#1109 終業式ホームルーム。〈ダン活〉で留学生来る
終業式が行なわれた。
卒業式と比べれば簡素なもので、入学式でも利用したあの巨大体育館で学園長からのありがたいお言葉をいただき、教室に戻るだけだ。
学園長はまた各課の校舎を回って挨拶しなくてはいけないので忙しそうだ。
俺たち戦闘課1年生へ掛ける言葉も少なく、3分も喋っていなかったのではなかろうか?
終業式名物、長い校長の話は今回も無かった模様。
「これで授業も当分無しかぁ。うむ、しばらくダンジョンに集中できるな」
「あなたはブレないわね。終業式が終わって考えることがダンジョンなの?」
教室までの道のりでギルドメンバーに話を振ると、ギルド〈エデン〉のサブマスター、シエラが答えてくれた。歩いているだけなのに、相変わらず所作に気品がある。
「もちろんだ。〈戦闘課〉のギルドメンバーは全員が上級ダンジョンの攻略者になったし、そろそろランクが上のダンジョンにも挑むべきだと思うんだよ。例えば、ランク4とか」
「いいわね! お兄様が城に戻ったから今回私は帰省しなくていいのよ! 全力で参加するわ!」
そう参加を強く表明したのは我らがギルド〈エデン〉の王女様。ラナだ。
ラナが来てくれれば〈金箱〉開け放題だ! これは勝ったな!
「レベル上げも込みですね。30に到達したメンバーもかなり出てきていますが、まだ至っていないメンバーも多いです。重点的にレベル上げをするのも有りですね」
「もちろんそれも込みだぜ!」
そう提案してくれたのはギルドの最速ダンジョン攻略に欠かせない『乗物操縦』の技能を保持し、またラナの護衛兼従者をしているエステルだ。
エステルの言うとおり、テスト明けから〈岩ダン〉に挑み続け、エリアボスを呼ぶ笛アイテム〈フルート〉を使った〈エリアボス周回〉によって、10名がLV30に至っていたりする。
リカ、ルル、シズ、リーナ、メルト、ミサト、ラクリッテ、アイギス、ノエルがすでにLV30になって五段階目ツリーを開放している組だ。
本当はタバサ先輩も五段階目ツリー開放組だったのだが、卒業してしまいギルドを脱退してしまったので1人減っている状況。戦闘職はこれで14人。5人パーティを組むには少し欠けている。他のメンバーをLV30に至らせるのはとても良いと思う。
俺たちは学生。やはり春休みという名の長期休暇が目の前に来れば、自然と話題は長期休暇をどう過ごすのかという話になるというものだ。
そんなワクワクする話をしながら教室に戻り、自分の席へ着くとホームルーム。
教卓の前に立ったのは我らが1組の担任、フィリス先生だ。
この前20歳になったばかりの美人教師である。
「みなさん、1年間お疲れ様でした。途中から1組になった子もいるけれど、私はあなたたちの最初に担任に成れたことをとても嬉しく思うわ。こうしてこのクラスメイトで集まれるのは最後かもしれないから、みなさん後悔の無いようにね。さ、しんみりする話はここまで、では春休み中と来年度の連絡事項に移るわね」
フィリス先生は教師1年目から戦闘課1年1組という学園にとって重要なポジションを担当し、とても大変だったと思う。1年間ずっと勉強詰めで、副担任のラダベナ先生からフォローされたり、これはこうするといいとアドバイスを受ける姿を何度も見かけた。
1年前と比べると格段に先生っぽくなった気がする。
そんなことを考えながら春休みの注意事項。主に帰省に関することや、長期休暇だからといって羽目を外しすぎないように、といういつもの連絡を聞く。
しかし、来年度の話になって俺の真剣味は一気に増した。
「――そして来年度ですが、新入生と一緒に留学生も多く受け入れることになりました」
「留学生?」
妙な言葉が出てきて思わず反芻してしまう。
他のクラスメイトたちも知らない単語にざわざわしていた。いや、留学生という意味は分かる。分かるが、〈ダン活〉には留学なんてイベントは無かったぞ。どういうことだ?
「みなさんが驚く気持ちは分かるわ。本来寮生活の学生が留学というのはあまり無いものね」
どうやらフィリス先生からしてもかなり稀な話らしい。
「留学生なのだけど、数千人単位になる見込みとのことよ。場所は各分校から。特にその学園で優れた成績を修めた学生をさらにステップアップさせるために本学園に留学させるそうよ。時期は春休みが明けて、1週間から2週間後ね。少し時間が掛かるみたいね」
数千の留学生!?
それまたすごい規模だな。
ちなみに分校というのは〈迷宮学園・第◯分校〉という意味だ。
この世界にある学園は、全てが国立運営となっており、俺たちが通う学園を〈本校〉と言い、他の何十もある学園を〈第◯分校〉という名称で呼んでいる。ちなみに○の中にはローマ数字が入る。〈第Ⅳ分校〉とかな。ちょっとかっこいいと思ったのは秘密。
そして一番ダンジョンが充実しており、世界でも有数な教師たちが教えているのがここ〈国立ダンジョン探索支援学園・本校〉、通称〈迷宮学園・本校〉だ。
聞いた話では、分校にあるダンジョンはあまり多くないらしい。少ないところでは20もダンジョンが無いという話も聞く。
どういうシステムになっているのか気になるところだ。留学生が来るのなら是非話を聞いてみたい。
そんなわけで、この〈迷宮学園・本校〉に入学したいという学生は多いのだ。
しかし、それが今年は例年を遥かに超える願書が届いたことで、本校は入学者数を増やすことを決めた経緯があったはずだ。
だが、この話には続きがあった。
「分校に所属する現学生たちも、本校で学びたいという声が多く出たそうよ。それで、成績優秀な人材のみ、本校も留学を受け入れることにしたわけね」
なるほど~。
そりゃ今年の入学生だけじゃなく、現学生も通いたいと思うよな。
想像してみる。確かに枠は数千あるが、壮絶な争いがあったんだろうな。
しかし、留学してさらに成長したいだなんて気合いが入っているな。留学生か、そんなイベント今まで無かったから楽しみだ!
そうして最終的に〈迷宮学園・本校〉は3万3000人の学生を所属させることに決めたのだそうだ。新入生を倍にするだけじゃこの数字に届かないよなとは思っていたが、最初から留学生を受け入れるつもりだったのかな?
しかも留学生ということは、2年生または3年生ということになる。
1年生は入学したばかりで留学も何もないからな。
俺たちは2年生に上がっているし、多くの留学生が俺たちの学年に来ることになるのか。
それも成績優秀者だ。
1組級も来るのだろうか? 俺たち〈エデン〉を上回る2年生は果たしているのか?
……居たら是非会ってみたいなぁ。
「ちなみに留学してくる多くの成績優秀者は〈転職制度〉を利用した高位職ね。でもそれなりの数の上級職もいるって話よ」
まあ高位職ばかりだろうな。
〈転職制度〉を利用したということはリセット組か。
しかし、それとは別に上級職も多いとは、良いじゃないか!
負けるわけにはいかない。こりゃ、LVをたくさん上げておかないとな。留学生たちが来るまでに。
効率的に進めなければ! ふはは!
そんなことを考えていると、いつの間にか留学生の話は終わって次の話に移っていた。
その話も、俺をやる気にさせるには十分な威力を持っていた。
「それともう一つ連絡事項。卒業を機に解散した〈キングアブソリュート〉。その空いたSランクギルドの枠を巡って来月の中旬辺りにAランクギルドを対象にしたSランク戦〈拠点落とし〉を計画しているので、Aランクギルド所属の人は参加するか検討してくださいね」
それはSランク戦のご案内だった。




