取られた!?
「これで良しですの。すぐにシエラさんが参りますわ。その間わたくしがしっかり見ておきますのでゼフィルスさん、どうぞ交渉なさってくださいな」
〈学生手帳〉でメッセージを打ち終えたリーナが朗らかな笑みを向けてそう言ってきた。
ここではっちゃけたらマジでシエラに報告されちゃう!
大丈夫、俺は紳士だ。もちろん変態の方じゃない。何も問題ないさ!
「オーケーオーケー。リーナがそこまで俺を信頼してくれるなら、その信頼に応えてあげようじゃないか! 見てろよ、俺の交渉術を!」
「わたくしにしたみたいに勢いで連れ去ってはダメですよ? ちゃんと見ていますからね?」
そういえばそういうこともあったなぁ。リーナを勧誘したときか。懐かしいなぁ。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「おう、待たせてすまなかったな。アリス、キキョウ、ついでにゼルレカも。俺に任せておきたまえ! 希望する職業に就かせてあげよう! なんでも言ってみろ!」
「ゼフィルスさん。すでにアウト寄りですよ」
リーナが耳元に小さい声で言ってくる。マジで、もうアウトなの? 早くない?
だが、ここまで言わないと言ってくれない子もいるだろ?
俺が正しかったのかリーナが正しかったのか、俺の言葉に右手を挙げたアリスが元気良くお願いする。
「えっとね。アリス、【雷子姫】に就きたいの」
「【雷子姫】!」
出たな〈雷属性〉特化〈姫職〉!
〈ダン活〉には6種の属性が存在した。
そのうち基本となる火、氷、雷の属性を司る特化型〈姫職〉というのも実は存在する。
「子爵」は〈雷属性〉担当。「伯爵」は〈氷属性〉担当。「侯爵」は〈火属性〉担当、という具合だ。
光、闇、聖については特化型の〈姫職〉は居ない。普通に男子でも就ける特化型ならあるけどな。
【雷子姫】は魔法剣士、いや、魔法使いか剣士だな。
俺みたいに前衛をこなしながら魔法攻撃が出来る職業ではある万能職だが、どっちかに特化させてしまった方が正直強い。俺のお勧めは魔法使い。貴族系で魔法使いって結構珍しいのでお勧めだ。
〈エデン〉には魔法使いが割と少ないので、ギルド的にもそっちを選んでほしいところ。
というところで、聞いてみた。
「もちろんオーケーだ! 【雷子姫】は魔法使いルートと剣士ルートがあるな。もしくは魔法剣士になる道があるが、アリスはどっちに行きたいと思っているんだ?」
「えっとね。魔法使いの方。体動かすの、得意じゃないから」
アリスの答えに「ああ、なるほど」と納得する。
そういえば学園祭の時、2度も俺に助けられたことがあったなと思い出した。確かに動きは鈍かった。アリスが前衛で剣を振るいながら活躍する様子なんて欠片も思い浮かばない。
「アリスは【ヒーロー】なんて絶対に無理ですから、【雷子姫】を目指しなさいってお母様に言い含められていたんですよ」
そうキキョウが補足する。お母様、英断過ぎるぜ。
俺は学園祭の時に会ったアリスのお母様を思い浮かべて心の中で敬礼を送った。
「そういうことなら大歓迎だ! 俺が【雷子姫】に就かせて――げふんげふん、就くまで俺がつきっきりでサポートしよう!」
「わーい! ありがとうお兄ちゃん」
――ありがとうお兄ちゃん。
このセリフが聞けただけで俺は満足だ。
「ゼフィルスさん?」
「げふんげふん! よーし、次はキキョウだ。何に就きたい?」
リーナの指摘が入ったが咳払いでリセットして、キキョウに向きなおる。
「その、私は【神社の守護者】を希望したいです。アリスを守りたいですし」
「タンク系か~。もちろん構わないぜ」
「狐人」のキキョウが希望したのはタンク系である【神社の守護者】だった。
神社には狐を呼ぶ何かがあるのか、神社と狐に纏わる話が良くある。
多くが妖狐として封印されたりとかなんとかという話だが、式神として登場して神主をサポートしたり、人が居なくなった神社を何時までも見守ってきたという逸話も多い。
そのためか【神社の守護者】の能力は多岐に渡る。
基本はタンクだが、『封印』系の魔法が使えるため、相手の耐性を封印したりもできるし、タバサ先輩のように召喚系を使うことも可能。人を守ることも得意だが、ギルドバトルでは城を守る職業としても使える優良職だ。
いいじゃないか。
俺は即答して、必要以上のリアクションをしないよう心がけながらゼルレカの方を向く。
「むう。アリスと私で反応が違いませんか?」
するとキキョウが膨れて抗議してきた。可愛い。
「そんなことないさ。キキョウの【神社の守護者】も十分有用だ。俺に任せておけ!」
そう言ってフォローする。
「うう~む。あのキキョウがこんなに心を開いている光景を見るとは。新鮮だねぇ」
「う、うるさいですよゼルレカ。ゼルレカも早く希望する職業を言いなさい」
「はっは。――それでゼフィルスさん、あたいもいいのかい? もしゼフィルスさんのおかげで強職業に就けたとしても〈エデン〉には入れないんだけど」
「構わないさ。ガルゼ先輩には世話になったし、ゼルレカのことを頼まれてるからな。友人の頼みだ。これくらいわけないさ」
「いい男だなあんた」
ふ、それほどでもある。
例え〈獣王ガルタイガ〉に所属していたとしてもゼルレカはガルゼ先輩が頼むと言ってきた妹だ。職業に就くサポートくらいしてもいいだろう。いいよな?
そっとリーナを見るが、いつの間にかリーナの側に居たシエラが頷いていたのでセーフだ。
「ってシエラ!? いつの間に!?」
「今来た所よ」
「さ、さいですか」
「リーナ、替わるわね。ゼフィルスのことを見張っていてくれてありがとうね」
「いえいえ。では後はお願いしますわねシエラさん」
「ええ。任せて頂戴」
どうやら俺を見張らないという選択は無いようだ。
ふ、これが俺の信頼か。くっ、涙なんて出てないもん!
「悪いなゼルレカ、それでどんな職業に就きたいんだ?」
「あ、ああ。本当は兄貴と同じく【獣王】を目指そうと思ったんだが、今は〈エデン〉の2年生が就いてるだろ? さすがに後2年は待てないし、【獣王】に就ける保証もない。だから兄貴が用意してくれた〈放蕩獣鉄剣〉を使おうと思ってる」
「ほう、ということは大罪系――【怠惰】か」
【獣王】は学園で1人しか存在できない条件がある。
ラウがいる限り、ゼルレカが【獣王】に就くことはできないからな。
これはラウが一時的に学外に出ていたとしても無理なので、【獣王】に就きたければ本当に2年待つしかない。故にゼルレカは別の道を歩もうとしているようだ。
「おう。兄貴に聞いたぜ? 〈放蕩獣鉄剣〉、ゼフィルスさんが見つけてきてくれたんだろ?」
「まあな!」
武器〈放蕩獣鉄剣〉。
それは7種の【大罪】系の1つである【怠惰】に就くための条件だ。
この専用武器を持っていないと【怠惰】には就けない。
以前ガルゼ先輩に頼まれて取りに行き、〈白の玉座〉と交換したことがあった。
なるほど、ゼルレカは【怠惰】ね。
ということは下級職は【ハイニャイダー】だな。
オーケーオーケーどれも問題無し!
ということで覚職のお時間です!




