#1058 初動の最善。19城の中で何を取るのが正解?
試合開始。
「『全軍一斉攻撃ですわ』!」
「『ハイテンションエール』!」
「『獅子の大加護』!」
「『六精霊全召喚』!」
「『戦場物資』!」
ブザーの音と共に即でバフを掛ける。バフが掛かった瞬間走り出すAチームとBチームを見送ると、リーナが〈竜の箱庭〉の前でスキルを使った。
「『フルマッピング』ですわ! 『人間観察』! 『観測の目』! 『俯瞰の目』! 『モンスターウォッチング』!」
すると〈竜の箱庭〉全体に掛かっていた霧が晴れ、アリーナ会場全体が表示されたかと思うと、今度は人物やモンスターが投影される。リアルタイムで動く地図の完成だ。
同時進行でシャロンが本拠地の周りを走り回りながらスキルを使っていった。
「『防壁召喚』! 『誘導路』! 『物見台召喚』! 『城門召喚』! 『クワトロ式バリスタ』! 『激・射撃台』! 『防壁召喚』!」
本拠地の中ではハンナ、アルル、ニーコがシズの『戦場物資』でドカンと置いていった荷物の中からアイテム類を取りだして整理を始めている。
さすがは〈エデン〉のメンバーズ。動きが速い速い。
そして俺は、リーナと共に〈竜の箱庭〉を見つめていた。
そう、ここに残っているのはCチーム。俺、リーナ、シャロン、ハンナ、アルル、ニーコのいる本拠地お守りチームだ。
本当ならカタリナやラクリッテもいてもらいたいところだったが、とりあえず今はいい。
まずは出来るだけ巨城を早く取るのが先決だ。
俺は初動では指揮官を担当する。このフィールドでの動きはかなり特殊だ。
相手の動きを見てからどの巨城を取るか決める必要があり、リーナを通じて指揮を執る必要があった。
「AチームとBチームがそれぞれ本拠地に近い巨城にたどり着きましたわ。まずはここを落とすのですわね?」
「ああ。ここは必ず先取するのが最善だ」
まず第一手。先ほど話した通りこのフィールドは19も巨城がある。
その中でどれを最初に取るのが正解なのか?
普通の〈城取り〉ではお互いが競合する巨城を取りに行く。そのため基本的に本拠地に近い巨城は後回しにするのが正解だ。
しかし、この〈クロスキャッスル〉フィールドはたくさん巨城がありすぎて競合している巨城なんてそこら中にあるのだ。どれを最初に取った方が良いとかってあるの? という状態だが、最初に取るべき巨城はある。
それが本拠地に一番近い巨城だ。
先ほど話した通り、本拠地から6マス隣接というかなり近い位置に2城の巨城がある。
ここを優先的に落とすのが正解。
なぜか? ここが本拠地に一番近い足がかりになってしまう巨城だからだ。
〈クロスキャッスル〉フィールドの超特殊な部分でもある。
何しろこのフィールドは今までのように小城マス優先よりも、巨城にこそ大きな価値があるのだ。
巨城をひっくり返せば簡単に大きな点が稼げてしまうし、今言ったように本拠地へ王手を掛ける足がかりになってしまう。
巨城から本拠地までたったの6マスしかないのだ。敵に取られてしまった場合、本拠地が強く押さえつけられてしまう非常に危険な巨城でもある。
故にここをまず押さえておくのが正解。
「Aチームエステルさんとパメラさんが到着、Bチームもほとんど同時に到着ですわ。一斉攻撃に掛かりましたわ」
「1城15人での総攻撃だ。いくら耐久力が高くてもこれはすぐに落ちる」
「凄まじい耐久値ですわね。あれほどの攻撃を受けてあれだけしかダメージを与えられないだなんて驚きですわ」
リーナの言うとおり、巨城のダメージはかなり少ない。
ラナの『大聖光の十宝剣』でようやく2%くらいのダメージだ。
クールタイムも合わせると、1城落とすのにどれだけ時間が掛かるのという感じだな。
だが、それでも15人もメンバーがいれば話は変わってくる。
「1分07秒でAチームが巨城を落としましたわ」
「よし、いいぞ! そのまま南東へ斜めに進む!」
リーナからタイムを聞いてグッと拳を握る。
かなり良いタイムだ。
これが5人チームで掛かればタイムはこれの3倍以上掛かっただろう。
下手をすれば5倍以上掛かるかもしれない。
人数を3倍にしたから3倍早く巨城を落とせるかというと、話はそう簡単ではない。
それはクールタイムに起因する。
ドデカいスキルや魔法というのは、それだけクールタイムは長い。
必然的にドデカい〈五ツリ〉や〈四ツリ〉は発動回数が少なく、〈二ツリ〉などしか使えなくなっていくため落とすまでに1人辺り数十発もスキルや魔法が必要になる。
故に少ない人数になればなるほど落とすまで時間がどんどん増えていくのだ。
しかし、人数を集めれば巨城を落とすタイムは短くなり、必然的にスキルや魔法の発動回数も少なくなる。1人辺り数発で巨城を落とせるのだ。すると威力の低い〈二ツリ〉の出番が無くなる。〈五ツリ〉や〈四ツリ〉を一通り使えば落とせるからだ。
そしてここがポイント。クールタイム中に何をして過ごすのか?
人数が少ない場合は一通りスキルや魔法を使えばクールタイムが明けるまでその場で待たなくてはならない。比較的にクールタイムの明けるのが早い〈二ツリ〉などで繋ぎつつ、大技の〈五ツリ〉のクールタイムが明けるまで巨城の前で待つのだ。
何それ時間が勿体ない。
そこで出した答えがこれだ。
「巨城は〈五ツリ〉と〈四ツリ〉を一通り撃って落とせ。クールタイムは次の巨城までのダッシュ中に回復しろ」である。
クールタイムで撃てない時間、棒立ちさせるのなんて時間の無駄だ。次の巨城まで走っている時間で明けさせるのが最善。
Aチームはまさに〈四ツリ〉と〈五ツリ〉スキル、魔法のみを一通り撃って巨城を落とし、次の巨城へ向かっている最中にクールタイムを明けさせていた。
理想的なタッチアンドダッシュだ!
「Bチームも1分21秒で巨城が落ちました!」
「いいぞ! 作戦通りだ!」
Bチームも良い滑り出しだ。Aチームの動きより遅い所はあるが、それはわざとAチームに速さと火力を集めたからだ。
実はAチームには一つ仕事があった
「〈ギルバドヨッシャー〉もさすがですわね。ゼフィルスさんの戦法と同じく、まずは本拠地に近い2城を落としにいっていますわ。向こうもかなりのスピードですわね。あ、今落ちました」
「さすがは〈ギルバドヨッシャー〉だ。分かってるなぁ。まあ、分かっていなければここでAチームが王手を掛けていたんだが、さすがにそう簡単にはいかないか」
そう、Aチームは〈ギルバドヨッシャー〉の動き次第では相手の本拠地の近くにある巨城を落としてきてもらう計画だった。
ここを先取出来れば本拠地まで6マスの拠点と変わらない。目の上のたんこぶだ。
これを嫌うなら、〈ギルバドヨッシャー〉はその巨城をひっくり返さなければならない。
残しておけば後々本拠地に人員を割かなくてはいけなくなる。
凄まじくいらない浪費だ。
本拠地近隣は必ず取っておかなければならない巨城。
相手との競合の巨城を取るよりもまず本拠地を守るのがこの〈クロスキャッスル〉フィールドでは正解だ。
相手の本拠地近隣巨城が取られてしまったなら作戦はチェンジ。
Aチームには次の要所へと向かってもらおう。




