#1057 今回の会場は〈クロスキャッスル〉フィールド!
「よし、紆余曲折があったりなかったりしたが、これで出場者は決まったな」
「急に話が来たのにはビックリしましたけれど、渡りに船でしたわね」
いやほんと、リーナの言うとおりだ。
〈20人戦〉の出場者を決めようとして、ちょっと混乱した。
しかし試合開始も近づいてきたところで〈ギルバドヨッシャー〉からの使者、メイコさんが慌てて駆け込んできたときは驚いたが、それは朗報だった。
どうやら、向こうも出場者枠で揉めたらしい。
当初3試合を〈20人戦〉〈25人戦〉〈30人戦〉でやろうという話だったが、変更後は〈36人戦〉〈36人戦〉〈36人戦〉になった。ビックリだな!
要は限界まで出せる人員でやろうぜ、とのことだ。
これにより話が大きくなって、当初〈エデン〉〈アークアルカディア〉で辞退や観戦を表明していたメンバーも参加することになり、なんとフル参加、総力戦へと発展してしまった。混乱するよりかは良いだろう。
「あ、あれ!? 私も参加することになってるよゼフィルス君!?」
「きっと良い経験になるさ!」
「うちも参加するんかゼフィルス兄さん?」
「……おかしいな、僕も参加枠に入っちゃってるのだが?」
「ゼフィルス君は豪快だな~。うん、やるからには頑張るよ」
そんなわけでハンナにアルル、ニーコにカイリも参加することになった。うむ。きっと良い経験になるさ。観戦側立候補者も生産職が参加するのであれば参加しないわけにはいかないと、やる気になってくれたんだ(?)。
「なに、大丈夫、こっちにはシャロンとカタリナがいるのだ。アイテムを使って戦えばいけるいける。本拠地から一方的に爆弾放り投げれば良いのさ」
「ほ、本当ゼフィルス君?」
爆弾放り投げるだけで良いという話に、なんの疑問も抱かないハンナに頷く。
「うち、戦闘職のギルドバトルに参加すること自体初めてなんやけど」
そういえばアルルは戦闘職ギルドバトル自体初めてだっけ。色々教えておかないとな。ハンナに任せよう。
こう見えてハンナはギルドバトル経験が豊富だ(ハンナは生産職です)。
「カイリは前線で活躍してもらう予定だけど。いけるか?」
「うん! こうなったからにはやるよ。頑張るね!」
カイリは潔いな! さすがは体育会系。
今日は登校があったものの、午後は丸々空いていたので全員が装備に着替えていたのが功を奏したな。
さすがに学生服のままギルドバトルに参加させるわけにはいかなかったし。
「くっ、なんか余った時間でダンジョンに行く流れだったから着替えたけど、それが裏目に出たのか……」
ニーコが真実に気付いて唸っていた。
全員が装備を着る流れだったからな。ハンナも錬金装備じゃなくて戦闘用装備しているし。
幸いにもこの前、全戦闘職メンバーの上級装備更新が済んだところだ。全力で戦える。備えあれば憂い無しだな!
そんなニーコを見て「うむ」と頷いていると、俺の近くをエステルが通りかかる。そしてその手に持つ新装備に自然と目が行った。
「おお~、エステル。その槍もかっこいいな~」
「はい。せっかくですので換装させていただきました」
その名も〈雷槍・タケミカヅチ〉。
以前〈岩ダン〉の最奥ボス〈マグメタ〉周回で五段階目ツリーを開放したときにドロップした槍で、本当はAランク戦で使用したかった新装備だ。
レシピのドロップが前日だったために作製が間に合わなかったんだが、とうとうお披露目だ。
〈秘境ダン〉の時も装備は〈マテンロウ〉だったからな。
「ようやく使う時が来ました」
「だな。頼りにしているぞ」
「お任せください」
エステルがかっこよくキリッとする。
さて、時間も迫ってきたし作戦を通知しよう。
「さて、みんな聞いてくれ。これから大事なことを話す。――最初の話より出場者が多くなった。〈エデン〉でやったギルドバトルは最高で〈25人戦〉まで、今回〈36人戦〉という大所帯でのギルドバトルは初めてになる。これほどの人数となると戦略が結構変わってくる」
時間も無いので簡潔に話す。
〈ギルバドヨッシャー〉も混乱中とのことだし、これで向こうの時間的アドバンテージは帳消しとなったとみていい。
〈エデン〉はついさっきこのギルドバトルのことを知ったので、作戦どころか出場者すら決めていなかったからな。これはありがたい。
なお〈ギルバドヨッシャー〉がなぜ今更になって出場者で揉めたのかは不明。
お互い全ての作戦を最初からやり直しということは、僅かな時間でどれだけ作戦を通達できるかに掛かっている。
相手は〈ギルバドヨッシャー〉。
ギルドバトルで無敗のギルド。
戦法や戦術では右に出るギルドはいないと言われている、学園の最強ギルドだ。
俺も何度もギルドにお邪魔して語り合ったから分かる。
ギルドバトルについてかなり思慮深い独自の見解を持っていた。
きっと少ない時間でも素晴らしい作戦を立ててくるだろう。
本戦なら出場者は5の倍数になるため、本来ならあり得ない〈36人戦〉という変則的なギルドバトルにも対応してくるに違いない。
時間は無い。なら〈エデン〉〈アークアルカディア〉が持っている技術で対抗する。
こういう時のためにメンバーたちはギルドバトルの練習をしてきたのだから。
「作戦を立てるぞ。まずは初動でどう動くのか。その後のことは俺とリーナが指示する。とにかく初動だけは頭に叩き込んでくれ」
初動は何よりも大事。この初動さえ通達出来ていれば後は俺とリーナの指示でなんとかなる。
「まずはフィールドの確認だ。俺たちが戦う場所は――〈クロスキャッスル〉フィールドだ」
――第三アリーナ、〈36人戦〉〈城取り〉〈クロスキャッスル〉フィールド。
〈クロスキャッスル〉フィールドは簡単に言えば巨大なバッテンの字のフィールドだ。
北西、北東、南西、南東に延びた太い道。端から端へ行くために途中中央付近へ向かう必要があり、クロスの名はここから来ている。
そして、もっとも特徴的なのが、このキャッスルの名の由来の通り、巨城の数の多さにある。
その数、なんと19城。
今まで見た中で一番多かった〈九角形〉フィールドでさえ9城しかなかった巨城がなんと倍越え、二桁の19城だ。
これだけでもとんでもないと分かるだろう。
ここは巨城の守りなんて出来ない。完全な巨城点取り合戦になる。
本来中盤戦にある小城マス取りすら置いてきぼりにし、とにかく巨城を取ったもの勝ちになるフィールドだ。巨城特化型フィールドと言っていい。
そしてその制限時間は今回、たったの50分しかない。
巨城19城が全てどちらかのチームに渡った時、果たしてどれくらい時間が残っているのか?
ここは第三アリーナ。相当広いフィールドで端から端まで走るだけでも5分以上は掛かる。
全ての巨城が落ちた時には30分以上経過していてもおかしくは無い。
そうなると本拠地を落とすのも難しくなる。
何しろそのお互いの本拠地の位置が、なんとフィールドの端と端にあるのだ。白が北西、赤が南東の端に本拠地を構えている関係上、全力でブロックすれば20分耐えることは難しくはない。
本拠地への攻撃があまり心配無いため、本当に巨城に集中する超巨城特化型の特殊フィールドだ。
まあ、練習試合の時などに使われることが多いフィールドだな。
対人戦が少ない、本拠地を落としづらいというのは本番の試合ではあまり盛り上がらないのだ。
ここまで話して、さて、ではまずどこの巨城へ攻めるのがいいのか。
もうそこら中に巨城が乱立しまくっているフィールドなのだ。
本拠地のたった6マス隣に2城も巨城が建っていることからも乱立具合が分かるだろう。
マジでそこら中に巨城があるのだ。
「これ、どれから落とせばいいの?」状態である。
片っ端から見える巨城を落としていけば良いのか?
実は、それも正解だったりするからこのフィールドは特殊なんだ。
俺はまず班を大きく分けた。
具体的には15人のAチーム、15人のBチーム、6人のCチームの3班だ。
ギルドバトルではフィールドにある巨城の数が多ければ多いほど、巨城の耐久力が上がる仕様だった。
19城もあれば、その耐久力は相当なもので、大人数で掛かる必要がある。
大人数で掛かる理由はそれだけじゃない。大人数の方がより短時間で多くの巨城が落とせるからだ。
その代わり移動速度が落ちるが、これだけ巨城が乱立しているのだから問題は無い。
移動速度は距離が離れれば離れるほど影響が出るものだが、これだけ近ければすぐに追いつくことができ、影響が比較的少ないと言える。
「よし、チーム分けは大体こんな感じだ。時間が無いから作戦の全貌を教えきれないことは少し厳しいが、これは後から指示していくことでカバーする。巨城を落とすルートだけは間違えないように。全員、気を引き締めて行ってくれよ」
「「「「「おおー!」」」」」
ちょうど作戦を伝え終わったところで最終アナウンスが流れた。
『第三アリーナをご利用の学生にお伝えいたします。交代の時間になりました。速やかに交代をお願いいたします。このアナウンスが流れた3分後にフィールドが変更されます。それまで会場に残っていた方は強制転移させますのでご注意ください』
おっと、もうすぐ時間だな。
アリーナの利用時間が迫るとこうしてアナウンスが控え室と会場全体に流れる。
交代の10分前と5分前にこれが流れ、そして3分前の今が最後のアナウンスだな。
3分後、俺たちの目の前でアリーナの会場の景色がゴゴゴゴゴッと変わっていき、予約していた〈クロスキャッスル〉フィールドに変更される。
『〈クロスキャッスル〉フィールドへの交換が完了しました。では〈ギルバドヨッシャー〉様、〈エデン〉様、良きギルドバトルをお楽しみください』
うむ、良いアナウンスだ。
そう思っていると、いきなり足下に転移陣が現れ、俺たちは会場の中央に立っていた。
素晴らしい時短!
「ゼフィルス氏、ようやくこの時が来たな。まずは――おはよう」
「おはようインサー先輩。俺も楽しみにしていたよ」
今は普通に午後だが、オタクにとってはおはようなのだ。俺もおはようと返す。
「そうだろうそうだろう。あ、ちょっと待ってほしい。――ムカイ先生、あの5人は出場者ではないので観客席へ転移させてください」
「ちょ、ギルマス!」
「インサー先輩ーー!?」
「案ずるな。次はメンバーに入れる。それまで〈エデン〉の動きをその目で見ておくのだ。これはお前たちにしか出来ない仕事だぞ」
「そんな言葉じゃ誤魔化されないよ―――」
「シュン!」とセリフの途中で数人のメンバーが消える。
「混沌!」
「すまない、待たせたな。まずは急な人数変更を受けてもらい感謝するぞゼフィルス氏」
「全然構わないさインサー先輩。今日はまず楽しもう!」
「! ははは! そうだな、ギルドバトルを楽しもう!」
俺の言葉にインサー先輩、そして〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーがすごい良い笑顔だった。
俺たちも笑顔になる。
審判のムカイ先生にも〈36人戦〉に変更することを改めて説明して、お互いのギルドを代表して改めて挨拶。
「今日は練習ギルドバトルだ。〈エデン〉のみな、よろしく頼む」
「こちらこそ〈ギルバドヨッシャー〉、今日は楽しく、そして実のあるギルドバトルをしよう!」
インサー先輩と俺がそれぞれ告げると、一つ頷いたムカイ先生が俺たちをそれぞれの本拠地に転移させてくれた。
上のスクリーンを見ると、残り3分で試合開始と書いてある。
「よし、全員配置に付くぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
全員がそれぞれの配置に付く。
〈エデン〉メンバーの動きは速い。
戦闘職ギルドバトル自体が初めてな者やまだ慣れていないというメンバーにも誰かしらが付き、フォローしながら準備を整えた。
ふと観客席を見ると、一割くらいの席が埋まっていた。なんだか思ったより人が集まってきているような気がしたが、多分気のせいだろう。試合に集中する。
そしてついにカウントダウンが始まる。
3、2、1―――試合開始のブザーが鳴った。




