#1060 同時着弾攻撃VS〈ジャストタイムアタック〉
「さすがはゼフィルス氏、いや〈エデン〉と言ったところか!」
「俺たち〈ギルバドヨッシャー〉がなんとか食らいつくのが精一杯とは、やはり凄まじい」
「燃えるではないか」
「ああ! 完全に同意だ! 行くぞインサー!」
「総員攻撃開始! ――『ダウンバースト』!」
「――『ダークストームハザード』!」
新たな巨城で巨大な災害級竜巻が発生し、同時に上空からのダウンバーストが竜巻の中心に吸い込まれていく。その光景はまるでこの世の終わりに起きる災害のようだ。
息ぴったりの連携をするのは〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスター、上級職、高の下【天導師】に就くインサーと、サブマスターで上級職、高の下【ディザスター】に就くオサムスだ。
頭脳派オタクは近接戦闘なんて出来ないので2人とも魔法職である。
他に十数人で巨城を攻撃し、短時間で巨城を落としていた。
これはまさに〈エデン〉と同じ戦法だった。
中でも上級職が多い〈エデン〉に食らいついていけるのにはいくつか理由がある、〈ギルバドヨッシャー〉には巨城に大ダメージを与えたり、マスをとんでもない速度で駆ける特化職が活躍しているのだ。
「『サクリエンドキャッスル』!」
「『デストロイヤーフルハンマー』!」
その一角、2人のハンマー使いが巨城にドカンッと強力な一撃を当てると、見るからにHPが減る。そのダメージ、なんと5%。2人で10%も城のHPを削ったのだ。
これが城を落とす特化職。【槌士】系の上級職【サクリキャッスラー】と【攻城破砕槌士】の力だった。
【サクリキャッスラー】は巨城の数が多ければ多いほどSTRが上がる能力を持ち、装備を1つ犠牲にすることで巨城、本拠地、拠点に対し超特大の一撃を与えることができるのが魅力な職業だ。〈ジャストタイムアタック〉を1人で粉砕しえると言えばそのヤバさが分かるだろう。その代わり装備が1個永遠に消える。何度も使うと裸族になるので注意。
【攻城破砕槌士】は巨城、本拠地、拠点に与えるダメージのみ最大3.3倍にするユニークスキルを持ち、要塞化した〈防壁〉に対し特攻や破壊系のスキルをいくつも持っているのが魅力な職業だ。育成が進めば〈防壁〉に対し、HPを無視して破壊することすら出来るスキルも覚えることが出来る。
この2職により〈ギルバドヨッシャー〉は〈エデン〉とほぼ同速で巨城を落とすことに成功していた。
さらにギルドバトル特化職はまだまだある。
「【通信兵】――B班に連絡! 次の巨城は〈2〉へ向かえ!」
「受諾! 『通信』! B班――次の巨城は〈2〉! 繰り返す、次の巨城は〈2〉!」
インサーの言葉にその後ろで重要な役割を担っている【通信兵】に就く女子が、別で動いているメンバーに通信でインサーの指示を送った。
この【通信兵】はノーカテゴリーの【兵士】系統の下級職で、少し遠くの仲間を対象に『通信』を送ることが出来るスキルを持つ。
ダンジョンでは〈学生手帳〉が使えるためにあまり使いどころの無いスキルではあるものの、リアルタイムで指示が出せるというのはギルドバトルでは大きく価値があり〈ギルバドヨッシャー〉には2名の【通信兵】がメンバーにいたりする。
「受信! 『了解、これよりB班は北へ進む』とのこと!」
「よし! 巨城ももう落ちるぞ! 『天からの落雷』!」
「『呪法の零』! よし、落ちた!」
「ロード兄弟!」
「「『道案内』~(なのだ)!」」
拠点が落ちた瞬間発動するのはロード兄弟の【道案内人】の能力。
これにより、ごく短時間で次の拠点まで進む事が出来る。
これは〈エデン〉よりもかなり速いため、現在〈エデン〉とあまり点差が開いていない理由の一つでもあった。
「チルミ君よ地図を!」
「はいはーい! 10秒前の最新地図だよ!」
インサーのすぐ隣に来た女子が走りながら地図を渡す。
彼女は1年生の〈調査課1組〉チルミ。【マッピングマン】の上級職、高の下【ワールドマッパー】に就くエリート系女子だ。
〈竜の箱庭〉のようにリアルタイムで更新とはいかないが、スキルで地図を更新する度にフィールドの全体図、相手の位置が分かるために非常に重宝していた。
彼女に可能性を刺激されたインサーがスカウトに走り、全力で育成した1人である。
渡されたそれを確認したインサーが隣で一緒に地図を見るオスカーに聞く。
「なるほど、オスカー君、ゼフィルス氏の動きは?」
「未だ本拠地から動きません。ですが混沌の気配がどんどん高まっています――混沌!」
「ゼフィルス氏、まだ動かないか。まさか何かを狙っているのか?」
「どうするインサー?」
「こうなると、おそらく北にいる〈エデン〉は〈15〉ヘ行くな。タイミングを見極めねばならん」
ここで言う〈15〉とは〈ギルバドヨッシャー〉が名付けた番号で、〈エデン〉で言う〈南東の3〉、つまりスルーした〈ギルバドヨッシャー〉の本拠地近隣の巨城のことだ。
インサーたちは〈エデン〉で言う〈南西の3〉を落とし、現在〈南西の2〉へ向かっている場面。
今戻れば南西方面の3箇所の巨城が〈エデン〉に奪われる。しかし、〈エデン〉のメンバーを多く倒せるのであれば必要なリスクと割り切れた。
〈南東の3〉は〈ギルバドヨッシャー〉がわざと残していたエサだ。
〈エデン〉は絶対にそこへ向かわざるを得ない。そこを囲って叩く。
しかしタイミングが重要だ。相手が動き出してからじゃないと逃げられてしまう。
それはゼフィルスも分かっているだろう。何かを仕掛けてくるはずだとインサーはオスカーに何度もゼフィルスの所在を確認していた。
だが、ゼフィルスは不気味なほど本拠地から動かない。
これは対〈天下一大星〉との決闘戦の動きによく似ていた。
あの時は罠を張って囲って叩いていた。故にインサーは何か罠が仕掛けられていないか、入念に地図を確認していた。
「インサー、どう動く?」
「ああ。おそらくゼフィルス氏は向こうの北東にいるチームで〈15〉を狙うはずだ。Bチームはわざと抜かせて追いかけさせ、俺たちAチームもロード兄弟の力で向かい囲んで叩く。しかし、ゼフィルス氏もそれは分かっているはず。何か秘策があると見ていい」
「ああ。ならこっちも秘策を使うまでだ。だからこそ俺たちはこれほどの人数で組んでいるのだからな」
〈ギルバドヨッシャー〉の振り分けはこうだ。Aチーム18人、Bチーム17人。
Aチームであるインサーたちのいるチームには1人多くメンバーが割り振られていた。
これは対〈エデン〉用に組まれた対人戦を見越したチームでもあるからだ。
インサーたちは最初から〈南東の3〉で〈エデン〉とぶつかることを想定し、ぶつけるならAチームと考えて行動していた。
ロード兄弟や地図屋のチルミ、オスカーなど重要な人材をこちらに集めていたのはそれが理由だった。
ギルドバトルは初動が命。初動はリカバリーがほぼ効かないため、万全の作戦を練って挑まなくてはならない。全てを想定の範囲内で済まさなくてはいけないのだ。
「オスカー、君からの意見はあるか?」
「遠くから混沌が迫っています。俺たちの本拠地が危ない」
「やはり、か」
「方針は決まったな」
「ああ、オスカーの嗅覚は信用出来る」
こうして〈ギルバドヨッシャー〉の次の行動は決まった。
〈エデン〉も時を同じくして〈南東の3〉を目指す指示が出される。
〈ギルバドヨッシャー〉は巨城の過半数取得を捨ててでも〈エデン〉の人数を削りに動くと決断する。
しかし、〈南東の3〉へ向かって〈エデン〉が動き出すと同時に、〈南西の1〉を取得した〈エデン〉のAチームがばらけて動き出した。
「インサー先輩、北東の〈エデン〉が動いた! 予想通り北東にいるメンバーが南へ進攻してる!」
「!! インサー! 僕たちの西側から〈エデン〉接近! 数5! この巨城を奪いに来てる!」
「そうくるか!」
タイミングは〈エデン〉が〈北東の2〉と〈南西の1〉を手に入れたところ。
ゼフィルスはそれぞれに指示を出していた。
北東へ進んでいたBチームは〈南東の3〉へ進攻し、南西にいるAチームは〈ギルバドヨッシャー〉が現在進行形で落としに行っている〈南西の2〉を狙いつつ、マスを敷いて道をインターセプトすること。
Aチームは〈南西の2〉を落としに来たのだ。
そして〈エデン〉Aチームはここでいくつかのツーマンセルにばらける。
小城マスを手分けして取り、現在進行形で〈南西の2〉を攻めているインサーたちを囲い閉じ込める狙いだった。
さらに5人ほど〈南西の2〉へ向かい、差し込みで巨城まで手に入れようとしている。リーダーはメルトだ。
つまりは〈南東の3〉への援軍は行かせないよ、あと〈南西の2〉も頂戴という欲張り作戦だ。
本来ならロード兄弟の脚力で〈エデン〉を置いてきぼりにするはずが、〈エデン〉が〈南西の1〉を落とすのが早かったため〈南西の2〉が狙われた形。
〈エデン〉には〈ジャストタイムアタック〉がある。
下手をすればインサーたちは保護期間に囲われ閉じ込められたあげく、巨城まで持っていかれるはめになる。
しかし、〈ギルバドヨッシャー〉を舐めてはいけない。
〈南西の2〉を取らせず、〈南東の3〉へも向かうため、インサーは選択肢の中から最善を選んで指示を出した。
「は! 面白い、さすがは〈エデン〉だ! 負けていられんぞ! 俺たちも見せるぞ! 37秒だ!」
「「「「「応!」」」」」
インサーの言葉に〈ギルバドヨッシャー〉メンバーが一斉にしたのは――腕時計の確認。
そして37秒という言葉。
「なに、まさか!」とメルトの脳裏に予感が過ぎる。巨城の残りHPからして5人程度の〈ジャストタイムアタック〉では1度の合わせで落とせない。しかし、それが18人なら?
18人の同時着弾攻撃であれば削りきれるHPだった。
「『ヘブンズトライホーン』!」
「『ヘルダークダウン』!」
「4……『ホーミングブラスター』!」
「4……3……2……『アイアンヘッド』!」
「2……1『オーラオブソード』!」
「『デストラクションインパクト』!」
「『サクリパージクラッシャー』!」
それは〈エデン〉が行なっているのと同じ、同時着弾戦法。
〈ジャストタイムアタック〉だった。
そう、〈ギルバドヨッシャー〉は〈ジャストタイムアタック〉が世に出てからというもの全員で練習し、しっかり仕上げてきたのである。
〈ギルバドヨッシャー〉A班、ほぼ全員による同時着弾攻撃は、完璧だった。
1人体装備が弾けた者も居る。
しかし、〈エデン〉メンバーだって指を咥えて見ているわけでは無かった。
「カウンター37秒!」
「「「おおー!」」」
「任せるがいい!」
時間はインサーが「37秒だ!」と叫んだ直後に遡る。メルトたちが一斉に何かを準備していた。
〈エデン〉のAチーム、その中でも〈南西の2〉の拠点へ向かった5人は特に火力に優れているメンバーだった。
メンバーはメルト、サチ、エミ、ユウカ、そしてレグラムである。
しかもバフが最大まで付いているおまけ付き。
そしてメルトの「カウンター37秒!」という言葉。
これは相手の〈ジャストタイムアタック〉にカウンターを仕掛けるテクニック。
相手が37秒に一斉着弾攻撃をするのなら、こっちも37秒に一斉着弾攻撃をすれば、ワンチャン巨城先取の可能性が生まれる。遅くても早くてもいけない。
ゼフィルスは〈ギルバドヨッシャー〉と交流する中で、彼らが〈ジャストタイムアタック〉を身に付けているだろうと察していた。何しろその話題で超盛り上がったのだ。
興味津々の〈ギルバドヨッシャー〉なら仕上げてくるに違いない。ゼフィルスの〈ダン活〉プレイヤーとしての勘がそう告げていた。故にカウンターを淀みなく選択させることができたのだ。
半信半疑ではあったがゼフィルスから聞いていたメンバーたちは、冷静にカウンターを合わせて差し込みを狙ったのである。そして見事に着弾時間ぴったりに合わせてきた。
「――『アポカリプス』!」
「「「『神気開砲撃』!」」」
「『轟天・雷神』!」
「なんだと!!」
これにはインサーたちも驚いた。
カウンターで自分たちと同じ時間に着弾させる。
まさかそんな作戦を実行してくるとは、考えはしても突発的に実行に移す難易度はかなり高いだろうことは想像に難くない。
〈ジャストタイムアタック〉は着弾のタイミングをしっかり合わせなくてはならない特性上、全員に大声で通達する必要がある。17人に指示するのだ。〈ギルバドヨッシャー〉はとても大きな声を出さなくてはいけない。
そして当り前だが、それは相手にも聞こえている。
メルトたちはインサーが意味深なセリフを言った瞬間から自分たちも残り時間を確認し、〈ジャストタイムアタック〉の心構えをしていたのだ。
多くの〈ジャストタイムアタック〉と実戦で触れ合ってきた〈エデン〉メンバーだからこそ出来る応用技である。
「うおおおおおお! 負けるなーーーーー!!」
「「「「「うおおおおおおおお!」」」」」
こうなったらもう運次第。
状況は人数の多い〈ギルバドヨッシャー〉に有利。しかし、威力面では〈エデン〉にも分があった。
〈エデン〉のワンチャン差し込み狙いは成功するのか否か。
そして運命の〈残り時間:34分37秒〉。
「ズドバーンッ!」とほぼ一つの大音が鳴り響き、巨城にエンブレムの旗が立つ。
そのエンブレムは―――〈ギルバドヨッシャー〉のものだった。




