#1091 カイエン視点。〈エデン〉の戦闘おかしいねん
こんにちは、俺はカイエン。
つい先月Aランクギルドになった〈サクセスブレーン〉のギルドマスターをしている。
そして今回、〈エデン〉のギルドマスターゼフィルスさんが開催する〈2年生合同攻略〉に参加させてもらっていた。
「やはり〈ミーティア〉は強いですね。ですが〈カオスアビス〉のギルドマスターも凄まじいものをお持ちのようです」
「そうだな。上からの流星、迫り来る動きを封じる闇、どちらも油断できるものでは無い」
「はいです! さすがギルドマスターです!」
目の前の〈フユキウサギ〉戦を見て隣の少女から感想が呟かれたので、油断ならないなという雰囲気を出しながら答えたら、良い返事が返ってきた。
おかしい。雰囲気を出しているだけで内容は君が言ったこと掘り下げてなぞっただけなのに。なんでそんなキラキラした目で俺を見つめてくるの?
この少女はカララ。ドワーフの元3年生、今は〈新学年〉に所属する女子だ。
次期サブマスター候補であり、現サブマスターで就活で忙しいギゼルの代わりに来てもらっている。
「ナギ、今のをしっかり記録しておくように。〈ギルバドヨッシャー〉に記録で負ければそれだけ実力差が開くと思え」
「アイサー!」
もう1人、隣にいたのは1年生女子のナギ。俺の指示、いや命令に近い言葉に元気良く答えて情報を書き上げていく。全くもって不快感を表した様子はない。俺が言う言葉が正解だと信じ切っているかの様子だ。
うう、責任重大だ。言葉一つにも気をつけなくちゃいけない。お腹が痛くなってきた。
ギルドマスター、引退したかったなぁ。
「おお!? エリアボスまで来てるぜ? 俺たちが戦ってもいいか?」
「いやいやじゃんけんだろ! 勝ったギルドがボス戦だ!」
元Aランクギルドにして学園公式ギルドにほぼ全員が引き抜かれたという大出世ギルド〈ハンター委員会〉の隊長、アーロン先輩がエリアボスの接近を捉えたみたいだ。
でもゼフィルスさん、じゃんけんで勝った人って、普通逆じゃない?
襲ってくるボス相手になんでこの人たちは嬉々として立ち向かうの? 万が一下手を打って負けたら……。うっ、お腹が。
なんとかボス戦を譲りたい。
幸い〈ハンター委員会〉の面々がやることになった。
他のギルドは待機。むしろ〈ハンター委員会〉の動きを見て上級ダンジョンの参考にすることになった。
正直、ありがたい。
俺はこれを見に来ているのだ。
〈ハンター委員会〉と言えば、上級ダンジョンブームが起こった切っ掛けの1つとも言われる先進ギルド。
ブームが起こったときにはすでに上級ダンジョンで活躍していた、ボス狩りの専門ギルドにしてプロフェッショナルだ。
今後上級ダンジョンを攻略していく上で〈ハンター委員会〉の動きを見ることはとても参考になるだろう。ギルドの成長に繋がるはずだ。メンバーにもしっかり言い聞かせておく。
「全員、刮目して見よ。〈ハンター委員会〉の動き、見逃すなよ?」
「「「「はい!」」」」
良い返事すぎる。でも怠けるよりマシだと思っておこう。
〈ハンター委員会〉の動きは、圧巻だった。
大威力の剛剣を振るうアーロン先輩に、その妹さんの行動阻害を織り込んだ正確な狙撃。
それに目を奪われがちだがタンクのダンカン先輩もすごい。防御だけじゃ無くバトルアックスで重い反撃までしている。他にもタンクが1人、ヒーラーが1人いるけれどみんな動きが良い。本当にボス戦慣れしている動きだ。これは、回数を重ねないとできない動きかもしれない。
タンクが崩れそうになると別のタンクとスイッチして戦局を安定させ、ヘイトをこれでもかと稼ぎまくる。そこまでヘイトを稼がないといけないくらいにアーロン先輩が強すぎるのだ。
とても参考になる。完成されたパーティの1つの形だった。
これを見れただけでもこの合同攻略に参加した甲斐がある。
今回〈サクセスブレーン〉は1年生や新学年を多く連れてきている。
1年生と侮るなかれ、今年度の1年生は異常なんだ。
カララにしろナギにしろ、〈新学年〉や1年生はとにかく有用な職業持ちが多い。
これに目を付けた俺は積極的に1年生や〈新学年〉を育ててきた。
正直な話、今の1年生を育てることこそがギルドを優位に押し上げてくれると思っている。否、確信している。
現に〈エデン〉はそのほとんどのメンバーが1年生や〈新学年〉で構成されているにもかかわらず、伝説の職業と呼ばれるものばかりが揃っているのだ。
1年生を登用しない者は出遅れる。そう確信するのに時間は掛からなかったよ。
あ、ちなみに〈エデン〉と張り合う気は無いよ? そんなの俺の胃が持たない。
絶対にやめて。お願いだから。ね? 俺がやめた後はいくらでもしていいから。
そんな気持ちで、ギルドメンバーに接するときも「まだ戦うべき時じゃない」と言ってごまかしてる。
俺の言うことなら大概納得してしまうのは困惑するけれど、こういう時はありがたい。
いやほんとに、〈エデン〉は普通じゃないんだ。
ここに来る道中もね、なんだろうあの【悪魔】の子の職業、反則なんじゃないかな?
普通、上級ダンジョンの道中に出てくるモンスターってもっと苦戦して、ボス戦をやる前にアイテムやMPとか尽きて撤退することも多い、むしろそれが当り前だって言われていた気がするんだけど。
あの悪魔の子、道中のモンスターをほぼ1人で無双してるんだけど?
いや、え? 何度見ても信じられない。
俺たち、結構全力を出しても苦戦するときがあるんだけど?
それをMPもドレインして回復して? 消耗無しで無双する? おかしくないかな?
見てよ、アレが〈エデン〉だよみんな? そんな、俺ならいつか〈エデン〉を超えるみたいな目で見ないで!? 絶対無理だからね!?
そんなことを思いつつもしばらく奥へ進んだところでその証明がなされる事態が発生した。ボス戦で〈エデン〉の番が来たのだ。
「おっしゃあああ! やっと〈エデン〉の番だぜ!」
「やったるわー!」
「タンクは任せてください。新しい戦術を使ってみたいのです」
「フィナの回復は任せてもらっていいわ。安心してタンクしてね」
「ではゼニスを呼びましょう。〈モンスターカモン〉を使いますね」
竜が出てきた。
突然何を言っているんだって?
うん。分かる。でも本当なんだ。竜が出てきたんだよ。大きいんだ。
おかしい。
先月のAランク戦ではちっちゃかったのに、どんだけ大きくなってるの?
もう人を乗せて飛べるじゃないか! というか乗ったーー!?
「あ、あれが物語に登場する【竜騎士】! いえ、【竜騎姫】ですか!」
「ふわ~」
カララもナギもそれを見て目を輝かせていた。輝かせている場合じゃないよ!? いやほんとに! あれをいつか、相手にしなくちゃいけないことがあるのだろうか? う、お腹が……。
ギゼル、君だけ卒業して抜けるのはずるくない?
俺は心底そう思った。
そして〈エデン〉の戦闘は正直、圧巻だった。
常識が通じていない。
いや、定石には則っているんだ。ただ普通の定石じゃないんだよ。かなり魔改造されてるんだ!
あの天使の子、なんで空飛んでるの?
いや、今までも空を飛ぶという情報はあったけど、あんなに滞空時間長くなかったって。
変身している3分間って話だったでしょ? ボス戦開始からずっと空を飛んでるんだけど?
しかも、ポジションがタンク? 空を飛ぶタンク?
ボスの攻撃が半分くらい届いてないんだけど? 飛べるタンクってずるくない?
それに君アタッカーだよね?
完全に避けタンクしながらアタッカーでヘイトを稼いでる。しかも反撃の威力が高い。とんでもない威力だ。これでタンクなの? 色々間違ってる気がする。
今回のボスは10層のフィールドボスだったのだけど、眷属を大量に出すタイプだった。
こいつは厳しい。
今までも眷属を大量に出すボスはいたが、どれもとんでもなく強かった。
眷属を優先しないと眷属に数の暴力で負ける。でも眷属を相手にしていると親ボスの攻撃が厳しい。眷属を大量に生み出すボスはとても手強いというのは常識だ。
でも、〈エデン〉には悪魔っ子がいる。
ほら! 一撃だよ! 30体を超えるんじゃないかってくらい出てきた球根型の眷属モンスターが一瞬で〈即死〉させられて光に還ったよ! 反則でしょそんなの!
そして目を見張るのは、やっぱり竜だ。
〈エデン〉には【竜騎姫】がいる、という噂を小耳に挟んだことはあったけど、所詮は噂だと思っていた。竜が登場するまでは。でもその竜もちっちゃかったし、少なくとも乗れる大きさじゃ無かったから油断していたのかもしれない。
大きくなってた。7メートルから8メートルくらいはあると思う。
そして騎士の女子を乗せて、空へと舞い上がる。
ねぇ、なんで空中戦なんてしてるの〈エデン〉は?
上空からの攻撃と地上からの攻撃、それだけでもう挟み撃ちみたいなもんじゃん。あ、ボスがダウンした。
ああ、哀れ。ボス、哀れ。
ボスは頑張ってた。必死に種をマシンガンのように乱射したり、根っこをムチのように振るい上空を攻撃しているのだけど、簡単に回避されたり受けきられたりして、全然届いていない。
攻撃されているはずの〈エデン〉はそんなの関係無いみたいに攻撃していてさ、全員がアタッカーみたいなものだよ。あと回復力が高すぎる。〈エデン〉のメンバー、なんであんなに回復使える人多いの? おかしくない? というか全員使ってない?
回復持ちは貴重だ。
ダンジョンに潜るヒーラーって少ないから、ギルド間で取り合いになることも多いのに。
これって全員が自己回復出来るからむっちゃ硬いってことに……あ、ドラゴンブレス。
実はおかしいのがもう1人いるんだ。ヒーラーさん? あなた何召喚してるの? それ〈竜〉じゃん!
へ、へぇ。それぬいぐるみなんだ? 上級ぬいぐるみ? 解説どうも。
周りに剣と盾をそれぞれ2つずつ浮かべ、1つずつ手に持ち、ブレスを吐く。そして羽ばたいて飛んでいる竜が、ぬいぐるみかぁ。
飛んでるの3体目だ。この人本当にヒーラーか?
名前はタバサ先輩。あの元Aランクギルド〈テンプルセイバー〉をたった1人で支えたという、学園トップクラスのヒーラーさん。
でも、あの竜は絶対ヒーラーの能力じゃないと思うんだ。
〈テンプルセイバー〉の時は竜なんて使ってなかったし、〈エデン〉に入ってあの人に何があったんだろう? というか〈エデン〉は何をしたんだろう?
……あまり考えないようにしよう。胃が痛い……。
最後は勇者、ゼフィルスさん。ダメージディーラーだ。
そして五段階目ツリーの開放者。
彼が五段階目ツリーを発動すると、空気がビリビリする気がする。衝撃で。
ダメージがヤバい。大きい。ただでさえボッコボコにされているボスのHPだが、ゼフィルスさんが攻撃すると目に見えて削れていく。
しかもクールタイムが短すぎない? その威力でポンポン使っちゃダメでしょ!?
そしてボス戦はあっさりと〈エデン〉の勝ちで終わったのだった。
なんだか俺が戦闘したわけじゃないのにドッと疲れた。
ああ、ハッキリ言うよ。
無理。こんなの勝てないよぉ。




