#1110 春休み計画! 今回の帰省者はまさかのゼロ!
「Sランクギルドに成りたいかー!」
「「「「おおー!」」」」
現在〈エデン〉のギルドハウス。
俺はギルドのご神体である〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の前で見守られながら、ギルドメンバーに発破を掛けていた。
「Sランク戦か。もしこれで勝てれば〈エデン〉の目標が果たせるな」
「たはは~、ちょっと前にAランクになったばかりなのに、なんだかあっという間の気がするよ」
メルトとミサトはすでに勝った気のようだ。
まあ、負けるつもりは無いな。
しかしSランクギルドか~。
この前までAランクギルドのままの方がギルドバトルを挑まれやすくならないか? とAランクギルドをしばらくキープしようと思っていたのだが。その理由も全く挑まれなかったという悲しい結果の前に頓挫している。つまりはいつでもSランクに上がって良しだ。
とはいえ、Sランクギルドに挑むには条件があった。
それはランダムマッチング申請ができないことだ。
ランダムマッチングとは学園にマッチングを任せる代わりに指名料をカットしてもらう申請である。無料でランク戦を挑める制度のことだが、Sランク戦には適応されていない。
つまりはSランク戦を挑むにはかなりお高いQPを支払う必要があるのだ。
しかし、それ以外にはランク戦を挑むのに必要な条件は無し。
Aランク戦に挑むための条件だった、〈Bランク戦防衛実績3回以上〉なども無い。
これはBランクギルドの数がそもそも20ギルドしかなく、防衛回数をそこまで貯めることができなかったというのが理由だった。今の〈エデン〉のように。
ということで「Sランク戦はいつでも挑めるけれど高いQPが掛かるから覚悟してね」というわけだ。しかも防衛側がフィールドなどを決められるので勝つための難易度は高い。
挑んで負ければシャレにならないQPが飛ぶので、Sランク戦が発生するのはかなり稀だ。
まあ、〈エデン〉ならいつかは挑んでいただろうけどな。
しかし、〈拠点落とし〉ではQPは掛からない。
支払う対象がいないからだ。そして、主催が学園だからである。
今までお高いQPに躊躇していたギルドも、これには参加しないわけが無い。
むしろ参加しないギルドなんていないだろうな。
もし力不足だと感じていても、Sランク戦を体験できるのだ。貴重な経験になるとAランクギルドの人ならば誰しも思うはずだ。
Sランク戦はとても激しいものになるだろう。
最上級生が卒業した直後で戦力が下がっているとはいえ、Aランクギルドには〈獣王ガルタイガ〉〈ミーティア〉〈カオスアビス〉〈サクセスブレーン〉〈集え・テイマーサモナー〉〈筋肉は最強だ〉などの油断できないギルドも多い。
最近では〈氷の城塞〉も腕を上げてきているらしいな。
一番戦力が落ちたと言われているのは「エルフ」オンリーギルド〈新緑の里〉だろう。元々23人しかいなかったこのギルドは最上級生の卒業により現在15人にまでその数を減らしており、Bランク戦の防衛〈20人戦〉すら厳しい人数となっている。
Sランク戦といえば〈30人戦〉が基本だ。15人では参加すら厳しいだろう。
もしかすれば、ランク戦で入れ替わりがあるかもしれないな。
Aランクの戦闘職ギルドは全部で9ギルド。
Sランクギルドに成れるのは1枠。
その1枠を〈エデン〉が掻っ攫おう。
楽しくなってきたぜ!
「さて、Sランク戦までおそらく1ヶ月ある。その間にギルド〈エデン〉もステップアップして行こうと思う!」
「さらにステップアップしちゃうんだね!」
「Sランク戦はまだいつ行なうかなどは決まっていないけれど、去年は4月12日金曜日に〈キングアブソリュート〉対〈千剣フラカル〉のギルドバトルが行なわれたわ。おそらくそのくらいじゃないかしら?」
俺の言葉にミサトが良いリアクションをし、シエラが冷静にSランク戦の日時を分析する。
「シエラの言う通り、去年と照らし合わせれば第2週目の金曜日。4月11日金曜日辺りが怪しいところだ。〈拠点落とし〉だと時間が掛かるから土日かもしれないけどな。それまでに全力でレベル上げするぞ!」
卒業式が3月4日火曜日に終わり、本日3月10日月曜日に俺たちは終業式を迎えた。
春休みは4月6日日曜日までとなっている。
新入生の来訪が4月初めからなので、3週間はダンジョンに費やせる計算になる。ありがたい。
しかし、その前に確認しておかなければならないことがいくつかある。
「ということで春休みの期間、これをどう過ごすのか決めようと思う。恒例のブリーフィングを始めようか」
「そうね。みんな席について。ブリーフィングを始めるわ」
シエラが手を叩いてギルドメンバーに指示を出す。
終業式の後ではあるものの、クラスメイトとはお昼を食べて解散したので午後2時には全員がギルドハウスに揃っていた。
いつも通り巨大な縦長の机に座ってもらい、壇上に俺とシエラが立って話を進める。
「まずは帰省者からだな。今回はラナたちは帰省しないんだったな?」
「そうよ! 公務は全部お兄様にやってもらうことにしたの。これまで私が全部やったんだからお相子よ」
ユーリ先輩……。
あの仕事量に加えて公務まで全部やることになったのか。
がんばってほしいな。
とはいえそれでラナが残れることになったのだからユーリ先輩には感謝しかない。
「他に帰省する人はいるか? ――あれ? 誰もいないのか?」
「リカは帰らなくていいの?」
「問題無い。シエラが冬休みに実家に帰らず大きな成果を上げたであろう? だから私も突っぱねてな。学園で修行した方が成長に繋がると押し通したのだ。父もそう言われては何も言い返せなかったな」
「私も私も! 私たちが居ない間にギルドがすんごいことしていて見逃しちゃったから、帰省は最低限、年末年始だけでいいって許可もらったんだよ!」
「私も~。ちゃんと職業報告も終わったし、自由にやらせてもらえることになったよ」
リカだけじゃなく、ノエルやシャロンまで実家に帰らないと伝えたらしい。
あの〈ドリームチーム〉、3年生合同攻略の波紋がそんなところにまで影響していたとは。
帰省組がいない間に偉業を打ち立ててしまったせいで、帰省している間にまた何かやらかすのでは? と〈エデン〉は思われているらしい。
そして、その場に自分の娘が居ないなんてとんでもないということで、帰省する人は皆無になったようだ。本当に大丈夫か? 嬉しいけど!
「では、春休みの帰省者はゼロね」
さらさらとシエラが手元の紙に書き込んでいく。
大丈夫そうだ。なら、話を進めよう。
「なら、今度は目標だな。目標Sランク戦〈拠点落とし〉! それまでにギルドを出来る限りパワーアップさせる! ということで五段階目ツリーを開放しよう!」
「はしょりすぎよゼフィルス。――みんな、この春休みはSランク戦に向けてLVだけじゃなく、スキルを使いこなすなど実力を付けていく日々になるわ。大丈夫かしら?」
シエラからツッコミが飛んだ。つまりは春休みは修業回というわけだな。
修業の内容はダンジョン攻略になるだろうが。つまり、いつもと同じだ。
「もちろんなのです! ルルはもっと成長して頑張るのです!」
「目標のSランクギルドになる機会がすぐそこにあるのだ。全く問題は無い」
ルルやメルトが力強い言葉で賛成する。他のメンバーも口々に賛成し、異論は無いようだ。
「じゃあ、春休みはみんなに五段階目ツリーを開放してもらうとして」
「なんかもの凄いことを平然と言ってるよゼフィルス君……」
「もう一つ重要な問題がある。Sランク戦は〈30人戦〉だ。しかし〈エデン〉は今29人しかいない。そこで〈アークアルカディア〉から〈エデン〉に昇格させようと思う」
ざわざわ。
俺の言葉にギルドがざわめき、そして1箇所の席に視線が集まった。
そこはいつもタバサ先輩が座っていた席だ。
つい昨日タバサ先輩が脱退し、〈エデン〉の人数は1人減って29人になった。
まだ昨日のことなんだと少ししんみり。
いかんいかん。こんな姿をタバサ先輩に見られたらかっこ悪いと思われてしまうかもしれない。
俺はしっかりと気を持って話を進めた。
「あとは、ハンナもさすがに戦闘職Sランク戦をやらせるには厳しいから、今回は見学だ」
「う、うん。私もその方が嬉しいかな」
「というわけで2人〈エデン〉に昇格させる必要があるわけだ」
候補はセレスタン、ルキア、ラウだな。3人とも戦闘職だ。
「でもそうすると〈アークアルカディア〉の人数が5人を下回るわよ? ギルドを維持できないわ」
シエラが言っているのは、ギルドは人数が5人未満になったとき、1週間以内に補充出来なければ解散しなければならないという校則に則ったものだ。
〈アークアルカディア〉の人数は6人。2人以上が昇格すれば、4人になってしまい、ギルド解散の危機を迎えてしまう。
「なら、新入生をスカウトするしかないな。良い職業に就かせてやらないとな!」
「……またあれをやるつもりなのね。入学式があるのは4月7日月曜日。1人以上加入してもらえればギルドを保持できるし、大丈夫、かしら?」
シエラがジト目で見てきて、しかも疑問形だった。
はて、なんのことだろうな? ふはははは!
「まあ、そんなわけで――ラウ」
「ああ」
「ラウにはまず【獣王】に〈上級転職〉してもらおうか」
実は昨日、ラウが【獣王】に就く条件をとうとう満たせたのだ。




