#1130 怖いだけでやりやすい?〈夜ダン〉の進行。
〈夜ダン〉は明るければなんの問題も無いダンジョンだ。
嘘だ。アンデッドが嫌い、苦手な人はダメだろう。ダメという人にはとことん向かないダンジョンだ。
まあ、だから俺も最初は〈岩ダン〉を勧めたんだけどな。案の定シエラは来たがらなかったし。
〈夜ダン〉は荒野型のフィールドだ。所々にクレバスのような裂け目があって、〈馬車〉で通ることのできない箇所がいくつも広がっている。まあ浮いている〈イブキ〉にとって裂け目なんてどうということは無い。
本来なら裂け目の中には洞窟などの空間が広がっており、第二の通路として通ることもできるのだが、月明かりが届かないので〈ドローンランタン〉が必要だったりするためあまりお勧めはできない。
しかし、隠し部屋なんかは洞窟に多く設置されているから悩みどころだな。レアイベントの壁画も地下道にあるし。エリサの【睡魔女王】の発現条件のヒントが描かれていたりするんだが。とはいえもう知っているので今回は地下へは行かない。
後は状態異常にしてくる罠が非常に多いのも〈夜ダン〉の厳しいところだな。
特に〈睡眠〉状態。
ランク2の〈霧ダン〉では時間経過で〈睡眠〉状態になる〈レムスイカ〉の罠がそこら中にあった。とはいえそれはその場でじっとしていなければ効いてこないので移動だけしていれば問題無かった。
比べて〈夜ダン〉では〈誘いの呪霊〉と〈安眠の裂け目〉という罠がとても多く出てくる、〈誘いの呪霊〉は墓標型の罠で近くを通るとモンスターが飛び出してくる典型的な罠だ。状態異常攻撃を多用してくるため『状態異常耐性』が低いメンバーが戦うと何かしら食らって時間が掛かってしまうので注意だな。耐性が低いと〈夜ダン〉を進むのは厳しくなる。
〈安眠の裂け目〉はそこら中の大地から吹き出る黒い煙幕。この煙幕に覆われると、健やかな眠りがお届けされてしまうので気をつけろ。この罠は見た目どこから噴出してくるか分からないので対処が難しいのが難点だ。
とはいえ〈イブキ〉に乗っていると全部スルーできてしまうので全く問題無かったりする。
「バアァ! 「ゴツンッ!」 バァァァァァ!?」
ほら、今も墓標っぽい何かから飛び出してきたスケルトンがバラバラになりながら吹っ飛んでいった。南無南無。安らかに眠れ。光に還っていたからきっと天に召されたであろう。(物理)
10層まではそんな感じで、11層からは荒野が本格的な墓地に変わる。
これには付いてきた女性陣にも少し動揺が走っていた。フィナなんか俺の腰に抱きついてきてたもん。ちなみにエリサに発見されてまた色々あったが、これは割愛する。
15層では階層門の横にあるでっかい石碑が実は墓標で、そのデカさに見合う〈ジャイアントエイトソードスケルトン〉という8本の腕と大剣を振り回す凶悪なモンスターが地面から「バァ」と出てきたのだが、ビックリしたエステルが反射的にスラスト砲を撃って土に返した珍事件が発生した。
なお、その〈ジャイアントエイトソードスケルトン〉はその後もう何度も地面から出てこようとしたのだが、その度に女性陣から「撃ってエステル!」「きゃああ! エステルさーん!」「そんなやつ蹴散らしてやって!」「やっちゃえー!」という声援を送られてエステルがスラスト砲を撃ちまくり、地面からいつまでも出られないというハメ技になっていたときは本当に驚いた。
スケルトンというのは本来〈刺突〉系に強い。そしてスラスト砲は〈刺突〉系だ。
だから全く試したことが無かったが、突かれると地面から出られなくなるようだ。マジで? ゲームで試してみたい!
モグラ叩きのようにハンマーで叩いても地面には戻せないことは分かっていたが、まさかこんなハメ技があったとは。女子、恐るべしだ。
なお、〈ジャイアントエイトソードスケルトン〉はその剣を振るうことなくそのまま光のエフェクトに沈んで消えていった。俺は心の中で南無とだけ言っておいた。
しかし、それで度胸が付いたのか、その後の進行はスムーズだった。
特にスケルトン系が相手だと我らが〈エデン〉の女性陣は怯みもしなくなっていたな。
とはいえ「幽霊系は苦手ー」という女子は一定数いるので、こちらも改善しないかなぁと願っていたりする。
攻略1日目は35層まで進み、2日目は最奥の60層まで進んだ。
1日目の攻略が35層で止まったのは、やはり少なからずみんな怖いと思っているからだろう。そのため歩みも遅くなったのだ。歩みは〈イブキ〉だけどな。
「やっと着いたわね最奥。もう徘徊型はこりごりよ」
「完全に死神さんでしたからね。大精霊様が〈即死〉で一瞬で還らされた時はなにが起こったか分かりませんでした」
「ルルも、ルルもちょっと鎌を受けるのが怖かったのです!」
最奥に着いたとき、女性陣はヘロヘロだった。
59層で徘徊型ボス〈グリム・リーパー〉という、まさに死神という出で立ちの鎌を持ったレイス型のボスと対峙したのだが、まあ見た目も怖い、声もおどろおどろしい、攻撃は〈即死〉を持っているという、怖さ100%のボスだったのだ。
あのラナがボスを相手にこりごりと言うくらいだからな。よほど怖かったのだろう。
こんなに疲れた表情のラナはなかなか見られないな。なんかナデナデしたくなってくる。
……シエラは不在だし、ちょっとくらいならいいよね?
「ゼフィルスお兄様~お手々をここに乗せてルルを癒してくださいなのです~」
「おう~、よーしルル、いいこいいこ」
「な! ゼフィルス殿なんて羨ましいことを!?」
しかし伸ばした手に割り込んで来た者がいた。もちろんルルだ。
帽子を取って俺の手に頭をこすりつけてくる幼女がいました。どうしますか?
撫でます。
シェリアがもの凄く驚愕の表情で訴えてきたが、こればかりは譲れないな。ふはは!
「ゼフィルス、なにしているのよ。今明らかに私を狙っていたでしょ! 私の頭だって撫でたら良いじゃない!」
「よし、じゃあ左手で」
「ふ、ふん。撫でることを許してあげるわ。光栄に思いなさいよね」
久しぶりのラナのツンデレムーヴだ~。これは撫でるしかない。
顔を赤くしてそっぽ向けつつ頭はこっちに向けてくるラナが可愛いです。
「く、両手に花とは。私にも癒しを、エリサさん、フィナさん」
「え~、今ご主人様のナデナデの順番待ちしているからノーで」
「姉さまと同じく」
「ガーン!?!?」
気が付けばルルとラナの横にエリサとフィナが順番待ちをしていた。
おかしいな、エリサとフィナは徘徊型戦に参加していなかったはずだが。
でも撫でちゃう。これがギルドマスターの特権だ!
なお、シェリアのところには撫で終わって満足したルルが癒しに行っていた。
さすがはルル。フォローも完璧だぜ。




