#1175 勝利の余韻。戦後城壁修繕中に、来ちゃった。
ここは南東エリア、〈筋肉は最強だ〉との戦いに勝利したことで〈集え・テイマーサモナー〉のメンバーは勝利の余韻に浸ってその場で崩れ落ちていた。
「か、勝ったー! 勝ったわー!」
「カリン、それ何度目よ」
「5度目!」
「あ、回数は数えてるんですね」
ギルドマスターのカリンが5度目の勝利を口にすると、すかさずサブマスターエイリンがツッコんだ。【モンスターブリーダー】のアニィも勝利の余韻に浸った表情でそれをおかしそうに楽しむ。
完全に空気が弛緩していた。
それほど〈筋肉は最強だ〉の戦いが激しく、かつ大きな戦いを制した達成感に酔いしれているのだ。
〈筋肉は最強だ〉は長くBランクギルドの非公式ランキングでトップに居続けたギルド。
Bランクギルドの時はどちらかというと真ん中辺りよりちょっと上の位置に居た〈集え・テイマーサモナー〉から見ると、明らかな格上だった。
Aランクに上がった今でも、正面からぶつかり合った場合、あのポーションを多用する筋肉に勝てるかと言えばさすがに難しいだろう。確実に勝つにはもっともっと飛行部隊を整える必要があった。最低限全メンバーが空へ逃げられるくらいしないと安心はできない。
そんな強敵中の強敵。このAランクギルドが集うSランク戦でもかなりの上位ギルド。
それを下すことが出来たのだから〈集え・テイマーサモナー〉の充実感と達成感は相当なものだった。
「あ、クールタイム終わったですよ――『モンスターリヴァイブ』!」
「――クエ!」
アニィのスキルにより、〈御霊石〉から先ほど筋肉との戦闘でやられた〈ピュイチ〉が復活する。【モンスターブリーダー】はモンスター復活系の魔法を使うことが出来るのだ。
クールタイムは長いし、人を復活させる『レイズ』などよりヘイトを稼いでしまうので、高確率でタゲが向いてやられてしまうため戦闘中使うのに向かないが。そんな弱点はあるものの普通のテイマーやサモナーは復活なんて使え無いため非常に優秀な技能と言えるだろう。
ようやくある程度の回復が済んだところでカリンが腰を上げる。
「ふう。それじゃあ戻ろうか。ちょっと余韻に浸りすぎちゃったよ」
「本当に、カリンとても浸ってたわね」
「いいの! 〈筋肉は最強だ〉に勝つって本当にすごいことなんだし!」
数々のギルドを倒し、トラウマを与えてきたギルド〈筋肉は最強だ〉。このギルドを相手にして下したのはかなりの戦果だ。学園内ならすげぇと一目置かれることはまず間違いない。
筋肉とはそれほどの相手なのだ。
「気持ちは分かるです。僕たちも勝利の余韻がもの凄くってしばらく動けなかったですもん」
アニィの言葉がここにいる全メンバーの心の代弁だった。
〈筋肉は最強だ〉を倒したというのはそういうことなのだ。
「拠点を落としたからもうここには用は無い」とすぐに次の行動に移れる〈エデン〉が特殊なのである。
〈集え・テイマーサモナー〉のメンバーたちも立ち上がり、まず〈氷の城塞〉と勝利を分かち合おうと向かうことにした、そして半数はメンバーを分けて自拠点の様子を見に行くことにした。
その〈氷の城塞〉の拠点には勝利の余韻が吹っ飛ぶ衝撃が待っているとは、この時は思ってもみなかった。
◇
一方、〈氷の城塞〉でも〈筋肉は最強だ〉のメンバーが消えたことを目撃し、お祭り騒ぎになっていた。
〈集え・テイマーサモナー〉がやってくれたのだと、あの〈筋肉は最強だ〉を自分たちが倒したのだと大盛り上がりの状態だった。
勝利の余韻とは人をとっても酔わせてしまう。
「ああ~。本当やりきったのね。一時はどうなることかと思ったわ」
「ずっと攻め込まれていましたからね。城壁もどんどん破壊されていましたし」
「わっちも造る端から壊されて生きた心地がせんかったわ~。本当、〈集え・テイマーサモナー〉が間に合ってくれて良かったわ~」
レイテルがまだ夢冷めやらぬ表情で呟くと、2人のメンバーがそれに相槌を打った。
1人はドワーフ男子のゼンダダ。例のレイテルと同時期に上級職になったドワーフの1人で、見事な髭高生である。
もう1人、自分のことをわっちと呼ぶ訛り口調の女子もドワーフ。こっちもレイテルと同期の上級職。名前はハミミ。アルルとほぼ同じ体型を持つロリだ。
2人とも【破創金剛ハイドワーフ】に就いている。
3人は同時期に上級職となっただけではなく、〈転職〉してから〈道場〉でもほとんど一緒に力を付けてきたため仲が良かった。
〈学園出世大戦〉の時は純粋な戦闘職では無かったドワーフの2人は出場出来なかったが、今回はしっかり出場し、〈防壁〉を造ることでギルドに大きく貢献していた。
ゼンダダとハミミがいなければ、今回の戦いで〈氷の城塞〉は陥落していてもなんの不思議でも無いし、〈筋肉は最強だ〉も倒せなかっただろう。
一通り〈集え・テイマーサモナー〉への感謝と拍手喝采を終えると、レイテルが2人へと向きなおる。
「2人とも助かったわ。やっぱり2人のどっちかにサブマスターに就いてもらおうかしら」
「それは、タクトが泣きますな」
「いやぁ~なんの役にも立たんと、アランにやられたサブマスターは交代でもええとちゃう?」
「あれで〈氷の城塞〉の士気が落っこちたんだもの。やっぱりギルドマスターとサブマスターは生きてないと。そのためには敵に突っ込むのではなく守りに特化した人が良いと思うのよ」
「一理ありますな」
「こわやこわや、試合が終わったらサブマスターはチェンジになりそうや」
そうカッカと笑うハミミと、サブマスタータクトに「強く生きろよ」と無言の念を送るゼンダダ。試合後のサブマスター交代はほぼ決定のようだ。
その話が終わると真面目な話へと移る。
ちょうど報告者が来た所だったのだ。
「被害は? あと防衛状況」
「〈筋肉は最強だ〉にかなりやられましたな。退場者は7名、防衛モンスターは3分の2がやられました。特に奥の手として用意した中級上位のボス級2体がやられたのはかなりの痛手です。拠点の南西にある〈防壁〉はボロボロ、修理に必要な素材が足りない状況ですな」
「無事なのは拠点の北東にある〈防壁〉のみや。とは言っても時間が無い中建てたから時間稼ぎくらいにしか使えんけどな」
「拠点の南東にある〈防壁〉は破壊され、修復は後回しになっている状態でありますな」
「あの〈筋肉は最強だ〉の近くに建てた〈防壁〉で持って来た素材が無くなってしもうたから修繕もできんわ。まずはあれを解体しに行かねば拠点周りの修繕もままならんて」
「分かったわ。2人は部隊を編成後すぐに解体に向かってもらえる?」
「御意。では行ってまいります」
「あいよー、こっちは任せてぇな」
〈筋肉は最強だ〉と戦うために必要だったとはいえ、かなりの被害と出費だったとレイテルは頭を抱える。
〈防壁〉を造るために必要な素材というのは非常に多い。そのほとんどは生産職が持つ収納系スキル、この場合はゼンダダとハミミのスキルで持って来ていたが、2人では拠点を守るための3箇所の防壁と道を隔てるために建てる防壁1箇所、上級職の攻撃を防ぎきるレベルのものを造るだけで素材が無くなってしまっていた。
しかも拠点を守るはずの南東と南西の防壁はボロボロで、修繕するには多くの素材が必要だ。修繕するためには建てた防壁を素材へ解体しに行かなければならない。〈筋肉は最強だ〉の西に建てた防壁を解体することを決める。
ゼンダダとハミミにはそちらを任せ、レイテルは拠点周りの氷の城壁の新たな召喚や強化、それと出来る限りの回復をする。
〈氷の城塞〉の新たな戦法はレイテルの城壁とドワーフの防壁の合わせ技。防壁を氷の鎧で覆うことで、防御力とHPを倍近く、もしくはそれ以上に確保できるのだ。
とはいえ現在これが機能しているのは拠点の北東防壁のみ。
北東防壁は北エリアからの侵入を防ぐ要だ。これだけでも残ったことに安堵し、まずは拠点の南西防壁を修復しようと動き出す。
そんな時である、「北東に〈エデン〉襲来!! 〈エデン〉来てるーーー!!」そんな一報が舞い込んできたと同時に「ドッゴーーン!」というとんでもない破砕音が響き、北東防壁が破壊されたのは。




