#1129 ランク5〈闇夜の永眠ダンジョン〉ー〈夜ダン〉
ランク4ダンジョンが終われば、次はランク5にステップアップするのが通常だが、一部の女子が別行動を申し出てきたため今回は全員参加のダンジョン回では無くなった。
というのも仕方ない。
上級下位のランク5は〈闇夜の永眠ダンジョン〉、通称〈夜ダン〉。
その名の通り夜しか無いダンジョンだ。〈睡眠〉の状態異常がよく襲ってくる。
これだけならまだ女子たちが別行動する理由にはならない。
その理由の最大の原因は、このダンジョンにメインで登場するモンスターが〈幽霊〉や〈アンデッド〉系だからだ。
周りは夜、襲ってくる幽霊とアンデッド。
一度眠りに落ちればそのまま永眠に…………。
そんなコンセプトで作られたらしいこのダンジョン。
まあ、一部の女子たちが入ダンを嫌がるわけである。
「私はまだ飛行系のモンスターに対する盾の使い方に納得出来てないの。同じ思いのメンバーを連れて〈島ダン〉で周回してくるわ。私が責任を持って引率するから、安心して頂戴」
こんな押しの強いシエラはなかなか見られるものじゃないんだぜ。
有無を言わさない言葉で押し切られ、俺は頷くしかなかったよ。
まあ、元々ここを攻略する時は立候補にするつもりだったから良いけどな。
「ぼくはシエラ君のところに付いていくことにするよ」
「私も幽霊はちょっと」
「う、うーん。私も幽霊は……」
そう幽霊系が苦手だと言うニーコ、そしてカタリナとトモヨ。
カタリナはお嬢様だからな、イメージ通りだが、トモヨは意外だったな。
「状態異常系をよく使ってくるからトモヨには相性の良いダンジョンだぞ?」
「でも、幽霊はあまり得意じゃ無いから」
「なら仕方ないな。――それでニーコだが」
「ぼくはシエラ君と一緒に行くよ。絶対に!」
「…………」
ニーコが頑なだ。説得は失敗に終わる。残念。ニーコは別行動か。
その代わり次のダンジョンではたくさん活躍してもらわないとな。ニヤリ。
「ふお!? さ、寒気が!?」
俺の笑みの裏でニーコが全身に寒気を覚えていたが、俺はそれには気が付かなかった。
「もう、勿体ないわねシエラちゃんは、怖かったらご主人様の胸にダイブすれば良いのよ! こうやってね――ご主人様~エリサ怖いの~~あぶぁっ!?」
「あざといです姉さま。そんなことはさせるわけがありません」
なんだかエリサが俺の胸に飛び込んで来るように見えて身構えていたら、その前にフィナに横から腹パンされてダウンしていた。大丈夫かな?
「お気になさらないでください教官。姉さまがちょっと調子に乗っただけですから。ちゃんと教育し直しておきます」
「ほどほどにな?」
ちなみに今のやり取りの裏でルルが俺の足にひしっとしがみついてきていたが、可愛くってそのままにした。こっそりシェリアにスクショ撮影を頼んだが、なぜかルルと俺の足しか映ってなかった。いや、可愛かったのはルルだからいいんだけどね。
結局シエラを中心にまだ〈島ダン〉で納得がいっていないというメンバーをメインに10人が別行動になった。
こっちは23人で〈夜ダン〉へと突入します。
「ここが〈夜ダン〉。本当に夜なのね」
「ダンジョンなのに月があるのですね。月は7つあるようですが」
「満月が1つと、あとは三日月が2つ、半月が2つ、満月と半月の中間が2つ、ですか?」
「実は見えないが新月もある。夜空に浮かんでいるのは計8つだな」
ラナが辺りを見渡して言うと、エステルとシズが上空にある月に興味を持った。
月は真上では無く、東西南北の方面にあり、真上を中心にして周囲に点在している。まるで夜空に円を描いているかのようだ。
この月はオブジェクト。ここ〈夜ダン〉では夜明けが無いので月は真上を中心にクルクルまるで時計のように周回している。南を通ると満月になり、北を回る時は新月になる。
まあ、特に害は無い。ただの背景だ。月明かりがかなり注いでくれるので夜なのに割と明るいけどな。
「ジッと見つめると分かります。月が動いているのですね」
「綺麗デスね~」
「でもお星様はないのです?」
「そういえば月はたくさんありますが、星は無いのですね」
ルルが気が付き、続いてシェリアもキョロキョロ見るが、確かにここには星が無い。
星は下層に行くほど増えてくる。
最奥の60層の夜空なんかかなり絶景で、〈スクショ展覧会〉のロケ地として有名だった。
まあ、これは行ってみてのお楽しみだな。
さて、俺は今のうちに救済アイテムの準備をする。
「しかし、月明かりがあるとはいえ暗いものは暗いですね。この場は階層門に設置されている明かりがありますが……。ゼフィルス殿〈ドローンランタン〉の準備をしますか?」
「いや、大丈夫だ。それよりも良い物があるからな」
エステルが〈空間収納鞄〉から〈山ダン〉の洞窟でも使った周りを明るくする飛行物体〈ドローンランタン〉を取り出して提案してくるが、それだけではちょっと心許ないだろう。
俺はエステルの提案を断ってとあるものを取り出した。
「それは?」
「これがランク5、〈夜ダン〉の救済アイテム。〈打ち上げ月光雨〉だ」
「「「「〈打ち上げ月光雨〉(です)?」」」」
俺が取り出したのは、どう見ても打ち上げ花火の打ち上げ筒だった。
「ふっふっふ、見てろぉ。これを夜空に向けて撃つと、こうなる」
俺はそう言うとそれを持ったまま砲身を真上に向けて、使用した。
「ボシュン」という空気が抜けたような音と共に「ピュ~~~~」と打ち上がり、8つの月の中心地に光の玉が飛んでいくと、そこで爆発した。すると。
「わ!」
「月が!」
「光りました!」
「わ~綺麗なのです!」
そう、8つの月全てが満月になり、すべて光り出したのだ。
「ゼフィルス殿、これは!?」
「おう。〈夜ダン〉は闇夜に包まれたダンジョンだ。階層門の周りは明るいが、離れると途端に暗闇に包まれ、場所によっては〈暗闇〉状態になるほか、命中率までダウンしてしまう凶悪な環境が広がっている。なら、明かりを付けてしまえというわけだな。理屈はシズの『照明弾』みたいなものだ」
「私の、『照明弾』ですか。なるほど」
説明を求めてくるシズに分かりやすく説明する。
シズの『照明弾』は命中率をアップするバフだ。同時に暗闇も照らしてくれる。
ここの救済アイテム〈打ち上げ月光雨〉はライトアップアイテムとでも思えば良い。
スイッチを押せば8つの月がLEDのごとく辺りを照らしてくれるのだ。
時間は10分。消えたらもう一度撃つ。
この〈打ち上げ月光雨〉はなぜか無制限に撃つことが可能なので、同じ階層で行動するのであれば1本持っておけばこと足りる。
なかなか便利なアイテムである。
「ゼフィルスお兄様! 次、次はルルも撃ってみたいのです!」
「あ、なら私も撃ってみたいわ!」
「私も撃ちたい~」
「いいぞいいぞ。じゃあ次はルル、その次はラナで、その次がエリサの順番な」
ということでルルに〈打ち上げ月光雨〉を貸してあげる。
これはアイテムなので〈イブキ〉に乗車している時も使えるのが素晴らしいところ。
うん。もちろんこのダンジョンも〈イブキ〉で強引に突破します。
〈エステル〉の〈イブキ〉に乗って、いざ出陣。
ゴツンとぶつかって砕け散る骨のスケルトンに敬礼しながら、俺たちは先へと爆走した。




