#1141 アリス、キキョウ、ゼルレカの学園入寮!
「うう~ん、やっと手続き終わったね?」
「まさかあんなに並ぶとは思わなかった」
「アリス、キキョウ、大丈夫か? あんたたちは小さいからしんどかったんじゃないか?」
「小さいのはゼルレカも同じでしょう」
とある新入生のロリ3人組がいた。
1人はロリというよりもう幼女。「子爵」カテゴリーのシンボル〈幼子化〉をその身に宿す女の子、アリス。
1人は狐耳が特徴のロリ。ハクやヨウカは妖艶な美女といった風貌だったのに比べ、こっちはハクの5歳年下に見られてもおかしくはないほどのロリだった。名前はキキョウ。
和服が似合いそうなロリ狐人の女の子だ。
最後の1人はハンナより大きいがやはりロリ。ようやく温かくなってきたがまだまだ寒さが残るこの時期に半袖ショートパンツという元気娘。しかしよく見ると立ち姿は芯がしっかりとしており小さいながらも鍛えていることが分かる。彼女の名前はゼルレカ。あの〈獣王ガルタイガ〉の創設者の娘にして、獣王子ガルゼの妹だ。
3人はようやく入学の受付が終わったところだが、すでに疲れ切っていた。
長旅を終えたばかりだというのに受付でもとても待たされたからである。
それだけ新入生が多かったということだ。
しかし、それでも入学式までまだ数日有り、それなりに早い方の到着だったのにもかかわらずこの列だ。到着する人が一番多くなるという入学式の前日にはどれほどの混雑になるのか想像すらしたくない。
寮への手続きが終わったのでそれぞれ寮へと向かう。
「アリスだけ貴族舎か……なんか激しく心配なんだが……」
「私も同じく。――アリス、一人暮らしになってしまうんだよ? 大丈夫なの?」
ゼルレカとキキョウが心配するのも無理はない。
何しろ子爵だ。
しかもアリスは通常の子爵っ子に比べ、口調のせいかさらに幼く感じるのだ。
個室が完備されていると言えば聞こえは良いが、実質一人暮らしになってしまう貴族舎でアリスが本当に生活出来るのか。寂しくはないのか。とても心配な2人だった。
「えっと、大丈夫だよ? お友達、たくさん持って来た」
しかしアリスにはこの日のための秘策があった。それがぬいぐるみ。
子爵っ子は寂しさを紛らわすため、お友達を部屋に飾る風習があったりする。
事実アリスは数えるのが億劫になるほどぬいぐるみを持参していた。隙は無い。
「でも、ゼルレカとキキョウがいないと、ちょっと寂しい」
「ぐっ!?」
ゼルレカが急に胸を押さえた。
おそらくハートブレイクを食らったのだろう。
見ればキキョウも一瞬「うっ」と何かを食らった様子だ。しかし耐えて言葉を交わす。
なかなかの根性である。
「アリスが寂しくならないよう、出来る限り遊びに行くからね」
「ありがとうキキョウ。アリス、とっても嬉しい、いっぱい来てほしいな」
「はうっ!」
ついにキキョウも撃ち抜かれたようだ。少し耐えたが、ダメだったらしい。
実はゼルレカとキキョウは寮が違う。貴族舎ではなく福女子寮住まいとなる。
アリスとはここでお別れなのだ。
でもすぐに会いに行く約束を取り付ける。
荷解きもしなくてはいけないため、それが一段落したら遊びに行くと言って3人は別れた。
「本当、アリスは1人で大丈夫かな」
「心配し過ぎだ、って言えないのが微妙な所だな。早く頼りになるところに挨拶に行った方がいいぜ?」
「分かってる」
てちてちと歩いて貴族舎へ向かって行くアリスの背中を見つめ、心配そうに言葉を交わす2人。
子爵っ子は狙われやすい(勧誘的な意味)。もちろんあまりに可愛いので。
だからこそ誰かに守ってもらわなければ危ないのだ。可愛いから。
ルルの時も母から言われて頼れる人を探し、シエラ経由で〈エデン〉に来た経緯があった。
早めに頼れる人を探し出さないと、子爵は危ないのだ。
もちろん、あてはある。
「ギルド〈エデン〉と〈獣王ガルタイガ〉。2つともAランクギルドだし、頼るには申し分ないよね」
「とはいえ〈獣王ガルタイガ〉には加入出来ないぜ? あそこは猫人の研鑽の場だ。猫人以外の加入は認められてない」
「分かってる。だから加入するなら〈エデン〉ね。もちろん下部組織でも構わない。評判は凄いし、頼りになるし、なによりギルドマスターと以前話したことがあるのが大きい」
以前学園祭3日目、〈迷宮防衛対戦〉の少し前にキキョウたちはゼフィルスと交流していた。
その時の印象は「最初は怪しい人」だった。でもガルゼからのお墨付きと、学園祭の期間中アリスを2回も助けてくれた実績から信用出来る人まで印象は変わっている。
それに、入学したら〈エデン〉を頼ってくれという言葉も貰っていた。
そのためキキョウはアリスを連れて明日にでも挨拶に行きたいと考えていた。
「はぁ、あたいは〈獣王ガルタイガ〉に所属することになってるからそっちには行けないんだよなぁ。寂しいぜ」
猫耳をへんにゃりさせてゼルレカは言う。
ゼルレカは〈獣王ガルタイガ〉の創設者の娘だ。ちゃんと〈獣王ガルタイガ〉を率いる、もしくはそこで勉強する義務がある。いずれにしろ〈獣王ガルタイガ〉への加入は絶対なので、アリスやキキョウとは同じギルドに所属することはできないのだ。
「キキョウ、アリスのことは頼んだよ?」
「任せてください」
キキョウはアリスと一緒のギルドへ加入するつもりだ。
故にゼルレカは苦々しい表情でアリスのことをキキョウに任せるのだった。
「ではまず、私たちの寮がある福女子寮の1号館へ向かうね」
キキョウとゼルレカはそのまま人波に流されながら、少しだけ離れた福女子寮というところに向かう。
自分たちが今後生活する家であり活動拠点だ。
周りの雰囲気や地形なども覚えながら進んでいく。
「はーい、女子寮へ向かう人はこのまままっすぐねー」
「福女子寮はここで左に行ってくださいー」
見れば案内をする学生の姿がちらほら見られた。
彼女らは学園から依頼を受けて新入生を案内する学生たちだ。毎年この時期は学園がQPを出し、在校生をメインに依頼を出している。
しかも今年は新入生が増えたことで寮も増設され、正直案内が無いとどの寮が自分たちに宛がわれた寮なのかわからないほどになっていた。
何しろ3万人強が住まうのだ。寮の数だけで相当数立ち並んでいる。そこはまさに団地エリアだった。
おかげでそこら中で新入生の子たちが在校生に寮の場所を聞いている光景が見られた。
そんな場所に来てしまったキキョウやゼルレカは、キキョウのおかげで迷わずに福女子寮を目指していたはずが、途中で迷った。
「こ、こんなはずでは」
「まあ、しかたねぇよ。あれはあたいも予想外すぎた」
原因はそこに住まうお嬢様。
「福女子寮の福は裕福の福」と言わんばかりに、育ちの良い商家の娘さんたちが寮のお庭でティーを嗜んでいたのだ。
これは福女子寮の風物詩で、新入生たちを見ながらお茶会をするのがお嬢様たちの楽しみなのだ。
おかげでそんな「うふふ」「おほほ」な空間を見たキキョウとゼルレカは、「いや、ここじゃないでしょう」と避けた。どこで間違ったかなぁと探して周り、見つからず、現在途方に暮れそうなところである。
とそこで2人にとある在校生が声を掛けてきた。
「新入生ですよね。どうしたのですか?」
「え? あの、福女子寮の1号館に行きたかったのですが……」
在校生が女子ということもあって警戒を解いたキキョウがすぐに道を聞く。
「福女子寮の1号館ですか? それならこれから行く所でしたので一緒にいかがですか?」
「いいのか? そりゃあ助かるぜ」
福音。迷っているキキョウたちに声を掛けてくれ、さらに道案内までしてくれた方がいたのだ。
「ここが福女子寮ですよ」
「やっぱり、ここでしたか」
「見間違いじゃなかったんだな」
キキョウとゼルレカが連れられてきたのは、まさに自分たちが避けた寮だった。
こんなお嬢様たちが住まう寮で自分たちはやっていけるのだろうかと少しだけ不安になる。しかし、在校生の少女はくすりと笑う。
「私も最初は驚きましたけど、ああいう方はほんの一部ですよ。ここには普通の人もたくさん暮らしていますから安心してください」
「そうなのですね」
「それなら、まあ」
それを聞いてホッとする2人。
案内してくれた在校生の方はかなり有名人みたいで、会う人会う人手を振ったり、挨拶されていたが、それも含め圧倒されたキキョウとゼルレカは借りてきた猫のようにおとなしく案内されたのだった。
「ここですね」
「部屋にまで案内していただいて、ありがとうございました」
「助かりました」
そして部屋に着いた時にはその先輩かつ恩人にゼルレカまで敬語になっていた。
なんとその方は部屋まで案内してくれたのだ。
キキョウとゼルレカは同室だった。福女子寮は基本1人住まいだが申請すれば同室になることは可能だ。そして2人は同室を選んでいた。
「気にしないで。それじゃ、がんばってくださいね」
そう言って先輩は去って行く。
その姿を見送ってキキョウとゼルレカは部屋へと入った。
「はぁ、やっと着いた。先輩には感謝しかありません」
「あ、今気付いたんだが、先輩の名前を聞いてないぞ」
「え? あ!」
今気付いたと言わんばかりに声を上げるキキョウ。
道中結構話しかけられていたし、それなりに名前を呼ばれていたはずだが、付いていくのにいっぱいいっぱいで先輩の名前をうっかり覚え忘れていたのだ。
これでは改めてお礼もできない。
「でも、有名な方だったみたいだし、聞き込みをすれば分かるかな」
「ああ。ちゃんとお礼を言わないとな。こりゃ、あたいたちもアリスのこと言えないぞ」
「はぁ。とりあえず必要なものを荷解きしちゃいましょ」
早速翻弄されたキキョウたちだがしっかり反省して次に活かすと決め、先輩のことは後日探そうと決めてまずやるべきことに目を向けた。




