#1056 〈ギルバドヨッシャー〉で揉め事が混沌!
ここは第三アリーナ、〈ギルバドヨッシャー〉の控え室。
アリーナの選手控え室にはウォーミングアップも出来るジムが備えてある。
そのジムで多くの〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーがウォーミングアップに務めていた。
「うおおおおおおお! ギルドバトル! ギルドバトルだーーー!!」
「フッ! フッ! フッ!」
「あ~~あたたたたたはじょわっ!?」
来るべきギルドバトルにテンションを天元突破させながらランニング、というよりもはや全力ダッシュしている男子。
それ絶対ウォーミングアップじゃないだろというバーベルスクワットを黙々とこなす男子。
この日のために考えてきた連続技を「あたたたた~!!」している最中に足をもつれさせて転けてダウンする男子。
まさに混沌とした空気に包まれていた。
全ては目前に迫ったギルドバトルがそうさせている。
そこへ一輪の花、メイコが入ってきた。
「ぎ、ギルド長! ギルド長!」
「おおメイコ君戻ったか。まずは落ち着いて報告してくれたまえ」
「は、はい! 無事〈エデン〉を控え室に案内いたしました!」
「大儀である! メイコ君、大儀である! 後は我々に任せ、君はゆっくり休んでくれたまえ」
「は、はい! 勿体ないお言葉ですギルド長!」
メイコが〈エデン〉を控え室に案内した。そう聞いた瞬間ギルドメンバーのキレが増す。
「うおおおおおおおお!! うおおおおおおおお!!!!」
「フッ! フッ! フッ! フッ! フッ! フンッ!!」
「あちょー! あちょちょちょちょちょあちょああああああ!!!!」
どんどん混沌が増していくようだ。
「混沌!」
「うむ。オスカー君も頼りにしているぞ!」
「混沌!」
〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターインサー。
その近くにいつの間にか居たのは、1年生の〈新学年〉期待の1人にして次期〈ギルバドヨッシャー〉の後継者としてインサーが期待している男子。
名前はオスカー。とある掲示板では混沌新1学年の名で割と知られている男である。
黒髪黒目に黒のローブを着ていて、右手に黒の手袋を、左手に白の手袋をつけていた。身長、体重、顔つき、全てが平均並の容姿を持つ怪しい男子という風貌だった。
特にその目とセリフ。「混沌!」とシャウトすることがクセとなっており、叫んだとき、たまに狂う。別に怪しい薬を服用しているわけではないが、オスカー君は混沌的空気を過剰摂取するとたまに狂ってしまうのだ。
その欠点(?)以外は非常に頼りになる人材で、ゼフィルスをサブマスターにスカウト出来なかった今、インサーはオスカーをサブマスターに据えようと密かに計画している。
オサムスが聞いたらまた愕然としそうな話だ。
「よし、そろそろいいだろう。全員集結!」
「「「「おう!」」」」
活きの良い返事。
インサーの一声で全員のメンバーが応え、そして今やっているウォーミングアップ(?)を切り上げてすぐにインサー先輩の前に並んだ。よく訓練されている。
「もうすぐ〈エデン〉との練習試合が始まる」
「いよいよだ~」
「楽しみだな。俺、この日のために新しい技を磨いてきたんだ」
「私たちだって連携を磨いてきたわよ、この日のためにね!」
インサー先輩の言葉の途中でメンバーが感慨深くざわざわした。
これからやるギルドバトルにみんな想いを募らせているのだ。
しかし、そんなキャピキャピした空間が次の一言で凍り付いた。
「では〈20人戦〉の出場者は前へ」
「「「「「~~~~!?!?!?」」」」」
声にならない悲鳴が控え室に轟いた。
そう、そうなのだ。実は最初は〈20人戦〉。20人しかギルドバトルに参加出来ないのだ。
ここに居るメンバーは全部で42人。
実に半数以上が出場出来ないことになる。
みんな浮かれてうっかり忘れていのだ。そしてその半数は愕然とした表情をしている。
実は出場者である20人は、もう決めてあった。
だが、ほぼ全員がそれを忘れてウォーミングアップしていた。全員体はほっかほかだ。出場者はこの半分だが。
「そんな! ギルド長!?」
「インサー先輩、それはあんまりよ!?」
「ええいやかましいぞ。というか私は最初に言っただろう。〈20人戦〉のメンバーも決定していたはずだ。みんな浮かれすぎだぞ」
実はインサーは普通に「最初は〈20人戦〉だ」と連絡していた。もちろん出場者もだ。じゃないと作戦を組むこともできない。
それを聞いていたはずなのにほぼ全員がウォーミングアップに走っていたのだから、テンションが上がりすぎてその辺に忘れ去られてしまったのだろう。ゼフィルスから言わせれば「よくあることだ」である。
この状態で次の〈25人戦〉まで我慢は辛い。ウォーミングアップした体も冷めてしまう。
しかし、インサーが悪いわけじゃないので覆ることはない。
だが、ギルドメンバーの不満は予想を遥かに超えていたのだ。
「アーコ、お願い替わって!」
「やだ!」
「た、頼む、替わってくれ」
「こ、断る!」
「インサー先輩替わってくれ!」
「なぜこっちに来る!?」
なんと出場者に席の交代をお願いするメンバーが続出したのだ。
そんなことをされてはせっかく作戦を練ってきたインサーたちが困ってしまう。
「ええい落ち着け、落ち着くのだ! 後1時間もすれば自分の番まで回ってくるのだぞ!」
「俺、〈30人戦〉にしか出場しない。2時間もお預けはやっぱりいやだーーー!!」
「このほっかほかの体をどうすればいいのだ!?」
「冷ませ冷ませ。そして、また温めたらいいだろう?」
「しかしインサー!」
「ふう。こういう混沌も良いものだ」
もうすぐ試合開始なのに揉め事が収まらない。
困ったことになった。ギルドバトルのことにかんしては問題の多い〈ギルバドヨッシャー〉だった。
そこに一つの案が投下される。案を出したのはメイコだった。
「ぎ、ギルド長! もう〈20人戦〉に拘らなくてもいいのでは!?」
「む!?」
「これからたっぷり試合をする機会はありますし、今日の試合はメンバーの不満解消に〈30人戦〉3回で良いのではと!」
「ふむ。ふむむ」
「俺もその混沌解消案に賛成です」
「オスカー君もか」
「これでは混沌が生まれるだけでしょう。それはそれでありがたいですが、このままでは我々が得意とする連携に不備を来たし、さらなる混沌が生まれてしまいます。混沌化です」
「だが、もうすぐ試合の時間だ。急な人数の変更なんて〈エデン〉に迷惑を掛けることになる」
「いいえ。ギルドバトルで〈ギルバドヨッシャー〉が混沌化していたほうが〈エデン〉の迷惑になるでしょう。あちらは強者を歓迎しています。混沌を生み出すのなら、戦いの中がいいでしょう。むしろ出来る限り多くの参加者を募っても良いかもしれません。〈エデン〉〈アークアルカディア〉は合わせれば36人です。〈36人戦〉を提案してみるのはどうでしょう?」
「む、むう? なるほど、よし。メイコ君とオスカー君の話は分かった。どのみち〈20人戦〉ではこの混乱は収まらん。人数を増やす案、一度〈エデン〉に相談してみるとしよう。すぐに使者を送る。メイコ君、すまないがまた使者を頼む」
「ま、任せてくださいギルド長! このメイコ、絶対に〈エデン〉と約束を取り付けてきます!」
ギルドメンバーたちの純粋でキラキラした懇願の視線に耐えかね、ついにインサーが折れる。
〈エデン〉に迷惑を掛けることを承知で出場者変更案の使者を出すことにした。
「おお、ギルドマスター、あなたが神だ!」
「インサー先輩。輝いています!」
「オカッパ頭に天使の輪が見えます!」
「いいかおバカたちよ! これで〈エデン〉がダメというようなら諦めろよ? これが出せる最大の譲歩だからな!」
「「「「はい!」」」」
ギルドマスターは苦労する。特に抑えまくって爆発中のメンバーが大量にいるのだからインサーの負担はデカかった。
その後、インサーのメッセージとメイコの使者のおかげか、無事人数の変更にオーケーをもらえたことでインサーはとてもホッとしたという。
帰って来たメイコは。
「えっと、〈エデン〉もまさにメンバー決めで揉めている最中でした!」
と語っていた。
どうやら〈エデン〉も同じだったらしい。
作戦を練りまくり、〈20人戦〉〈25人戦〉〈30人戦〉の準備を万端にしてきた〈ギルバドヨッシャー〉だったが、こうして作戦はまた振り出しへと戻り、奇しくも〈エデン〉と公平なギルドバトルをすることとなったのだった。




