#1077 巣立ちのゼニス、猛反対のペロペロ攻撃。
平日が過ぎるのは早いもので今日は土曜日。もう週末だ。
この1週間でまた色々なことがあった。
一番大きかったのは〈エデン店〉で上級装備の大売り出しを始めたのと、〈キングアブソリュート〉と一緒に〈霧ダン〉の情報を広めたことの影響だろう。
〈霧ダン〉は今や上級ダンジョンの入門口。最近は毎日のように新しい学生が上級ダンジョンに入ダンしているとのことだ。負けて帰ってくる学生も多いらしいが。
ダンジョンはとても広いのでモンスターのリソースの取り合いはほとんど起きていないものの、ボスだけは別。
最近は授業が休みの3年生が企業へのアピールにエリアボスを狩ってくることが多くなってきているそうだ。
就活狩りとも呼ばれ始めているらしい。就活で狩られるエリアボスに幸あれ。
当然ドロップした上級のお宝を前に企業勢は目を光らせて学生と交渉していたな。
それはいい。
しかし、割を食ったのは2年生と一部の学生。
就活の邪魔はしてはいけないという校則はあるものの、エリアボス狩りは別にこの校則には反しない。しかし、来年自分たちが就活狩りをするときに「下級生に狩られて出来ませんでした」なんて事態は避けたい。
そんな背景があり、自主的にエリアボス狩りを遠慮したのだ。
2年生の成長が微妙に妨げられているんだよなぁ。これはあまりよくない。
なにしろ、通常1週間もすれば縮小に向かうだろうと思われていた就活だが、就活狩りが思わぬ反響を呼んで結構長引きそうな雰囲気を醸し出している。
それの一因が企業側のサポートによる装備更新と実力の向上。
今まで上級装備はごく僅かしか市場に出回っておらず、尚且つ値段が高く、学生には手が出せなかったのだが。そこに〈エデン店〉という上級装備大売り出しと企業勢のサポーターが加わって一気に上級装備が学生に広まったのだ。
要は学生がしっかりとした上級装備を調えたら、どこまでやれるのか?
それを見たい企業が急増したのだ。
上級装備を調えたらそりゃ攻略速度がぐぐーんと上がる。三段階上昇レベルだ。
さらに〈キングアブソリュート〉が安全のためにダンジョン内地図を始めとする〈霧ダン〉の攻略情報を一部公開。
学園による〈霧払い玉〉の限定販売がそれに拍車を掛けた。
学園が認めたパーティのみ、〈霧払い玉〉の販売を始めたのだ。
これによって上位ギルドが31層以降にも進行できるようになり、〈キングアブソリュート〉の攻略情報と合わさってガンガン攻略階層を更新しているそうだ。
彼らの目的は最奥ボス。上級ダンジョンの攻略、だけにとどまらず裏の目的は徘徊型ボス〈ヴァンパイアバイカウント〉と、そこからドロップする可能性の高い〈フルート〉だ。
最近1日1回エリアボス狩りという日常を経験してしまった学生たちに、もっと狩りたい、邪魔されずに狩りたいという目的が芽生えるのはそう不思議なことではなく。さらに毎日同じボスを狩るという日常を経験したことで、じゃあ毎日徘徊型を狩った方がドロップいいじゃんという結論に落ち着いた。
徘徊型はレアボスと同等の宝箱を落とすからだ。狙われる〈ヴァンパイアバイカウント〉がピンチ。
そしてこの〈霧ダン〉は唯一〈徘徊型〉が逃げない場所がある。
そう、最奥だ。
さらには〈エデン〉と〈キングアブソリュート〉が公開しているボス攻略情報もあって、みなが〈霧ダン〉の最奥を目指し始めたのだ。
〈笛〉吹いてレアボスを出させればいいじゃない、と思うかもしれないが。〈笛〉は意外と持っているギルドは少ないのだ。レアボスの〈金箱〉産ドロップなので仕方ない。
ちなみに〈エデン〉は他の学生たちがまだまだ最奥にたどり着けていないことをいいことに〈嵐ダン〉〈霧ダン〉〈岩ダン〉のボス周回に明け暮れた。
放課後は周回!
うむ。素晴らしい。
全員のレベルが見る見る上がっていく光景が素晴らしい。
「リカたちはもうすぐ五段階目ツリーを開放できるな」
「ふむ。とても楽しみだ。やっとカルアに追いつける」
〈岩ダン〉に連れて行ったのは1陣パーティを除いて10人ほど。
リカを始め、〈霧ダン〉の周回でLVがそろそろ上限に届きそうなメンバーたちを中心にして〈岩ダン〉で周回しまくった。到着に4日掛かったのでまだ五段階目ツリーに届いていないが、近々五段階目ツリー到達者が増えるだろうと予想している。
ちなみに連れて行ったのはリカ、ルル、シズ、リーナ、メルト、ミサト、アイギス、ノエル、ラクリッテ、タバサ先輩で10人だ。
ちなみにシェリアはLV不足で、パメラは〈霧ダン〉最奥ボスの〈ジョウキ〉との相性が良く、他のメンバーの避けタンクとして活躍している関係で不参加だったりする。
また、採集も忘れてはいない。
この度全員が上級職になった〈採集無双〉も最奥には連れて行かないスケジュールを組んで連れ回した。
まだまだLVも低いため、どんどんレベル上げしていってもらいたい。
採集で大量に素材がゲット出来るため〈採集無双〉も大はしゃぎしていたよ。
〈エデン〉もその恩恵を受け取り、懐がさらに温かくなった。
サティナさんが加わったことで結構ミールが掛かっていたエリアボスが、かなり節約できるようになったのも嬉しいところ。
途中、ラナが「ならレアモンスターをたくさん呼び集めてもいいわよね!?」と〈オカリナ〉を持って言い出したので、急遽〈ゴルプル〉狩りをして〈芳醇な100%リンゴジュース〉をそこそこな数ゲットしたりもした。
まあ、美味しいから良し。
また1日だけ〈集え・テイマーサモナー〉にも同行し、〈翼亜竜の鱗〉を集めまくったとも聞いた。向こうも順調そうだな。
そして今日は授業のない土曜日。
今日もまた重要な出来事が予定されていた。
その名も、ゼニスのお引っ越しだ。
「ゼニス。分かってください。もう巣立ちの時なのです」
「クワァ!! クワァ!!」
アイギスが諭すがゼニスはお冠だ。
訴えるようにしてアイギスの頭上をぐるぐる飛び回っている。
実は昨日、ゼニスのLVが〈聖竜の若竜〉への進化規定値の20に到達した。
その場で進化させるかと迷ったのだが、ゼニスは〈エデン〉メンバー全員の子同然だ。
進化が見たいだろうと学園が休みの今日にすることにしたのだが。
〈聖竜の若竜〉に進化すると体が巨大化するためとてもでは無いがAランクギルドハウスに住むことはできない。
つまりゼニスはついにお引っ越しとなったのだ。場所は〈道場〉の〈ファーム〉。
ゼニスが酷くお冠の理由だった。むっちゃ怒っている。
「クワァ! クワァ!」
「ですがゼニスは大きくなるのですよ? 大きくなった後でも自由に飛ぶには外に出なければいけません」
「クワァ! クワァ!」
そしてこの通り、アイギスの言うことに猛反対しているわけだ。
お別れを悲しむより怒るというのが竜っぽい。
「ゼニス。せっかくゼフィルスさんがゼニスが暮らしやすいように〈ファーム〉を整えてくれたのですよ?」
「クワァ! ガブリ!」
アイギスが諭すように言うと、ゼニスが俺の所に来て、手にがぶっと噛みついた。
まるで「余計なことをして」と言わんばかりだ。
だが、HPに守られているので痛くも痒くもない。いや、噛みついてペロペロ舐める舌がくすぐったい。
「あ、ゼニス、やめなさい。ゼフィルスさんに失礼ですよ!」
「まあまあ、アイギス構わないさ。ゼニスはまだ幼竜だからな。我儘を言いたいこともあるさ」
うむ。ゼニスは〈聖竜の幼竜〉。
その名の通り、行動が結構幼いことが多々あるようなのだ。
戦闘の時は勇ましいんだけどな。そこは小さくても竜、ということなのだろう。
いかん、いい加減ペロペロ舐めるくすぐったさが耐えられなくなってきた。
まさか、痛みがダメならペロペロすれば良いじゃない戦法か!? HPバリアをこのように攻略してくるとは……ゼニス、末恐ろしい!?
ちょっと動き回る舌を摘まんでみよう。
「キュワァ!?」
あ、舌を摘まんだら変な声を出したゼニスがアイギスの方へ逃げ出した。
「ゼフィルスさん、あんまりゼニスをからかわないでください。ゼニスも女の子なんですから」
「それは悪かった」
「クワァ!」
舌を摘ままれるという経験は初めてだったのか、ゼニスは翼を広げて抗議の構えだ。
でもなぜだろう。可愛いとしか思えない。
「はいはいそこまで、みんな集まったわ。そろそろ行くわよゼフィルス」
「おう? ほんとだ、いつの間に」
「あなたがゼニスと遊んでいる間にかしら」
シエラの言葉に振り向けばすでにメンバーが集まっていた。
ここに集まったのは、引っ越しの見送りたちだ。
ゼニスはすでに〈エデン〉の仲間にして子どもみたいなもの、みんなしっかり引っ越しを見たいと集まって来た形だ。
「じゃ、〈ファーム〉へ行くか」




