#1115 〈山ダン〉最奥!料理アイテムの分けっこは不可
翌日。
今日もダンジョン攻略だー!
まずは35層と40層で〈西枝〉と〈南枝〉を折ることから始める。
ここの最奥のボスは35層から55層までの東西南北の枝と〈主枝〉の、計5箇所の守護型を倒せば倒すほど弱体化する。
ボス周回するのであれば守護型フィールドボスは全部折っておいた方が効率が良いのだ。
今日は早めに最奥に着いて周回する予定なので、まず35層と40層を手分けして折る。
10分後には35層の〈西枝〉を狩り終えたリカパーティとレグラムパーティが合流し、40層の〈南枝〉を狩り終えたエリアに集合していた。
ちなみに〈南枝〉を狩ったのはラナパーティとメルトパーティだ。昨日〈西枝〉を狩ったチームだな。
俺たちゼフィルスパーティとシエラパーティは見学。
35層のリカパーティにはニーコが、40層のラナパーティにはラナがいて〈金箱〉率上昇効果を持っていたが故の人選だった。
ちなみに両方とも〈金箱〉が当たっている。
「出だしは好調ね!」
「おう! まさか〈天魔のぬいぐるみ〉がドロップするとは、今日は最高だ!」
ラナの言葉に同意する。
すごいんだ。なんと上級ダンジョンでは超低確率のはずの激レアアイテム〈天魔のぬいぐるみ〉がドロップしたのだ。
これが【大聖女】の力!? イエス!! 〈天魔のぬいぐるみ〉初ゲット!!
ちなみに、件のぬいぐるみはルル、エリサ、フィナが構いまくっている。
相変わらずエリサは天使を撫で、フィナは悪魔を撫でて、ルルは両方とも愛でている様子だ。
「大当たりなのです! ルル、これのために今日は早起きしたのです!」
ルルが早起きしたとしても、出発の時間は変わってないんだぁ。
「やっぱり天使はいいわ~。可愛いもの」
「悪魔っ娘も良いものです。少しツンケンしているところとか」
こっちはどっちを褒めているのか分からない。
本人が目の前にいるよ? 愛でないのかな?
「さあ、この調子でどんどん進むわよ! そして〈金箱〉でフィーバーするの! エステル、〈イブキ〉を出すのよ!」
「了解しました! 〈イブキ〉召喚です!」
〈金箱〉フィーバー! なんて心をホットにさせるワードなんだ! エステルもテンションが上がっているのか、例のセリフを言ってから〈イブキ〉を取り出していた。
無論、どんどん行くぜ!
アイギスとロゼッタにも〈イブキ〉を出してもらい、ぐんぐん進む。
45層の〈東枝〉、50層の〈北枝〉、55層の〈主枝〉とどんどん折って行き、行きがけの駄賃的な感じでエリアボスも3体ほど狩った。
途中良い『発掘』ポイントを見つけたので、「ドカン」。『大発掘』してアイテムフィーバーしておく。
今度は〈激しい採集シリーズ〉の『伐採』系が欲しいぜ。
そんなことを思いながら走っていたら、俺たちはいつの間にか最奥の救済場所にいた。
「ようし予定通りだ! 昼食にしよう! ボス戦はそれからだ!」
「「「「賛成~」」」」
時刻は12時30分。昼食を食べるには良い時間だろう。
かなり順調にここまで来られた。隠し部屋は、あまり良い物も無いのでスルーしてしまったけどな。
目的はメンバー全員の攻略者の証をゲットすることと、LVが低いラウのレベル上げ。そしてSランク戦で使う装備狙いだ。どんどん周回していきたい。
「今日の昼食は言わずもがな、料理アイテムだ! いくつか用意したから自分に合った料理を選んでくれ。これ、リストな」
みんなでエステル号に集まり、テーブルをいくつも用意してから食事を囲む。
ここで用意したのが飲食店にあるようなメニュー表。そこに今日の料理と料理バフが載っている。それを確認してから注文するのだ。
そして各ステータス特化用にオススメも書いておく。
今回STR特化なら〈モーギュ焼肉定食〉、INT特化なら〈特盛りフルーツカップ〉という感じに。
もちろん、女子は諸々の理由からオススメ以外で低カロリーな食事を選ぶメンバーも多い。
そのためにこうして選択制にしたのだ。
「ん。カレーも良いけど、たまにはお魚も、良い」
「カルアは西京焼きか、それも美味しそうだよなぁ」
カルアはSTRとAGIの上がるとある魚の西京焼きを食べていた。中まで火が通り、箸を入れれば身が解れ、脂がのった魚の切り身。ごはんももちろん用意してある。
美味そうだ。俺もそれにすることにした。
「おおお、美味いなこれ!」
「ん、美味!」
染み出る脂が最高過ぎるぜ。出来たてほやほやで〈空間収納鞄〉に入れられていたのだろう。まだ熱かった。白米と味噌汁ももぐもぐ。く~合う!
これはたまらん!!
ちなみにタンク系のシエラやラクリッテ、トモヨやシャロンはVITが上がる野菜茸天ぷらを食べていた。お好みで蕎麦かうどんが一緒に楽しめる。
アレも美味そう。
〈山ダン〉の最奥ボス〈エルダートレディアン〉は物理系攻撃を多用してくるのでVITメインで上げるのが正解だ。
「美味しいわね」
「は、はい。私はこのカボチャの天ぷらが好きです。柔らかいです!」
「柔らかいといえばこのサツマイモだよ~。サツマイモって硬いイメージあったのにこれ、この分厚さでこの柔らかさ、それにとっても甘いよ~。箸が止まらない~」
「分かる分かる。料理アイテムって本当に美味しい! 私はこのマイタケが好き! たまらないわ」
普段黙々と食べるシエラが思わず言ってしまったような言葉を皮切りに、ラクリッテ、トモヨ、シャロンも自分たちの好みを言ってはその美味しさに顔を綻ばせていた。
うむ、食べる機会があればそっちも食べたいな~。
やっべ美味そうだ。食べれないかな?
「そういえば料理アイテムを2人以上で分けたら効果はどうなるんだ?」
「?」
思わず思ったことが口から出ていた。
それに首を傾げるカルア。
「いや、カルアに聞いたわけじゃないさ。独り言独り言」
そう誤魔化すがしかし、一度気になると検証してみたくなるな。
ゲームの時はもちろん1種類のアイテムを複数人で分けるなんて出来なかったし、使ったら無くなる。
例えばその料理アイテムを食べている途中で別の料理アイテムを食べたらどうなるのかとか、色々知りたいことが溢れてきたのだ。
普通料理アイテムというのは食べきったと同時にバフが発動する。
じゃあ、食べきる前に別の料理アイテムを食べてしまったらどっちのバフを得られるのか? もしくは両方得られてしまうのか?
「う~ん、気になる」
「それならわたくしが知っていますわ」
「知ってるのかリーナ?」
「ええ。料理アイテムの研究は進んでいますから、わたくしも興味が湧いて調べてみたことがありましたの」
「そうなのか! じゃあ頼む、教えてくれ」
「もちろんですわ」
立候補してくれたのはリーナだった。リーナはINTとDEXを上げるフルーツ系を食べていたはずだが、もう食べ終わっている。
「知っての通り、少し前まで上級職は少なく、上級ダンジョンというところも〈転移水晶〉が世に出るまでなかなか入ダン出来ませんでした」
俺は深く頷く。〈転移水晶〉、あれがとても良かった。あれのおかげで常識がまた俺の認識の近い方向に進んだからな。しかし、なぜ今あの頃の話を?
「ですが、上級ダンジョンに挑みたいという者は後を絶たず、なんとか下級職のままパワーアップすることはできないか? と注目されたのが料理アイテムでしたの」
まあ基本だな。料理アイテムのバフはほとんど1日持つし。「上級行くならとりあえず食っとけ」は〈ダン活〉の基本だった。
「というわけで、研究員は日夜料理アイテムの性能を上げる方法を研究しているのですわ」
「研究が進んでいるってかなり真っ当な理由だったんだな!」
「ちなみに先ほどゼフィルスさんがおっしゃられた1つの料理アイテムを2人で分けた場合や、料理アイテムを食べている途中で他の料理アイテムを食べた場合などは、効果が得られなくなります」
「効果が得られない!?」
「両方の料理アイテムの効力を失ってしまうのでくれぐれも注意してください。中には1年前にとある料理アイテムを食べている途中でうっかりお酒で潰れてしまい、そのことをすっかり忘れて別の料理アイテムを食べたけれど効果を得られなかった、という話もあります」
「1年も効力有り!?」
「とはいえ、一度料理アイテムを食べきればリセットされるようで、その翌日からは普通に料理アイテムでバフを得られるそうですわ。〈ティー〉一杯飲んでおけばリセット出来ますわね」
「マジか」
リーナの話がとんでもなくてビックリした。
そんなに効力って継続するのか!?
まさかここのギルドにはいないよな?
リーナのおかげで重要な情報を得た俺は、早速最後まで食べ終わっていたメンバーに確認。結果、全員がちゃんとバフが付いていて一安心。
なんとも貴重な話が聞けたな。
さて、食べ終わってバフが付いたなら、やるべきことは決まっている。
「最奥のボス戦を始めようか」




