#1111 上級職ランクアップ! ラウ編!
〈アークアルカディア〉から〈エデン〉に昇格する人数は2人。
あの後の話し合いで候補はラウとルキアになった。
セレスタンも候補だったのだが、ギルドマスターを抜けるわけにはいかないと辞退されてしまったので自然と決まった形。
確かに、一度親ギルドに移籍して試合に参加、その後下部組織に戻るというやり方はあるにはあるが、あまり良いことでは無い。
俺たちが勝利してSランクギルドに昇格した場合、同じく勝利に貢献したセレスタンを下部組織に降格させたと周りに思われてしまう。
さてそこで問題になるのが昇格するメンバーの1人、ラウの職業だ。
まだ下級職の【獣装者】なのである。
上級職に〈上級転職〉させたいとずっと思っていたのだが、目指している職業である【獣王】の条件を満たすのが時期的に出来ず、待っていた。
しかし、その時期が来たのだ。昨日、【獣王】の条件が満たせた。
というわけで、俺はラウと一緒に測定室へと来ていた。
「じゃあラウ。最終確認だが、【獣王】に就くことで問題はないか?」
「もちろんだ。ここまで待っていたのは【獣王】になるためだったからな」
「オーケー。じゃあまず使うのは〈天廊の宝玉〉だ。用意してきたぜ」
「助かる」
【獣王】に必要なのはリーナやメルトが使った〈天廊の宝玉〉だ。
「獣人」系は〈天杯の宝玉〉、つまり杯系が多い傾向にあるが、【王】系や組織のトップ系などは〈天廊の宝玉〉が使われる傾向が強い。
ラウに〈天廊の宝玉〉を渡すと、ありがたいとでも言うように一礼して受け取り、使用する。
「〈天廊の宝玉〉、使用――!」
使用した瞬間から光の粒子がラウの中へ溶け込んでいき、〈天廊の宝玉〉はサラサラと粒子化して消えていった。
「これで準備は完了だな」
「ああ。「獣人」の対人戦での勝利経験も満たしているし、ボスモンスターの撃破経験も満たせているはずだ。これで誰もいなければ、【獣王】に就ける」
【獣王】への条件の1つに強さがある。〈「獣人」を相手に対人戦で連続20人戦闘不能にする〉と〈ボスモンスターの100回撃破〉が条件に絡んでくる。ボスモンスターは上級に来た時点で50回は倒しているものだし、後はボス周回で満たせるので簡単なのだが、問題は対人戦だな。連続というところがネックになる。
これをラウは〈獣王ガルタイガ〉にしばらく出向くことで満たしていた。
ラウが【獣王】を目指すと決めたとき、ガルゼ先輩を訪ねるために〈獣王ガルタイガ〉のギルドに修業しに行っていたが、そこで条件をクリアしたらしい。
聞けば、「我こそは次期【獣王】と思う者は掛かってこい」と拳を突き合わせてきたらしい。
20連勝したときは〈獣王ガルタイガ〉で祝杯をあげたとか。リアルの【獣王】ってそうやって決めるの!? 超盛り上がったらしい。俺もその場に居たかった。
これにもう1つ、最後の条件を満たせれば【獣王】に就くことができる。
そう、【獣王】は時期さえ間違わなければ割と条件は単純だ。
しかし、その最後の特殊条件がかなり厄介。
その条件とは〈学園内に【獣王】がいない〉だ。
故に昨日、【獣王】ガルゼ先輩が学園を旅立ったことで条件を満たしたのだ。
この条件はおそらく【王】たるもの、同じ職業があってはならない、的な感じなのだと思う。【英雄王】とかは「王族」が1人までしか本来は加入出来ないしな。
【賢王】は……普通にダブることもあるが、あっちはSUP35で一段劣るからだろう。
まあ言わんとすることは分かる。
ゲーム時代では、5月辺りには【獣王】に就く学生が現れてしまう。運が悪ければ4月には現れてしまうので、条件の特定がかなり難航したのだ。
まさか他の学生が【獣王】に就いた時点でダメになるとは。
【獣王】に就く学生が現れると自分の持ちキャラを【獣王】にすることはできなくなる。
時期を逃せば次の卒業まで待たなくてはいけないのだ。つまりは早い者勝ちだった。
まあ、リアルだと「20連勝」のところで【獣王】候補たちが誰がふさわしいのかと拳を突き合って決めるのでちょっと違うようだが。
なお、ゲーム時代の【獣王】はなぜか3年生しか就かないので、卒業まで待てば再びチャンスが巡ってくる仕様だった。
あ、ちなみにプレイヤーは別だ。1年生から3年生まで好きなキャラを【獣王】に就かせることができたぞ。
それなら【獣王】が学園から一時的に外出すれば条件満たせるんじゃ無いか? と思うかもしれないが、これがリアルではダメらしい。まあ、王様がちょっと外出している間に王様ができちゃダメだよな。
帰って来た王様びっくりしちゃうよ。
そんなわけで、ガルゼ先輩が卒業するまで待っていたというわけだ。
「ラウ。これがラウの分の〈上級転職チケット〉だ」
「ありがとう。行ってくる」
真剣な表情でチケットを受け取ったラウはそのまま〈竜の像〉に手を載せた。
「あった。【獣王】だ!」
「おお! 良かったなラウ!」
「ああ!」
無事【獣王】は誰かに就かれることも無くジョブ一覧に存在した。
誰にも取られていなくてよかったぜ。
焦る気持ちを抑えつつ、ラウが慎重に【獣王】をタップする。
すると他の一覧がフェードアウトして【獣王】だけが残り、ラウの上に輝いた。
「よし! うおっ!? これは……!」
「安心しろラウ。ただの覚醒の光だ」
「これが、覚醒の光か! ……ゼフィルスさんはずいぶん落ち着いているんだな」
「結構見慣れているからな」
「……なるほど」
【獣王】は全獣人が就くことができる職業なのにSUPは36だ。つまりは覚醒の光の対象。
淡い黄緑色の光に囲まれたラウは最初は驚いていたものの、俺の助言に心を落ち着かせ(?)しっかり覚醒の光を堪能(?)したようだ。
そして覚醒の光が収まると、ラウがなんとも言えない、やり遂げた達成感のある表情で俺の前に来た。
そんなラウに、俺もいつも通りの言葉を贈る。
「〈上級転職〉おめでとう。これでラウは【獣王】だ」
「ああ。ありがとうゼフィルスさん」




