#1074 まさか、もう発見!? 優秀すぎるAランク!
土日が明けるとパーティ〈採集無双〉のモナ、ギルド〈青空と女神〉のソフィ先輩、ギルド〈集え・テイマーサモナー〉のリンリン先輩たちとアニィから連絡が来た。なんかいっぺんに来た。
そして月曜日の放課後に会うことになった。
「ようモナ、昨日ぶり」
「あ、ゼフィルスさん。はい、昨日ぶりです!」
モナとハイタッチを交す。
「ソフィ先輩もこんにちは」
「こんにちはゼフィルスさん。突然お呼び立てしてしまってすみません」
「構わないさ。ソフィ先輩に呼ばれたらいつでも会いにいくさ!」
「まあ。うふふ」
ソフィ先輩とは空気を軽くするため敢えて軽く振るまい。
「待っていたよゼフィルス君! こんにちは!」
「こんにちはゼフィルスさん」
「ゼフィルス君! ゼフィルス君のおかげで僕、無事【モンスターブリーダー】に就けたのです!」
「カリン先輩にエイリン先輩、アニィもこんにちは。1週間ぶりくらいか? アニィは上級職か~、おめでとう」
「ありがとうございます!」
カリン先輩とエイリン先輩、そしてアニィとも挨拶を交す。
ここはとある校舎のラウンジ。
このラウンジで、なぜか全員集合することになっていた。
早速代表してAランクギルド〈集え・テイマーサモナー〉のギルドマスター、カリン先輩が言う。
「ゼフィルス君及び、みなさんに集まってもらったのは他でもないよ。前にゼフィルス君から聞いた情報、あの伝説級のモンスター〈ベヒモス〉と、〈亜竜〉種とも言われているモンスター〈ワイバーン〉への進化ルートが、見つかったからなのさ!」
ババンと手をテーブルに勢いよく置いたカリン先輩がそうテンション高く言った。
ほう! 〈ベヒモス〉は素材名からなんとなく分かるからともかく、もう〈ワイバーン〉への進化ルートを見つけたのか! それはつまり、進化元となるモンスターも見つけたということだ。すげぇな!
そう、実は〈亜竜〉系の〈ワイバーン〉も【モンスターブリーダー】を使うことで進化ルートを発現させることが可能なのだ。
これで進化させた〈ワイバーン〉を【姫騎士】などに譲って〈上級転職〉させる方法が【竜騎姫】に就く最速だと言われていた。
「始まりはゼフィルスさんの言葉からでした。そこに座るモナさんが伝説のモンスター〈ベヒモス〉や〈ワイバーン〉への進化ルートにかかわるアイテムを入手したかもしれないとの情報を得た私たちは、すぐにモナさんにアポイントを取ったの」
〈集え・テイマーサモナー〉のサブマスター、エイリン先輩が順序立てて話だす。
俺が言ったのは仄めかす程度だったはずだが、彼女たちの中では俺が〈ワイバーン〉や〈ベヒモス〉への進化ルートを知っていて教えたことになっているみたいだ。ちょっと露骨すぎたか?
まあ、問題無さそうなのできっと大丈夫だろう。
そしてエイリン先輩たちはあの助言のあと、すぐ行動に移したらしかった。
早いな。それでこそAランクギルドだ。
そこにモナがコメントする。
「僕の手に入れたアイテムは〈ベヒモスの真核〉や〈翼亜竜の鱗〉。特に〈翼亜竜〉の方は名前からして防具の素材になる鱗系素材かなと思って取っておいていたのですが、そちらのソフィさんに〈ベヒモスの真核〉を見せるときにうっかり見せてしまったところ、どうも〈召喚盤〉か〈進化の鍵〉、どちらかに加工できる素材だったと分かったんです」
「ちょうどそこへ訪ねたのが僕たちだったというわけですね」
うむ。モナが〈岩ダン〉で〈ベヒモスの真核〉を、〈嵐ダン〉で〈翼亜竜の鱗〉を手に入れた時、俺はニヤけたものだ。
ちなみに採集した素材も2つずつあり、1つは〈エデン〉が貰い、もう1つはモナが持っていたりする。
そしてモナにはソフィ先輩を紹介しておいたんだ。
モナが採集した素材はマリー先輩、ソフィ先輩、ガント先輩などに納品されることになっている。
そこでモナが対応に困った鱗をソフィ先輩に見せたようだ。偶然なのか必然だったのかその場に運良くアニィたちが訪ねて来たらしい。
「私も驚きました。モンスターの進化ルートや、召喚盤の作製に使う素材というのは少ないですが、確かにあります」
そう話を引き継いだのはソフィ先輩だ。続けて理由も話してくれる。
「とはいえ大抵はあまり強くありません。理由はそういう素材は採集職にしか採集出来ないことに加え、採集職の方が潜れる階層が浅いことが上げられます。そのため特殊な進化ルートはまだマシで、召喚盤の作製などはほとんど実用的ではありませんでした」
「だけどこれは違うの。上級で採集された素材なの! そこから進化、召喚できるのは当然上級モンスター! どんなモンスターが生まれてくるのか気になった私たちはそれを調べることにしたの!」
うむうむ。ソフィ先輩の言葉を引き継いだカリン先輩が叫ぶように言う。テンションが上がりまくっている様子だ。
「なにしろ〈ベヒモスの真核〉って書かれていたからね。ゼフィルス君があの時〈ベヒモス〉を話に上げてたからもしやと思ってそっち方面で色々と適性を調べてみたの!」
「私たちのギルドの召喚系上級職はゴーレム使いのメルさんだけだったから、進化ルートで調べてみた。ソフィさんに〈ベヒモスの真核〉を〈ベヒモスの鍵核〉に加工してもらって調べた。その時の素材はモナさんが出してくれた」
「そしたら、やっぱり〈猫〉系から派生したモンスターに適性があったのです! 〈仙虎・ニャステン〉ってモンスターに、〈ベヒモスの鍵核〉を使ってみたらですね! 〈ベビーベヒモス〉への進化ルートが生まれたんですよ!」
「なら同じ手順なのではってことで〈ジェルトル〉ってモンスターに、〈翼亜竜の鱗〉から加工した〈翼亜竜の鍵鱗〉を使ってみたら! 〈ベビーワイバーン〉への進化ルートが生まれたの! これ絶対〈ベヒモス〉と〈ワイバーン〉に進化するやつでしょ!?」
カリン先輩、エイリン先輩、そしてアニィが「ババババン!」と効果音でも付きそうな勢いとテンポの良さで話してくれた。
思わず「おー!」と拍手をパチパチと贈ってしまったよ。
さすがに教えてから1週間でここまで調べ上げるとは恐れ入ったぜ。
そう、実は〈ベヒモス〉は〈猫〉系の進化ルート、〈ワイルドニャー〉から進化させていった先にそれはある。〈仙虎・ニャステン〉という〈白虎〉の手前の上級モンスターに〈ベヒモスの鍵核〉を使うと、〈ベヒモス〉への進化ルートが現れるのだ。
〈ワイバーン〉の方も同じだ。〈翼亜竜の鱗〉、それを加工した〈翼亜竜の鍵鱗〉を〈ジェルトル〉系統に使うと〈ワイバーン〉系への進化ルートが開放される。
ちなみに〈ジェルトル〉とは〈トルトル〉系統から進化出来るモンスター。
〈恐竜〉カテゴリーではあるが、見た目は翼竜に似ていて、〈亜竜〉カテゴリーであるワイバーンへ進化の途中みたいなモンスターだ。
ちなみに〈霧ダン〉の経験値を大量にくれる43層のエリアボス、〈ライライジェルトル〉通称〈ライジェル〉は、並〈ジェルトル〉を雷系に進化させたボスモンスターで、〈ライジェル〉に〈翼亜竜の鍵鱗〉を使うと雷系を操る〈ライトニングベビーワイバーン〉の進化ルートが開放されたりするのだが、こちらはまだ秘密。がんばって見つけてほしい。
しかし、彼女たちは〈ベヒモス〉と〈ワイバーン〉というだけでテンションアゲアゲモードなのだろう。
分かる、分かるぜ。特に〈亜竜〉であり、人を乗せて空を飛ぶことも可能な〈ベビーワイバーン〉は、飛行騎乗モンスターとしては一番入手しやすい、というより一番早く手に入れることが可能なモンスターだったからな。
俺もゲーム〈ダン活〉時代はテンション上がったものだ。
それに〈ベビーワイバーン〉をテイムしていると開放される職業もある。【ワイバーンライダー】や【竜騎姫】などがそうだ。
是非「〈ワイバーン〉は伝説じゃ無い。現存するモンスターで、しかもテイムできる」と広めていってほしいものだ。
「それでですねゼフィルス君」
改まってアニィが姿勢を正すと、カリン先輩とエイリン先輩も姿勢を正す。
「私たち、〈ピュイチ〉をたくさん量産しているところなんだけど、そこに〈ベヒモス〉と〈ワイバーン〉も加えたいの!」
「つきましては、素材の採集と加工にモナさんとソフィさんのお力をお借りしたく」
「2人が〈エデン〉から〈上級転職チケット〉をもらって上級職に就いたというのは十分承知の上でお願いします! どうか手を貸してください! もちろん謝礼は弾みますから!」
なるほど。俺を呼んだわけがようやく分かった。
モナ、そしてソフィ先輩は確かに〈エデン〉専属。
その手を借りたいのであれば俺に筋を通すのが礼儀だろう。
伝説の〈ベヒモス〉、そして〈ワイバーン〉の進化ルートの開放条件。
本来ならこの世界では貴重な情報であるはずのこれを俺に語ったのも、しっかり筋を通すためだったのだろう。
うむうむ。〈ベヒモス〉と〈ワイバーン〉の量産か。
なにも問題無いな!
「なんだそんなことか。いいぞ」
「軽っ!」
「いや、そんなことかって」
「いいの!? やったです!」
リンリン先輩があまりの軽さに逆に驚いていたが、アニィは万歳で喜んでいた。
上級進化ルートの開放は主に【モンスターブリーダー】のアニィの仕事。
特殊進化ルートの開放、〈ベヒモス〉や〈ワイバーン〉へ進化させたいなら【モンスターブリーダー】【マスター・ファーマー】【マスター・アイテム】の3職の力が要る。
「あ、あと〈ワイバーン〉のぬいぐるみも作りたいの」
「それも、許可しよう。ならフラーラ先輩にも連絡しないとな」
エイリン先輩は【ドールマスター】。使うのはぬいぐるみなので、ぬいぐるみをご所望のようだ。もちろんオーケーである。
俺はこう、新しいことを発見していく気合いの入った人たちが好きだ。正直凄いと思っているし、尊敬もしている。
〈集え・テイマーサモナー〉は今もっとも気になっているギルドかもしれない。
俺はもう〈集え・テイマーサモナー〉がBランクに落ちてほしくないと思っている。
だから、少しくらい手助けするのも許されるだろう。
同じぬいぐるみがもらえたら〈エデン〉のメンバーも喜ぶかもしれないしな!
ちなみにフラーラ先輩とはついこの間、ギルドで満場一致により〈上級転職〉した3年生の先輩だ。
〈エデン〉の〈助っ人〉であるサトルのお姉さんでもあり、〈生徒会〉の副隊長代理にして高名な【ぬいぐるみ職人】だったが、今は上級職、高の下である【マギドールメイカー】に就いて上級ぬいぐるみを作りまくっている。
〈生徒会〉はほぼ引退間近らしい。
現在はタバサ先輩のぬいぐるみ製作依頼をこなしている最中なので、それが終わり次第エイリン先輩の〈ワイバーン〉ドールも作ってほしいと依頼するとしよう。
さて、そういうことならさらに手を貸してもいいかな? うん、いいよな。
俺があの時〈集え・テイマーサモナー〉にアドバイスしたのは〈ベヒモス〉と〈ワイバーン〉だけではないのだ。
「モナ」
「はい。なんでしょうゼフィルスさん」
「〈採集無双〉の残り3人。『釣り』担当のタイチと、『伐採』担当のアンベルさん、アイテム担当のサティナさんも呼ぼう。実はギルドメンバーに許可を得てな。3人の分の〈上級転職チケット〉もこうして用意してあるんだ」
「…………へ?」
俺はモナに見えるよう3枚の〈上級転職チケット〉をピラリと見せた。




