#1154 あのゼフィルスが度肝を抜かれる衝撃商品現る
マリー先輩と一通り笑い合うと店を出た。
続いて向かったのは同じく〈B街〉にある生産ギルド〈彫金ノ技工士〉だ。
とはいえこちらからは依頼を受けてはいない。むしろこちらが依頼をする側だ。
以前レシピを持って行った〈頑装甲車・ブオール〉の進捗状況を聞いておこうと立ち寄ったのだが、そこで思わぬ相手と遭遇した。
「ん? ようゼフィルスじゃないか! 今日も良い筋肉だな!」
「アランか? 珍しい所で会うな」
〈彫金ノ技工士〉の店の前に居たのは現Aランクギルド〈筋肉は最強だ〉のギルドマスターに就任した若きエリート(?)、2組のアランだった。
筋肉流の挨拶はスルーしてアランの方へと向かう。
いや、マジでアランが〈彫金ノ技工士〉へなんの用だろうか?
彼ら【筋肉】職は装備を着けないほど強くなる特性のおかげで装備は必要無い。故に〈彫金ノ技工士〉へ来る用事も無いはずだが。
とアランに近寄ったところで店からケンタロウが出てきた。
「あれ、ゼフィルスさんっす! こんにちはっす! 今日はどうしたんっすか?」
「ようケンタロウ。いや、アランを見かけたからちょっと話をな」
「そうだったっすか。どうするっすアランさん、物は後で見せるっすか?」
「いいや、今でいい。むしろ今が良い。ゼフィルスにも意見が聞きたいしな」
「あ、そうっすね! 良いアイディアっす!」
「なんだなんだ?」
おっと、何やら珍しい展開。どうやら俺の意見をご所望らしい。
ふっ、いいだろう。任せたまえ。アドバイザーとして完璧な意見を送ろうではないか! そう思っていたのだが……。
――アランとケンタロウが用意した物は、俺の想像を軽い足取りで超えてきた。
案内された駐車場にあったのは、〈エデン〉がケンタロウに作製を頼んだ馬車、〈無人腕車ガンゴレ〉。馬車の側面にゴーレムの腕が付いて車輪を回して自動走行してくれる画期的(?)な馬車だ。
ここまではまだ良い。だがそこからがヤバい。
ガンゴレの車体の上に何かが乗っていたのだ。
「〈ガンゴレ〉の上にですね、マッスル先輩の顔像を着けてみたんですよ!」
「なんてもん着けちゃったの!?」
「正面から見てみろゼフィルス。マッスル先輩が逞しい腕で車輪を回して迫ってくるように見えないか?」
そこにあったのは〈ガンゴレ〉。
しかしその車体の上に先月卒業してしまったランドル先輩の顔像が取り付けられたことにより、とんでもない姿へと変貌していた。ゴーレムの腕がランドル先輩の筋肉に見える!?
顔像がやけに歯を煌めかせた笑顔なのが逆に怖い。マジで〈ガンゴレ〉がランドル先輩にしか見えなくなってきたんだけど!? え? これで迫ってくんの?
「いやいや、なにこれ! なんだこれ! なんだこりゃー!!」
「いやぁ良いリアクションが見れてよかったっす!」
「ああ。やはりマッスル先輩の顔を取り付けたのは間違いじゃなかった!」
どう見ても間違いにしか見えない!?
こんだけ俺がびっくりしたのは初めてのことかもしれないぞ!?
「なんでこんなことに!? 俺の知ってる〈ガンゴレ〉が別物になってる!?」
「いやぁ正面からガンゴレを見ると、腕の生えた馬車が車輪を手でこぎながら走ってくるという割とカオスな映像になったので、いっそイメチェンしてみたんっす!」
「イメチェンの方向間違えちゃった!?」
「ケンタロウが困っていたからな。俺も相談に乗っていたんだが、ハンナ様から受け取ったマッスル先輩のゴーレムを見て「これだっ!」と閃いたんだ。おかげでこんなに素晴らしいものができた」
「アランの仕業かー! 「これだっ!」――じゃねぇし!」
それ間違った閃きだから! 信じちゃダメなやつだから!?
見ろよあの馬車! 余計カオスになってんじゃねぇか!
ただ馬車の上にランドル先輩の顔を置いただけなのに、ビフォーとアフターの差がヤベぇ!?
「混沌!!」
なんか今オスカー君の声が聞こえた気がしたぞ!?
これいったいどうしよう!?!?
俺はあまりのインパクトに〈ブオール〉の進捗状況を聞くのを忘れた。
結局あの〈ガンゴレ・マッスルバージョン〉はオプション販売されることになった。
希望する人にはランドル先輩の顔像を取り付けてくれるのだ。
売れるの、かなぁ?
個人的にはもっと取り付けるべきものが他にあると思うんだ……。
ケンタロウ、上級職の初仕事が本当にこれでいいの?
黒歴史にならないことを願うんだぜ。
……確か、〈彫金ノ技工士〉もAランク戦〈作品コンテスト〉に参加するはずだが、あれはコンテストには出さないよね?
「ふう。なんか疲れた」
これが気苦労?
いえ、ただのツッコミ疲れです。
俺にここまでツッコミを入れさせた人は初めてじゃないか?
その日はなんだか疲れてしまいそのまま帰ることにしたのだった。
それからも忙しく過ごして3日後。
とうとう〈学園春風大戦〉、Sランク戦の日がやってきた。
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