#1167 〈ガンゴレ〉起動。筋肉の予想外の発想力。
〈筋肉ビルドローラー〉進化――〈真・マッスルビルドローラー〉。
筋肉はマッスルへと進化した(?)。
車体はなかなかに大きく車高は3メートル半。やけに高かった。
笑顔と煌めく歯を見せるランドル顔像を含めればもうちょっと高い。
車体の横からはそれぞれ1本ずつ巨腕が生え。なぜか筋肉ムキムキの逞しい腕をしている。
それはまるで学園を筋肉とトラウマで満たしたランドルの再来とも言える(かもしれない)馬車だった。
だが、残念ながら筋肉に馬車を操縦する技能は無い。
だから運転はできない。できない……はずだった。
それを筋肉たちは驚きの方法で解決した。
「これぞ新しいビルドローラー、〈真・マッスルビルドローラー〉の姿だーー!!」
アランが叫ぶ。
それは、一言ではとても表現しづらいフォルム。しかしそれでも表すのならば。
――馬車を、筋肉が担ぐ形態だった。まるで神輿のように。
筋肉では〈馬車〉を扱えない。そこで筋肉たちは考えた。俺たちが馬になれば良いじゃ無いかと。答えは神輿にあり。逆転の発想だ! 発想の勝利だ!
あまりに予想外過ぎる発想の着地点に、もしゼフィルスがこれを知ったらまた盛大なツッコミを飛ばしただろう。間違いなかった。
「わっしょい!」
「わっしょい!」
ほら、わっしょい聞こえる。
完全に神輿だった。担がれているのはランドル(?)。
「な、なに。あれ?」
「知らないわ」
思わぬ形態にカリンが疑問の言葉を呟くとエイリンがバッサリと切った。
しかし、話には続きがあった。
「だけど、強力なものには間違いないでしょ。あの筋肉たちのすることよ?」
「だ、だよね!」
エイリンの言葉に気を引き締める面々。
本来なら「なんだありゃ、遊んでいるのか?」と気が抜けそうな場面でしっかり気を引き締められるのは、筋肉たちがそれほどやらかしてきたからという信用がものを言っている。いやな信用だった。
筋肉のすることなら、それがどんなとんでもなく突拍子もないことでも警戒せよ。
それが現在の3年生の筋肉に対する共通認識だ。
実際、スクラムを組んだだけという〈筋肉ビルドローラー〉に粉砕されたギルドは多い。
まだ筋肉まで3マス離れているため攻撃こそできないが、正直打って出るか迷う場面。
だが、そうして打って出て返り討ち&トラウマを植えられた人は多いのだ。
〈集え・テイマーサモナー〉と〈氷の城塞〉は当初の作戦通り、ここでしっかり防御と時間稼ぎの準備を進め、自分たちから打って出るということはしなかった。
そこへ、筋肉たちが動き始める。
「筋肉! 筋肉!」
「わっしょい! わっしょい!」
「「「うおおおおおおお!!」」」
走る筋肉たち。その動作は走ってなお揺るぎない。全員の息がぴったりはまっているのだ。よく訓練されている。
神輿を担ぐがごとく、彼らは〈ガンゴレ〉を担いで揺らす担ぎ手、肩に載せているのは太い棒。馬車からは神輿を担ぐための長い担ぎ棒が伸び先端は金属で覆われていた。
普通の神輿よりずいぶん太いそれは、見方を変えれば衝角にも見えて。それが3本前方に付いていた。
「!! まさか、〈攻城兵器〉なの!?」
「防壁を破壊する気!?」
「ちょ、あれ、思ったよりも怖いよ!?」
「顔! 顔! 顔おおお!!」
「圧迫感がすごいぃぃぃ!?」
レイテルが気が付き、エイリンが叫び、カリンが見た目の恐怖におののいた。続いてメンバーたちが近づいてくるマッスルに恐怖する。
見方によれば、巨大化したマッスルが筋肉集団に担がれて迫ってくるように見えるのだ。割と恐怖であるのもわかるだろう。
そして、レイテルが気が付いた通り、筋肉たちは馬車を攻城兵器へと発展させていた。
それは前回のAランク戦〈拠点落とし〉の際、〈エデン〉の防壁の前になにも出来ず敗北したが故に思い立った戦術だ。これからの時代、攻城兵器がなければ勝てない。筋肉たちはそれを筋肉で察したのだ。
そしてこの〈ガンゴレ・マッスルバージョン〉には様々な機能が組み込まれている。
「! 〈集え・テイマーサモナー〉、行くわよ!」
「「「おおー!!」」」
「準備して! 1マス隣接で上空から攻撃!」
「了解です!」
「今!」
「「「『テイムスキルブースト』!!」」」
今回、〈集え・テイマーサモナー〉が連れてきたメインモンスターは何種類かに分けられていた。
まず主力の〈ワイバーン〉。これは2体が進化に成功し、カリンともう1人の上級テイマーが操っている。
続いて下級職用の飛行型として、フェアリー種をメインに加えている。
ボスのフェアリー種を連れている者も多い。
他にも鳥型や樹木型など、バリエーションを多くして多くのことをカバーできるようにしている。
これは合同攻略の際に〈集え・テイマーサモナー〉が〈ベビーワイバーン〉に頼りすぎて最奥ボスで大苦戦したことが経験となっていた。
強い種族だけではダメ。何があっても対応できるよう多くの種類を用意しておくことが重要だと学んだのだ。
そして要塞から1マス隣接地帯に筋肉が入った瞬間テイムモンスターたちがあらゆる属性の攻撃を上から浴びせた。
「「「「放てーーーー!!」」」」
「「「「うおおおおおおお!!」」」」
「〈氷の城塞〉も続くのよ!!」
「「「「倒れろおおおおお!!」」」」
次々と襲い来る攻撃に、しかし走り続ける筋肉たち。
「止まらない!? あれだけの攻撃を続けざまに受けたのに!?」
「カリン見て!」
「ちょ!?」
そこでカリンとエイリンは見てしまう。
馬車に乗り込んだ筋肉が〈回復薬の息吹〉を使っているのを。
〈回復薬の息吹〉は範囲回復アイテム。ドロップ品なら1度使うと周囲のメンバーのHPを300回復する効果がある。ハンナ産では――630回復する。もちろん使っているのはハンナ産だ(重要)。
筋肉たちは馬車の中から高級な回復アイテムを惜しげも無く使い回復しながら突撃してきたのである。
「そんなのって有り!?」
回復というのは本来コストが高く、かつ使用者は狙われやすい。
しかし、〈ガンゴレ〉を壁にしていれば狙われず、安全に回復をすることが可能になるのだ。
アイテムなのでクールタイムが無いのも便利。
アイテムを味方につけた筋肉たちが猛威を振るっていた。
「馬車を破壊しなさい! あれは装備していないわ! 破壊出来るはずよ!」
エイリンの言葉に狙いを筋肉から馬車へと変更する。
今まで馬車を破壊出来たという話は聞いたことが無い。
しかしそれは装備されていてHPバリアに守られていたからだ。ダンジョンオブジェクトですらないただの武具は装備していなければ強い衝撃などを与えられれば壊れる。
攻城兵器も破壊出来て一石二鳥だ。
しかし、馬車の破壊なぞ、筋肉にはお見通し。
「筋肉バリアで防御しろ!」
「「「おう!」」」
筋肉、神輿に乗る。
筋肉バリア、またの名を肉壁とも言う。
そして筋肉で攻撃を弾き始めた。減ったHPもアイテムで回復である。
「ちょ、あの筋肉全然攻撃が効いてない!?」
「どんだけ回復アイテム持って来てるの!?」
「くっ、馬車の破壊も無理そう、足を狙ってみたけどこっちも筋肉に弾かれた」
「なら、私の出番ね! 足下を凍てつかせて――『氷の大地』!」
とうとう防壁のマスへ迫ってきた筋肉の足下を狙い、レイテルが『氷の大地』を発動した。
これはAランク戦で〈表と裏の戦乱〉の攻城兵器部隊をスリップダウンさせて止めた実績がある強力な魔法。
今回も足を滑らせ、転倒させる狙いだった。
しかし、筋肉は〈表と裏の戦乱〉を軽く超えてくる。
「踏み潰せ! 氷は足で粉砕しろ!」
「「「応!!」」」
『氷の大地』が魔法である以上、壊されれば消えてしまう。
筋肉たちはその逞しい足で地面の氷を踏み潰し、粉砕したのだ。
とんだ力業である。スリップしてしまった者も担ぎ棒に掴まっていて倒れない。
「嘘!?」
そしてそのまま衝角突撃。
「だめ、止められない! みんな衝撃に備えて!」
「大丈夫! この防壁は上級品よ! ちょっとやそっとじゃ破壊されないわ!」
カリンの警告にレイテルが落ち着かせる。
そうこの防壁はクラス対抗戦の時よりもバージョンアップしている上級品。
これを作り上げたドワーフ2名も上級職である。
筋肉と言えど、攻城兵器と言えど、簡単に破壊出来るような物では無い。
そう思っていた。
しかし、筋肉を甘く見てはいけない。
「今だ! 筋肉を躍動させよ!」
「「「「うおおおおおおおお!!」」」」
衝撃が来ると思った瞬間、筋肉たちが馬車を持ち上げた。
「な!」
「ええ!?」
実は衝角突撃はブラフ。
持ち上げられた〈ガンゴレ〉の、さらに逞しい巨腕が防壁の安全柵を掴んでしまう。これは人力。巨腕を筋肉たちが持ち上げ、まるでフックの様に引っかけたのだ。両腕とも。
「「「「筋肉!」」」」
――――ガシャン!
「「「「筋肉!」」」」
――――ガシャン!
「真・マッスルドッキング!!」
ドッキング完了。
外から見ればランドルの腕が城壁の上に手を掛け、掴まっているように見えるだろう。そしてそれは城壁にくっついた階段にも見える。
アランのセリフにランドルの顔像が上へ微笑んだ気がした。
「今だ! 登れ登れー!」
「蹴散らして!! 登らせないで!」
まさかの事態。
そう、このガンゴレは相手の防壁を破壊するための馬車ではない。
これは――攻城塔。
防壁を登るための馬車だったのだ。
さらに持ち上げていた筋肉たちは馬車の持ち手部分だった担ぎ棒を折り曲げて地面に直立する柱にしてしまった。馬車の後方にははしごを並べ、次々筋肉が登っていく。車体からガンゴレの巨腕へと登り、そのまま防壁の上へと進む筋肉たち。
これぞアランたちが考え抜いた対〈エデン〉戦術にして対要塞作戦。
筋肉による侵攻が始まった。




