#1116 〈金箱〉回とレアボス〈樹精霊・アリドレン〉!
最奥のボス、〈エルダートレディアン本体〉の攻略法はすでにメンバーに通知済み。そして現在どんどん挑んでもらっていた。
また、最奥の救済場所で自分たちの順番が来るまで待っているだけというのもなんなので、いくつかのパーティはモナたちを連れて59層に行っていたりする。
俺は全体の監督として救済場所で待機していた。
いやぁ合同攻略したあの時を思い出すなぁ。楽しい!
2年生合同攻略では最初に突入し、もちろん初戦突破してやったのは良い思い出だ。
ここで〈白の玉座〉が出たんだよな。
もう1ヶ月も前の話だが昨日のように思い出せる。
ちなみにだが、他のギルドはやはり初戦突破とはいかなかったようだ。
何度も何度も挑戦し、最初に突破したのは〈ハンター委員会〉。
さすが、アーロン先輩たちはボス慣れしているぜ!
次に突破したのは〈ミーティア〉だった。
相手は樹木型モンスター。火属性が弱点だったこともあって相性が良かったのだろう。
聞いた話では、空中から降るメテオのおかげで〈エルダートレディアン〉は迎撃を迫られて上からの攻撃が少なくて済み、眷属や防御柵も火力でどうにかして押し切ったらしい。
最後の爆発は結界で防ぐなど、本当に相性抜群だったようだ。
確かに〈エルダートレディアン〉は火力が高ければ押し通れるボスだ。
割と脳筋的な考え方だが、有効な手段の一つでもある。
〈ミーティア〉が突破すると、その次に挑んだ〈サクセスブレーン〉も突破してきた。
打ち上げの時の凄く晴れやかだったカイエン先輩の表情が忘れられない。
次に突破したのは〈ギルバドヨッシャー〉。
合同攻略ギルドたちの話を聞いて上手い突破口を作り上げたのだという。それと、35層以降の守護型ボスを倒せば最奥ボスが弱体化することも〈ギルバドヨッシャー〉が見つけ出していた。さすがだな!
ただ、研究欲が刺激されてしまい、攻略よりも観察に力を注いだせいで突破が遅くなったのはご愛敬か。
相性が悪くて突破するのに時間が掛かったのはむしろ〈集え・テイマーサモナー〉と〈カオスアビス〉だった。
合同攻略の時〈集え・テイマーサモナー〉は飛行系モンスターを主力にしていたのはタイミングが悪かったな。メル先輩がいなければ攻略出来なかったとはカリン先輩談だ。
〈カオスアビス〉はロデン先輩のワンマンギルド、というわけではないが、ロデン先輩に頼りすぎている所がある。他のメンバーの実力を上昇させないとこの先難しいと悟ったらしく、現在改革に乗り出しているそうだ。Sランク戦が楽しみだな!
こうして、結局テスト前のダンジョン週間休みまで使ってしまったらしいが、全ギルドが〈山ダン〉を突破出来たとのことだった。
感慨深い。
今は来たるSランク戦に向けてレベル上げの真っ最中。さすがにライバルとなるギルドの手は借りられないということで、2年生合同攻略は解散することになった。〈岩ダン〉はみんな自力で何とかするとのこと。
少し寂しい。
まあ、今はギルドメンバーと全員で〈山ダン〉攻略中だからそこまで寂しくはないか!
「! ゼフィルスさん、ボス部屋の門が開きましたわ。リカさんチームが攻略に成功した模様です」
「おお! やったな! よし、お祝いしに行くぞ!」
過去を思い出していたら、リーナからリカチームの攻略完了の報告が届いたのですぐにボス部屋へと入る。
リカチームはニーコが所属する期待のチームで、期待通り〈金箱〉をドロップしていた。
「よくやったニーコ! むっちゃ褒めるぜ!」
「ふははは、もっと褒めてくれたまえ! いや、ほんと大変だったんだからね! もっと、たくさん褒めても良いと思うんだよぼくは」
ちなみに他にはエリサ、フィナ、カルアが所属している。
攻略者が2人、五段階目ツリーの開放者が2人もいるということで、ニーコをこのパーティに入れたのだ。勝てたから良し! 俺の目に狂いは無かったぜ!
「確かになかなかの強敵だった。多彩な攻撃、防御柵で守りを固めると同時に攻撃まで行ない、兵を投入してくる。まるで戦でもしている気分だったよ。とはいえ、事前情報があったおかげだな。さほど苦戦はしなかった」
「ん。割と余裕だった」
「見て見てご主人様! 〈金箱〉よ!」
「教官。ボスは以前より歯ごたえを感じませんでした。第三形態も腕は2つしかありませんでしたし、やはり枝を全て折ったのが良かったのでしょうか?」
「だな。枝を折らずに挑むのと全部折ってから挑むのでは難易度が雲泥の差だ。まずは5人とも、〈山ダン〉の攻略、おめでとう」
リカの言う事前情報とはエリサとフィナが経験したボス戦のことだ。
あの時は〈主枝〉を折っていたとはいえ、1本しか折っていなったからな。それなりに難易度は高かった。
今回は全部折っていたのでかなり余裕だったようだ。ニーコはぷるぷるしているが。
あとエリサだけボス戦ではなく〈金箱〉に目が行っている。うむ、分からんではない。
「エリサ、ボスはどんな感じだった?」
「え? ああ、すごかったのよぉ。リカちゃんの五段階目ツリーって初めて見たんだけどね。『時空斬』って言ったかしらあれ? 何も無い所に斬ったはずなのにボスに斬撃が入っているのよ! 防御抜け技らしいけれど、あれちょっとやってみたくなったわ!」
いや、リカじゃなくてボスのことを……まあいいか。
というか俺も見たかった。
それからエリサはリカのことをべた褒めしていた。
どうやらあの刀が気に入ったらしい。
五段階目ツリーの大技に魅せられてしまったようだ。
そしてどさくさに紛れてくっついて来た。
その後ろからフィナ襲来。
「ちょっと姉さまいいですか?」
「え? 何かなフィナちゃん。なんで首の後ろの襟を掴むのかな? 何もよくないんだよフィナちゃん?」
「問答無用です。こっちに来てください」
「ちょ、今ご主人様と語らい中!」
エリサは連れて行かれてしまった。
結局宝箱はリカが開けることになった。
カルアが耳をピコピコ揺らしながらリカに譲ったのだ。
「良いものください。〈幸猫様〉〈仔猫様〉」
「ん。ください」
「良いものください!」
お祈りは必須! ニーコ、ほらお祈りするんだ!
そのままリカがパカリと〈金箱〉を開くと、全員が宝箱に集中した。
あ、いつの間にかエリサとフィナが帰って来てる。
「小さい、棒?」
「いや、これは杖だな。ワンドだ」
「ほう! 〈金箱〉産の武器だね!」
「すぐに『解析』いたしますわ」
中に入っていたのは〈古代の封印杖〉というワンド系の片手杖だった。
古めかしくも、なんだか趣のある20センチほどの片手杖で、『眠りを妨げる者には呪いを』という、名前だけ見てもなんだかヤバそうなスキルを備えている。
効果は名前のままで、この杖の装備者が掛けた〈睡眠〉状態を起こした者に〈呪い〉を与える効果を持つ。寝ている人を起こしたら呪われるとか何それ怖い!
これはエリサが使うことになった。
〈眠り〉から起こしたら〈呪い〉に掛かり、エリサの『抗えない睡魔の罠』が発動するからな。
さらに眠りへと繋がる。凶悪なコンボになるだろう。
良いもの当たったな!
「やったー! 武器更新よ! どうかしら、似合う?」
「そうですね。より悪魔らしくなったんじゃないですか?」
「フィナちゃん感想が雑っ!」
「エリサ、良い感じじゃないか。かっこいいぞ」
「そうでしょう! えっへへー」
「……次は私の剣と盾を当てます」
「よーしそれじゃあお姉ちゃんも手伝うよー! 一緒に見つけようー!」
仲良き事は美しきかな。
フィナの剣と盾はしばらく変更していないからな。
今の装備でも別に上級下位で通じるのだが、良い武器が当たれば換装ももちろん視野に入れる予定だ。良いのが当たれば良いな!
その後、次々とメンバーにボス戦に挑んでもらい、全員が初戦突破で攻略者の証を入手していった。やはり全ての枝を折った甲斐があったな。それにパーティには必ず2人以上の五段階目ツリー開放者を入れているので余裕があるのだ。
さて、いよいよ俺たちの番だな。
「じゃあ、リーナ、ラクリッテ、ノエル、ラウ。行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
流れるようにダンジョン門へセレスタンが一撃をかましてボスを復活させてくれたので、そのまま中に入っていく。
俺たちのパーティがボス部屋の門を潜ると――そこには何もいなかった。
「……?」
「マジか!」
辺りを見渡してハテナマークを浮かべるラウを横目に見ながら俺も反応する。
ボス部屋にボスがいない。〈エルダートレディアン〉は〈ダン活〉のボスの中でも最大、の一個前のボスだ。何しろ天井突き抜けちゃってるからな。まあ、アレよりデカいのが1体居るんだが、それは置いておき。あんな大きいボスを見逃すはずが無い。つまりだ。
「来るぞ! 〈山ダン〉のレアボスだ!」
「やっぱりレアボス!?」
「は、はわ!?」
俺の言葉にみんなが驚きながらも臨戦態勢を取るのと奥でレアボスポップの現象が起きるのは同時だった。
〈笛〉使ってないのにレアボス発生!?
まあ2年生たちも倒していたし、俺たちも倒したからな。いつ来てもおかしくない。
突然のレアボス発生だが、みんなは驚きつつもしっかり動いている。
その辺が経験の差だろうな。
「ラクリッテ、前へ! ヘイトを頼む!」
「ポン! 挑発たくさん掛けていきます! 『カチカチ』! 『ぽんぽこぽん』! 『たぬたぬポン』! 『ピンポン』!」
レアボスが現れると同時に前へ出たラクリッテが挑発スキルを鳴らす。
ラクリッテの挑発系スキルは、音系だ。
『カチカチ』は火打ち石を擦る音、『ぽんぽこぽん』は太鼓の音、『たぬたぬポン』はクラッカーのような破裂音、『ピンポン』はチャイムの音、でそれぞれ相手のヘイトを溜める。
うむ最後の「ピンポーン」だけ見事にシュールだ。
「ラララ~」
「出てきたな。リーナ!」
「はい! 『観測の目』! ――分かりましたわ、あれは〈樹精霊・アリドレン〉と言うみたいです。木の精霊ですわ! 木の精霊なんて初めて見ます!」
「完全な人型。おそらく、大精霊クラスだろうな。とりあえず〈アリドレン〉と呼称するぞ!」
レアボスポップのエフェクトから出てきたのは2メートル強の人型精霊だ。〈エルダートレディアン〉と比べるとずいぶん小さいが、こっちの方が強い。
女性型で黄緑色のドレスを着用。木の枝が無数に枝分かれして体の至る所から伸びており、少し発光している。
もちろん俺はこいつを知っているが、敢えてリーナのスキルで『看破』してもらった。
分かったのは名前と種族くらいだが、名称がないと不便だからな。助かる。
〈アリドレン〉はラクリッテの方向に目を向けると、枝の発光が濃くなった。おいおいいきなり大範囲攻撃か! 俺たち全員範囲に入ってる!
「ラクリッテ来るぞ! ハイライト・カモフラージュ!」
「ポン! 光に惑え、幻に迷え――『ハイライト・カモフラージュ』!」
これは『カモフラージュ』の上位ツリーで〈五ツリ〉。
相手が俺たちのことを見失う、または誤認させる魔法だ。対象は味方で、『カモフラージュ』の時は単体効果だったものが、複数効果を及ぼす形に進化している。
一瞬ラクリッテの両手盾が光ると、〈アリドレン〉はタゲが一瞬で消えたように見えたのだろう。キョロキョロ辺りを探し、使用しようとしていたスキルが明後日の方向に発動してしまった。
よしセーフ。
「散開!」
ここからが反撃だ!




