#1055 試合会場第三アリーナ。原因は混沌の勘違い?
急遽決まった〈ギルバドヨッシャー〉との練習試合。
俺たち〈エデン〉〈アークアルカディア〉メンバーは試合会場である第三アリーナへと向かっていた。
そこであることに気が付いたハンナが俺に聞いてくる。
「……あれ? 〈30人戦〉? ちょっとまってゼフィルス君、〈エデン〉のメンバーって30人だよね? もしかして私も参加するの!?」
「ああ、これは練習試合だからな。〈ランク戦〉や〈決闘戦〉とは違って下部組織も参加出来るんだ。だから生産職であるハンナは別に参加しなくてもいい。安心していいぞ」
「そ、そっかぁ。それを聞いて安心したよ」
そういえば〈30人戦〉と言えばフルメンバー。つまりは総力戦かと思うよな。
うっかりしていたぜ。
ということでまだ勘違いしている人がいないとも限らないので全員に通知する。
「―――というわけだ。セレスタン、ルキア、ラウも参加しても大丈夫だぞ」
「畏まりました。せっかくのお誘いです。是非参加いたしましょう」
「私も! 上級職になって初のギルドバトルだもん。楽しみだな~」
「俺はまだ下級職なんだが、参加して良いのか?」
「もちろんだラウ。別に上級職にならないと参加しちゃいけないという決まりはないからな。なんなら全部の試合で参加してみるか?」
「いや、ありがたいお誘いだが全部に参加するのはやめておこう。1戦か2戦出させてもらえれば十分だ」
「了解」
ちなみに残りの〈アークアルカディア〉メンバーの3人、ニーコ、カイリ、アルルは辞退を表明している。観戦組に回るそうだ。
「カイリは参加しなくてもいいのか?」
「私はモンスター相手には自信あるんだけど、対人はちょっとね」
カイリは対人戦が苦手とのことでギルドバトルには参加しない方針らしい。
ふむ。まあ今回は練習試合だしな。無理強いはしない。
そんなことを話しているうちに第三アリーナに到着した。
するとそこで、オカッパ頭で目隠れ女子である〈ギルバドヨッシャー〉のメイコさんを発見する。
「あ! 来ました! 〈エデン〉来ました! 良かったですよ~。本当に良かったです~」
「メイコさん? どうしたんだこんなところで、1人か?」
「は、ははははいです! お久しぶりですゼフィルスさん!」
「おう、久しぶり」
「ゼフィルス、この方は?」
メイコさんがまたテンパりながら挨拶してきたのに応えていると、シエラがちょんちょんと腕を突いてきて腕がちょっと幸せになった。じゃなかった。
そういえばみんな初対面だったな。いつも〈ギルバドヨッシャー〉に行くときはギルドバトル談義に夢中で花を咲かせてしまうので、他の人は連れて行かなかったんだ。
「紹介するな。〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーで、ギルドマスターであるインサー先輩の側近、メイコさんだ」
「そ、そそそ側近だなんてそんな! 恐れ多いですよ! ――えと、メイコです! 今日は案内やメッセンジャーを担当します! よろしくお願いします!」
「……問題無さそうね」
「そうね。ただのあがり症みたいだわ」
なぜかシエラやラナに問題無し判定されるメイコさん。なにが問題無かったんだろうか?
少し気になったが「突くべからず」と『直感』さんが囁いているのでスルーして先ほどの話の続きをする。
「それでメイコさん。こんなところで1人でどうしたんだ? インサー先輩たちは?」
「あ、もう中です! ウォーミングアップ中です! 久しぶりのギルドバトルなのでみなさん超盛り上がってます! あまりに盛り上がりすぎて10人ほどダウンしました!」
「おいおい」
最後の。
いや、何しろ〈ギルバドヨッシャー〉にとっては超が付くほど久しぶりのギルドバトルだ。うっかり足を滑らせたりしてダウンすることもあるだろう。
俺もギルドバトルを長い間封印されたらそうなる可能性がある。強くは言えないな。
「あの人たち、すごくヒョロッとしている印象なのだけれど、走れるのかしら?」
「いくらステータスで補強されるとはいえ、所詮は補強ですからね。元々の体が弱っていれば十全に動けないことはあるかと思います」
ラナは〈ギルバドヨッシャー〉を見たことがあるのだろう。思い出して厳しい感想を呟いていた。それを補強するかたちでエステルも頷いている。
確かに、インサー先輩はともかくオサムス先輩とかノッポではあるがヒョロガリ体型だからな。あれで全力ダッシュできるのか。バランスを崩して転ける未来が見える。ダウンしたのはオサムス先輩?
「だ、大丈夫です! ギルドバトルをすると言えばすぐに復活します! それよりも〈エデン〉のみなさんには急な話でご迷惑をおかけして、申し訳ありません! どうも話に行き違いがあったみたいで!」
「ああ、その話な! そういえば聞きたかったんだが、確かに俺の方から〈冬休みは日程が厳しい〉という話はした記憶があるんだが。〈冬休みが明けたら練習ギルドバトルの日程を話し合おう〉という話じゃなかったっけ?」
「いえ、その。こちらでもよく分かっていないのですが、〈岩ダン〉攻略の宴会の時に、ギルド長が「練習ギルドバトルについて日時を聞いてきてほしい」とオスカー君に頼んだみたいなんです。それでオスカー君はゼフィルスさんから「冬休みが終わったらを予定している」という回答を預かったと言っていまして。冬休みが終わった次の日である今日を全力でセッティングしました。そして〈エデン〉に全く話が通っていないことを私も先ほどセレスタンさんからのメッセージで知ったんです……」
「おう……?」
あれ? そうだったっけ? 話し合いじゃなくて?
確かに宴会の時にオスカー君に伝言を頼んだ記憶はある。あの時は確か……。
◇
「ゼフィルスさん、素晴らしい混沌、とても助かりました。最高でした。あ、あとインサー先輩から練習ギルドバトルについて日時を聞いてきてほしいと伝言を預かっています」
「? そうだな。冬休みが終わってからを予定している(話し合いを)!」
「冬休みが終わったらですね(バトル実施を)。わかりました。そのように伝えておきます」
◇
「冬休みが終わったらですね」
……思い出した。オスカー君、確かにそう言ってたわ。
あ、うん。なるほど。思い返すと微妙に話が噛み合っていないように感じる。
確かにあれだと〈話し合おう〉じゃなくて〈ギルドバトル開催の日時〉って意味になるわ。そして冬休み明けの日を指定している、とも捉えられるな。
……あれだ、不幸な行き違いがあった模様だ。
原因判明。
うん。あの時はオスカー君のお礼の意味がよく分からなくて後半部分を少し聞き逃しちゃったんだよな。
一歩間違えれば危なかったが、なんとかなっているのでここは一つセーフということで。
「こほんこほん。あー、こっちとしても問題は無かったから大丈夫だ。インサー先輩にその話は?」
「えっと、話したら泣き崩れてしまいそうでしたので……本当に〈エデン〉が来てくださってよかったです!」
「ああ、うん」
さすがはインサー先輩の側近。
ギルドマスター思いの側近がいてインサー先輩が少し羨ましくなった。
まあ、メイコさんが勘違いを正していたらこの練習ギルドバトルは成立しなかっただろうから問題は無い。
「まあ大丈夫だ。じゃあ、中に入らせてもらっても良いか?」
「あ、はい! こんなところで長々申し訳ありません! あ、案内します! こちらです!」
「頼む」
誤解はあったが問題はなかった。ならいいじゃない。
そんなこんなで俺たちは選手控え室へとメイコさんに案内されることになったのだった。
「で、では、良いギルドバトルを! 失礼します!」
そう言って帰っていくメイコさんを見送り、俺たちも作戦会議を行なう。
時間は、うん。まだたっぷりあるな。
「よし、じゃあ〈20人戦〉〈25人戦〉〈30人戦〉の出場者を決めよう! まず第1試合の〈20人戦〉に出場したい人は挙手を!」
「「「「「はい!!」」」」」
うむ。観戦組を除きほぼ全員だった。
元気があってよろしい!
後書き失礼いたします。
明日は〈ギルバドヨッシャー〉視点。オスカー君も出るよ!
本当はここでオスカー君の正体を明かす予定だったのに、前章では一瞬でバレたので出してしまったのは良い思い出。
ちなみに急展開の原因となったセリフは#1029に仕込んであります。




