#1108 最後に記念撮影とタバサ先輩のギルド脱退。
〈スクリーンショットカメラ〉。これは略して〈スクショ〉と呼ぶことにした。
この名前、とてもしっくり来る。
〈スクショ〉はインスタントカメラだ。カメラに現像機能が付いている。
これもハイテクでデジタルカメラのように撮った写真のデータをカメラの中で保存、現像したい写真を選択すればそのまま現像できる仕様だ。
ただ現像回数制限が30回というのがネックだな。
またレンカ先輩に回数回復してもらわないと! 非常に重要なミッションだ。お礼は弾もうと思う!
これの産地はとある外にある上級ダンジョンだという。そこの〈金箱〉から極希に産出するというのだから素晴らしい。
卒業後はそこに行って周回するのも有りだな。
そして栄えある記念。〈スクショ〉を使用するその第1回目は、ユーリ先輩と俺のツーショットになった。
司会の方はこの世界には数少ない写真家でもあるそうで、お願いした形。
まさか初の〈スクショ〉が撮る側じゃなくて撮られる側になるとは思わなかったぜ。
その後、司会の方から〈スクショ〉の使い方から利用上の注意事項、テクニックまで多くのことを教わることになるのだが、それは別の話。
「じゃあ続いて、全員で記念撮影と行きますか!」
〈スクショ〉をゲットしたら撮影するのはお約束。(そんなお約束は無い)
とりあえず撮る! 現像は後でも出来るのだ。まずは撮りまくるのが吉。遠慮は不要!
「ゼフィルスがすっかり〈スクショ〉? の虜になっちゃったわ」
「さすがはユーリ殿下です。ゼフィルス殿がここまではしゃがれるとは、リサーチは完璧ということですね」
「ゼフィルスは〈スクショ〉をずっと欲しがっていたものね。そう簡単には手に入るものじゃ無いから何も言わなかったけれど」
「これからは歯止めが利かなそうですわね。誰かがストッパーにならなければいつまでも〈スクショ〉を使っているかもしれませんわ」
「ゼフィルスさん、もらった玩具で遊ぶ子どもみたいなはしゃぎぶりですね。ふふ。なんだか可愛らしいです」
ラナ、エステル、シエラ、リーナ、アイギスが俺の方を見て何か話していたが、俺の耳には届かなかった。
まずは撮影だ!
写真に残したいものがいくらでもあるんだ!
例えばラナとユーリ先輩のツーショット。
兄妹仲睦まじく……にしてはちょっとここは硬すぎるな。またどこか非公式の場があれば撮影することにしよう。
その後、ユーリ先輩から定期的にラナの写真を催促されたのは秘密。
それからも俺はパーティで〈スクショ〉を片手に楽しんだ。
おかげで現像したいものが30枚を余裕で超えてしまったよ。
レンカせんぱーい!!
さらに数日経つとそこら中でお別れが相次いだ。
またの名を旅立ちの時。
学園で寮生だった最上級生も、新しく入ってくる新入生のために寮を空けなくてはならない。
一応新入生が増え在学生の総数が増えるため、寮も新しい棟がいくつか建ったとはいえ、いつまでも居て良いわけでは無い。部屋は空ける必要がある。
トランク型や巨大箱形の〈空間収納倉庫〉を抱えた卒業生がどんどん馬車に乗ってはさよならしていく。
そこには俺の知り合いの姿もあった。
「みんな今日に合わせるとは、なんだか因果なものだね」
「別に狙ってたわけじゃないがな! だが、こうして最後に会えたんだ。最上級生らしく堂々と行こうじゃねぇか!」
「はは。そうだね」
ユーリ先輩にガルゼ先輩。
〈キングアブソリュート〉や〈獣王ガルタイガ〉の最上級生だったメンバーズだ。
彼らは今日、学園から旅立つ。
とても寂しくなる。
「ユーリ先輩、ガルゼ先輩」
「ゼフィルス君、ラナを。そして学園の未来を、頼む」
「うちのお転婆妹も頼むぜ。何かやらかしたら〈獣王ガルタイガ〉ごとぼこっていいからな」
「おう。任せてくれ!」
任されるものは意外にも多い。
というかユーリ先輩、学園を頼むってまた壮大なものを任せてくれるな。
だが、やってやるぜ。これまで通りでいいんだろ?(爆弾)
これまで学生のリーダー的存在であり、学園を引っ張ってきたトップギルド〈キングアブソリュート〉は先日、多くの惜しむ声を受けながらも解散した。
元々はユーリ先輩の実績作りや上級ダンジョン攻略の成果を上げるために作られた、王族を主体とした組織だったので、目的を果たし、ユーリ先輩が居なくなればむしろ解散させなくてはならない。
そして今はSランクギルドが1つ空席状態となっていた。
なんだかユーリ先輩からはその席に是非〈エデン〉に就いてほしいような意思を感じるんだよな。
とはいえ3月はどこもかしこもバタバタしておりギルドバトル〈拠点落とし〉をやる余裕は無いそうで、4月に新入生が入学してから行なうことが予定されている。
つまり――Sランク戦だ。
ああ、なんだか懐かしいな。
確か去年は〈キングアブソリュート〉と〈千剣フラカル〉のSランク戦があったのもその時期だ。あれでギルドバトル熱が燃え上がったんだ。学園はこれを狙っているのかもしれない。
「そういえばガルゼ先輩、〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスターとサブマスターは決まったのか? なんか妹を任せるのが心配だとか前にボヤいていたけど」
「おう。とりあえず2年生で一番統率力のあるやつに任せておいた。ただ、あいつにはゼルレカは御しきれないだろうな。理想はゼルレカが【獣王】になってみなを率いることなんだが、こればっかりはなぁ。あのお転婆な性格が変わればいいんだが。あれじゃあゼルレカが【獣王】になるのも望み薄だ」
「だから【怠惰】か?」
「おう。俺の後釜に誰が【獣王】になるか分からんからな。ゼルレカにはダメだったときのために【怠惰】への道を残しておきたいのさ」
「猫人」カテゴリーの【大罪】系――【怠惰】。
〈エデン〉は以前、その発現条件に必要な装備、〈放蕩獣鉄剣〉を当時〈獣王ガルタイガ〉が持っていた〈白の玉座〉と交換した経緯がある。やはりあの剣はゼルレカのためだったようだ。
「本当にすまんがゼフィルス。あいつを少しばかり気に掛けてやってくれ」
「おう、任せとけ」
ガルゼ先輩には心残りというか、心配が表に現れていた。何度もお願いしてくるくらい心配らしい。
〈獣王ガルタイガ〉はみんな優秀だが、その中でもガルゼ先輩は圧倒的だったからな。
それが抜けた後のギルドとか、確かに不安だろう。
俺も、もう知らない仲ではないし、気に掛けることくらいはすると約束する。
おかげでガルゼ先輩の表情は幾分か良くなったみたいだ。
「おっと、そろそろ時間のようだ」
「はあ、楽しい時間っつうのはほんとあっという間に過ぎるな」
苦笑するユーリ先輩とボヤくガルゼ先輩。
もうそんな時間か。
改めて2人と向かい合う。
「2人とも元気で」
「ゼフィルス君もね。いつか遊びに来てほしい」
「こっちもだ。ゼフィルスの依頼なら安くしておくぜ? とはいえゼフィルスには必要無いかもしれないがな。だから俺んところにもいつか遊びに来い」
「そりゃあ楽しみだな」
「ははは」
「がはははは!」
そうして笑い合うと、2人はそれぞれの馬車に乗り込んでいく。
「お兄様、また妙なことはしないでくださいね!」
「最後の言葉がそれかい? そんな心配しなくても大丈夫だよラナ。ラナとケンカするのはこりごりさ」
ラナも最後にユーリ先輩と言葉を交わしていた。
それはラナのツンデレセリフだぞユーリ先輩。可愛いだろ?
「ガル、またね」
「おう。ミミナもな」
こっちではガルゼ先輩とミミナ先輩が、でも言葉数が少ないな。
ミミナ先輩は部族が違うのでここでガルゼ先輩ともお別れらしい。
一通りの挨拶が終わると馬車が発進する。
「じゃあなー!」
学園から去り、小さくなっていく馬車を、俺たちは見えなくなるまで見送った。
ユーリ先輩たちを見送ってギルドに戻る。
もう一つやるべきことがあるのだ。
「ゼフィルスさん」
「タバサ先輩。もう行くのか?」
「はい。いつまでも居たらどんどんぬいぐるみが増えてしまいそうなの。そろそろ行かないと」
そう。タバサ先輩のギルド脱退だ。
しかし、それを止めようとしているのか、それとも他の理由からか、タバサ先輩を足止めしようとする者がいる。
「タバサお姉ちゃん! 最後にこのぬいぐるみさんを動かしてくださいなのです!」
「もうルルは、それは昨日も言っていたわよ?」
「昨日は昨日なのです! 今日はまた違うぬいぐるみさんなのです!」
そう、ルルを始めとするぬいぐるみ好き組だ。
つい先日のこと、〈岩ダン〉周回で10人のメンバーが新たにLV30となり五段階目ツリーを開放した。タバサ先輩もその1人で、複数の〈依り代〉カテゴリー、つまりはぬいぐるみを動かせる『多重口寄せの大儀式』を使用できるようになっていた。そしてこれが〈エデン〉女子メンバーの心を鷲掴んだのだ。
おかげでタバサ先輩がギルドへ来る度にぬいぐるみを動かしてとせがまれ、毎日のようにぬいぐるみを貢がれる。そして未だに脱退手続きが完了できていなかった。
連日〈スクショ〉がフル稼働しっぱなしだぜ。
しかし、今日のタバサ先輩の意思は硬かった。
「みんな聞いて? 私は今日を最後に〈エデン〉を脱退するわ」
それを聞いて先ほどまで騒がしかったギルドハウスも落ち着いていく。
静かになったギルドでタバサ先輩はみんなに向かってまず頭を下げた。
「みんな、今までありがとう。これまでの人生で〈エデン〉に居た時間は本当に最高の一時だったわ」
タバサ先輩は〈テンプルセイバー〉に所属していたことでとても大変な目にあった。
それ故か、今の言葉には万感の思いがこもっているように聞こえた。
頭を上げたタバサ先輩が、とても和やかな笑みで〈エデン〉でこれまでどれだけ楽しい思いをしてきたかを告げていく。
「〈エデン〉は明るかったわ。空気がとても良くて、楽しさで溢れていたの。〈アークアルカディア〉のメンバーの講師みたいなこともしたわね。ギルド全員で慰安旅行に行って温泉を満喫したりもしたわ。そのどれもが温かかった――」
タバサ先輩の言葉にカタリナやアイギスが目を拭う仕草をする。
俺はタバサ先輩の言葉を聞いて、とても誇らしくなった。
やはりギルドの方針は間違いでは無かったと実感した。
「――そして極めつきは〈白の玉座〉。もう半分くらい諦めていたのだけど。先日、私は〈白の玉座〉を手にすることができた。〈エデン〉で受けた恩と思い出を私は生涯忘れません」
そう言ってタバサ先輩も目を拭った。
「みんな、改めてありがとうございました。とても、楽しかったわ」
最後の一言の後、ギルドは拍手に包まれた。
引き留めようとしていたルルたちもうるうるした瞳で拍手を贈っている。
拍手が終わると、仲が深かったメンバーたちが口々に思いを口にする。
「私たちも、楽しかったですタバサ先輩」
「ずっとギルドに居てほしかったよ」
「タバサ先輩に教えていただいた薫陶と恩は忘れません」
カタリナが何度も目を拭いながら言い、フラーミナがタバサ先輩の脱退を惜しみ、ロゼッタが騎士らしく背をピンと伸ばしながら礼を告げた。
3人は〈アークアルカディア〉に居た頃、一番お世話になっていたからな。
その後も何人ものメンバーがタバサ先輩へお別れを言ったり、行かないでくださいと言ったりと、集まってくる。
「もう、みんな。別にここを脱退しても二度と会えなくなるわけじゃ無いわ。私は学園で教師をすることになったから会おうと思えばすぐ会えるわよ」
「ですがタバサ先輩とはもうダンジョンに一緒に行くことは難しくなります。会う機会も少なくなります」
「もう、アイギスったら。そんなことでどうするの? あなたはギルドで最年長になるのよ? もっとしっかりなさい」
「は、はい……」
アイギスが弱々しく返事をする。
エリサがきょとんとして俺の方を向いてくるが、俺は頷くだけにとどめた。水は差さない。
「みんな、記念撮影するぞ!」
「いいわね! タバサの卒業記念よ!!」
〈エデン〉の思い出だ。最後にみんなで記念撮影を提案するとラナがすぐに乗ってきてくれた。
全員で〈幸猫様〉と〈仔猫様〉が鎮座している神棚の前に集まると、セレスタンがいつの間にか台やら何やらをセットしていた。
「ここに置きセルフタイマーを起動させれば全員入るかと」
「さすがはセレスタン。仕事が早いんだぜ」
三脚は無いので台の上にカメラを載せて、準備ができたらセルフタイマーを起動する。
「ゼフィルス、こっちこっち」
「おう!」
神棚のすぐ横、ラナの隣に入り込むとピースを決める。
神棚を挟んで向かい側はタバサ先輩だ。見れば俺と同じポーズにしていた。
ははは。
そのままカメラがカシャリと撮られた。
すぐに現像してタバサ先輩に渡す。
「ありがとうゼフィルスさん。最後に最高の思い出をもらったわ」
タバサ先輩が、まだ色の出ていない写真を大事に抱える。
すると、今の会話が気に入らなかったのかラナから提案があった。
「待ちなさい、最後にもっと大きな思い出を作るわよ! スクショなんかに負けてられないわ! お別れパーティを開催するわよ!」
「それいいな! 採用だ!」
「実はすでに大体は用意してあるのよ!」
なんということだ。ラナの提案の後、すぐにシズとセレスタンがポンポンとパーティの準備を開始し、ものの数分でギルドハウスがパーティ会場に早変わりした。
さてはラナ、最初から仕組んでいたな?
タバサ先輩も笑ってパーティに参加。みんなで最後の思い出作りに励んだ。
俺もそこら中で写真を撮りまくった。タバサ先輩と俺のツーショットも撮った。
これは後日現像して渡すとしよう。
そうしてみんなに笑顔が戻っていく。
最後は笑顔で送り出してくれたみんなにお礼を言って、俺とタバサ先輩は〈ギルド申請受付所〉へと向かい、タバサ先輩の脱退手続きをしてもらった。
「これで、私も一般人ね。なんだか、卒業よりもギルドを脱退したことの方が学生じゃ無くなったと実感するわ」
「じゃあ、改めて言おうか。タバサ先輩。ご卒業おめでとうございます」
「ええ。ありがとねゼフィルスさん。あの時声を掛けたのがあなたで良かったわ」
タバサ先輩はそう言って微笑んだ。
第二十三章 ―完―




