#1067 最終局面。ゼフィルスVSインサー先輩!!
『英勇転移』は〈スキルLV〉で移動できる距離が変わる。
LV5では10マスの距離を転移することが出来る。転移距離が長いほどクールタイムが長くなるデメリットはあるものの、非常に強力なスキルだ。さすがは【勇者】職。
俺はこれの使いどころを見極めるため、〈竜の箱庭〉を見ながらタイミングを伺っていた。
〈ギルバドヨッシャー〉が白本拠地へ進む場合、絶対に〈エデン〉の最も守りが薄い部分を抜いてくるだろうと当たりを付けていたのだ。
あとは〈エデン〉を突破し、残りは本拠地という状況で気が緩んだタイミングで転移すれば、さすがに指示が間に合わないだろう。
あれだな、分かっていても防げないというやつ。
そして〈ギルバドヨッシャー〉は案の定、オスカー君による索敵で〈エデン〉の穴を突き、〈エデン〉よりも足の速いロード兄弟を運用してここまで駆け抜けてきた。
先頭は戦闘力の低いロード兄弟(スキル使用中)。
もう襲撃するしかないだろう。
狙いは速度で優れているロード兄弟だ。
前回〈カッターオブパイレーツ〉戦では『英勇転移』が無かったが故に2回くらい逃げられたが、『英勇転移』があればこの通り、一瞬で2人を屠ってやったぜ。
「ゼフィルス氏~~~!」
笑みが深まりすぎて興奮しまくっていると分かるインサー先輩が俺のことを呼びながら唸っていた。
〈ギルバドヨッシャー〉の狙いは分かっている。ロード兄弟とオスカー君の連携による本拠地強襲作戦だ。
対策を練り上げた非常に有効な戦術。
しかし、奇襲は奇襲に弱い。
故に、防がれると脆い。
要であるロード兄弟が逝ってしまったのだ。
しかも敵地のど真ん中で。
〈ギルバドヨッシャー〉から見て北西に俺、北東方面と南西方面からは戦線を張っていた部隊が迫り、南東からはメルトたちが迫ってきている。
〈ギルバドヨッシャー〉がここにとどまれば、四方向から襲撃を受けることになるだろう。うむ、我ながら完璧なタイミングだったな。
例え大部隊でも囲まれてしまえばどうしようもない。
そして試合の残り時間を見る限り、ここで退くことはないだろう。
〈ギルバドヨッシャー〉がやるとすれば、たった1人で白本拠地の道を塞いでいる俺を突破することだろう。
「さすがだゼフィルス氏! だが、勝つのは我らだ! 押し通る!」
「いいね! 来い、インサー先輩! 〈ギルバドヨッシャー〉!」
案の定インサー先輩はこのままロード兄弟無しで白本拠地を突破する狙いのようだ。
まあそうだろうな。俺だってそうする。
時間も無いのだ。それが活路だと思うだろう。
「オサムス! ゼフィルス氏を抑えろ!」
「任せろ! イーとシーよ、俺に続け!」
さすがはインサー先輩とオサムス先輩だ。
たった1人の俺でも軽く突破出来ないと踏んで囮を用意してきた。
ここで〈ギルバドヨッシャー〉のNo.2、サブマスターのオサムス先輩が2人の女子と共に前へ出て、インサー先輩たちは横からすり抜けようとアクションを起こすが、そう簡単には逃がさない。
「『フルライトニング・スプライト』!」
「『ヘルダークダウン』!」
「『アストロンの岩ドリル』!」
「『サンドゴーレム召喚』!」
うわ。
なんだこの連携と対応力。
俺が〈五ツリ〉を放つとほぼ同時にオサムス先輩と2人の女子が魔法とスキルを使って対抗してきたぞ。
俺の『フルライトニング・スプライト』が3人の魔法とスキルに相殺される。
即座に反撃してくる所が〈ギルバドヨッシャー〉の強いところだ。
「続け!」
「行かせないぜ? 『テンペストセイバー』!」
「なに? ゼフィルス氏なにを!」
インサー先輩がメンバーに指示を出し、側面を抜けようとダッシュする。
だが、そこで驚いた声を上げた。当り前だ。俺がインサー先輩の率いる15人のメンバーの中心地に飛び込んだのだから。
俺が『ソニックソード』の上位ツリー『テンペストセイバー』で飛び込んだのは〈ギルバドヨッシャー〉の集団、そのど真ん中だ。完全に飛んで火に入る夏の虫状態。
しかも俺の予想外の『テンペストセイバー』で1人吹っ飛んでいったが、その狙いがインサー先輩では無かったからさらに動揺するのも分かるな。俺の狙いが読めないのだろう、ここに居たら確実に俺は総攻撃で退場する。俺が勇者でもさすがにこれだけの人数に囲まれれば厳しいからな。
だが、俺の狙いは最初から時間稼ぎ。時間を稼げれば良い。戦う必要はないのだ。
でも戦っちゃう!
「混沌!!」
「『ブラッディスタック』!」
「『ドゥーンハンマー』!」
「『イエローカード』!」
さすがは〈ギルバドヨッシャー〉メンバーたち。一瞬俺の特異な行動に動揺するもすぐに攻撃を繰り出してきた。『イエローカード』による移動速度デバフをしてくる子が優秀。
だが、俺はそれを全て無効にするスキルを持っている。
――刮目せよ!
これが【救世之勇者】の五段階目ツリーで開放されるユニークスキル。
『英勇転移』と組み合わせ、敵陣に単体で突っ込むことで強力な相乗効果をもたらすコンボ!
「『完全勇者』!」
「くっ今度はどんなスキルを!?」
インサー先輩の強い視線を感じる中、攻撃が多段ヒットする。
しかし、俺のHPバーにはダメージも、そしてデバフアイコンも無かったのである。
「これは!?」
「光ってる!?」
「ひ、光の混沌!? 光が混沌!?」
「攻撃が、通じていない!?」
〈ギルバドヨッシャー〉に動揺が走った。いただきだぜ。
「覚悟、インサー先輩『勇気』!」
「くっ! 『天の護封雷』!」
俺の狙いはギルドマスターインサー先輩。
『完全勇者』発動中、俺は無敵になる代わりに他のスキルや魔法は使えない。だが、ユニークスキルを使うことは出来る。
天から相手の動きを封じる系の雷が降って俺に直撃するが、まったく意に介さずにインサー先輩をユニークスキルでぶった斬った。
「くらえインサー先輩! 『勇者の剣』!!」
ズバンと強力な一撃が入る。しかし、インサー先輩の体には何やら加護のような光が纏わり付いていてダメージを軽減、ギリで耐えきった。
「ごっふぁぁぁっ!?」
「まだまだー!」
「インサーを助けろ!」
「回復魔法を使うわ! ――『プラスヒール』! 『カケルヒール』!」
「『シールドバッシュ』!」
「『マイナスヒール』!」
だが、さすがは〈ギルバドヨッシャー〉、すぐに対抗してきた。
回復魔法でインサー先輩を回復し、盾持ちのタンクが俺との間に割って入ろうとしてきたのだ。
だが、俺は構わず剣を振るった、盾持ちが『シールドバッシュ』で俺を吹き飛ばそうとするも効かない。うん。吹き飛ばされもしない。インサー先輩、逃がさない。ついでに『マイナスヒール』が俺に降ってくるがそれも体で弾いた。
「攻撃が効いていない!? しかし、効果時間はそれほど長くは無いはずだ!」
おお! インサー先輩が攻撃を受けている最中だというのに俺の『完全勇者』を看破してきた! すごい根性だ。
そしてインサー先輩の言うとおり、『完全勇者』の効果は長くはない。ではいつ終わるのか? それは――今だ。
「――スキル『スターオブソード』!」
「なん――」
『完全勇者』は効果が切れると当り前だがスキルが使えるようになる。
だから俺は、俺しか知らない『完全勇者』が切れる時を見計らい、タイミングを合わせて特大スキルを発動した。剣と盾を合体して光の巨剣を作りだし、インサー先輩をぶった斬る。
ズドンッと衝撃。
もう一発いけそうだ。これでトドメを刺す。
「――『聖剣』!」
『スターオブソード』から分離した〈陽聖剣・ガラティン〉を素早く右手に握り、一瞬で斬ってHPを持っていった。
『完全勇者』の効果切れを見て〈ギルバドヨッシャー〉が動き出していたが、それに構わず俺はインサー先輩に『聖剣』を放った。その一撃が数瞬遅れてインサー先輩のHPをゼロにする。
「うおおおお!? つ、次は負けんぞゼフィルス氏――」
そう言い残して〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスター、インサー先輩が退場する。
それと同時に俺にはスキルの猛雨が襲いかかった。




