#1144 勧誘アウト! ゼフィルスの言葉は怪し過ぎ。
スカウトはわりと難航した。
人数を増やしたはずなのに、もしかしなくても昨日よりも効率が悪かったかもしれない。
「やあお嬢さん、ちょっと俺とお話しませんか?」
「え? あの、え?」
「アウトよ」
「なにやってるのかなゼフィルス君?」
こんな感じで、俺が女子に話しかけるとシエラとシャロンが待ったを掛けてくるのだ。
「いいゼフィルス? 相手は後輩よ? 先輩からいきなりあんな風に話しかけたらダメでしょう? 色々な意味でアウトよ」
「そうだね。シエラさんの言う通りかな。うん、それにあれで寄ってくる子なんてみんな不合格だと思うなぁ」
おかしいな。シエラとシャロンの目が厳しい。
とても丁寧に話しかけたつもりなんだが。
ということでやり直しだ。
「俺と話をするだけで君がなりたい職業に就かせてあげよう! なんでもだ。さあ、なにに就きたいんだ? なんでも言ってみてくれ!」
「えっと?」
「アウトね」
「それもちょっとなぁ。――ごめんね君、気にしなくていいから」
「あ、はい。それじゃあ、失礼します?」
おかしいな。
これもアウト判定が出た。
向こうにも益のある話だと思うんだが。
「ゼフィルス、怪しすぎるわ。何か怪しいギルドの勧誘以外のなにものでもなかったわ」
「う~ん、あれで入ってくる人もちょっとなぁ。というか今までこんな風にスカウトしていたの?」
「いや、昨日まではなんていうかな、俺が声を掛けるまでも無かったというか」
「詳しく話して」
ぐいっと身を乗り出すように聞いてくるシエラに頷いて話す。
昨日までと今日では明らかな違いがあるのだ。
だって昨日までは俺が受付の側に行くだけで何やら黄色い声が轟き、受付を済ませた人たちが次々話しかけてきたからな。俺から話しかけるまでもなかった。
だが、昨日はさすがに人が多すぎて参った。
話しかけてくる人がノーカテゴリーばっかりで、いざシンボルを持つ子がいたときに話しかけにいけなかったのだ。
俺が人手が足りないと思った理由でもある。
「だから今日みたいに俺に突撃してこないなんて想定外だったっていうかな。なんでかな?」
「それは私たちが目を光らせているからでしょう」
「まさかゼフィルス君が1人で行動していたなんて。そんなの猛獣の巣に出来たてホヤホヤのサーロインステーキを放り投げるようなものだよ。もちろんゼフィルス君がサーロインの方ね」
どうやら今日俺が取り囲まれないのはシエラとシャロンのおかげらしい。
「やっぱり来て良かったわ」
「危なかったねぇ。危うくとんでもないことになる所だったよ」
シエラとシャロンが向き合って深く頷いていた。
俺はどうやら危うかったらしい。
確かに、あの俺を囲っていた人たちがあれ以上増えたら……いや、所詮はまだ覚職もしていない学生だ。余裕で切り抜けられると思う。
そんなことを考えていると、誰かが俺たちに話しかけてきた。
「あら? もしかして、シャロンではないですの?」
「あ! サーシャじゃない!」
おっとどうやらシャロンの知り合いらしい。
振り向いたシャロンが顔を輝かせると手を振って駆け寄った。
「サーシャ、長旅お疲れ様、ようこそ迷宮学園へ」
「ありがとうシャロン。こんな人混みに1人で心細かったですの。最初に会えたのがシャロンで嬉しいですの」
「私も嬉しいよ」
どうやら相当仲の良い友人のようだ。
そのままこちらへとやってくる。
「サーシャに紹介するね。私の所属するギルド、〈エデン〉のギルドマスターゼフィルス君とサブマスターのシエラさんだよ」
「!! あの有名な〈エデン〉ですの! それもギルドマスターとサブマスターですの!? わ、私はサーシャと言いますの! お見知りおきくださいですの」
シャロンの軽い紹介に一瞬で度肝を抜かれたみたいな表情をしたサーシャという女の子。
しかし、すぐに持ち直してお辞儀して挨拶してきた。
相当厳しく躾けられたのかもしれない。
「サーシャ? あの有名な伯爵家のサーシャ嬢かしら?」
「あ、シエラ先輩って王家の盾のシエラ先輩ですのよね? 会えて光栄ですの!」
おっと、何やらシエラもご存じらしい。有名な家の子なのだろうか?
ちなみにサーシャと名乗ったこの子は胸に「伯爵」のシンボルである〈白の羽根飾り〉を付けていた。
腰まである桃色系の髪をウェーブにし、髪の色より少し赤に寄った瞳を持つお嬢様という姿。
その身長は小柄だ。
ロリ、とまではいかないがラナよりは小さい。その独特な口調のせいもあるのかもしれないが、少し幼いイメージを受ける子だ。
「2人とも知っているのか?」
「ええ。サーシャの家は代々〈氷属性〉の職業持ちを多く輩出する名家なの」
「ほう! 〈氷属性〉の名家なのか! そりゃ凄いな!」
「それほどでもありますの」
えへんと胸を張るサーシャ。
「貴族」関係の職業にはそれぞれ得意の属性がある。
例えば「侯爵」なら〈火属性〉、「子爵」なら〈雷属性〉、「男爵」なら〈光属性〉、「騎士爵」なら〈聖属性〉と〈闇属性〉だ。「公爵」は〈無属性〉、つまり得意属性無しとなる。
そして「伯爵」は〈氷属性〉を得意とする。
Aランクギルド〈氷の城塞〉のギルドマスターレイテルも【氷城主】だったからな。
リカの姉であるリン先輩は【炎刀の戦武将】という〈火属性〉の武将で、同じクラスのラムダは【聖騎士】の上級職【カリバーンパラディン】という〈聖属性〉の騎士だったというところからも得意属性の傾向は分かるだろう。
なるほど、サーシャもそっちの属性系統の家なんだな。なるほどなるほど。
これは良い人材じゃないか。〈エデン〉には足りなかった人材だ。俺は即行でシエラとシャロンにアイコンタクトを取る。この子は合格か?
シエラはそのままシャロンを見た。シャロンが頷けばシエラ的にはありのようだ。
そしてシャロンは。
「ねぇねぇゼフィルス君、サーシャはどうかな? この通りとても良い子だよ?」
なんとシャロンは今日初めてお勧めしてきた。これは勝つる!
「なんの話ですの?」
「ふふん。実は今うちのギルドね、新入生スカウト週間なんだ。そしてサーシャを〈エデン〉にどうかって話をしているんだよ」
「ええ、ええ!? 私を〈エデン〉にですの!? あの上級ダンジョンを何カ所も攻略した実績があり、〈迷宮学園・本校〉でギルドバトル最強、プロリーグから熱心なアプローチが後を絶たないという〈ギルバドヨッシャー〉と互角以上に渡り合い、学園どころか世界中に旋風を巻き起こしている、あの〈エデン〉にですの!?」
サーシャの驚愕の言葉が凄い。
え? 〈エデン〉って世間からそんな感じに思われているの?
確か、学外にもその名を轟かせているとは以前聞いたことあるが、そんな大げさ……あれ? でも全部本当のことだな。ならいっかぁ。
「ま、実は最初からサーシャはお勧めするつもりだったんだよね。パーティで声を掛けてきた子って欲望凄い割によく知らない子ばかりだったし、その点サーシャのことは小さい頃から知っているから安心出来るしね」
さすがはシャロンだ。そういう理由なら何も問題無いな!
「それでどうかなサーシャ?」
「え? どうとは、ですの?」
「ふふふ、サーシャ、ギルド〈エデン〉に来てみないか? 歓迎するぞ?」
俺はそう極めて冷静に言ってサーシャを誘った。
「……なんでゼフィルスの言葉は、こんなに怪しいのかしら」
横でシエラがボソッと呟いた声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。




