#1190 ハンナとまったり朝。留学生集まるギルド受付
俺がギルド〈エデン〉を立ち上げてから1年。
ギルド〈エデン〉は〈学園春風大戦〉Sランク戦で見事に優勝し、学園の最高峰、Sランクギルドに輝いた。
嬉しい。嬉しいぞ俺は!
これは盛大に打ち上げをしなくちゃダメだろう!
ということで宴は三日三晩続いた。
嘘だ。普通に夜には解散した。
でもそれくらい盛り上がった。あんなに大量にある贅沢なジュースと料理の数々、なかなかお目にかかれるようなものじゃない。これからはいつでも飲めるけど! ふはは!
いかんいかん。まだまだ頭の中がお祭りムードになっているようだ。
でも今日くらいはきっと許されるだろう。
よし、今日も打ち上げだ!
「ゼフィルス君? ゼフィルス君?」
「ふにゃ? あれ、ハンナ? 打ち上げは?」
「まだ寝ぼけてるの? コーヒーでも入れる?」
「……おお、頼む」
「うん。ちょっと待っててね」
気が付いたら自分の寮部屋のいつも朝食を取っているテーブルにいた。
どうやら座っているうちに寝てしまっていたらしい。
だんだん意識がハッキリしてくると、ハンナがマグカップにコーヒーを入れて出してくれた。
「はいゼフィルス君。まだ熱いから気をつけてね」
「サンキューハンナ。……なんでハンナが居るんだ?」
「え? さっき中に入れてくれたでしょ?」
「やべぇなそれも寝ぼけてて覚えてない」
昨日はSランクギルドになった喜びのあれやこれやではっちゃけて、消灯時間を過ぎても全然眠れなかったからな。
いつ寝たのかも覚えてない。
ふっ、念願のSランクギルドになったのだから仕方ないんだぜ。
だが、ハンナはいつも通り朝食を作りに来てくれたみたいだ。
「昨日はたくさん食べたり飲んだりしたから、お腹に優しいリゾットとスープを用意したよ。これも飲んでね」
「いつもありがたいなぁ」
俺、やっぱり朝はハンナがいないとダメかもしれない。
脳が鮮明に目覚めてくるとハンナのありがたみが身に染みてきた。
「ハンナに感謝を込めて、いただきます」
「はい。召し上がれ」
ハンナに感謝のお祈り。
俺は多分、〈幸猫様〉と同じくらいハンナにお祈りを捧げている気がするよ。
リゾットは柔らかく、起きたばかりのお腹にも優しい味付けでするすると食べてしまえた。
またハンナの料理の腕が上がっている気がするぜ。
食べ終わると一息。のんびりとハンナが再び入れてくれたコーヒーを飲んでまったりする。
「ゼフィルス君、今日は何をするの?」
「そうだなぁ」
今日は土曜日。
ギルドメンバーには昨日のギルドバトルの疲れを癒すため今日の活動は自由だと伝えてある。
休むも良し。ダンジョンに行くも良しだ。
「新しいギルドハウスへの引っ越しもギルドメンバーが集まらないと出来ないしな」
ギルド〈エデン〉は昨日Sランクに昇格した。
そんなわけでAランクギルドハウスからSランクギルドハウスへの引っ越しをしなくてはならない。
〈エデン〉は勝つ気満々だったからすでに荷造りは6割方終わっているが、引っ越しの日時はまだ決めていなかったりする。
期限は来週の日曜日まで。時間はまだあるが、なるべく早めに引っ越ししておきたい。
「じゃあ新しいSランクギルドハウスに工房を設置してもらえないかな? 引っ越した後に改装するよりも今のうちに改装しておいた方が良いと思うの」
「なるほど。確かにそうだな」
以前CランクギルドハウスからBランクへ、そしてAランクギルドハウスへとトントン拍子にランクアップしたことがあった。
その時ちょっとしたトラブルがあったのだ。
それが〈エデン店〉の臨時休業による市場の混乱。
引っ越しするのだから当り前だが〈エデン店〉は休業していた。それが〈学園出世大戦〉を目前に控えた時期だったのが間が悪く、学園がなんか混乱したらしい。
いやいや〈エデン店〉が休業しただけで混乱すんなよと思うが、あの時は上級ポーションの販売を〈エデン店〉がほぼ独占してたからなぁ。
結局学園からハンナに臨時〈エデン店〉をオープンさせてほしいと緊急依頼(多分、救済クエスト)を出して混乱を鎮めたというのだから当時は驚いたものだ。
ハンナからすれば「みんなに〈学園出世大戦〉に集中してほしかったから」だそうだ。
くぅ! ハンナが良い子過ぎて涙が出そうだ。というか出た。
まあそんなわけで、再び学園を混乱させないためにも、あらかじめ常備しておくというのは悪い話ではない。
今では学園にもだいぶ上級生産職が増えてきて、上級ポーションは〈エデン店〉の独占では無くなってはいるものの、まだまだ効果も弱く、流通量も少ないからな。
「よし、採用で。今日はSランクギルドハウスに行くか」
「うん!」
そういうことになった。
少しまったりのんびりして準備すると出発。
「これでよしっと。ゼフィルス君、お待たせ」
「いや全然待ってないぞ」
いつも部屋を出るときの鍵閉めはハンナの仕事。
なぜかハンナはこれを譲ってくれません。
完全にハンナの第二の部屋になっているな。むしろ俺よりも家具や食器の位置を知っているまである。
ふう。でもハンナがすごく楽しそうなので俺は見守るだけだ。
2人並んで寮を出る。
目指すは〈ギルド申請受付所〉。
まずはここでSランクギルドハウスの鍵と書類を貰わなくてはならない。
〈受付所〉に入ると、やたらと人が多いのがまず目に付いた。
朝早くだというのにいつもの10倍くらい人が居る? いやもっと多い。
なんでこんなに多いんだ?
「あ、あの人」
「どうしたハンナ?」
「ううん。昨日会った留学生の人を見かけたんだ」
「留学生?」
ハンナの話によれば、昨日の〈学園春風大戦〉Sランク戦ではかなりの見物客が詰めかけた。
その中には件の留学生も多かったらしい。
そういえばフィリス先生の話によればSランク戦の翌週から本格的な編入が始まるみたいなことをホームルームで言っていたっけ。
すでに留学生は到着しているようだ。
そして話を聞くにハンナは昨日、アルルやカイリたちと観客席に行こうとして、なぜかサインをねだられたらしい。そこで困っていたところに颯爽と助けてくれた女子が、その留学生なのだとか。
サインて。さすがはハンナなんだぜ。
え? 俺? 俺はサインをねだられるなんて…………あれ? そういえば経験が無い!?(勇者の近くには常に勇者ファンが控えています)
ハンナに少し敗北感を覚えつつ受付の順番が来るのを待った。
すると徐々に周りがざわめいていくのを感じる。
「お、おい。あれってもしかして?」
「ああ、間違いない。昨日Sランクギルドに昇格した〈エデン〉のギルドマスターだ!」
「あれが! あれが件の勇者か!」
「イ、イケメン!」
「あの、昨日の試合って見た?」
「はぁ? 当り前じゃない。むしろ見逃してたら留学生じゃないわ」
「俺、昨日の夜到着したばかりで、見逃した」
「……その、ごめんなさい」
「謝らないで!? あと是非Sランク戦の様子を教えてください」
「ふふ、それくらいなら構わないわ。凄かったんだから」
「あれが〈エデン〉。結成1年のギルドにして最強の本校Sランクギルドに君臨する実力者」
「ごくり、やっべぇ、サイン欲しい」
ほう? 俺のサインが欲しいとな?
ざわめく喧騒の中、なぜかそこだけよく聞こえた。
「隣の女子は?」
「あの方はこの学園を支える学園四大公式ギルドの1つ〈生徒会〉、その生産隊長であらせられるハンナ様だ」
「ええ!? あ、あの方が生産隊長様!?」
「うむ。1年生の時に生産隊長へ就かれたジーニアス。ちなみに生産隊長様も〈エデン〉の一員だ」
「マジ? 〈エデン〉ってどんだけすげぇ人材揃ってるんだよ!?」
「ごくり、やっべぇ、サイン欲しい」
ほう? ハンナのサインが欲しいとな?
なぜかそこだけよく聞こえた。
ふふふ、どうやら俺たちの話が広まってしまった様子だ。
いやぁこれだから有名人は参っちまうぜ。ふははは!
途中、ちょっと周りの視線に怯んだハンナに手を繋がれて〈受付所〉がざわめくこともあったが、特に害は為し。
受付も今日は人を多くして対応していたようで僅か10分ほどで順番が来た。
こうして無事Sランクギルドハウスの鍵と書類を受け取った俺たちは〈受付所〉を出たのだった。
サイン、結局頼まれなかったなぁ。




