#1148 学園長とフィリス先生、入学式で頭を抱える?
入学式。
それは新入生を学園に迎え入れ、職業獲得を促す重要な儀式。
ここが運命の分かれ道と言う者がいる。
ここが今までの努力の結果が分かる日だと言う者もいる。
そんな重要な、今後の学生の身の振り方を左右する重大な儀式が本日行なわれる。
今年16歳になった若人たちが、職業の獲得に心を躍らせ、次々と〈竜の像〉へと触れていく。
表示されるのはジョブ一覧。
それを見て興奮する学生、心躍らせる学生、盛り上がる周囲。
だが、毎年盛り上がるこの日だが、今年はどこか違った。
「「「うおおおおおおお!?」」」
「学園長、またあそこで盛り上がりが、また伝説級の職業が出たようです!」
「伝説の職業多くない?」
フィリス先生の言葉に思わずツッコミを入れてしまった学園長は悪くない。
だって先ほどからポンポン伝説級の職業が出てくるのだから。
確かに母数が多ければそれだけ発現する確率は高いだろう。
今年は例年の2倍以上の新入生を受け入れているため、伝説級の職業に就く学生の1人や2人が出ても不思議は――いややっぱりおかしい。
そう簡単に出ないから伝説級なのだ。そんなポンポン出てたまるかというのが正直なところ。
しかし、それが本当にポンポン出てくるのだから学園長が思わずツッコミたくなってしまう気持ちも分からなくはないだろう。
「のうフィリス、今ので高位職は何人目じゃ?」
「え? えっと、高位職に就いたのは――103人目ですね」
「多くない?」
「多いですよ。だから研究所の人たちが走り回っているんじゃないですか。とはいえミストン所長たちは喜んでいますけど」
「……ワシら、まだアリーナを開放していないはずじゃったのに、みんなモンスターを狩ってきているということかのう? 今年の学生は殺意増し増しじゃ」
学園長はそう言ってまた虚空を見つめる。まあ見えるのは体育館の天井だったが。
事実、学園はこの入学式の後、5月までの間アリーナを開放して希望する学生にモンスターを倒させる準備を進めていた。
入学式の前にしないのは彼ら彼女らのこれまでの努力を否定しないためだ。
新入生の中には、それはそれは血の滲むような努力をしてきた者が何人もいる。
例年アリーナを開放しなくても高位職に就ける学生が20人から30人に1人くらいはいたのだ。
そんな彼ら彼女らの努力の結果が分かる今日、まずは結果を見せなくてはならないというのは学園の義務だ。
結果が分かり、今までの努力で足りなければ学園が補助すれば良い。
足りていれば今までの努力を誇り、自信を持って高位職に就けば良い。
学園とは学生の成長の場だ。しかし、なんでも手助けすれば良いというものじゃない。
だからこそ、アリーナを開放し、スライム狩りをさせつつ研究するのは今日の午後からとなっていた。
なのにこれはどういうことだろう?
学園長が急いで学生の集まる場所を回って〈戦闘5号館〉に戻ってきたらもうこの有様だったのだ。
高位職の職業のオンパレードである。大バーゲンである。伝説級の職業まで出ているのである。
本当にどういうことだろうね?
「あの子たちは先日ゼフィルス君から何やら教え込まれていたという報告が入ってきています」
「またゼフィルス君か。【勇者】がすることはなんでこう、津波のごとしなのじゃろうかのう?」
「せめて波紋と言ってください学園長。津波だとみんな流されてしまいますよ」
「引き込まれるとも言うのう。何もかも押し流されて引き込まれて【勇者】色になって帰ってくるのじゃ。どうじゃ? 上手い表現じゃろ?」
「そうですね。学園長が現実逃避をしていることはわかりました。現実を見てください」
「……フィリス、1年でずいぶん言うようになってしまったのう」
去年までのフィリス先生と今のフィリス先生。
この成長を喜ぶべきか悲しむべきか、学園長は憂いた。やはりちょっと悲しいらしい。
またゼフィルスが何かして伝説の職業や高位職に就く学生がたくさん出まくっている。
まだまだ【勇者】しか知らない秘法があるのだとわかってしまい学園長はまた頭を抱えた。
「学園長。お疲れ様です」
「ふぅ、分かっておるのじゃ。学園も負けては居られん。総力を持って学生たちに良い未来を作って行く! 気合いを入れるぞぃ」
現実逃避もそこまでにして学園長は立ち上がる。
この1年で膨らみに膨らみまくった研究所のメンバーを総動員し、職業の謎の解明のために動き出す。
どうやら今年は去年並、もしくはそれ以上に忙しくなりそうだった。
第二十四章 ―完―




