#1180 〈エデン〉戦、カイエンの心臓と胃に悪い攻撃
こんにちは、俺はカイエン。
今〈エデン〉の拠点へ向けて進行中だ。
すごくドキドキするね。同時に背中の冷たい汗もさっきから引かないんだけど?
「楽しみですねカイエンさん!」
カララが良い笑顔で俺に言う。全然楽しみじゃねぇよ!?
でもギルドメンバーの前でそんなことは言えない。
「ああ、そうだな。これだけの戦力、いくら〈エデン〉が精強とはいえそう簡単に打ち破れるものでは無い」
だから俺はこう言うしかないのだ。
辛い。
現在俺たち南西エリアの3ギルドは〈エデン〉戦に打って出ていた。
合計60人の大部隊。
各ギルドから20人というとんでもない数を攻めに回し〈エデン〉の拠点を落とす。
カウンターで拠点を攻め落とされないよう、相手がこっちへ攻めてきそうなルートを潰しながらの侵攻だ。遠回りで攻めてくる可能性もあるため〈サクセスブレーン〉の拠点に残ったメンバーのうち5人には各方面に斥候に出てもらい、多くの罠を仕掛けまくってもらう。
これで攻めに集中できる。
60人の大部隊、これ以上は防衛の観点から出せない、限界数での攻め。
なのに全然戦力が足りていないんじゃないかと思うのはなぜだろう?
だが、攻めるしかない。
どうせ〈エデン〉を落とせなければ負けなのだ。見ろポイントを、今の〈エデン〉は3483点……? さっきより増えてる!!
そこでピロリン♪と鳴る着信音。
「……『暗号受信』! 『電脳解析』!」
そこには『緊急連絡! 〈エデン〉により〈氷の城塞〉陥落!』の文字。
……ふう。
〈エデン〉の拠点はもうすぐそこだ。
今〈氷の城塞〉を落としたということは主力は留守ということ、そうポジティブに考えることにした。
その〈氷の城塞〉にいる主力が南西エリアへ向かおうとしたらすぐに連絡するよう暗号を送り、とりあえずそっちのことは忘れる。
〈エデン〉の拠点を落とせればいいのだ。ならば、今はこっちに集中する。
拠点への通行路は3箇所。俺たち3ギルドは各通行路へ分かれ、攻めに出る。
3箇所に分かれるのは〈エデン〉の戦力をさらに分散させると同時に、3ギルドを動きやすくする効果を見込んでのことだ。
連携が取れないのだから固まっていたって仕方がない。ならば各地にそれぞれのギルドで分かれた方が有益な結果をもたらすだろうという判断だった。
これには〈獣王ガルタイガ〉も〈カオスアビス〉も頷いている。
また、外に出ていた〈エデン〉の遠征メンバーが帰って来た場合、その遠征メンバーを拠点へ帰還させることを許さず、同盟で2方向、もしくは3方向から挟撃して各個撃破を狙うこともできる。
1箇所に固まっていたら、逆に挟撃され、少なくない被害が出るだろう。
だから各ギルドで3方向に分かれ襲撃をかける作戦は間違いではない、はずなのに不安が消えないのはなぜだろう?
「定刻だ! 行くぞみんな! 安心しろ! たった今嬉しい知らせが入った! 〈エデン〉には今、主力が不在だそうだ!」
「「「「おおーーー!!」」」」
「勝てる! 俺たちなら勝てるぞ! 今が〈エデン〉に攻め込む最高のタイミングだ!」
「「「「おおーーー!!」」」」
「〈サクセスブレーン〉、行くぞ!」
「「「「おお!!」」」」
「『アクセス・ブレーン』!」
時間となり〈サクセスブレーン〉は動き出す。俺たちは南西の通路から攻める。
他にも〈カオスアビス〉が北の通路から、〈獣王ガルタイガ〉が南東の通路から攻めているはずだ。
すでにこの辺の罠は【トレジャーミミック】のフォルノ君がしっかり探知している。
拠点まで罠は無い、はずだ。〈エデン〉ならどんな巧妙な罠を仕掛けていても驚かない自信がある。気の抜けない侵攻だ。胸の高鳴りと背中の冷や汗が止まらない。
その時、〈エデン〉拠点からけたたましいサイレンにも似た音が辺りに響いた。
これは、敵襲の合図か? 大きな音で敵が来たことを周囲に伝えるのは定石中の定石。しかし、違和感がある。こんなに接近されるまで〈エデン〉が俺たちに気が付かないなんてことがあるだろうか? それとも別に理由がある? ああもう、音がうるさくて考えに集中できない――、待てよ、それが目的?
あ、まずい!!
「タンク班前方防御!! スキルを使え!」
「!? 『防頑堀』!」
「『ビッグマンシールド』!」
警報の音にも負けず大きな声で指示を出す。
前方にタンク班が盾を出すのと何かの衝撃が襲ってきたのはほとんど同時だった。
ギリギリで防御に成功した形。
「な!?」
「げ、減退無視の、攻撃!?」
「ラナ殿下の光の剣じゃなかったぞ!?」
「砲撃だ!」
エリアマスを超える時特有の威力の減退。
ラナ殿下はこれを無力化してみせている。なら、他の人には出来ないとなぜ言い切れる?
相手は〈エデン〉だ。ラナ殿下の他にも威力の減退を無視する遠距離攻撃が使える者が現れちゃったとしても驚かない。嘘だ。むっちゃ驚いてる。
あ、危なかったぁ!!
この警報はおそらく、遠距離攻撃を誤魔化すための音だ。砲撃音を隠すために鳴らされていると思われる。警報が別の用途で使われていると後1秒気が付かなかったらやられてた。
本当に心臓と胃に悪い。
「さすがはカイエンさん!」
「気を抜くな! 相手は〈エデン〉だ! 最初からマスの減退を緩和する術を持っているギルドだということを忘れてはならないぞ!」
「「「うおお!!」」」
「こっちにはカイエンさんが付いています! みなさん、安心して指示に従ってください!」
「「「おお!」」」
いや、みんな自分で考えて防御とかしてほしい。俺がどんなことでも対処できるって勘違いしてない?
今回気が付いたのは本当に偶然なんだって、とりあえず前方に盾を出したら攻撃を防げただけなんだって!
そう思ったが、口には出せなかった。
「壁まで2マス! みんな最大級の警戒を! 矢を放て!」
「はい!」
俺の指示にメンバーが一見何も無いように見える〈エデン〉の拠点方向へ矢を放った。
すると矢は不思議なことに途中で何かに弾かれたように跳ね返りそこに壁が現れる。
その昔、〈エデン〉と〈カッターオブパイレーツ〉戦の時に見させてもらった、城を覆い本当の姿を隠す幻術だ。
そして予想通り、弱くても何らかの攻撃を食らうと幻術が解けてしまうのだろう。
こっちはずいぶん距離があったのにもかかわらず、ただ矢を放っただけで城壁が現れた。
幻術破り成功だ。
〈エデン〉の拠点は、相変らず城壁で遮られていた。
この拠点を守る城壁を破壊出来なければ拠点へ攻撃は出来ない。
俺たちは城壁を破壊すべく、攻城槌をタンクが守る形で前に出す。
城壁のある隣接マスへと足を踏み入れた。
その瞬間、タンクと攻城槌が宙に吹き上がった。




