#1066 白本拠地に迫るロード兄弟に悲劇が落っこ散る
「――ラウ! 『アポカリプス』!」
「――このー『ミラーピアー』!」
ラウが〈ギルバドヨッシャー〉の総攻撃を受けて退場した。
まさに一瞬の出来事だった。
しかし、〈エデン〉のメンバーであるメルトとミサトはすぐに動揺から立ち直り、むしろラウに総攻撃を仕掛けて隙が出来た〈ギルバドヨッシャー〉に大技を放っていた。
「『ダークハザードストーム』!」
「『ウェーブサイコ』!」
「『ロックウォール』!」
しかし、〈ギルバドヨッシャー〉はすぐに対応。人数が18人もいるため余力をしっかり残してメルトとミサトの攻撃に竜巻と超能力、そして石の壁で攻撃を防いできた。
それでもほんの少し防ぎきれず被害はあったものの、ほぼ無傷でこれを乗り切ることに成功する〈ギルバドヨッシャー〉。
「弱攻撃を放て!」
「なに!」
続いて万全な〈ギルバドヨッシャー〉がメルトたちの方を向くとほぼ〈初ツリ〉と〈二ツリ〉の連打を放った。
「『鏡――ううん、『リフレクション・ヘル』!」
これには相手をドーム状結界で囲い、攻撃を反射させる『鏡の中の結界愛』を準備していたミサトも驚き、すぐに壁のような結界を張って当たった攻撃を反射させる『リフレクション・ヘル』にシフトする。
これは術者の目の前に結界を出し、攻撃を反射させる魔法。
『鏡の中の結界愛』は効果が高い上にミサトの切り札。できれば〈四ツリ〉などの強い攻撃を反射し、大きなダメージと行動阻害を誘発したかったが故の魔法変更だ。
しかし、これを〈ギルバドヨッシャー〉は逆手に取る。
「今だロード兄弟!」
「行くよ~! 我らの通った道以外通るなよ~!」
「我らロード兄弟に追いつける者はいないのだ!」
「「『付いてこい』!」」
「な! まさかこの戦力差で逃げる気か! させん――『グラビティ・アトラクション』!」
「――『大精霊降臨』! お願いいたします『トニトルス』様! 」
ここで急にロード兄弟がダッシュし、〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーを連れて走り去ろうとしたのだ。ここでメルトたちは〈ギルバドヨッシャー〉の意図を看破する。
攻撃は陽動。
わざと反射させるためにしょぼい攻撃を連打し、ミサトに『鏡の中の結界愛』を使わせず、さらに各個撃破までせずに側面から通り抜け突破するのが狙い。
メルトたちの目的が足止めだとすれば、〈ギルバドヨッシャー〉の目論見は突破だ。要は突破を優先した形。
すぐにメルトが吸引力の変わらない指向性のブラックホールでおいでおいでし、シェリアが雷の大精霊を降臨させた。
「ふふふん~。1人ならいざ知らず~」
「2人揃えばそんな吸引力に負けないのだ!」
しかし、メルトの『グラビティ・アトラクション』は2人分の【道案内人】によってほぼ効いていない。
多少速度は軽減出来たものの、上級職2人分のスキルが相手では分が悪かった。
だが、無意味だったわけではない。
ロード兄弟の前を妨げるように雷の大精霊トニトルスが間に合ったからだ。
「――――!」
「「うお(なのだ)!?」」
雷の大精霊トニトルスは男性型。黄色のツンツン頭に白目、上半身は裸でズボンのみ。雷型で先が鋭い矛を持ち近距離攻撃に強い。体に雷を纏っており、高速で動くことが可能な大精霊だ。これにより、ロード兄弟の前に滑り込み間に合うことが出来たのである。
「なんのこれしき~」
「避けてみせるのだ!」
「ダメです兄弟! こいつは強い混沌です!」
そこにオスカーの制止の声が届いたが、ちょっと遅かった。
「今です『トニトルス・ハザード』!」
「な~!? ふががががが!?」
「ちょ、これはたまらんのだ!?!?」
ここで発動したのが〈四ツリ〉魔法の『トニトルス・ハザード』。自分を中心に周囲へ雷の雨が降り注ぐ魔法だが、大精霊が使うと威力と範囲に大きな補正が掛かる。
これにより回避しようとするロード兄弟も巻き込み、〈ギルバドヨッシャー〉に痛烈なダメージを与えたのだ。
【道案内人】に引っ張られている最中はスキルや魔法が使えない。
途中でオスカーの警告があったものの、間に合わなかった。しかし、
「強引ハイウェ~~!」
「なんの、これしきで止まる我らではないのだ!」
さすがはロード兄弟。
攻撃を受けながらも強引に突破して見せたのである。
「くっ! 追いかけるぞ!」
「待て待て待てー!」
「トニトルス様、追撃を!」
メルト、ミサト、シェリアもすぐに追いかけるが、メルトたちは魔法職。
その進みは〈ギルバドヨッシャー〉より断然遅かった。
〈ギルバドヨッシャー〉はここで足止めされれば徐々に戦力が集まってくることが分かっていた。
故に強引に突破したのである。
〈ギルバドヨッシャー〉がついに〈エデン〉の戦線を突破し、本拠地へ向けて爆走する。
「わはははは~! ここから本拠地まで一直線~!」
「オスカー、次はどっちなのだ?」
「もう少し右を走ってください、罠があります。北東に1マス移動。その後は状況次第でルートを決めます」
「オスカーがいれば我らの道に障害物は有りはしない~」
「了解なのだ! 爆速で進むのだ!」
オスカーの指示通りに進むことで〈エデン〉の罠や待ち伏せをことごとく回避出来る。
本来なら罠で足止めした所に東西から〈エデン〉メンバーが挟撃してくる箇所でも、罠をピンポイントで回避、爆破して通過することが出来てしまう。これがオスカーの特殊な才能とロード兄弟の能力が合わさった、対〈エデン〉スペシャルである。
今までの〈エデン〉のデータを全て解析し作り上げた戦術が猛威を振るう。
対処できないとすれば初見のスキルや魔法くらいのものである。あの『トニトルス』みたいなギルドバトルではまだ登場したことのない技でなければ問題無い。〈エデン〉の対処方法は仕上げてあった。
これが〈ギルバドヨッシャー〉の強み。
分析班なるメンバーとギルドバトルオタクたちが集まり、多くのギルドバトルからその戦術と対処法を練り上げ、ギルドバトルに常勝してきたギルド。
学園でギルドバトル最強ギルドの名は伊達ではない。
だがそれも〈エデン〉は、というよりゼフィルスは当たり前のように打ち破る。
「ははは~、ここを突破すれば本拠地は目の前~」
「敵と敵の間をすり抜ける快感はいつ感じてもたまらないのだ」
そんな感じでロード兄弟が調子に乗りまくり、〈エデン〉の挟撃作戦を躱す瞬間のことだった。
「!! 混沌警戒! とわっちっ!」
突如オスカーが警戒を促して地面にダイブしたのだ。
瞬間、ここには絶対居ないはずの人物の声が聞こえた。
「残念、ここから先はとおせんぼうだ。『フィニッシュ・セイバー』!」
「はう!?」
「フィニッシュ!!」
ズドンッ! と気が付けばロード兄が斬られていた。
瞬く間の出来事に全員の思考が一瞬停止する。
次の瞬間には転移陣が現れてロード兄が消えると、ロード弟が目を見開いて叫んだ。
「兄者がまた逝ったのだーー!?!?」
「今度は弟も逃がさないぜ? 『勇者の剣』!」
「ぶればらひゅん!?」
まさに青天の霹靂。ようやく〈ギルバドヨッシャー〉の時が動き出そうかというとき、ゼフィルスが返すスキルでロード弟も屠ったのだ。
トニトルスの攻撃により大きくダメージを受けていたロード兄弟はこの奇襲に耐えられず、転移陣で〈敗者のお部屋〉へと退場してしまった。
「ゼフィルス氏、どうやって現れたんだ?」
「さあ、どうやってだろうな?」
一瞬で2人を屠ったゼフィルスはインサーの言葉に不敵にそう返す。
これが〈カッターオブパイレーツ〉戦でしたかったゼフィルスの【道案内人】対処法。
転移スキル『英勇転移』による奇襲攻撃だった。
本拠地まであと少しというところで〈ギルバドヨッシャー〉の前に立ちはだかったのは、〈エデン〉最強のギルドマスター――ゼフィルスだ。




