#1121 〈鳥になりたかったロボット〉VS〈竜〉
5層の守護型ボスは所詮は最初のボス。
正直言おう。弱いんだここのボスは。推奨LV13。
一応少しの間飛べるし、HPが50%を下回るともっと本格的なロボットの翼のようなものがガシャンと生えてかっこよくなる特性も持っているのだが、空を飛ぶための役には立たない。攻撃範囲が広くなるという程度だ。なんのための翼なんだろう?
いや、こいつを鳥にしたら守護型としての責務を放棄しかねない。きっと飛べない方が良いのだろう。泣けるぜ。
リカのパーティはアタッカーがレグラムとカルア、そしてアイギスだ。
ヒーラーにはオリヒメさんもいる。
アイギスはすでにLV30に至り、五段階目ツリーを開放している1人だ。
そして開放されたスキルにより、ついに竜騎士系として本格的な能力を使うことが出来るようになっていた。
「レグラムさん。まず私たちにやらせてください」
「構わない。なら、俺たちは援護に回ろう」
「ありがとうございます。――ゼニス、制空権で私たちに勝とうという相手に身の程を弁えさせてあげるのです」
「クワァ!」
「『ハイジャンプ』! 竜騎乗!」
「トリサーン!」
アイギスの『ハイジャンプ』は本来、空を飛ぶ〈竜〉に乗るためのスキルだ。空中ジャンプも可能。回避にも使えるが、やはり上空にいる竜に跳び乗るのが至高である。
そして『竜騎乗』。そんな名前のスキルは無い。これはただの『騎乗』スキルだ。それもパッシブスキルで叫ぶ必要は無いのだが、アイギスはテンションが上がっているな!
「行きますよゼニス。『人竜一体』!」
「クワァァァ!」
『人竜一体』は自己バフスキル。竜の持つ能力と術者の能力が合わさり、お互いがとんでもない能力値になるスキルだ。竜の能力次第でアタッカーやタンクなど、どのポジションでも活躍が出来る様々な可能性とロマンを秘めている。
「援護しますねアイギスさん――『あなたのためだけの癒し歌』!」
そこへオリヒメさんが強力な継続回復で援護した。
〈四ツリ〉で単体回復という制限を与えられているため、その回復力は特大。
タンクでも無いにもかかわらず、タンク並の硬さを持つキャラを誕生させるという超強力な回復魔法だ。これを掛けられるとアタッカーでも格上のボスを相手にしなければほぼやられることはないと言えば、どれだけとんでもない魔法か分かるだろうか? もちろん俺はこれをLV10まで上げてもらっている。
このボス戦でアイギスがやられることは、もう無い。
「『騎竜突撃』!」
「クワァ!」
まず繰り出されたのが『騎槍突撃』の上位ツリー『騎竜突撃』。
竜が突撃してくるスキルだ。並のモンスターなら恐怖ですくみ上がってそのまま光に還るな。
「『トリサーン・パーンチ』!」
〈鳥ロボ〉が迎え撃ってきた。
上空で竜と鳥になりたかったロボットのパンチがぶつかり合う(普通の鳥はパンチしません)。
結果、ボスであるハズの〈鳥ロボ〉が吹っ飛んだ。
「トリー!?」
「今です! 『ドラゴンクロー・セイバーランス』!」
「クワァ!」
「やぁ!」
そこへすぐに追いついたゼニスの右手クローと騎乗するアイギスのランスがぶっ刺さり大ダメージを与えて落下した。
「追撃ですゼニス! 『ドラゴンブレス』!」
「クワアアアアア!」
例え鳥になったとしても、鳥では竜に勝てんのだよ。
そんな光景を見せつけられているかのようなシーンだった。
「今だ! 行くぞ!」
「ん!」
『ドラゴンブレス』の直撃を受けて地面に叩き付けられダウンした〈鳥ロボ〉に即総攻撃が叩き込まれ、さらに大ダメージを稼ぐ。
ダウンから復帰した〈鳥ロボ〉は少しの間地上でリカとカルアとレグラムを相手にボコられていたが、途中でHPが50%を切って金属の翼がさらに生えて強気になったのか、再び空を飛んできた。
「ボクハトリダー!」
「いいでしょう。鳥と竜、どちらが強いかハッキリさせます! 『エアリアル・アクロバット』!」
〈鳥ロボ〉の胸から発射されたビームをなかなかのアクロバットじみた動きで回避したゼニスが、そのまま覆い被さるようにして〈鳥ロボ〉へと迫った。
『エアリアル・アクロバット』は素早い回避移動からの攻撃。『ソニックソード』と同じ系統だ。あれの竜バージョン。
「トッ!?」
しっかりとゼニスの尻尾攻撃が直撃してダメージを与えると。
「『オーバードラゴンテイル』!」
「トリーッ!?!?」
追撃で縦に一回転でんぐりした竜の尻尾が〈鳥ロボ〉に叩き付けられた。
そして再び空で敗北したロボットが地面に落ちて来て。
「『エア・ストーム・ランス・シュート』!」
「クワァ!」
そこに追撃が放たれた。
アイギスの『エア・ストーム・ランス・シュート』は風ブレスと槍投げの合わせ技。
ゼニスが〈鳥ロボ〉に風のブレスを放つと同時にアイギスもランスを投擲。
暴風槍の合わせ技が〈鳥ロボ〉の腹部を直撃してそのまま地面へ叩き付けたのだった。再び大ダメージでダウン。
そこに再び総攻撃が追加されて。
「トリサン…………『トリサンダー』!」
「『ドラゴンブレス』!」
「アーーーー!?」
最後の電撃も『ドラゴンブレス』によって粉砕されてそのまま直撃し、とうとう〈鳥ロボ〉がエフェクトの海に沈んで消えたのだった。
南無。
ドロップしたのは〈木箱〉だった。
……もう鳥になるのは無理だな。
ちなみに〈木箱〉の中身は〈鳥ロボ〉のぬいぐるみだった。
いらん!!
相変わらず、不憫なボスだったぜ。
竜に挑まなければもう少し長生きできたものを。
……いや出来ないな。どっちみち倒してたし。
というかほぼアイギスの活躍だけで勝っちまったな!
「クワァ! クワァ!」
「はい。ゼニス、大勝利です」
上空ではゼニスが勝利のダンス(?)的な動きで喜んでいた。
よほど嬉しかったんだな。なんだかこっちまで嬉しくなるぜ。
「……このパーティだと、俺が空を駆けるまでも無いようだな」
懸念があるとすればゼニスがあまりにも活躍しすぎて、同じく対空用でパーティに入ってもらったレグラムが空を跳んでいないところだろう。
でもまあ、こういうこともあるさ。そのうちきっと2人が必要な時が来るだろう。
リカとカルアもあまり活躍出来なかったが楽しんでいたようなので良し。
こうして5層のショートカット転移陣を開放した俺たちはそのまま進んでいく。
すると7層でついにエリアボスに遭遇。
ようやく〈海塗りのベール傘〉が役立つときが来た!
俺、絶対これ手放さないぞ!
「じゃあゼフィルスは不参加ね! 私がやってあげるわ!」
「しまった! これは罠だ!」
ラナの言葉で気が付いた。
傘差してたらボス戦できないじゃん。
これはサポートメンバーに差してもらわないといけないやつじゃん!
しかし、気がついた時にはすでに遅し。
ラナチームがボス戦することに決定していた。なんてことだ。
いいぜ、ならサポートに徹してやるよ!
そして俺はラナ、エステル、シエラ、ルル、シェリアがボス戦をしている間、ずっと傘を差して立っていたのだった。
水に濡れない。これ大事なこと。
でもおかしいな。そもそもゲームだと傘を差していても戦闘出来たはずなんだけど……。
その後、別に傘は人が持っている必要は無いと判明し、差した状態でその辺にパラソルのごとく地面に立てておけば機能することが分かって遠い目になったのは別の話。
ゲームではそんな描写、無かったんだけどなぁ。




