#1174 南西エリアの動き。カイエンついに決断する。
「カイエン先輩! 〈ミーティア〉が落ちました! 落としたのは〈エデン〉の模様です!」
「…………そうか。やはりな(〈ミーティア〉がやられたー!?!?)」
「おお、まったく動揺してない。さすがはカイエン先輩だ!」
「ああ。こうなることも予想していたに違いないぜ!」
「もうすぐ〈エデン〉とぶつかるからな、やっとカイエン先輩対勇者という夢の対戦が現実化するぜ!」
「楽しみだね!」
全然楽しみじゃねぇよーーーー!!
なんで楽しみになれるの!? 〈エデン〉との戦いが迫ってるんだよ!?
みんな見ろって北エリアを! あっという間に2拠点が落ちたんだぞ! 〈エデン〉によって!
この南西エリアもヤバかったが、北エリアが拠点じゃなくて本当に良かった。
そう何度安堵したと思ってる!?
やべぇよ、〈エデン〉がマジヤベぇよ。
残り時間を見る。
今回のギルドバトル〈拠点落とし〉は4時間掛けて行なわれる。
現在――〈残り時間:3時間32分〉。
まだ30分も経ってねぇよーー!
あまりにも、あまりにも早すぎるだろう! 北エリアでマジ何があったんだーー!!
〈ミーティア〉だぞ!? あの〈山ダン〉合同攻略の時に俺たちより早く攻略を終えた格上ギルドの〈ミーティア〉が簡単に落ちちゃったんだぞ!?
〈ミーティア〉が落ちたと聞いたとき、声を上げそうになるのを必死に抑えこんでポーカーフェイスをつらぬいた俺を誰か褒めて!?
「ふう。みんな少し落ち着け(お願いだからみんな落ち着いて?)」
「おお、カイエン先輩のあの顔!」
「みんな静かに! なにかカイエンさんが大事な話があるみたいだよ!」
「…………(大事な話なんて別にないよ!?)」
〈サクセスブレーン〉の新しいサブマスター、カララの声にギルドメンバーが素早く集まってキラキラした視線で見つめてきた。みんな、俺の言葉を待っている雰囲気が一瞬で完成する。
神よ!!
俺は、何か喋るしかない。何かそれっぽい大事なことを。
頭を回転させ、なんとか良い感じの言葉をひねり出す。
「こほん。〈エデン〉が北エリアを制したと報告があった。北エリアにはAランクギルド最強の一角〈ミーティア〉が居たが、陥落した模様だ」
みんな聞いて! 〈ミーティア〉が落ちた! あの〈ミーティア〉が〈エデン〉に負けてるの! むっちゃ負けてるから!
俺はAランクギルド最強の一角という言葉を強調し、ギルドメンバーたちに危機感を抱かせる。
Aランクギルド最強は〈エデン〉だし、〈獣王ガルタイガ〉もガルゼ先輩が出ていったために弱体化はしたけど十分強豪ギルド。でもそんなもの置いといて、ものは言い様だ。〈ミーティア〉は強かった。なのに〈エデン〉に試合開始からたった数十分で負けた。
その事実を受け止めてほしい。
すると俺を見るみんなのキラキラとした視線が増した。え、なぜ!?
「もちろんカイエンさんには秘策がありますよね! 全てはカイエンさんの予想通りなんですから!」
カララがみんなの心を代弁する。え?
いや、想定していたのは事実だし、確かに対抗する準備もしていた。
だけど予想していたのと対抗できるのは別なんだよ?
――いや弱気になってはダメだ。俺は堂々とみんなに宣言する。かっこいいポーズも忘れない。
「カララの言うとおりだ。〈エデン〉は少し焦りすぎた。この短時間に2つのギルドを落としたのだから消耗は激しいだろう」
うん。これは当然だ。短時間で戦闘するとMPの自然回復を始め、クールタイムすら回復しきってないのに連続で戦うハメになる。
これがかなり被害が増す原因で、強いスキルや魔法を使えないために苦戦し被ダメージが増える。
それに相手は経験豊富な〈ミーティア〉。常に攻撃の姿勢を持つあそこは最初に〈ハンマーバトルロイヤル〉がやられたときにすぐに〈エデン〉へ勝負を挑んだに違いない。
詳しくは〈見晴らしの黒猫・カルア〉さんの妨害で探れなかったがまず間違いないだろう。
〈ミーティア〉は奇襲が大得意だ。しかも大火力をぶつけるものだから被害は甚大になることが多い。この条件下なら〈エデン〉にも少なからず被害を出した……はずだ!
それは希望的観測だが、ポーション類は確実にかなり使っただろう。
自然回復を待たずに連戦したのだから。
そして、ここがポイントだが、〈エデン〉は北エリアを制し1ギルドになった。
さらに南西はまだどこのギルドも退場していない。なぜか?
「ここ南西エリアではすでに同盟作りに成功している。〈サクセスブレーン〉は〈獣王ガルタイガ〉、そして〈カオスアビス〉と手を組んだ! 対〈エデン〉同盟がすでに整っている!」
「「「「おおー!!」」」」
そう、同盟を組んだからだ。
〈エデン〉を相手にするのだから単体ギルドじゃ勝てない! なるべく多くのギルドと同盟を組むことが重要だ。
「北エリアは〈エデン〉1ギルドだ! 確かに今はポイントで負けてはいるが、3ギルドで戦えば勝機はある!」
「「「「おおー!!」」」」
ここで「勝利は我らのものだ」と言えればかっこいいんだが、多分3ギルドでやっと勝負になるんじゃないかな? というのが俺の予想だ。嘘は吐けない。ごめんよみんな。
全部〈エデン〉が強すぎるから、成長度が半端じゃなさすぎるから予想が付かないんだ。
合同攻略の時も意味分かんない強さだったけど、多分、あの時よりもっとわけわかんなくなっていると思うんだ。
南西エリアは3ギルドで同盟を組んだ。対〈エデン〉同盟だ。
俺が直接他のギルドに出向くことでなんとか話がついた。マジ何度やられるかと思ったか分からない。
〈獣王ガルタイガ〉は傭兵ギルドだから十分な報酬さえ用意すれば組むことは可能だと分かっていたが、問題は〈カオスアビス〉だ。
組むことは何とかなったが、指揮下に入れることは出来なかった。つまりは対等の関係。
こっちが戦うとき、もしくは〈カオスアビス〉が戦うときは一緒に戦う。〈エデン〉相手で足の引っ張り合いは御法度。〈エデン〉が倒せるまで同盟は続くと約束は取り付けたが、連携はほとんど出来ないと言っていい。だが、ひとまずは協力を取り付けられたことを喜ぼう。
こうしてようやく南西エリアの協力を取り付け掌握したかと思えば、北エリアの戦闘が終わっていた。今ここだ。
くっ、北エリアの〈ミーティア〉への協力要請はカルアさんの妨害で交渉自体出来なかったのが痛すぎる。ハイド系や妨害系を使わなければ〈竜軍のヘカテリーナ〉さんに捕捉され、インビジブル系が無いとカルアさんと眷属の黒猫に発見されるとか無理! 北エリアの防諜が堅すぎる!
ならば南東エリアのギルドを同盟に加えるしかないわけだが、しかし南東は現在それどころでは無く、〈氷の城塞〉&〈集え・テイマーサモナー〉VS〈筋肉は最強だ〉の戦いを繰り広げている。
介入するにしても〈筋肉は最強だ〉は絶対に同盟には頷かないだろう。あそこはそういうギルドだ。
となると〈氷の城塞〉と〈集え・テイマーサモナー〉と協力し、〈筋肉は最強だ〉を倒さなければいけないわけだが、あのトラウマ製造機ギルドと戦うとか〈エデン〉戦の前にとんでもない損耗を強いられそうで足踏みしてしまう。
その時、また連絡が届いた。ピロリン♪と電子音が響く。
「『暗号受信』! 『電脳解析』!! これは――〈筋肉は最強だ〉が落ちた!」
「「「「なんだってーー!!」」」」
その報告に度肝を抜かれて全員でスクリーンを見れば、〈ミーティア〉が陥落する前に〈筋肉は最強だ〉が落ちていることが分かった。
南東エリアの戦いは〈氷の城塞〉と〈集え・テイマーサモナー〉の勝利。正直凄い。あのマッスラーズを2ギルドで倒すとかマジ凄いんだが!? マジか!!
正直〈筋肉は最強だ〉が勝ち残っていたら南東は放置決定だったが、〈氷の城塞〉と〈集え・テイマーサモナー〉が勝ったのならば話は別だ。すぐに接触を――。
そう思った時、またピロリン♪と俺の〈電脳機械〉から音が鳴る。スキルによる通信だった。
「『〈エデン〉が10人以上の部隊で南東へと向かった模様! このまま行けば〈氷の城塞〉の拠点へとぶつかります!』」
そんなことが書かれていてクラッとした。
〈エデン〉、もう動くの? 早くない!? 回復は!?
〈ミーティア〉から受けたダメージとかはどうなったの!?
まさか無傷ってことは無いよね!?
これでは南東の〈氷の城塞〉と〈集え・テイマーサモナー〉が交渉する前にやられちゃう!?
今から助けに出向き介入するか!? しかしこちらは完全に出遅れている。今から3ギルド態勢で向かっても包囲が完成する前に躱される可能性が高い。
どちらかのギルドは助けられるかもしれないが、その時は〈エデン〉は帰還し全員集結してしまうだろう。
この状況では各個撃破が出来ないのであれば介入する意味は薄い。
ならば、逆に考えるんだ。今なら〈エデン〉の拠点を落とせる?
10名以上ということは、約半数と見て良いだろう。それが拠点を離れるのだ。今なら拠点は手薄。
これは今が攻め込む最後のチャンスかもしれない。〈エデン〉の拠点を落とさなければ、どのみち勝利はない。
俺はグルグル回転する頭で必死に考えを纏め、奥歯を噛みしめて決断した。
「報告が入った! 今〈エデン〉の半分近いメンバーが南東エリアに向かったとのことだ。これは〈エデン〉へ攻め込むまたとないチャンスだ! 3同盟を集める。〈エデン〉へ仕掛けるぞ!」
「キターーーー!!」
「おっしゃーーーー!!」
「やってやるぜーーーー!!」
ついに決断してしまった。
〈獣王ガルタイガ〉は今回俺たちに雇われる形で同盟に頷いてくれたし、〈カオスアビス〉も〈エデン〉に成果を見せると息巻いていた。
すぐに集まるだろう。幸いなのか、士気はこれ以上にないほど高い。
この決断が吉と出るか凶と出るか。
とうとう全ギルドで戦いが起ころうとしていた。




