#1143 スカウトマン集合。シエラたちと共に北門へ!
「俺は今日、スカウトに出る!」
「それ、昨日も言っていたわね」
4月に入ると学園が慌ただしくなってきた。
無論学園が新入生の受け入れを開始したからだ。
今年度から新入生の数を例年の倍に増やした。
実際は倍以上に増やしたらしいが、おかげで現在学園はてんやわんやだった。
多くの学生にクエストが発行され、学園はQPをばらまいてサポートを依頼している。
なかなか実入りが良いため、下位ギルドの人たちは挙ってこの依頼を受けているそうだ。〈エデン〉は受けていないが。
なにしろ〈エデン〉にはもう1つ、やらなければならない重要な使命があるのだから。
「ミサト隊員!」
「ここにいるよー」
「準備は良いか!?」
「準備おっけー」
「目的は新入生のスカウトだ。良さそうな人材がいればどんどん声を掛けていくぞ!」
「おー!」
そう。新入生のスカウトだ。
まだ来たばかりで入学も職業の覚職も済ませていない子たちではあるが、すでに戦いは始まっている。
お気に入りの子はなるべく早いうちから声を掛けてスカウトしないと持って行かれてしまうからな!
まあ、それとは別に職業のリクエストを聞いてアドバイスもしたい。
学園に強い職業持ちが増えるからな! そうすれば――ふはは!!
というわけでここ数日、俺はダンジョンに行くメンバーとは別行動を取り、スカウトマン担当のミサトと共に、新入生のスカウトへと乗り出していた。
そんな俺をシエラがジトッとした目で見つめてくる。思わずお礼を言いたくなるのを頑張って堪えた。
「また職業のアドバイスばかりしてスカウトを忘れないよう気をつけてね」
「いや、あれはちゃんとスカウトもしていたさ。ちゃんと詳しい話が聞きたければ俺を訪ねてこいって言っておいたからな」
「〈エデン〉を訪ねるよう言いなさいよ」
シエラのツッコミが吹雪だ。
おかしいな。確かに「俺を訪ねてこい」だとナンパになってるかも?
いや、きっと気のせいだ。
でも次からは気をつけることにしよう。
「こほんこほん。しかし、実はちょっと今困ったことになっているんだ」
「困ったこと?」
話を無理矢理変えて、俺はシエラに語った。
「実は今他の上位ギルドも勧誘に乗り出しているみたいでな。あと、日に日にやってくる新入生が増えていて、俺とミサトだけでは手が足りなくなってきているんだ。要は人手不足だな。そこで、今日は他に誰か付いてきてほしいんだ」
〈エデン〉が勧誘を始めたからだろう。
それを見た他の上位ギルドが猛烈にアピールをし始めたんだ。
このままでは優秀な人材が取られてしまう!?
それ自体は別に良いんだ。上位ギルドの力が上がってくれるのは喜ぶべきことだからな。
重要なのは、学園へやってくる新入生が日に日に増えていて、貴重な人材を逃してしまっていることなんだ。
このままじゃいけない。
そんなわけで相談してみたわけだ。
「なら、私が一緒に行くわ」
「いや、シエラはダンジョンの方を見ていてほしいんだが」
「行くわ。ゼフィルスを野放しにしておけないもの」
「俺は猛獣か何かかな!?」
シエラが珍しく強引だ。シエラが俺をどう思っているのか気になるところだ。
俺は紳士だぞ? 昨日だって幼女が一人歩きしていたのを道案内したのだ。
「ゼフィルス、俺も同行しよう」
「おおメルト。助かるぜ。でも珍しいな?」
「知り合いが今日到着するらしい。少し声を掛けてみようと思う」
「知り合い!? 誰? 伯爵か!?」
「……そうだな伯爵だ。まあ男子だが」
「男子の、伯爵か!」
さすがメルト! メルトさすが!
交流関係が広い! 素晴らしい!
「伯爵」が増えるとか大歓迎だ! しかも男子だとよ!
ってそうだよ! 知り合いがいたらメンバーに声を掛けてもらえば良いじゃん!
〈エデン〉ってカテゴリー持ちが多いしな! ナイスアイディアだぜ!
そうだ。確か冬休みに帰省したラナたちが〈エデン〉について色々聞かれたって言ってたっけ! その話はどうなったんだ!?
「セレスタン!」
「ここに」
「冬休みに話していた〈エデン〉に来たがっている貴族の子女の件はいったいどうなった!?」
「そうですね。予想通り半分くらいは応募に落ちてしまったようですが、多くの貴族の子女が学園に来ることになっております。さすがにいつ到着するかまでは分かりませんが」
さすがセレスタンだ。予想通りとは恐れ入る。あと到着する日程まで知っていたら逆に怖いから知らなくていいぞセレスタン。
しかし、そうなると困ったな。どこの誰が言っていたのか、〈エデン〉に加入したがっているのか分からん。まあ、分からないなら分かる人に聞けば良いのだ。
「ラナ、今の話の人たちを覚えているか?」
「覚えてないわよ?」
…………覚えてないのかよ!?
どういうことだ!?
あまりにも自然に答えるものだから一瞬脳がフリーズを起こしかけたぞ!
「でも大丈夫よ。私の代わりにノエルとシャロンが覚えているわ。そうよね?」
「うん。知り合いも多いし大丈夫だよ」
「王都のパーティで話す人は大体顔分かるからね」
ラナの振りに胸を張って答えるノエルとシャロン。
マジ助かる! そうか、王都住まいだって言ってたっけ。ここはノエルとシャロンにもご助力を願おう。
「ノエル、シャロン。是非スカウトに協力してくれ」
「いいよ~」
「くす。がんばるね」
「助かる! ――他に何か貴族の子女関係で知り合いが来るとかそんな話を持っているメンバーはいないか!?」
そう、ギルドメンバーに振ると、アイギスが手を上げた。
「それでしたら、私の妹が今年入学することになっています」
「アイギスの妹! ということは騎士か!」
「はい。なのですが、どうも到着が遅れているようで、入学式に間に合わなさそうなんです」
「ええ!? それ大丈夫なのか?」
騎士が仲間になる! とテンションを上げたら大変な事実が発覚。入学式に間に合わないって大丈夫なのか!?
「大きな土砂災害で道が使えなくなって迂回したみたいですね。到着は数日遅れの予定ですが、これくらいなら心配はいりません」
「入学式は間に合わなくても大丈夫なのよゼフィルス。シズとパメラも遅れてたじゃない」
「あ、そういえば確かに」
アイギスの言葉にラナが補足をしてくれる。
そういえばシズとパメラは遅れて学園に来ていたな。
後で知ったのだが、割と入学式に間に合わないという学生は出るらしい。道がふさがっていたとかトラブルが起こると数日遅延することはざらなんだとか。
いや数日遅延ってすげぇな単位が。
結局アイギスの妹は到着してから話を進めることに決まった。
他に知り合いやお勧めしたい人は居ないようだ。
そんなわけで、今日は俺、シエラ、ミサト、メルト、ノエル、シャロンの6人でスカウトへ向かうことになった。
新入生の受付は停留所の近くで行なわれている。
学園都市である〈迷宮学園・本校〉は防壁に囲まれている円形の都市で、東西南北の門から出入りすることが出来る。
受付は4箇所、東西南北に設置されているが、その中でも一番新入生が多く来るのが北門だ。俺たちもまっすぐに北門へと向かう。
北の方角には馬車で2日の距離に王都があるからな。途中に宿泊できるところもあるし、道も整っていて学園行きの馬車も出ている。
つまり交通整備が一番整っているのが北なのだ。
だが、俺たちが北門へと向かう理由はそれだけじゃない。
「学園に入学する貴族の子はまず王都に立ち寄って観光してから学園都市に来るというのが通例になっているから。狙いは北一択だね」
「私たちに来年〈エデン〉に加入したいって言ってきたり、私たちに口添えをお願いしてきた子は、王都住まいの子が多かったからここで待っていれば大丈夫だよ」
そう、ノエルとシャロンのお墨付きも理由の1つだ。
もちろん絶対ではないものの、〈エデン〉に加入を希望している貴族の子の多くが北門からやってくる。この情報だけでここで張っている理由になるな。
続々と新入生が受付を済ませてやってくるのを見定める。
「んじゃ、行ってくるねー」
「それじゃ私も」
まずミサトとノエルを放った。
メルトは「受付に知り合いが来るまでここで待ってる」と言って受付付近で別れた。
シエラは俺の見張りだって言って付いてくる気だ。
シャロンも俺と行動だ。目当ての子がいれば俺に紹介してくれる役目らしい。
そんなわけで俺たちは3人行動。
周りをよく見渡し、何かのシンボルを持っていないかを秒で確認して行く。
名付けて〈シンボル見極め術〉だ。ここ数日で得た術だ。
早く見つけて勧誘しないとどこか行ってしまうかもしれないし、他のギルドのスカウトマンだっているんだ。早い者が有利なんだ。
「筋肉になりたい者はいないかー? 筋肉はこちらだ」
筋肉はこちらだ?
その声に反応して振り向けば、この寒い中タンクトップ姿のアランが歯をキラリと輝かせながら決めポーズを取って勧誘していた。
むっちゃ筋肉が膨らんでいる。
それにふらふらと寄っていく男子たち。
ああ、また筋肉の犠牲者が。
まあ、貴族男子じゃないなら別にあれは問題では無い。
「えっと、凄い光景だね」
「そういえばシャロンは初めてだったか。見ての通り勧誘する人が増えているんだ。俺たちも負けていられないぜ」
「あれは本当に勧誘だったのかしら? 絶対違うと思うのだけど……」
シャロンとシエラが困惑の表情だった。
しかし、あれは今は卒業してしまったランドル先輩流のスカウト術らしく、一定の成果を出しているようなのだ。なんであれで集まってくるのかは分からない。
筋肉にそこまでの魅力があるのかは定かでは無いが、スカウトマンが増えているという認識はこれで出来たと思う。
さあ、俺たちも張り切ってスカウトするぞ!




