#120 残り三人。ラナは軽く爆弾を落っことす。
困った。
子爵の令嬢様は未だすやすや夢の中だ。
しかし、時間はすでにラナの面接の時間が迫っている。
ということでルルちゃんに関してはそっとしておこう。
さて、これで9名のメンバーが決まったわけだ。
しかしながら、メンバーを振り返ってみると、見事に女しかいない。
確かに〈ダン活〉では〈姫職〉というグループもあって女の子キャラの方が強い傾向にあるが、じゃあ男の子キャラが弱いのかというとそんな事は無い、と胸を張って言えるくらいには充実している。
何しろ1021職だ。男だって強い奴はいるさ。
その筆頭が「王族」「王太子」の【英雄王】なわけだが、残念ながら同じ一年生にラナ以外の「王族」はいないらしい。
まあゲームでも人数制限で1人までしか参加出来ない仕様だったが、ここはリアルだし2人くらいイケない? と思わなくも無かったが残念ながらイケないらしい、残念。
それはともかく、俺は別に女の子キャラ限定に絞るつもりはないので出来れば男のキャラも来てほしい。さすがに俺一人が男とか、今は良いがこの先肩身が狭くなりそうなんだよ。
いや、この際自分で探しに行くか?
とそんな事を考えているとガラッと音がしてギルドの扉が開いた。
突然の事にハンナがビクッとしていた。ルルもむず痒そうに身をよじっている。
誰だ。ノックもせずに勢いよく扉を開けたのは!
いや知ってる。犯人はラナだ。むしろラナしか居ない。
「待たせたわね! 連れてきたわよ!」
「ラナ様、寝ている方がいらっしゃるのでもう少し音量を抑えていただけますか?」
おっと、珍しくハンナの苦言が飛んだ。
ルルちゃんの寝姿が相当ツボに来ていると思われる。
「あ、そうなの。ごめんなさい」
ラナもルルを見て思わずといった様子で身を引いた。
ラナはわがままに見えて意外に聞き分けが良い。
わがままは言うが相手が困る事はあまり言わないし、相手が嫌がったり困ったりするとこうして素直に謝ったりするし、割と手助けしたりする。
おかしいな。俺の時は素直になられた記憶が無い気がする。
「ラナ殿下。この子を隣の部屋に移動させるから少し待っていてくれるかしら。ハンナ、手伝ってくれる?」
「もちろんです」
結局起きなかったルルちゃんを背負ってシエラが倉庫部屋に移動すると、ハンナが〈やわらか簡易マット〉を持って付いていった。
隣の部屋なら多少ラナがいつもの声で喋っても大丈夫だろう。
「待たせたな」
「別にいいけど、あの女の子誰? 迷子なの?」
「いや、新メンバーだ」
「? …………あ、ああ! 子爵の令嬢ね! そういえばシエラが言ってたわね!」
ハンナと違いちゃんと貴族社会に理解があるはずなのにラナは一瞬きょとんとした。後ろから来たメイドさんにこそっと耳打ちされ、そこで思い出した模様だ。
そこでラナの後ろのメンバーに目を向けた。
メイド服を着た女子が一人と、ピシッとした従者の衣装を身につけた女子、そして、
「お! もしかしてそっちの人は【バトラー】か?」
最後の一人は一目で執事と分かる、パリッとした白の執事服を身につけた男子学生だった。
なかなかに背が高い。俺より少し高めの身長だが俺以上に童顔だ。その表情は微笑みを浮かべていてその手の女子にはかなり好かれそうだ。
しかし、そんな事はどうでも良い。とうとう男子来たか、待ちわびたぞ!
「そうよ。本当によく知っているわね、セレスタン、自己紹介をしてくれる?」
「はいラナ殿下。———お初にお目に掛かります【勇者】ゼフィルス殿。ぼくはセレスタン。職業は【バトラー】を取得しています。どうぞお見知りおきを」
ご丁寧にしっかりと頭を下げて挨拶してきたセレスタンという執事は、すでに職業を取得していた。しかも予想通りの【バトラー】だ。こいつは珍しい。
ラナの後ろのメンバーを見て思ったけれど、やっぱりこの3人、全員「分家」カテゴリー持ちだな。
「人種」カテゴリー、「分家」。
これは貴族の親戚筋の家の〈子〉にあるカテゴリーだ。シエラやエステルは本家の〈子〉なので「○爵」と分類されるのに対し、「分家」は文字通り分家にのみ現れる。そこに階級は存在せず、どの爵位の親戚でも必ず「分家」のカテゴリーになる、と公式設定には書かれていた。
まあ、そんな細かい事はいい。
この「分家」が就ける職業はかなり幅広い。一言で言えないほどだ。
例えば「騎士爵」が【騎士】系、侯爵が【武士】系とグループの方向が決まっているのに対し、「分家」はグループが定まっていない。いや、無理矢理言えば〈補佐〉系の職業と言ったところだろうか。セレスタンの【バトラー】もその一つだ。
【バトラー】は下級職高位、ランクは高の中。間違いなく優良職だ。
通常職の【執事】が中の中ランクなのに対し、【バトラー】は【闘士】系のスキルがいくつか使えるからな。本来の補佐だけではなく、ダンジョン攻略からギルドバトルまで様々な場で活躍が可能な職業だ。是非欲しい。
しかし、慌ててはいけない。
ギルド〈エデン〉は今や女の花園。美少女だらけ、お姫様だらけのギルドになってしまった。もし邪な考えを持つようなら物理的に排除しなければならない。
たとえラナの紹介だとしてもそれは実行される。俺の拳はいつでも唸る準備が出来ているぞ!
その辺を慎重に見極めなくてはならない。さてセレスタンくん、君は不埒な輩なのかな? ちなみに俺は不埒なやからではないぞ。
と俺が拳を握りしめてセレスタンくんに向き直ろうとしたところでラナが軽い調子で爆弾を落とした。
「セレスタンが今日増えるって言ってた例の追加よ。何故かお父様がゼフィルスに付かせるのだって言ってねじ込んできたの」
おい、今聞き捨てならない事言わなかったか?
お父様って言ったか? ラナのお父さんって言ったらアレだろ? この国の国王だろ?
付かせろって、誰に? 誰を?
「はい。ぼくセレスタンは、本日付けで【勇者】ゼフィルス殿の身の回りの世話を仰せつかりました。以後従者としてゼフィルス殿に付かせていただきます」
「マジで?」
どうやら俺は、執事付きの【勇者】になるようです。