#1086 合同攻略で〈山ダン〉! 恐ろしい吹っ飛ぶ頭
――――〈山ダン〉。
これ、山なの? というまるで塔のように細長い山やソフトクリームのような山、サボテンのような山がそこら中に伸びているダンジョンで、難易度はランク3に認定されている上級下位の1つだ。
また、特徴的なのがこのフィールドをグルッと囲むように切り立っている崖。
いや、1層ではまだ1方向にしか崖は無いが、フィールドの端に沿うように切り立った崖が進行を妨げようとしてくるのだ。
この崖が毎層続き、さらに次の層への階層門が切り立った崖の上にあるせいで、別名〈階ダン〉なんて呼ばれているダンジョンでもある。
ここの正式名称は〈山岳の狂樹ダンジョン〉。
その名の通り、ここに登場するモンスターは樹木型が多く、さらには狂っているモンスターも多い。その代表的なモンスターを紹介しよう。〈トラキ〉だ。
「ガアアア!」
「トドメだ! 『天からの落雷』!」
「ガアアアッ!!」
「「「「「頭吹っ飛んだーー!?」」」」」
ここに来た全員の心が今一つになった。
〈トラキ〉の頭部が吹っ飛んだことで。いつ見てもやべぇ。
そう、ここの〈トラキ〉という虎の見た目の樹木型モンスターはピンチになると頭が真上に吹っ飛ぶのだ。
しかも、今回はミラクルが起きる。
「お、俺の『天からの落雷』が頭に防がれた!?」
吹っ飛んだ頭にインサー先輩の『天からの落雷』が直撃。
トドメを刺そうとした一撃が見事に防がれていた。
頭で防御!? この〈トラキ〉、身体張ってるぞ!
「こいつ、胴体だけで動くぞ!」
「任せろ『メガ・エクスプロージョン』!」
そして首無し〈トラキ〉の逆襲が――起こらなかった。
残り少なかったHPはオサムス先輩の爆裂によって全損し、光に還っていったのだった。
これが〈山ダン〉の初戦闘。まずは〈ギルバドヨッシャー〉から戦ってもらったのだが、インサー先輩は汗を手の甲で拭う仕草をしながらこう感想をこぼした。
「恐ろしい敵だった」
「混沌!」
すぐにオスカー君が同意する。
え? 同意には聞こえないって?
いや、確かにそうなんだが、オスカー君とも結構ダンジョンに行ったからな。なんとなく言いたいことが分かる気がするんだ。あれは同意しているんだと思う。
「〈ギルバドヨッシャー〉のみんな、初戦お疲れ様」
「ああ。〈嵐ダン〉や〈霧ダン〉には何度か入ダンし、ボス戦もこなしてきたが、相変わらず上級ダンジョンとは恐ろしい所だ」
「そうだな」
インサー先輩の言葉に同意しておく。
多分、インサー先輩が感じている恐ろしいと俺の思っている恐ろしいは同じなはずだ。
恐ろしいよね。
「混沌!」
「この人、だいぶ隠さなくなってきたのだわ」
マナエラ先輩がオスカー君を見ながらそう言った。
なんの話だろうか?
「あはは。私は読み専だけど、これをあのみんなが見たらどんな反応をするのか楽しみだよね~」
マナエラ先輩の言葉に頷いて面白そうに言うのは【ワールドマッパー】のチルミだ。チルミはマッピング担当で今回は戦闘パーティとは別枠で付いてきてもらっている。今回も含め、上級ダンジョンの地図作りは非常に重要な役割の一つだ。
攻略した暁には、〈山ダン〉の地図情報を学園に買い取ってもらい、学生に普及させたいと思っている。後で仲良くなっておこう。
「よし、作戦会議だ! みんな、集まれ!」
「「「「「おおー!」」」」」
そして戦闘が終わり、1箇所に集まる〈ギルバドヨッシャー〉たち。
どうやら今の戦闘の考察をする様子だ。
戦闘中よりも考察するときの方が生き生きしているところがさすがである。
「む? 向こうから弱い混沌が接近しています」
「では、次は私たち〈ミーティア〉の番です。よろしいですか?」
「もちろんよろしいです。今見てもらったように、樹木型モンスターは見た目が動物でも関節の限界なんて無いし、果ては頭が吹っ飛ぶこともあるから気をつけてくれよ」
「アドバイスをいただき感謝しますわ」
「頭が吹っ飛ぶから気をつけろなんて言われたのは初めてなのだわ」
〈ギルバドヨッシャー〉の次に戦闘をするのは〈ミーティア〉だ。
魔法使いばかりが集まるギルドとして有名で、タンクももちろん結界師が行なっている。
結界師が相手を止め、そこに高火力の魔法を集中的に浴びせて殲滅するのが〈ミーティア〉のスタイルだ。
そんなことをすればMPが心配ではあるが、実は〈ミーティア〉は〈エデン店〉の常連らしい。ハンナ印の〈エリクサー〉をたくさん持って来ていた。
買いに行く人物こそ他の人らしいが「いつもご利用ありがとうございます」と言っておいた。
アンジェ先輩からは「こちらこそこれほど良い物をいつもたくさん売っていただき、感謝いたします。これで〈ミーティア〉は上級ダンジョンでも思う存分戦えるようになったのです」と深い感謝と共にお礼を返された。
そう言ってもらえると嬉しくなるよな。
マナエラ先輩から補足してもらうと、どうやら〈ミーティア〉は少し前まで慢性的なMP不足だったらしい。ギルドに生産職も抱え、自分たちで〈上魔力草〉や〈魔石〉を取りに行き、常にMPの残量を気にしてのダンジョン攻略だったらしい。
「それが〈エデン〉のおかげでほぼ解消されたのよ。現在の〈ミーティア〉は乗りに乗っているのだわ。Sランクギルドに追いつくのも時間の問題ではないかしら」
と言っていたよ。
うむうむ。やはりMPが十全に使えないというのは問題だよな。ダンジョン攻略に支障が出てしまう。
しかし、思う存分魔法をぶっ放せるというのは素晴らしく、〈トラキ〉の群を殲滅した〈ミーティア〉メンバーの表情は明るかった。
そんな感じでまずは〈山ダン〉のモンスターに慣れてもらい、その後に階層門へと向かう。
前回とは違い、今回カイリが不在だ。
つまり多くのエンカウントを覚悟しなくてはいけないのだが、今回は別の奥の手がある。
それが〈サクセスブレーン〉にいる、ナギだ。
「これから移動を開始する! ナギ、頼めるか?」
「アイサー! 『渡り隠れ』!」
元〈戦闘課1年5組〉に所属し、クラス対抗戦ではリーナの側近のような位置に居たナギ。その職業はハイド斥候系の【レイヴン】だったが、現在は上級職【レジェンドレイヴン】へ〈上級転職〉していた。
カイエン先輩と話してみれば。
「Aランク戦を経験してから思う所があってな。真っ先に彼女に上級職へ就いてもらった」
とのことだ。
〈サクセスブレーン〉の頭脳とも言われるカイエン先輩は、これまで様々な搦め手を用いた作戦を考案しギルドバトルでは常勝無敗を誇っている。
そして次に注目したのが【レジェンドレイヴン】というわけだ。さすがはカイエン先輩。素晴らしい慧眼だ。
【レジェンドレイヴン】は斥候系の中でも隠密系を幅広くこなし、カイリの【ダンジョンインストラクター】のように複数のパーティを隠しながら引率する『渡り』系能力を持っている。その分索敵は難有りなのでそこはオスカー君の役目だ。
もちろんナギも戦闘とは別枠で来てもらい、オスカー君やチルミと同じくサポート系のパーティに入ってもらっていた。
「おお~、モンスターがいるけど襲われないですね。あれは気が付いていないのでしょう。混沌が薄いです」
「いいんだね、いいんだね。これでいいんだね」
「そうですね。進行速度が上がるのは良いことです」
ナギのスキルにより、歩き出してすぐ遭遇したモンスターが俺たちをスルーしたのを見てオスカー君、ロデン先輩、ハイウドがそれぞれ肯定的な言葉で頷く。
「私たちのモンスターは、一度仕舞って置いた方がよさそうだね」
「さすがに〈ピュイチ〉はここでは出せない」
「索敵も特化職が相手だと敵いませんですから」
〈集え・テイマーサモナー〉のカリン先輩とエイリン先輩、アニィはやることが無くなって少し手持ち無沙汰な様子だ。
テイムモンスターで索敵、隠密は出来るものの特化職にはまるで敵わないのでやることがないんだ。
加えてナギのスキルはパーティ全員に作用するが、モンスターまで隠すには五段階目ツリーのスキルがいる。
隠密で進むにはモンスターを仕舞わなくてはいけない。テイマーには辛いところだな。
そんな感じで隠密中なのにもかかわらずワイワイ進むと、ついに崖へと到着する。
「この上に、階層門があるんだな」
「しっかし高い。30メートルはあるのではないか?」
高い崖を見上げてインサー先輩が言うと、オサムス先輩が大正解。この崖は大体30メートルくらいなんだ。
「ふむ、計ってみたいが、残念ながら正確に計るには機材がないな」
「タンジェントでいいんじゃないか? あれなら適当な棒が1本あれば大まかだが計れる」
「そうだな。早速計ってみよう」
「いやいや、計っている時間は無いから。それにここは30メートルであってるよオサムス先輩」
「おお、そうかそうか! さすがはゼフィルス氏だ」
なんだかいきなり計測しようと言い出したインサー先輩とオサムス先輩を制して正解を告げる。
その辺で拾ったような棒きれ1本を持っていたオサムス先輩がそれを聞いてなぜか喜んでいた。棒きれ1本でどうやって計測しようというのか少し気になる所だ。
〈ギルバドヨッシャー〉はいろんなところに興味を示すので、導くのが意外に大変だ。
「それで、どうやってこれを登りましょう?」
「私がとある筋から聞いた話では、崖の上へと通じる洞窟があるそうなのだわ」
「そうなのですか?」
ふむ。マナエラ先輩は情報通だな。なぜかオスカー君やチルミまで頷いているのが少し気になったが。
「正解だ。そんでその洞窟というのが向こうに見えるアレだな」
「ふむ。思っていたよりもずいぶんと小さいな」
「だね。道幅がこれくらいしかないと正面からモンスターが来たら私のスキルを使っても躱しきれないと思うよ? 見つかっちゃう」
洞窟を見たカイエン先輩が呟き、ナギが困った顔をする。
それはそうだろう。あれだけ小さな洞窟では、例え隠れても普通にぶつかる。
隠れる意味が無い。
「私たちの魔法も、あの狭さで撃つには心配ですわね」
アンジェ先輩の言葉通り、魔法使いにとってあの狭さは天敵にも等しいだろう。
ここを抜けたければ近距離系の職業持ちで正面から堂々と来いということだろう。開発陣が考えそうな手だ。
みんなが困ったように洞窟を見つめる中、俺は安心させる様に呼びかけた。
「だが安心してほしい。良いものがある」
「良い物? 良い物ってもしかしてあれかしら?」
「あれですよ姉さま。あのプルンプルプルとしたあれです」
「前にここに来た時のことを思い出しますね」
「ほんとね。あの時も楽しかったけれど。あれを知らない人のリアクションを見れるのもまた面白そうだわ」
俺が〈空間収納鞄〉に手を突っ込むと、エリサ、フィナ、アイギス、タバサ先輩がヒソヒソと言葉を交していた。
〈エデン〉では前に一度お披露目したことがあるからな。
「ゼフィルス氏? 良い物とは?」
「ふっふっふ。では見ていただこう! これが〈山ダン〉の崖を登る画期的救済装置! ――〈山を越えるトラン・プリン〉だ!」
そして全員が注目する前で取り出したのは手乗りサイズの――カップに入ったプリン。
それを逆さにしてプチっとカップの裏の爪を折ると、大きさが何十倍にも膨れ上がって地面にドカンと落っこちた。
「「「「「なにー!!」」」」」
「混沌ー!!」
〈ギルバドヨッシャー〉の面々がこれでもかと驚いていた。
うむ、大変良いリアクションだ!




