#1061 インサーを手玉に取るゼフィルス指揮能力。
「〈南西の2〉、取ったのは――〈ギルバドヨッシャー〉ですわ」
「あーダメか! いや、メルトたちの差し込みは良かったのに、運が無かった」
「相手は人数が人数でしたもの、相手が使っていた〈ジャストタイムアタック〉など、色々相談したいことがありますが、それより次の対応ですわ」
「ああ。インサー先輩たちを逃がさない。もうそろそろだ――よし、いいぞ!」
「『投影コネクト』!」
「この一手で流れを決めるぞ!」
〈南西の2〉を取れなかったことに残念がるゼフィルスとリーナだが、時間は待ってはくれない。
〈南西の2〉を取ったインサーたちが引き返し、〈南東の3〉へ向かおうとしていたからだ。
ロード兄弟が牽引すれば、〈エデン〉のBチームが〈南東の3〉を落とす前に間に合い、今と同じく先取勝負に持ち込むことが出来、上手く行けば〈ギルバドヨッシャー〉が先取もできるだろう。
すると逆転し、〈エデン〉が9城、〈ギルバドヨッシャー〉が10城となる。
さらにBチームは〈ギルバドヨッシャー〉によって囲まれ、下手をすれば全滅もあり得る。
そうはさせないとゼフィルスが仕掛けていた。
〈ギルバドヨッシャー〉は〈南西の2〉を確保する。
そうしないと巨城の差がえらく開いてしまうのだ。できれば確保してから〈南東の3〉へ向かいたいと思うのが人情というもの。また、〈南東の3〉にまだ〈エデン〉Bチームが向かっておらず、時間的余裕があったためにというのが大きな理由だった。
しかしそれは、ゼフィルスがタイミングを計っていたからだ。
素早くメルトたちを突入させることで〈南西の2〉を奪われると危機意識を刺激し、〈南西の2〉への一斉攻撃に〈ギルバドヨッシャー〉Aチーム全員の意識を集中させたのだ。
あわよくば〈南西の2〉も取ってやるという一石二鳥の作戦。「自分が狙っていた巨城を横取りされそうになったら、周りが見えなくなるよね」という心理を見事に突いていた。
そして〈ギルバドヨッシャー〉は〈南西の2〉を取ってから〈南東の3〉へ向かうというステップを踏むことになった。いや、踏まされたのだ。
「インサー先輩! 混沌の壁が!」
「しまった! タイミングを見誤ったのか!?」
それにオスカーやインサーが気がついた時には時すでに遅し。
インサーたち〈ギルバドヨッシャー〉の前に保護期間の壁が立ちはだかり、〈南東の3〉へ戻れなくなっていたからだ。
〈ギルバドヨッシャー〉が〈南西の2〉へ本格的に食いついてきたタイミングを逃さず、〈エデン〉が保護期間の壁を敷いていたからだ。
ゼフィルスが指示していたことは、細かい。
〈エデン〉のAチームはまず〈南西の1〉からいくつかに分かれ、〈南西の2〉の北側と西側のマスを大量に確保していた。
これはインサーたちに、行動を阻害するために囲む気なのだと読ませることになる。
つまりは保護期間によるブロックだ。
上手く行けば、インサーたちは包囲されてしまい、〈南東の3〉に向かうどころでは無くなってしまうだろう。
しかし、そこで活躍するのがロード兄弟だ。ロード兄弟の足は、〈エデン〉が囲むよりも早く、この場から〈ギルバドヨッシャー〉を脱出させてくれるだろう。
ギルドバトル専用職業のスキルは伊達ではない――はずだった。
だが、それは〈ギルバドヨッシャー〉の向かう先を限定させるための誘導。
本命は別にあった。
「なんだ……あれは?」
「そ、そんな、バカな。保護期間のマスだと! あそこにか!」
「か、完全に分断されてる!?」
〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーに動揺が走る。
包囲網を脱出し、〈南東の3〉へ向かおうとしたインサーたちに待っていたのは、〈中央巨城〉から6時の方向に向かってマスが取られ東西を保護期間で分断されている光景だったからだ。
これにより、インサーたちは東へと横断できなくなった。
「嘘だろ! どのタイミングでそこに人が居た!? いや、まさか!?」
オサムスが驚愕の言葉を口にする。そして気が付いた。
〈エデン〉が〈南西の1〉を落としたタイミングからすぐ行動に移し、〈南西の2〉の周りを囲もうとしても、〈ギルバドヨッシャー〉が〈南西の2〉を落とし囲いから脱出して〈南東の3〉へ向かう方が早いと計算していた。
だがそれは〈南西の1〉を15人全員で取りに行っていればの話。
そこでインサーとオサムスは気が付く、前提が間違っているのだと。
〈エデン〉がもっと前にツーマンセルを分けていたのだと。
でなければこの保護期間は間に合わないはずなのだ。
「我らに気付かれずに〈エデン〉の集団から別れ、道を作るためのメンバーがいたのか!」
「そんなことが出来る〈エデン〉メンバーは1人、カイリ氏か!」
「混沌!?」
そう、そこにいたのはカイリとエステルのツーマンセルだった。
彼女たちが〈エデン〉のAチームから分かれたのは〈西巨城〉を落としたとき、続いて〈南西の1〉へ向かうタイミングでチームから外れ、〈中央巨城〉で待機していたのだ。
そして〈ギルバドヨッシャー〉が動く一手早いタイミングで東西を分断する保護期間を形成したのである。
これは陽動。
Aチーム13人で囲めていれば良しだが、〈ギルバドヨッシャー〉にはロード兄弟がいるためまず無理だとゼフィルスは判断していた。
故にメルトたちの突撃や周囲にメンバーがバラけたことで気を逸らせ、待機していたカイリとエステルを動かし、〈中央巨城〉から真南に保護期間を敷いてフィールドを分断したのだ。
この陽動は、本命のカイリとエステルの行動を悟らせないための布石である。
同時に〈エデン〉本拠地への通路も遮断。行き場に困った〈ギルバドヨッシャー〉がカウンターで〈エデン〉の本拠地へ攻め込んでこないようにする考えられた一手でもあった。
さらに気が付けば〈南西の0〉への道も遮断されて行けなくなっていた。
これにはインサーとオサムスも脱帽。目から鱗がポロポロ落ちる。
〈エデン〉は15人で行動していた。それをばらけさせ、ここまで細かく人員を分けて運用するというのは正直非常に難しいと言わざるを得ない。
エステルとカイリだけ動かすならまだ何とかなるが、そこから「〈南西の2〉の差し込み」「〈南西の0〉への道分断」「〈エデン〉本拠地への道分断」「東西の分断」「〈ギルバドヨッシャー〉の囲み」「陽動」を同時に行なえるかといえば、「とても高難度です」としか答えられない。
というかそこまで細かく指示することは事前連絡では不可能だ。現場の状況を見て臨機応変に指示しなくてはいけない。それでも本当にここまで細かく動きを伝えることが出来るのか。インサーたちはまたゼフィルスに聞きたいことが増えた瞬間だった。
これがリーナの超スキル。『ギルドチェーンブックマーク』と『投影コネクト』、そして『ギルドコネクト』の力である。
「【通信兵】! B班に連絡! すぐに本拠地へ引き返せ! 俺たちも保護期間が切れ次第すぐに向かう!」
「受諾! 『通信』!」
こうなったら次の展開はもう見えていた。
南西がこの調子である。北東の様子も推して知るべしである。〈南東の3〉は取られると見るべきだ。
このあとインサーが出来るのは、このまま本拠地へと一旦戻り、本拠地まで取らせないことくらいだろう。
しかし、ゼフィルスの本気はまだまだここからだった。
インサーたちは、当然のように自分たちの本拠地へ戻らせてもらえなかったのである。




