#1112 今度はギルド〈エデン〉のフルメンバー!!
ラウの〈上級転職〉が済み、Sランク戦出場者全員が上級職になった。
後はレベル上げだな。
これからは春休みという時間を目一杯使える。
素晴らしいことだ!
どうやら他のAランクギルドも動き出し、ランク6の〈岩ダン〉の入ダンが盛んに行なわれていると聞く。
頭一つ飛び出しているのは、意外にも〈集え・テイマーサモナー〉だった。
なんと〈ベビーベヒモス〉の進化に成功したらしく、ゴーレムを相手に猛威を振るっているらしい。〈ダン活〉の猫は強いのだ。
どうやら俺たちが〈ベヒモスの真核〉を始めとする大量の〈岩ダン〉の素材を入手してきたため〈ベビーベヒモス〉の進化条件を満たせたらしい。
ちなみに他の〈古代樹〉と〈リヴァイアサン〉はまだ進化専用アイテムの入手に至っていないらしい。しかし、なんとなく理解したらしく励んでいるとのことだ。
〈古代樹〉ならランク3で、〈リヴァイアサン〉ならランク4で素材が入手可能だ。
もしかしたらSランク戦までに揃えてくるのかもしれない。
また、〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉も五段階目ツリーの開放を目指して〈岩ダン〉に入ダンしているらしい。
他のAランクギルドもきっとSランク戦までに五段階目ツリーを開放してくるだろう。
俺らも負けてはいられないな!
「ラウもSランク戦までに最低でもLV20、できればLV30を目指して欲しい」
「承知した。となると、まずは〈嵐ダン〉で周回か?」
「いや、〈嵐ダン〉はすでに突破しそうなギルドが多く現れている。ボス周回は使えない。今レベル上げするなら〈山ダン〉が良いだろうな。【獣王】なら範囲攻撃もあるし、木の根を引き裂くスキルも充実している」
「なるほど……。しかし、行ったことが無いぞ?」
「そこは俺だろ。〈山ダン〉攻略ならこの間終わらせたからな。道順はバッチリだ! 誰かの〈イブキ〉に乗せてもらって〈山ダン〉でボス周回しレベルを上げるぞ」
俺は山ダンの攻略者の証をチラリと見せてそう言った。
ラウは納得したようだ。
「〈山ダン〉の攻略者の証が欲しいと言っているメンバーもいるし、ちょうど良いだろ。早速行こう」
「おう」
ギルドメンバーはすでに装備に着替えて〈上下ダン〉で待機していた。
ラウと俺が現れるとみんながラウへとお祝いの言葉を贈る。
「これで〈エデン〉〈アークアルカディア〉のメンバーは全員上級職に至ったわね!」
ラナがそんな発言をすると、周りの人たちがどよめいていた。
「うっそだろ? 聞き間違えか?」
「な、なあ確認させてくれ。そっちはなんて聞こえた? 俺には〈エデン〉全員が上級職になったと聞こえたんだが……」
「お、俺にもそう聞こえた」
「私もよ……」
「うっそだろおい!? 〈エデン〉は上級職が多いと噂になっていたが、全員!? マジでいったいどういうことなんだ!!」
うん、周りの人たちに聞かれてしまったらしいな。ふふ、ならばさらに情報爆弾を投下しよう。
「いや~これで〈上級転職チケット〉が余ってしまうな。どこか欲しがるギルドがいれば交渉材料にするのも良いかもしれないな」
ざわざわざわざわ。
「余ってる? 何が余ってるって言った?」
「おかしいな。俺の耳がバグってしまったらしい。今〈上級転職チケット〉が余ってるって聞こえたんだ」
「俺には交渉材料にするって聞こえた」
「ああ。空耳か。〈上級転職チケット〉が欲しすぎて幻聴が聞こえるようになってしまったらしい」
「〈ハンター委員会〉は1週間で2枚から3枚のチケットを入手していると聞くわ。じゃあ〈エデン〉は?」
「まさか、余ってるのか? ほ、本当に?」
「すでに自分のギルド分の〈上級転職チケット〉は入手し終えた。ならその先は――後は分かるな?」
「お、俺ちょっと交渉してくる!」
「あ、ずるい!」
「ちょっと失礼そこの方?」
「ひ! 王女親衛隊!?」
「それと、そちらの方々はお仲間ですか?」
「いいえ。知らない人です」
「そんな人知り合いにいません」
「というわけでちょっと来てください」
「速攻で手のひらを返した!? う、裏切り者――!?」
「……行ったわ」
「…………ふう、抜け駆けしようとするからだ」
なんだか一部騒がしくなっていたが、宣伝は出来ただろう。
これで〈上級転職チケット〉と素晴らしいアイテムを交換してくれるギルドが増えれば良いなぁ。
その後メンバーに、俺はラウのレベルアップのために〈山ダン〉へ入ダンすると告げる。
「え! 〈山ダン〉行くの? 私も行くわ!」
「おお? だが〈山ダン〉じゃもうみんなのレベルは上がらないぞ?」
「そうね。でもゼフィルスが〈山ダン〉攻略したって聞いてみんな羨ましがっていたのよ。まだ時間はあるのだし、私たちも〈山ダン〉の攻略者の証を手に入れても良いと思うわ」
ラナが一緒に行くと言い出すと、他のメンバーからも手が挙る。
一応〈山ダン〉のランクは3、つまり上限でLV25までしか上げられない。
しかしなるほど。シエラの言葉にも一理ある。時間はまだあるから全員を五段階目ツリーにするのは容易いだろう。
ここはモチベーションを上げるために攻略者の証を取りに行くのも大いに有りだ。
「オーケー、じゃあ〈山ダン〉行きたい人ー?」
「「「「はーい」」」」
「って全員かよ!」
いや、ニーコだけ手を挙げていなかった気がしなくも無いが、多分挙げていただろう。こうして満場一致で全員〈山ダン〉に行くことになった。
早速受付に行って登録と申請をする。
今日の受付は、なんとレンカ先輩だった。
春休みはここの受付も兼任するらしい。
でもお守りみたいに爆弾を渡してくるのはいいのかな?
「撤退するときに使ってね。複数欲しかったらギルド〈私と一緒に爆師しよう〉で販売中よ」
「商魂逞しいな!」
宣伝もしちゃっている様子。
ちなみに渡されたのは〈煙玉・特級爆〉だった。上級モンスターから逃げる用のアイテムだな。
どうやらケルばあさんの目の様なことはできないので、代わりに安全性をさらに上げるアイテムを無料で配布することにしたらしい。なるほど、良い手段だ。
これを使った後に〈転移水晶〉を使えば安全にダンジョンから脱出出来るとのことだ。スゲぇな! これでさらに上級ダンジョンへ挑む学生が増えるだろう!
俺たちは撤退したことないけどありがたくいただきます!
「よし、チーム分けは登録したな。じゃ、出発するぞ!」
「「「「おおー!」」」」
というわけで、出発だ。
今回周回レベル上げ組と〈山ダン〉攻略チームで分ける、つもりだったのだが全員がこの機会に〈山ダン〉での攻略者の証を希望したので、ギルドメンバーのハンナとアルルを除いた33人全員で〈山ダン〉に挑む。
チームは5人パーティが6つと補助担当で3人パーティが1つ、そしてサティナさんを抜いた〈採集無双〉のパーティも一緒に参加している。
「ゼフィルスさん、今日はよろしくお願いいたします!」
「こちらこそだモナ。〈山ダン〉に決まっちゃったけど良かったか?」
「はい! 〈山ダン〉は初めてなので楽しみです!」
「そうか! たくさん採集しような!」
「どんな物が採れるのか楽しみです!」
うむうむ。俺も採取物が楽しみだ。
3人パーティのところにはカイリ、アイギス、セレスタン。
こちらは主にサポート担当だ。
しかし、タバサ先輩がいないので純ヒーラー不足が深刻。
俺もヒーラーをやることになってしまった。サブヒーラーだ。
後はエミとルキアも本職ではないもののヒーラーでサポートのポジションになってもらっている。まあ、そっちのパーティはタンクにシエラを入れたのでなんとかなるだろう。
俺のパーティにはラクリッテに来てもらった。タンクさえ安定していればなんとかなるからな。ノエルと俺が本職じゃ無いがヒーラーを務める。
やはり、こうしてギルドメンバー全員でパーティを組んでみると何が足りないなどがよく分かる。
今後も定期的に全員参加型ダンジョン攻略は開催したいところだ。
「ビバ〈山ダン〉! みんなで来るのは〈イブキ〉の試運転以来ね!」
「あの時の〈トラン・プリン〉をまた使うのよね?」
「だな。基本〈イブキ〉で進んでボスとは遭遇次第戦闘。いつもと同じだ。エステル、先頭を頼む」
「了解いたしました」
今回〈イブキ〉は3台、エステル号、アイギス号、ロゼッタ号で進むことにした。
2年生との合同攻略は〈岩ダン〉の時と同じく〈イブキ〉がないと攻略不可能と思われては困るので徒歩だった。
今回は〈イブキ〉なので早く着くだろう。
真っ直ぐ道なき道を進み――前方に〈トラキ〉が遮った。
「があああ――「ゴツン」あああ!?」
「あ、頭吹っ飛ばずに光に還ったわ」
〈山ダン〉最初の難関(?)と言われる頭が吹っ飛ぶ〈トラキ〉も〈イブキ〉には勝てず。
一瞬で光に還っていった。瞬殺で頭が吹っ飛ぶ暇も無かったよ。さすがは〈イブキ〉だ。
〈イブキ〉はそのまま何事も無かったように〈トラキ〉を撥ねまくりながら進み、巨大な根っこの上を進んだり、乗り越えたりしながら2層への階層門がある崖の前まで来た。
「じゃあ〈トラン・プリン〉を使うぞー」
「あ、それやらせてゼフィルスさん!」
「お、ルキアやってみたいのか? もちろんいいぞ。ここのツメを折って逆さにするだけで使用可能だから」
「はーい! えっと、えい! おお~おっきくなった~!」
「ああー、良いのです! ルルもやりたいのです!」
「いいぞー、じゃあ次の階層ではルルがやってみな~」
〈トラン・プリン〉はやはりやってみたい人が続出した。
ルキアを皮切りに、隣のアイギス号に乗っていたルルまで身を乗り出してやりたいという。ということで、順番にやることになった。
「えっと、この上に〈イブキ〉を乗せるのですか? そのまま上昇してもよかったような」
「まあまあ、エステル。そこは深く考えないように。一度乗ってみれば分かる」
「そ、そうですか、では」
〈イブキ〉があるのだから〈トラン・プリン〉を使わなくても崖の上に昇ることはできる。だけどせっかくだからやりたいよね。
そんなわけで、〈トラン・プリン〉を使います。
〈トラン・プリン〉が上に跳ねるのは人だけでは無い。戦車も可能だ。(それどんなプリン?)
「衝撃に備えろー」
「乗ります――わ」
「「「「きゃー」」」」
エステルが操縦した〈イブキ〉が〈トラン・プリン〉に乗ると、ポヨンという効果音と共に上へと跳ねられた。
一瞬の重力、そして浮遊感のあと、俺たちは崖の上にいた。
下を見ると、アイギスたちがこちらを見上げているので手を振って続くよう促す。
エステルにお願いしてこの場を退くと、アイギス号、ロゼッタ号が次々フワッと跳んできた。
「こ、この感覚はクセになりそうです」
アイギスは〈イブキ〉に乗ったままというジェットコースターのような絶叫系感覚がお気に召した様子だ。
また新たな一面を知ってしまったぜ。
な? 楽しかっただろ?
そんなことを思いながら、俺たちは第2層への階層門を潜ったのだった。




